宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

日本版GPS「みちびき」の今!世界初・センチメートル級の高精度測位サービスの可能性

2018年11月1日から測位サービスの提供開始となり、歴史の新たな1ページを刻んだ準天頂衛星「みちびき」。実サービスの利用が始まった今を紹介します。

2017年10月10日に4号機の打ち上げが成功し、2018年11月1日からサービス提供が始まった準天頂衛星「みちびき」。サービス開始の式典では、総理が祝辞を述べられ、Society 5.0の近未来感に期待が高まりました。

準天頂衛星システム「みちびき」サービス開始記念式|首相官邸ホームページ

宙畑では、2017年に「みちびき」計画について「「みちびき」とは~GPS精度を向上させる準天頂衛星の仕組み~」の記事でも紹介しているので、内容をすでにご存知の方も多いかもしれませんが、今回は最新の活用事例などを交えながら改めてご紹介します。

※2024年1月1日にサービス事例を追記しました。

「みちびき」とは

「みちびき」とは、準天頂軌道の衛星で構成される日本の衛星測位システムのことです。

普段、私たちが当たり前のように利用している GPSとは、英語で【Global Positioning System】と表し、米国の「全地球測位システム」のことを指しています。これに対し、みちびきは英語でQZSS【Quasi-Zenith Satellite System】と表し、GPSとの互換性を持っているシステムです。GPSと同じように衛星からの電波によって位置情報を計算することから、「日本版GPS」と呼ばれることもあることもあります。

Credit : みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト

2023年12月時点で、4機体制のみちびきは準天頂軌道を周回する3機の衛星群と、赤道上空の静止軌道に配置する1機の静止衛星から構成されています。測位衛星がくまなく地球をカバーして周回しているからこそ、どこにいても位置情報を利用することができるんですね。

この、測位衛星の配置を知ることができるアプリがあります。「GNSS View」は、Web版とiOS/アンドロイドアプリがあり、任意の時間と場所を指定すると、公表されている測位衛星の軌道情報を基に、衛星の配置(コンステレーション)を計算して、コンパスやカメラを通してAR表示してくれるものです。

2014年にiOS/Androidでリリースされて以来UPDATEされ続けており、現在アプリから4機体制のみちびきの位置情報を見ることができます。

GNSS View | みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府

iOSアプリ / Androidアプリ / Web版

「みちびき」の2つの重要な役割

「みちびき」は、GPSに対して”補完”と”補強”の2つの重要な役割を持っています。

みちびきの重要機能その1 「補完機能」

位置情報とは、4機以上の衛星によって測位が可能な仕組みです。そして、より多くの衛星から測位することによって、より安定的に測位することができます。みちびきはGPSと一体で利用可能なため、みちびきを増やしてGPSを補完することで、複数の衛星から位置情報を取得できる環境を作り出し、より安定的な測位を実現しています。

みちびきの重要機能その2 「補強機能」

地球には、大気の上層部に分子や原子が、紫外線などの様々な光線によって電離した「電離層」と呼ばれる領域が存在します。この「電離層」は、電波を反射する性質を持っているため、衛星からの電波が影響を受けてしまい誤差を生む原因となっているのです。みちびきは、この誤差を解消するための補強電波を送信することで本来の位置精度へと近づけ、精度向上を実現しています。

Credit : sorabatake

このように、従来のGPSとみちびきを組み合わせることによって、今まで誤差数メートル単位だった位置測定の精度が、より安定的に、わずか数センチにまで高精度になる特徴を持っており、地理空間情報を高度に活用した位置情報ビジネスの発展が期待されています。

詳しい説明は、内閣府のみちびきページで確認することができます。
みちびきとは|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府

「みちびき」によって変わるこれから

さて、みちびきに寄せられる大きな期待が理解できたことで、これから具体的に何ができるようになるのか、改めて整理してみます。

GPSとは、先述の通り米国が運用していることから、日本の都合に合わせた精度向上の取り組みというのは難しいという問題がありました。この問題を解消し、より安定的で高精度な衛星測位を実現するため、日本では2011年9月「機体制を整備し、7機体制を目指す」ことが閣議決定されました。そして2017年、とうとう4機体制が整備され、2018年11月に華々しく測位サービスが開始されたという経緯があります。こうして振り返ると「とうとう使えるようになった!」と待ちわびていた方も多いのではないでしょうか。

そして2023年度から2024年度にかけて5、6、7号機を打ち上げるスケジュールとなっており、2025年度から7機体制での運用がスタートする計画です。

みちびきを活用して提供されるサービス分類

みちびきを活用して、利用できるようになる具体的なサービスは、「測位関連」のサービスと「メッセージ関連」のサービスがあります。まだ実証中のサービスも含めてそれぞれ簡単に紹介します。

「衛星測位サービス」

単独測位と呼ばれる測位信号のみでの測位を行い、GPSを補うサービス。みちびきがGPSと同一周波数・同一時刻の測位信号を送信することにより、「衛星数が少ないことによる誤差」と「電離層の影響による誤差」、この2つの誤差を改善し、GPSのみを用いた測位と比較して、精度が向上し、安定的に測位することができるサービスです。

「サブメータ級測位補強サービス」

従来のGPS誤差10メートル程度が、誤差1メートル以下で測位可能となります。みちびきから「電離層の影響による誤差」を軽減するための信号(サブメータ級測位補強情報)を送信しており、これを既存の受信機を改良することで信号を受信することが可能となり、誤差を軽減するという仕組みです。

従来「電離層の影響による誤差」を軽減するためには、高価な2周波受信機を利用しなければなりませんでした。しかしこのサービスを活用すれば、スマホをはじめとするモバイル端末などを使用し、より多くの人が1メートルオーダーの位置情報を活用する可能性を秘めているサービスと言えます。

Credit : みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト

「センチメータ級測位補強サービス」

より高精度な衛星測位を行うためのサービス。みちびきから現在位置を正確に求めるための情報(センチメータ級測位補強情報)を送信しており、この信号を専用の受信機で受信することで、誤差数センチメートルで測位を行うことが可能となります。このサービスは、搬送波測位という測量技術による手法を用いていることから、アンテナや受信機のサイズは大きくなるため、モバイル端末ではなく、測量機材や車載を想定されています。

Credit : みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト

「測位技術実証サービス」

新たな高精度測位技術を開発している場合、それぞれが開発のための衛星を打ち上げることは非常に困難なため、みちびきからデータを送信し、実証してくれるサービスです。実際のみちびき管制局へオンラインで接続してデータ送信することで実証が成立します。

Credit : みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト

「高精度測位補強サービス(MADOCA-PPP)」

アジア・オセアニア地域で使える高精度な測位補強サービスです。2022年9月30日より試行運用を開始しており、2024年度より本運用の開始を予定しています。このサービスはL6信号という特殊な受信機が必要な信号を使用しており、自動運転、情報化施工、IT農業等のさまざまな分野の実証実験が行われています。

「災害・危機管理通報サービス」

防災機関からの災害情報や、避難勧告などの危機管理に関する情報を、みちびきから送信するメッセージサービスです。この送信に使われているL1S信号という信号は、一般的に広く使われているGPS信号と同じ周波数であるため、既存のデバイスで受信可能となっており、より広い範囲でメッセージを届けることができる仕組みとなっています。

「衛星安否確認サービス」

災害時、みちびきを送信経路にすることによって、避難所の情報や被災地を救難するために不可欠な情報を管制局に的確に伝達することを目的として利用検討が進んでいるサービスです。提供先は、日本国内、及び沿岸部へ限定されており、災害が発生した際に被災地の情報を確実に伝える手段として、また有事の際の個人の安否確認ができるような手段として、活用方法が検討されています。

「信号認証サービス」

信号認証サービスは、GNSS受信機で受信した信号が本当に測位衛星から送信された信号であるかを確認できるサービスです。GNSS衛星が放送する信号は一般に公開されているので、知識がある人が「スプーフィング(なりすまし)」を行うことが社会課題となっていました。2024年度からは公開鍵を使用した電子署名認証技術を活用し、測位信号の真正を検証できる仕組みを提供できるよう、実証が行われています。

どうやって使うの?対応デバイス・スマホ例

さて、ここまで概要を記載してきまして、実際に使いたい!そう思った方も多いのではないでしょうか。かくいう筆者の私も「センチオーダーで位置情報が欲しい!」という欲望と希望を膨らませて、みちびきの公式ページを開いた次第でございます。特に、実際にビジネスへの活用が期待高まる「測位関連」のサービスについて、どうやって使うのか解説します。

結論から言いますと、
みちびきが送信する信号を受信できるデバイスを持っていれば、
誰でも!無料で!活用できます!

信号を受信できるデバイスを表にまとめてみました。

利用したいサービス 衛星測位サービス サブメータ級測位補強サービス センチメータ級測位補強サービス
サービス内容 従来のGPSより精度の向上・安定的に測位可能 従来誤差10m程度が誤差1m以下で測位可能 従来誤差10m程度が誤差数センチ以下で測位可能
信号  L1C/A, L1C, L2C, L5 L1S L6
周波数 1575.42MHz 1227.60MHz 1176.45MHz 1575.42MHz 1278.75MHz
デバイス 既存モバイル端末など 専用受信機、専用チップ 専用受信機、専用チップ
デバイス例 6s以上のiPhone(iPhone8、iPhone7、iPhone SEなど) Series 3以上のApple Watch、各種Androidスマートフォン(ZenFone 3やXperiaなど)、タブレットなど MASA ザ・ゴルフウォッチ プレミアム、SoftBankマルチGNSS端末 等 コア Chronosphere-L6、Javad GNSS DELTA-3、セプテントリオ AsteRx-U等

対応製品は、内閣府のページに一覧化されていますので、ご参照ください。

みちびき対応製品一覧|みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト – 内閣府

筆者はiPhone Xを持っているため、「みちびきに対応している!」と直感し、「もうすでにセンチオーダーの測位情報が使えるようになっているのか!」と、踊るように喜んだのですが、そうではありませんのでご注意ください。現在みちびきに対応したスマートフォンで利用できるのは「衛星測位サービス」のみであり、いきなりセンチオーダーが使えるなんてことはありません。うっかりぬか喜びしてしまった束の間…。

しかし、専用のデバイスが用意できれば、すでに信号を受信可能で、メートルオーダーの測位情報を活用可能な世界が広がっている事は事実です。ぜひ、製品情報や仕様書をご覧ください。

カーナビだけじゃない!どんな活用事例があるのか?

位置情報の精度というとカーナビを思い浮かべる読者が多いと思いますが、実際にみちびきのサービス開始後に対応カーナビの数が増え、消費者がカーナビ商品を選ぶポイントのひとつに「みちびき」というキーワードが使われるようになりました。他にはどのような活用ができるのでしょうか?みちびきが使われている最新事例をご紹介します!

ゴルフナビゲーション THE GOLF WATCH PREMIUM II

Credit : THE GOLF WATCH PREMIUM II製品情報

みちびきのサブメータ級測位補強サービス L1S 対応で、高精度計測を実現しているというスポーツウォッチ。

あらかじめダウンロードしたコース情報と組み合わせることにより、現在位置からグリーンやハザードまでの正確な距離が腕時計の液晶画面から把握することができます。従来と比較し、より高精度な位置情報によってコースレイアウトや距離を掌握でき、高スコアを出すことができたという口コミもありました。今後は、スマートフォン連携の強化や他のスポーツへの展開も検討していくとのことです。

道路交通法違反自動判定サービス

みちびきのサブメータ級測位補強サービスにより、高精度な車両の位置情報と、独自開発した車載の衛星測位トラッカーを組み合わせ、位置情報を蓄積・分析することができます。そのデータから、①制限速度超過、②右左折禁止、③一時停止違反、④踏切不停止、⑤進入禁止、の5つの計測が可能になったサービスです。ドライブレコーダーの映像がなくても交通違反を可視化できるため、交通事故の削減や自動車保険料の削減が実現できるようです。

Credit : ジェネクスト株式会社 サービス情報

農場内走行車両の自律化

みちびきのセンチメータ級測位補強サービスを利用して、農業車両が農場の畝を踏むことなく移動できるかの実証を行いました。その結果、測位誤差15cm以内に収まり、自律走行できることが確認されました。この車両を使って、収穫や肥料・農薬散布に活用していくそうです。特に農薬散布は農家の方の安全を守るためにも、機械による自動化への期待が高まっています。

自律航行船・ドローン間協調制御

ドローンに受信機を搭載し自動輸送する実証実験も進んでいます。広島商船高専はセンチメータ級測位補強サービスを搭載した自律航行船とドローン間の配送物をスムーズに受け渡すシステムを構築しようとしています。このシステムにより海上輸送した配送物をドローンが船上で受け取り、住宅へ輸送する狙いです。船舶上にドローンを精密に誘導するためには赤外線を使用していますが、赤外線の範囲内である10m以内にドローンを近づける際にセンチメータ級測位補強サービスは不可欠とのことです。

運転手1人で操作可能なロータリ除雪車

除雪車にセンチメータ級測位補強サービスの受信機を2台設置し、除雪車の位置やカーブで車体がどの向きを向いているかを即座に把握できるようにしました。これにより従来は沿道状況を熟知したオペレーターが行っていた、ガードレールなどの位置把握の負担が軽減されます。これらの装置により従来2人必要だったオペレーターを1人だけで行えるようになりました。さらに2023年11月には今冬から運用が始まる自動化除雪車のデモ走行が行われました。

そのほか実証実験中の事業も多数

みちびきはサービス開始しているものの、新たな衛星の打ち上げや技術開発はまだまだ進んでいます。企業による実証実験も多く進められています。もっと事例を知りたいという方は「利活用事例集 – みちびき」もぜひご覧ください。

GPSの精度が上がると広がる世界

このように、日々技術が進歩することで扱える情報の精度が向上しています。そして、その新たな信号を誰でも受信できる世界が、すでに広がっているのです。考えられる活用領域を思い浮かべれば、まだまだ活用事例は少ないと言っても過言ではありません。ビジネスのアイディア次第で、より面白い事例を作っていけるのではないでしょうか。

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参考記事