地域課題解決に、衛星データはどう活かせる?コロナ禍で関心が高まる「シビックテック」その具体的な取り組みについて「Code for Chiba」 に聞く!
千葉におけるシビックテックの実例とは?Code for Chibaの活動の中で衛星データを利用とするとすればどのような可能性があるか?思わぬアイディアも飛び出した、その様子をお伝えします。
「シビックテック」とは、市民自らが技術を使って社会課題を解決しようという取り組みです。その日本でのけん引役と言えるCode for Japanの代表・関治之さんに、昨年、シビックテックとは何か、Code for Japanとは何かについて、詳しくお話を伺いました。続編となる今回は、Code for Japanブリゲードの一つで、活発に活動を続けているCode for Chibaのメンバー3名に、実際の取り組みの様子を聞きました。千葉におけるシビックテックの実例とは?Code for Chibaの活動の中で衛星データを利用とするとすればどのような可能性があるか?思わぬアイディアも飛び出した、その様子をお伝えします。
地域課題解決に、衛星データはどう活かせる?コロナ禍で関心が高まる「シビックテック」の第一人者 Code for Japan 代表 関治之さんに聞く
前編 シビックテックの具体的な取り組みについて Code for Chiba に聞く!
エンジニアが多く参加し、プロダクトまで自ら作る
近藤:今日はよろしくお願いします!
浦本:浦本です。NPO法人 Code for Chibaでは理事長を務めています。Code for Chibaの立ち上げ時から携わっています。あとは、副理事長の二人で、畠中さんと平川さんです。
畠中:・平川:よろしくお願いします。
近藤:Code for Chibaは、2015年に活動を開始された後、2017年にはNPO法人として新たにスタートされています。まずは、活動を開始された経緯を教えてください。
浦本:僕はいま、ITの会社を2つ経営しています。その1つは、ITを生かして自分が住む千葉市の役に立てたらという気持ちで立ち上げたのですが、たまたまその立ち上げのころに、Code for Sabaeの福野泰介さんに会う機会がありました。そして私が「Code forっていいですよね」と話したら、その話がすぐに千葉市役所で熱心に地域の活動に取り組まれている職員さん、さらに市長にも伝わって、立ち上げないわけにはいかなくなったという経緯です(笑)。
近藤:なるほど(笑)。思わぬ展開でもあったんですね。
浦本:そうですね。ただ、そのころすでに、「オープンちば」という枠組みで、オープンデータを使って市民参加で地域の課題を解決する「ちばレポ」(詳細は後述)のプロトタイプみたいなものを作ったりという活動はやっていたので、そのメンバー含めて10人くらいでやってみようと、Code for Chibaを立ち上げました。現在は、NPO化した後の正会員12名ほどに加えて、プロジェクトごとに興味ある方が入って一緒にやってくれるという形で動いています。
宙畑メモ オープンちば
2013年に、全国8都市で開催された International Open Data Day(IODD)に関わったメンバーを中心とした市民有志で、千葉地域でオープンデータの活用を中心に地域課題の解決を図っていくことを目的に設立された団体。毎年のIODD千葉会場の主催や、市内のICT関係者のネットワーキング、勉強会・社会科見学などの活動を行っています。
■参考ウェブサイト
オープンちば
近藤:それぞれお仕事などをされながらの活動だと思いますが、畠中さんと平川さんは普段は何をされているのですか?
畠中:私はシステムエンジニアとして会社に勤めていて、普段の業務でも自治体のシステム開発などをやっています。もちろん企業とこことでは目的ややり方が違うのですが、重なる部分も多く、仕事で身につけた技術をこっちでも使っているという感じですね。
平川私もシステムエンジニアで、今はデータ分析とかの仕事をフリーランスで少しやりつつ、最近だとスクレイピングといってWebから情報を集めて、それをまとめてレポートを作るようなことをやったりしています。
浦本: Code for にはいろんな形の団体があるんですが、僕がもともとエンジニアということもあり、Code for Chibaには同業の人が多いですね。それゆえにプロダクトまで自分たちで作ることができるのは、Code for Chibaの強みです。
求められるサービスを素早く作って出していく
近藤:複数のサービスやプロダクトを立ち上げられていますが、どのような流れで作られていくのでしょうか。たとえば市内の保育園や学童クラブの情報を集めた「ちばこどもマップ」がどのように出来上がったか、教えてください。
浦本:もともとCode for Sapporoが作った「さっぽろ保育園マップ」というものがあって、それが評判になっていたのですが、そのころ開催した「IODD(インターナショナル・オープンデータ・デイ)」というイベントの際に、参加者から「千葉にも保育園マップがほしい」という話が出て、じゃあ、作ろうかということで始まりました。まずは、利用者として想定される、小さいお子さんのお母さんなどにイベントに参加してもらって意見を聞くことから始め、子育ての相談などを受けている「千葉市子育て支援コンシェルジュ」の方にも相談しながら作っていきました。
近藤:事前の情報集めからしっかりとされているのですね。
浦本:そこはやはり重要ですね。たとえば、子育て支援コンシェルジュの方が「利用者への説明には地図があった方がいい」とおっしゃっていたことなどは、とても参考になりました。引っ越してきた方が「住所情報だけあっても、どこにあるかわからない」ってよく言われると。また、作っていた当初は保育園の待機児童問題がクローズアップされていたのですが、いずれ学童保育の問題にもなるだろうと考えて、その後、学童の情報も入れました。そして今の「ちばこどもマップ」となりました。このように少しずつ改良を加えながら運営しています。
近藤:「保育園マップがほしい」という意見を聞かれてから実際にサイトが立ち上がるまでにかかった期間はどのくらいですか。
浦本:3ヶ月ぐらいだったと思います。できるだけ早く立ち上げて、利用してもらいながら改善していこうといつも考えています。最近作った千葉市の新型コロナウィルス対策サイトの場合、東京都が決めたデータフォーマットをベースに作ったこともあり、もっと早くて、3日くらいでした。
近藤:それは早いですね!それぞれアクセスはどのくらいありますか?
浦本:コロナのサイトは、去年は月に何十万という具合で、とても多かったです。最近は感染者数よりもワクチンの方に皆さん関心が移っていると思うので、いまはワクチンまわりで何か市民に公開できる情報はないかと千葉市と話しているところです。一方、こどもマップの方は、保育園の一次募集がある10月には何万人というアクセスがあって、それが終わると静かになります。そして1月の二次募集でまたぐーっと増える感じですね。
近藤:なるほど、それぞれしっかりと役割を果たしているのがわかりますね。
浦本:そうですね、わりと見られているので、そこはモチベーションになっています。
近藤:先に名前が出てきた「ちばレポ」は、市民が身近なところで見つけた地域の課題を、写真やテキストで行政に知らせることができるサービスですね。あのサービスも、Code for Chibaが大きくかかわっているんですよね。
ちばレポのアプリダウンロード画面
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畠中:そうですね。当時、千葉市の職員さんに、インターネットを使った市民協業の新しい仕組みを検討されている方がいました。またその一方で、別のエンジニアの方が、イギリスの市民協業サイト「Fix My Street」を日本で展開するために導入先を探していたんです。そこで、それなら一緒にイベントを開催してどんな効果が期待できるか試してみませんか、ということになり、それをきっかけの一つとして「ちばレポ」が立ち上がりました。今では、「My City Report」として全国版のシステムとなっています。
ちなみにそのイベントが開催されたのは2013年で、それが、日本で初めての国際的なオープンデータのイベントとなりました。
近藤:「My City Report」は、サイトを見ても利用者の多さがわかりました。その発端を作られたというのはすごいですね。
出して終わりにせず、継続していく体制と仕組みづくり
近藤:普段の活動はどのようにされているのですか。
浦本:月に1回「もくもく会」という会を開いて、そこでプロダクトを作ったりしています。この会は、基本的には、皆で1つの場所に集まって各自好きなことを「もくもく」やるという場だったのですが、エンジニアが多かったから自然とプロダクトを作る場になっていきました。いまはオンラインでやっています。
近藤:それぞれにお仕事などがある中で、毎月集まって活動するというのは、それなりのモチベーションがないと簡単ではないように想像しますが、その辺りはいかがですか。
浦本:そうですね、それはこのような団体で活動するときの課題ですよね。僕たちの場合は、嬉しいことにそれぞれに「これをやりたい!」というモチベーションがあって、むしろ手が足りないくらいです。
平川:プロダクトを作っても、機能改善やデータ更新といった運営の業務が続かなくて終わってしまうという事例はあるあるだと思いますが、その点も僕たちは、運営を継続的に行うことの重要さをよく理解しているメンバーが複数いるため、比較的うまくやれているかなと思います。
畠中:会社の仕事としてプロダクトを作る場合、どうしてもやれることは狭くなります。一方で、ここでやる場合は、住民が求めていることを自分たちができる範囲でやろうというスタンスなので、必然的にできることできないことの意味合いも違ってきます。それゆえに、本業では業務なのでこのようにやったけれど、こうしてみたらもっと面白かったんじゃないかと感じたことをここの活動で試してみたら新しく見えてくることがあったりして、楽しいです。そんなこともCode for Chibaで活動するモチベーションになっている部分がありますね。
近藤:資金面はどうされているのですか。皆さんの持ち出しですか?
浦本:持ち出しは持ち出しなんですけど、いまは、NPO化の前に参加したハッカソンの賞金などをプールしたお金で活動しています。それがなくても、いまは無料のサービスがかなり充実しているので、それらをフル活用すれば、お金をかけずにできることは多いですね。
畠中:サーバーの運用費用とかもそんなにかかってないですし、コロナ禍以後は、集まることもあまりなくなってきて会場の費用も要らないし、そんなにお金は掛かっていないですね。
近藤:ほとんどのCode forブリゲードが有志団体にも関わらず、NPO法人にしたのはなぜですか?
浦本:行政と何かを一緒にやっていくうえでは、やはりNPO法人であると圧倒的にやりやいんです。また利用者にとっては、「NPO法人」であることが信頼感や安心感につながっているのを感じます。あとは、NPO法人化して簡単にはやめられなくすることで、モチベーションを保ちたいという気持ちもありました(笑)。
市民が参画したくなるような仕掛けづくりが要
近藤:いま取り組まれている新しいプロジェクトなどがあれば教えてください。
浦本:新しくやりたいことはいっぱいあるのですが、リソースが足りないのと、コロナ禍によって必要とされるサービスが変化したこともあって、ひとまず、これまでのプロダクトを整理して、次の新しいチャレンジのための土台を作ろうとしているのが現在ですね。
たとえば、「お祭りデータセンター」というプロダクトは、町内会などのお祭りの情報を集めて、お祭りに行ってもらうことで地域のコミュニケーションが活性化できたらという気持ちで作ったのですが、コロナ禍でお祭りがなくなってしまった。その上、データ集めが大変で運用費も高いので、再びニーズが高まるまでひとまずサイトを閉じようか、という具合です。一方、このようなイベント系のサービスは、イベントの主催者も参加者もともに求めているものであることがわかったので、今度はお祭りだけじゃなく、餅つきや豆まきなどあらゆる地域イベントを総合的に掲載するサービスを作りたいなと考えたりしています。
近藤:プロダクトを作る上で心がけているのはどんなことですか。
浦本:市民の方からいかに情報を吸い上げるかはすごく重要なポイントだなって感じます。特に写真データが貴重です。たとえばお祭りでも、文字の説明だけよりも、その様子を撮った写真が1枚あるだけで圧倒的にわかりやすくなる。
実は今の「こどもマップ」も写真を掲載したいんですけど、行政はあまり持っていないようなので、自分たちで探さなければならない。でも、このご時世でなかなかそれが進められません。そういった作業を効率的に行える仕組みを作れたら、市民と共同で何かをするというのがやりやすくなるなと話していて、そこも一つのチャレンジポイントかなと考えています。
「地域性が強い」ゆえに盛り上がったシビックパワーバトル
近藤:次に、地域について具体的に考える例として、千葉市がどんなところなのか教えてください。ずばり千葉市の特徴って何でしょうか。
浦本:千葉市ってすごく広いんですよね。美浜区は湾岸で、緑区や若葉区は山に近い。僕は今、美浜区の幕張、つまり千葉市の西の端に住んでいるのですが、市の東の端までは、東京へ行くよりも時間がかかります。それゆえに雰囲気も課題も地域ごとにかなり違うんです。なので、「千葉市といえばこんなところで、こんな課題がある」っていうのがなかなか言えないんですよね。でも逆に、地域性が強いということを特徴と考えてイベントを開催したことがありました。千葉市内の行政区単位での「シビックパワーバトル」です。
浦本:シビックパワーバトルは、たとえば千葉市VSさいたま市、横浜市みたいな形で行われるのですが、それを自分たちで主催して、千葉市の6つの行政区でやってみたんです。するとやはりそれぞれ全然違うことがわかって面白かったですね。
平川:あれは面白かったですね。
近藤:なるほど、面白そうですね。どのように進めていったんですか。
畠中:僕らがそれぞれ、6つの行政区の1区ずつの担当になって、各区の人たちと一緒に「うちの区は何が売りかな」みたいなことから話していって、アピールポイントを見つけて本番で話してもらうということをしました。デジタル技術をどう使うかという点については僕らが提案をしたりして。結果として6区ごとにかなり違う内容になりましたね。
浦本:かなりエネルギーが必要でしたが、参加された皆さん、自分の地域のことを改めて振り返る機会になったととても喜んでもらえました。「またやりたい」と。参加者の満足度はすごく高かったので嬉しかったですね。
データを利用する側が要望を伝え、行政をも巻き込んでいく
近藤:準備・企画から本番まで、主催するのは大変そうですが、すごく盛り上がりそうなイベントですね!行政の方が参加者としてかかわる、というのも面白いですね。現在も、千葉市と共同で進められている取り組みはありますか?
浦本:今一番大きいのはやはりコロナ関係ですね。あとは「こどもマップ」もですが、オープンデータが絡むところはほとんど千葉市と一緒に動いている感じですね。千葉市のオープンデータの窓口となる業務改革推進課とは今、毎月定例会を行っています。その場で僕らは「こういうデータがほしい」と伝えたりして、千葉市側からは「こういうことがやりたい」という相談があったり。そうしていろいろ新しいことが立ち上がったりしています。
近藤:ちなみに、千葉市のオープンデータというのは具体的にどのくらいの種類があるんですか?
浦本:今だいたい3,000種類ぐらい公開されています。千葉市は基本的にはWebサイトに載っている情報はすべてオープンデータ扱いになっているはずで、わりと自由に使えます。たとえば、「こどもマップ」で使っているのは、ファイルベースで言ったら保育園と学童とで計2種類のデータです。その中に、保育園のデータの場合、駐車場区画とか待機児童数、幼児保育、一時保育の有無とかそういった情報が園ごとにある。それがすべてオープンデータとして公開されているわけです。なので、やろうと思えば誰でも同じようなサービスが作れます。
畠中:ただ一つ補足すれば、僕らは単に公開されているものを使っているわけではなく、「こんなデータにしたらいいのでは」というのを行政側と相談して、フォーマットを決めるところから関わってもいます。そのように外の人間と相談したうえでデータを出してくれるというのは、千葉市のいいところですよね。
浦本:確かにそうですね。利用する側から「こういうデータだったら使えますよ」というのをどんどん伝えていくことが大事だなということも感じます。僕たちはそれをプロダクトという形で、市民の方に使えるようにしていくということを通じて、そういう流れを活発化させられたらと思っています。
近藤:最後に、今後Code for Chibaとして目指していくことなどありましたら、教えてください。
浦本:自分がこういう活動をするのは、家族が外に出ても幸せでいられる地域であってほしいという気持ちが原点にあります。そのために一市民として何ができるんだろうと。これからますます、地域の人たちが幸せになれるようなサービスをどんどん作っていって、使ってもらえたら嬉しいですね。また、現在の非常事態での状況を見ても感じますが、日本人は、大変なときにみんなでがんばるぞという美しい文化がありますよね。そのパワーを日常の課題解決にも使えたら、きっといろんなことがよくなるんじゃないかなって思っています。
平川:僕も同じくです。
畠中:いまの僕らの活動は、まだまだやはり「物好きがやっている」という印象を持たれがちです。それが、誰にとっても「普通のこと」になればいいなと思っています。浦本さんの言葉ともつながりますが、みながそれぞれ、自分の身の回りの課題を自ら解決していこうという気持ちを持てるようになったらいいなと。そしてそうなるためには、やはり参加して楽しいとか、やりたいというモチベーションを持てる場にしないといけないですよね。そういう部分をこれからもっとうまくやっていきたいです。
近藤:いくつかのデータとアイディアと技術によって、誰もが主体的に、自分の身近な世界をよくすることができるんだなあと改めて感じました。貴重なお話を、ありがとうございました!
後編 衛星データのシビックテックへの利用について Code for Chiba と考える!
後半では、衛星データをシビックテックにどう活用できるかを知るために、具体的に千葉市の場合について、Code for Chibaのみなさん(浦本さん、畠中さん、平川さん)と宙畑のメンバー(中村、城戸、田中)とでディスカッションしました。これまでCode for Chibaが制作したサービスではほとんど衛星データは使われていないとのことで、まずは宙畑側から衛星データについての基本的な説明を行い、また、事前に宙畑のメンバーで出し合った衛星データ利用のアイディアも共有。それを踏まえて、Code for Chibaのみなさんに千葉において衛星データが使えそうな事例を挙げてもらいながら、話は進んでいきました。
公園内の木々の情報と衛星データを組み合わせれば、お花見情報マップになる!?
中村:「My City Report」を見ると、公園の情報とかで「木が折れていますよ」とか、「道路にひびが入っています」という市民からの報告が多いなと感じました。
浦本:公園は、僕たちも何かできないかと考えたことがありました。行政は公園内に生えている木1本1本のデータがあるんです。たとえばそのデータを使うと、どこでお花が見頃かみたいな、お花見情報が作れるじゃんと思ったんです。
中村:なるほど。植物の植生状況がわかる衛星データもあります。木が1本1本わかっているのであれば、例えば桜の木であれば花が咲くと衛星からの見え方も変わる。そうした性質を利用しての見頃予測みたいなことができたら面白いですね。
浦本:それをやれば、あまり知られてない花見スポットもわかったりして、花見で特定のところに人が集中しなくなるという利点もあるかもしれませんね。
千葉県特有の現象「やちほこり」を検出?
城戸:衛星から「山火事」が起きている場所を検出するといった事例もあります。定期的に広範囲を撮影できるのが衛星データのメリットなのですが、なにか定期的に起こる困りごとなどはありますか。
浦本:「やちほこり」といって、千葉市ではないのですが、千葉県の八街(やちまた)市で毎年起きる現象があるんです。落花生の生産が盛んな町なのですが、収穫が終わったあとに何も植えられていない畑の砂が強風で舞って、視界を奪われるほどの砂嵐のことです。山火事が衛星で見られるなら、これも見られそうだなと思いました。
やちほこり(またはやちぼこり)は、今年のゴールデンウィークにも発生していたようです。
GW最終日にやちぼこり。。 pic.twitter.com/JTArsMr0Ef
— せをん (@seoto1213) May 5, 2021
平川:ちょうどさっき3人でアイデアを話していましたが、どうなんでしょう。
畠中:1日に数回あるようなデータなら、「今日はこのへんで舞っている」とかっていうのが見えそうな気がしますね。この辺りが茶色くなっている、とかが衛星から見えますか?
城戸:黄砂とか、ある程度大きい範囲で起きているものは見えるので、やちほこりも見えそうですね。
中村:風速データなどと併せて、やちほこりが発生しそうだとわかったときに「やちほこり警報」を出したり、「今日は洗濯物しないほうがいいですよ」みたいな情報があっても有用そうですね。
畠中:そういう使い方はありえますよね。
中村:収穫が終わったあとは農家さんも他の事業があったりするから、事前に水をまいたりだとかの対策がなかなか難しい。でも、予測があれば対策もしやすいですし、よさそうですね。
上空から花火を撮影する新しいエンターテイメント
浦本:ちなみに衛星の映像で花火は写るんですか?
中村:高解像度な衛星で撮ったというのが、最近ありましたよね。ただデータがとても高価なもので、無料の衛星データでは難しそうです。ただ、花火が見える場所を探すことは、衛星データを使ってできるかもしれません。たとえば密にならない場所で花火大会をする場合に、「この花火が見えるエリアはこのあたりです」と示したりすることが、もしかしたらできるかもしれない。
畠中:衛星で撮れるのは、静止画でしょうか。動画の形で見られたりもしますか。衛星から花火を撮って動画で再現出来たら面白そうだなと思って。または花火が開いた瞬間を上空から見れたり……。
中村:基本的には静止画ですが、中国では「ロケットの打ち上げを衛星から撮ってみた」といった動画を撮影している事例もあるので、可能かもしれませんね。
道路の管理・監視に衛星データを利用する
田中:「My City Report」では、道路にひびが入っていることを報告したりしていますよね。それと組み合わせることで、道路の監視・管理に衛星データが利用できないか?というのも考えていました。
浦本:道路に関することが衛星データでわかって、整備などに使えるとすればとても有用ですよね。My City Reportの、行政側の仕組みとして、車の前面にスマートフォンを置いて撮影を続けて、その映像からどこが補修必要かをAIで検知するというのがあるんです。そのデータと衛星データを使ってAIに学習させ、衛星データから補修が必要な道路情報を抽出できれば、千葉市はすごく喜びそうです。
千葉市の海は意外と綺麗ということを証明できないか?
浦本:また、海の綺麗度を衛星から見る、というのも面白いですね。幕張の隣の検見川や稲毛はウインドサーフィンなどのマリンスポーツができるんで、今日はこの海域が綺麗だとわかったら、サーファーに喜ばれますね、きっと。
ちなみに、千葉市が面している海は、実は人口海浜なんですが、人口海浜の長さとしては日本でもトップレベルの長さを誇っています。なので、海浜の長さがわかるデータとかがあると、アピールに使えるかもしれませんね。先ほどのシビックパワーバトルのネタにもなりそう。「うちは1番長い砂浜を持っているぞ」とか「実は海が綺麗なんだぞ」とか、市民のシビックプライドをくすぐるデータにはなりそうです(笑)。
城戸:それは面白いですね、確かに。データで客観的に見れるからこそ、証明できることですよね。
公共交通機関のルートの最適化
浦本:どこの地域にもあると思いますが、やはり公共交通機関の問題というのは大きいですよね。千葉市もやはり不便なところはコミュニティバスを走らせたりしています。そのバスをどのようなルートで走らせるのが最も効率的なのかというのは行政側はすごく知りたいと思うので、そこに衛星データが活かせたらいいですね。
畠中:バスのルートってけっこうアナログで決めているみたいです。試しに一回走らせて、利用者が多そうだったから、ああこの辺がいいんじゃないかといった感じで。それをもっとデータに基づいたシミュレーションで決められたらいいですよね。
城戸:皆さん、ありがとうございます。とてもたくさんアイディアをいただいて、楽しく話しているうちにあっという間に時間をオーバーしていました。今日のディスカッションを通じて、シビックテックに衛星データを利用する可能性は本当にいろいろあるなと感じました。是非今後、千葉市でも衛星データで使ってみてください。そして、全国で使ってもらって、いろんな新しいアイディアがでてくることを期待しています!
取材を終えて
今回は、地域の課題を地域で解決していく、シビックテックに活発に取り組まれているCode for Chibaの皆さんとお話し、様々なアイデアが生まれました。今回は比較的都市部で人口も多い千葉市・千葉県がスコープだったので、「やちほこり」など地域特有の課題もある一方、出てきた課題の中には他の地域にも転用できそうなものも多数ありました。
衛星データプラットフォームTellusでは、人工衛星で取得したデータをオープン&フリーなデータとして無料で提供しています。これらもオープンデータの一つとして、シビックテックの中でも当たり前に使われるデータになっていけば、今までになかったような観点での課題解決にもつながるかもしれません。
今回は都市部でしたが、より自然の多い地域や山間部など、地域の特徴によって様々なアイデアをこれからも考えていきたいと思います!