宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

「青天の霹靂」に聞く!衛星データを用いた広大な稲作地帯の収穫時期予測

農業への人工衛星データ利用……話題に挙げられることは多いものの、実際どのように使われているのでしょうか。美味しさの秘訣からコストのお話まで、実際にインタビューしてきました。

農業における人工衛星の活用として、最近ではテレビドラマ『下町ロケット』の影響からトラクターなどの農機の自動運転に注目が集まっています。

しかし、農業における人工衛星の活用は今に始まったわけではありません。

青森県の津軽地方を中心として生産されるブランド米「青天の霹靂」は、2016年から人工衛星で撮影された水田の画像を、おいしいお米の生産に活用しています。

実際に、人工衛星の画像をどのように活用しているのか、なぜ人工衛星でなければならないのか、その効果はどのように出ているのかなどについて、地方独立行政法人 青森県産業技術センター 農林総合研究所 生産環境部長の境谷栄二氏に伺ってみました。

青森県産業技術センター 農林総合研究所 生産環境部長の境谷栄二氏

― まず、おいしい米を作るポイントを教えてください。

おいしい米を作るには、米の生産管理が重要になります。主なポイントは「適時に収穫すること」「適切な量の肥料を与えること」「水田を選ぶこと」の3つです。

米は5月頃に田植えをして、9月に収穫します。その収穫時期が米の味に影響を与えるのです。例えば、適切な収穫時期を逃すと、米粒が割れて食感が悪くなります。

また、米のおいしさにはタンパク質の含有率も大きく影響します。タンパク質の含有率が低い米は、粘りがあり柔らかくておいしい米になります。このタンパク質の含有率を決めるのが、肥料の量と水田の土壌です。米を栽培する際に肥料を多く与え過ぎると、タンパク質含有率が高くなってしまいます。土壌の性質によっても、タンパク質含有率の高まりやすさに違いがあるんです。

 

― では、米の生産管理に人工衛星はどのように活用できるのでしょうか。

人工衛星を使って、宇宙から水田を観察して「おいしいお米を作るための農家さんの働き方改革」を進めています。

具体的には、先ほど上げた3つのポイントを押さえるために衛星を活用しています。
まず、「適時に収穫すること」ですが、8月から9月にかけて衛星から稲の色を撮影します。稲は穂が出る8月頃は緑色で、収穫時期になると黄金色に変わります。

「青天の霹靂」を栽培している水田は広範囲にわたるため、田植時期や土壌などの環境条件の差から、稲の育ち具合に差が生じます。

そのため、育ち具合の差が稲の色合いの違いに表れることを利用して、衛星画像を通して同時期での色の違いを見ることで、収穫時期が近い水田とそうでない水田を見分ける。つまり、衛星画像から、水田ごとの相対的な生育の早晩の状況を知ることができるのです。

生育の早晩の状況を把握できても、それだけでは収穫日を暦日で予想できません。そこで、気象庁が公開しているアメダス(自動気象データ収集システム)の気温データを使います。穂が出てから収穫できるまでの日数は、毎日の平均気温の積算が目安になります。「青天の霹靂」の場合は、平均気温の積算で900℃を基準としています。

この気温の積算情報と衛星画像の水田色から、収穫に適した日にちを水田ごと予測しています。この情報は、農家さんがスマートフォンやパソコンから見ることもできるので、「自分の田んぼは何月何日に収穫すればいいんだな」と判断できるんです。

人工衛星データと気温データによって収穫時期を判断

― なるほど。人工衛星を利用する以前はどのように収穫時期を判断していたのですか?

収穫時期は、農家さんが直接自分の水田すべてを見て回る必要がありました。その負担を減らすために、これまでアメダスのデータだけを使って収穫時期を予想し、情報提供していたのですが、人工衛星からの画像を利用したリモートセンシングを併用すると、収穫予想日の誤差が大きく減りました。

【宙畑メモ】
安定して一等米でいられるのは11日間ほどで、収穫予想日の誤差は品質に直結するようです。

 

最近は農家さんの数が減り、近辺の農家さんが農地を引き継ぐことも多く、1人の農家さんが見なければならない水田の面積が拡大してきています。そのため、農家さんの負担が大きくなっており、作業の効率化の必要性が高まっているのです。

― 農家さんはご高齢な方が多いという印象があるのですが、実際にアプリやパソコンを活用しているのですか。

このアプリは、JAの指導員の方が農家さんへの指導に使うことを想定して作りました。JAの「青天の霹靂」を担当している指導員では、すでに100 %の方がアプリを利用している状況です。

ところが、指導員の方が農家さんに説明していると、自分の水田の様子を自分でも見てみたい、自分でも使ってみたいという要望が多く、「青天の霹靂」の栽培農家の半数以上の方々にご利用いただいています。

今回のアプリはWEBアプリとしたことで、ダウンロードなどの手間が不要となりました。そのため、農家の皆さまが熱心ということももちろんあるのですが、アプリが使いやすいということもあって利用が広まっているのだと思います。

【宙畑メモ】
津軽地域のすべての水田に通し番号を整備し、生産指導に必要となる「青天の霹靂」を栽培している水田位置と農家の情報を管理しているそうです。

 

― ほとんどの農家さんが利用しているということですね。その他のポイントとなる「適切な量の肥料を与えること」「水田を選ぶこと」に関しては、どのように人工衛星を活用しているのですか。

「適切な量の肥料を与えること」「水田を選ぶこと」はいずれも米のおいしさを左右するタンパク質含有率に関係します。

生産環境部内のホワイトボード
農林総合研究所内の様子

まず、「適切な量の肥料を与えること」については、衛星画像から推定した米のタンパク質含有率のデータを利用します。タンパク質の含有率も、8月から9月にかけて撮影した画像をもとに、稲の色の違いによって推定可能です。

これには、収穫時期を調べるための波長とは別の波長を使います。肥料が多く栄養過剰な稲ほど葉の緑色が濃く、米のタンパク質含有率が高くなりやすい傾向があります。

ただし、実際に育て始めてからの段階ではタンパク質の含有率を調整することはできないので、この情報は次の年の田植えの時に同じ水田の肥料の量をどう調整するかということに活かします。

タンパク質含有率が高かった水田では、翌年の肥料の量を減らしてあげることで、タンパク質含有率が低いおいしい米が生産されるようになります。「青天の霹靂」では、タンパク質含有率が高い米の生産農家に対し、個別に肥料の量をアドバイスし、おいしい米が生産できるようサポートしています。

【宙畑メモ】
収穫時期の状況は「赤」と「近赤外」の波長を用いて推定していたのに対して、タンパク質含有率は「緑」と「近赤外」の波長を用いて推定されているそうです。

 

次に「水田を選ぶこと」については、稲がまだ小さく、土壌が均質の状態である田植え直後の水田を人工衛星から撮影した画像を利用します。この画像から、それぞれの水田の土壌の肥沃度を推定しているのです。以前から、「ここで育った米はおいしい」と言われる地域があったのですが、その違いは土壌の肥沃度が原因になっていることが分かってきました。

肥沃度は有機物の含有率の指標である、腐植含量によって左右されます。腐植含量が低いと土壌の色は薄い茶色になります。そして、腐植含量が増えていくにつれて土壌の色は黒色に近づきます。とはいえ、肥沃度の高い水田ほどおいしい米が育つ訳ではありません。腐植含量が8%以上の極めて高い肥沃度の水田ではタンパク質含有率が高くなりやすく、収量は増えますが味が落ちてしまいます。

そこで、特にブランド米である「青天の霹靂」については、他の品種と比較すると、求められる品質基準が高いため、腐植含量が8%未満の水田での栽培を農家さんに推奨しているのです。

腐植含量がこれよりも高い水田では、「つがるロマン」や「まっしぐら」など別の品種を選択します。

【宙畑メモ】
稲が小さい時期に、水を張った状態の水田を衛星で撮影することがポイントです。水が張られた状態で撮影することで、田んぼ同士の環境条件(湿り気など)が等しくなり、土壌の色を比較できるようになるのです。

 

― おいしい米を育てるには、いろいろとバランスが必要ということですね。上空から稲の色を観測するならば、セスナ機やドローンを使うこともできると思うのですが、なぜ人工衛星なのですか。

セスナを使う場合、1回の撮影に300万円ほどかかります。その際の撮影面積は、100キロ平米くらいです。「青天の霹靂」の水田は津軽地域の大部分に広がっているので、撮影面積としては3000キロ平米ほど必要になり、セスナでの撮影では何十回にも分けて撮影を行う必要があります。それには時間がかかるし、コストも膨大なものになります。ドローンも同様に、広大な面積を一度に撮影することはできません。

それが人工衛星ならば、そのくらいの面積でも一度で十分に撮影でき、解像度を適切に設定すれば3000キロ平米でも200万円くらいで撮影データが入手できます。

腐植含量の調査も化学分析によって土を直接調べられるのですが、そのコストを試算すると、この面積になれば1億円以上のコストがかかります。それが、人工衛星を利用すれば100万円以下で調査できるのです。

 

青枠が青天の霹靂のSPOTでの撮影範囲(3000km)、黄枠が航空機で撮影していた当時のおよその撮影範囲(100km2)

― それはとても大きなコストメリットになりますね。農家さんにとっては、人工衛星の活用でどのようなメリットが得られたのでしょうか。

収穫した米が一等米に格付けされる確率が上がりました。現在、平成30年産「青天の霹靂」の99.2 %が一等米に格付けされています。一等米の全国平均が81.0 %なので、平均を大きく上回っています。

平成28年の開始当初、アプリをJAの指導員だけで使っていた時は、一等米比率は96.7 %でした。農家さんが直接そのアプリを使い始めることによって、一等米比率がさらに上がりました。一等米は、JAの買取額が高いので農家さんにとっても収入が増えたことになります。

境谷氏は人工衛星データ活用が進み、コストが下がることを期待する

― 今後も人工衛星を活用するにあたっては、衛星画像提供事業者にどのようなサービスを望みますか。

今は夏以降に撮影しているのですが、今後は年間を通じて稲の生長をモニターできないかと考えています。一人の農家が管理する水田の面積は、今後ますます増加し、昔の篤農家のように時間をかけて稲を観察し、生育状況を把握することは困難になっていくでしょう。

衛星画像から生育状況を随時モニターできれば、これを補完する有用な情報になり得ます。そのためには、毎日のように頻度高く撮影できる衛星が望まれます。データを取得する確実性も上がります。

人工衛星による画像提供事業者もいろいろと増え、需要も増えてきているので撮影頻度が上がってきました。最近になって、毎日撮影してくれる事業者も出てきました。ドライブレコーダーのように普段から撮り続けているので、欲しいデータを指定してダウンロードする定額制のサービスが始まっています。

今後もこのように頻繁に撮影してくれる事業者が増え、価格競争でコストが下がってくることに期待しています。

― 最後に、人工衛星を活用する側の課題についてもお聞かせください。

人工衛星からの画像は、複数時期に撮影するとなると当然データ量も増加してきます。画像のダウンロードにも時間がかかり、蓄積されるデータ量も膨大なものになってくるので、クラウドの利用なども必要になってくるかもしれません。

人工衛星によるリモートセンシングの活用では、膨大な量のデータをどのように管理すればいいのかが、今後の共通した課題になってくると思います。

写真:小口 正貴

2019年2月21日、衛星データプラットフォーム「Tellus」オープン!

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