NTTとスカパーJSATが協業。事業への投資規模は数百億円レベル【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/5/17〜5/23】
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日本電信電話(以下、NTT)と、アジア最大の衛星通信事業者であるスカパーJSATが業務提携契約を締結したと発表しました。NTTのネットワークおよびコンピューティングインフラとスカパーJSATの衛星を始めとする宇宙アセットを統合し、新たな宇宙事業の創出を進める考えです。
現時点では、2026年に宇宙センシングと宇宙データセンタ、2028年に宇宙RANのサービス提供開始が見込まれています。
宇宙センシング事業は、衛星データとグローバルに設置されている地上IoT端末データを収集する基盤を提供するものです。
現在、低軌道衛星-地上間通信を大容量化する「MIMO(Multi Input Multi Output)技術」に関する研究をNTTが進めています。MIMO技術が実証できれば、地上通信網が整備されていないエリアでのIoTセンサの活用が出来るようになり、データの利活用拡大につながると考えられます。
現在、JAXAの革新的衛星技術実証3号機のテーマ「衛星MIMO技術を活用した920MHz帯衛星IoTプラットフォームの軌道上実証」に採択されていて、2022年に打ち上げ、2023年に実証実験が行われます。
続いて、宇宙データセンタ事業は、NTTが持つ技術を活用して、宇宙における分散処理コンピューティング処理基盤を構築します。他の衛星が取得したデータを宇宙データセンタで受信、分散処理し、処理結果のみを地上に送信することで、ほぼリアルタイムで解析結果の情報を地上で確認することが可能になります。
従来は、地上局上空を通過したタイミングでデータを降ろし、地上のデータセンタでデータを処理したあとに解析結果を確認していました。しかしながら、衛星間を光通信で結ぶことで通信を高速化し、受信した宇宙データセンタ内でデータ処理することで、ユーザーは衛星から取得・解析した結果をすぐに確認できるようになります。例えば、発災時で被災範囲を迅速に確認したい場合などに有用です。
宙畑メモ HAPS
通信装置を搭載した高高度無人機HAPS(High Altitude Platform Station)を上空20kmに飛ばすことで、広いエリアに通信サービスを提供する取り組みが進められています。スカパーJSATは、NTTドコモと実証実験を行っています。
宇宙RAN事業では、低軌道・静止軌道衛星とHAPS(ハップス)を用いたモバイル基地局によるアクセスサービスを提供します。僻地にもサービス提供エリアを拡大できるほか、地上インフラに依存しないため発災時の通信のバックアップにもなります。
5月20日に開催された共同記者会見では、事業規模について質問が上がりました。NTTの代表取締役社長の澤田氏はこのように説明しています。
「宇宙産業は2040年に120兆円規模の市場があると見込まれています。その中で、私たちのビジネスがどのくらいを占められるかは、我々の頑張りと技術の進展次第。事業の規模は検討している段階ですが、投資規模は数百億円レベルを見込んでいます」
2025年からは商用衛星の打ち上げが計画されていますが、静止軌道衛星のコンステレーションを構築するのではなく、ビジネスに合わせて低軌道・静止衛星とHAPSを組み合わせることで、効率的な運用を目指したい考えです。
さらに、海外の宇宙ベンチャーの取り組みとの違いについて聞かれると、スカパーJSATの執行役員社長である米倉氏は
「日の丸連合であることが重要だと思っています。安全保障を他国に頼らずにやっていくことを掲げていきたいです。」
と回答しました。
NTTとスカパーJSATが壮大な計画を発表したことで、国内の宇宙事業への関心はより一層高まるのではないかと考えられます。2社の事業の動向と、これらが国内市場にどのような刺激していくかに注目していきたいです。
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参考
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