宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙ビジネスを日本の誇る主産業に。宙畑立ち上げメンバーの新たな挑戦

「宇宙ビジネスを日本の主産業に」の実現を目指し、宙畑とともにTellusへのジョインを決めた宙畑立ち上げメンバーは、副業として株式会社sorano meを2019年10月に立ち上げ、1年間、平日夜と休日に事業を推進していました。この株式会社sorano meが、2021年5月に資金調達を発表。全員パラレルで活動しながらどのような事業を進めていこうとしているのか。代表の城戸彩乃氏にお話しを伺います。

宇宙ビジネスメディア「宙畑」は、2018年12月にTellusのオウンドメディアになり、現在もさくらインターネットで運営されています。
衛星データの利活用推進が「宇宙ビジネスを日本の主産業に」を実現すると考え、宙畑とともにTellusへのジョインを決めた宙畑立ち上げメンバー。

Tellusでプラットフォーム開発、宙畑の企画編集業務にいそしむ傍ら、2019年10月に株式会社sorano meを創業しました。そして、1年間、平日夜と休日に事業を推進し、2021年5月に資金調達を発表。

そもそも株式会社sorano meは何をする会社なのか。なぜさくらインターネット株式会社でTellusの開発を続けながらの創業だったのか。
2017年2月にオープンした本サイト「宙畑」の創設者でもあり、株式会社sorano meの代表、城戸彩乃氏に話を聞きました。

宇宙に特化した伴走型事業支援を行うsorano me、FGN ABBALabから資金調達を実施。事業拡大に向けて人財基盤を構築。| PR TIMES

TELSTARや宙畑の創設、そしてTellusに参画した経緯

—まずは城戸さんの現在の所属や活動内容について教えてください。

城戸:さくらインターネット株式会社に勤めながら、衛星データプラットフォーム「Tellus」のサービス開発・ビジネス開発を行い、株式会社sorano meの代表をしています。

プライベートでは衛星データを用いて日本全国の移住生活中です。
衛星データを利用して理想の家探しはできるのか!?理想高めなOLの日本全国移住先探しの旅【前編】
衛星データを利用して理想の移住先探しはできるのか!?理想高めなOLの日本全国移住先探しの旅【後編】

移住生活については、詳しくは以下の記事で詳しく取材してくださいました。
コロナ禍で実現、理想の旅生活—衛星データで日本全国移住の旅|DSPACE

本業のさくらインターネットも、副業のsorano meも、どちらも原則リモートワークとなっているので、全国をめぐりながらPC一台で仕事をしています。

Credit : kclutch3

—宙畑の創設のきっかけや、Tellusのオウンドメディアとして参画を決めた経緯はどのような背景があったのでしょうか?

いまの仕事やキャリアのきっかけになったのは、大学生の頃に作った学生団体TELSTARだと思います。

私は元々宇宙大好きっ子ではなくて、高校生のときに宇宙にビジネスの可能性を感じて理転して、大学生になってから宇宙開発にどっぷりハマりました。

大学に入ってからは、毎週末JAXAのイベントや宇宙関連の集まりに出かけたり、ハイブリッドロケットをつくるインカレサークル「CORE」に所属してパラシュートを縫ったり……工学系に入って色々な活動を通して、宇宙に関わるエンジニアや研究者の話を聞いて、わくわくが止まりませんでした。

ただ、わくわくする一方で、ものづくりにはあまり興味がなく、「誰のためにどんなものを作るか」「作ったものがどんな役に立つか」を考えることに興味があることに気が付きました。

これらの活動や考えを経て、「宇宙開発によって作られたものが色んな人に活用されるためには、もっとたくさんの、色んな分野の人に宇宙に興味を持ってもらい、宇宙分野に参入してきてもらう必要がある」と感じ、作ったのが中高生向けフリーマガジン「TELSTAR」です。

Credit : TELSTAR

掲げたミッションは「宇宙ビジネスを日本の誇る主産業にする」で、そのために、進路選択の重要な時期である中高生のうちに、文理を問わない様々な宇宙への関わり方を伝えることで、参入障壁を下げていこうと活動していました。

ただ、TELSTARが軌道に乗ってきてから、宇宙産業のキャリアの受け皿が不足しているために「宇宙を志しても大学を卒業するタイミングで諦めなければならない」という事実にぶち当たりました。

—それはTELSTARを始めてからいつ頃の話ですか?

城戸:3年くらいですかね。ちょうど、TELSTARを読んだ高校生が大学生になり、メンバーとしてTELSTARの制作側になってきた頃であり、先輩や自分の同期(学部卒)の就職のタイミングでもありました。悩みが生まれてから1年半くらい悩み続け、受け皿を拡大していくためには、「さらにたくさんの人に宇宙産業の実態に興味を持ってもらうこと」「自分たち自身でも宇宙ビジネスを考えて実践していくこと」「宇宙ビジネスを実践する人を増やすこと」が必要だと考え、宇宙ビジネスメディア「宙畑-sorabatake-」を2017年2月に仲間とともに立ち上げました。

Credit : 宙畑

当時はウェブメディアの知識もあまりない状態で、どんな記事を書いて、どんな人に届けたら目的が達成できるのか見えないままに暗中模索といった感じで進めていました。

既に社会人になっており、唯一本業でメディアの経験がある中村(現・編集長)が、牟田・田中などと一緒に企画を推し進めてくれて、いつのまにか「宇宙ビジネス」とか「宇宙産業」とかで検索すると、宙畑の記事が出てくることが増えてきました。

そのあたりで、そろそろ自分たち自身でも宇宙ビジネスを考えて実践してみないといけないだろうと試し始めたのが「衛星データやってみた」シリーズです。地球観測衛星の広報経験のある菅谷にレクチャーしてもらって、衛星データの画像化を行い「この夏行きたい海を衛星で見つけよう」といったワークを行ったり、牟田発案でQGISとSentinelデータを使い、マラソンコースの気温の可視化を行ったり。
私自身は教えてもらう側でしたが、衛星データという無料で誰でも扱えるツールを使うことで、衛星を打上げなくてもビジネスを考えられるというのに新鮮味を覚えて、わくわくしていた記憶があります。

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そんなことをしていたある日、SPACETIDEの石田さんから「紹介したい人がいる」とご連絡をいただきました。そこで紹介してもらったのが、さくらインターネットの小笠原治さんです。

その頃の小笠原さんは、さくらインターネットで経済産業省のオープン&フリーな衛星データプラットフォーム「Tellus」の立ち上げに関わっていて、プラットフォームの利活用を推進する、入り口となるようなオウンドメディアを構想していました。宙畑の「衛星データやってみた」コンテンツ等をみて、一緒にやらないかと声掛けをいただきました。

「Tellus」のミッションは「政府衛星データをオープン&フリーにして、ビジネス利用を促進すること」。

宇宙産業の受け皿を増やしたいと考えてメディアを立ち上げ、受け皿を増やすには衛星データの利活用だと可能性を感じていた宙畑にとって絶好のチャンスでした。

—Tellusのミッションと宙畑の思惑がぴったりはまったということですね。

城戸:宙畑を立ち上げた当時の目的は3つありました。

①たくさんの人に宇宙産業の実態に興味を持ってもらうこと
②自分たち自身でも宇宙ビジネスを考えて実践していくこと
③宇宙ビジネスを実践する人を増やすこと

これら全て、さくらインターネットにジョインすることで「Tellus」で挑戦できると思いました。

日本政府の衛星データをフリーアセット化するその最前線で、自分たちが作ったメディアを活用して、ビジネス利用を促進することができるなんて、そんなチャンス10年に一度も巡ってこないですよね。

当時宙畑に関わっているメンバーは10数名いましたが、みんなに説明し納得してもらい、宙畑は2018年12月に「Tellus」のオウンドメディアとしてデビューしました。このタイミングで一部のメンバー(城戸、牟田、菅谷、田中)は形式は色々ありますが、さくらインターネットで「Tellus」を企画運営するチームにジョインしました。現在、私は「Tellus」のビジネス開発・UIUX担当の立場から今も企画運営に関わっています。その他のメンバーも、編集長の中村をはじめ、ライターやデザイナーとしていまも関わってくれています。

Tellusのオウンドメディアになった宙畑は、月間2万弱だったPVから、今では20万PVに近いメディアに成長しています。

ボランティア活動で行っていた宙畑、さくらインターネット(Tellus)、sorano meの関係 Credit : sorano me

株式会社sorano meの事業内容

—では、代表を務める株式会社sorano meはどの様な会社なのでしょうか。

城戸:私が「Tellus」の運営メンバーとして、サービスを日々少しずつ改善しながら様々な企業・個人の方とお話をしていく中で、新たな宇宙ビジネスの種を育てていくのにもう一つ不足しているピースがあるかもしれないと思い至りました。それが「仲間」です。

Credit : sorano me

衛星データが自社の事業に使えるのではないかと考えている企業はいくつかあっても、社内で興味を持ってモチベーション高く活動をしている人は、会社の中の1人〜2人くらい、ほんの一部です。多くの企業では社内のアンダーグラウンドな活動、まずは有志で衛星データ活用を検討して、それを社内のコンペに出したりとか、関連部署に持っていったりといったケースが多いように思います。そもそも既存事業の改善とかに使えそうと思っても、使えるかどうか検証するためにまずお金が必要だったり……と、様々なハードルがあります。

これは衛星データに限らず、位置情報や衛星通信などであっても、まずアンダーグラウンド活動から開始することが大半だと思います。

しかし、ゼロから新しいものを生み出すには、毎日強いストレスがかかります。毎日もやもやと歩き回って考えてボツにして……の繰り返し。

—衛星データを扱うとなった場合も、データを扱える人が必ず近くにいるわけではないというのもありますよね

城戸:私自身は、学生時代から本当に「仲間」に恵まれてきたんです。給料が出るわけでもないのに、フリーマガジンの入稿作業とか、冊子を封筒にひたすら詰める作業とか、協賛をお願いしたい企業や高校などにひたすら営業の電話をかけるとか……協力してくれる仲間がいました。

そういう仲間がいてくれたおかげで「TELSTAR」が生まれて。そのあとも、もやもやして何かカリスマ的に思いつくわけでもなくああでもないこうでもないって言いながら、ときに機嫌が悪くなり…みたいなのに耐えて、一緒に考えてくれた仲間がいたから「宙畑-sorabatake-」が生まれた。その両方ともが、仲間がいたから今も続いていると思っています。

宇宙ビジネスはまだまだ挑戦の総量が足りていません。もっともっとたくさんの人が、いまの会社内でも社外でも、宇宙ビジネスに挑戦していかないといけない。その挑戦に必要なのが「仲間」だと思うのです。

そう思って、宇宙ビジネスの最初の一歩を一緒に踏み出す「仲間」になる会社を作りました。それが株式会社sorano meです。

Credit : sorano me

—具体的にはどのような事業に取り組まれるのでしょうか?

sorano meの事業は大きく2つあります。伴走型支援事業と人財基盤構築事業で、お互いが対になっている感じです。

Credit : sorano me

伴走型支援事業は、企業や個人の事業開発に伴走します。いまは、チームで月額定額で事業開発支援を行っています。支援内容は多岐に渡りますが、基本的に「一緒に走る」がコンセプトです。例えば事業のアイデア出しをするためにワークショップをすることもありますし、市場調査とか海外動向調査とかを行うこともあります。サイトのデザインを受けることもありますし、本とか、カードゲームをつくったこともあります。20〜30代の比較的若いメンバーが多いこともあり、経験値の豊富さとかではなく「一緒に悩む」「一緒に走る」「一緒に挑戦する」といった形で支援をさせてもらっています。

人財基盤構築事業は、伴走型支援事業を行うチームを組成するための事業です。Tellusでもお世話になっているGoodpatchという会社の新規事業「Goodpatch Anywhere」から着想を得て、複数人のチームで企業に伴走する支援形態を実現するために「副業から宇宙ビジネスに関われる」をコンセプトにした人財基盤を作ろうとしています。

アイデア出しもするしカードゲームも作るし…と、支援内容が多岐に渡りすぎて、状況によって必要なスキルセットは大きく変わります。そのため、副業で様々なスキルをもった様々な分野の人たちに登録してもらって、内容によって必要なスキルを持ったメンバーでチームを作り、支援するといった仕組みを作っています。

調達した資金は主に人財基盤構築に投資したいと考えています。というのも、この人財基盤は人材斡旋とは違う新しい仕組みです。いまのメンバーも全員が副業という形で関わってくれていますが、チームで支援するこの仕組みは新しく、同様の例が世の中にはあまりありません。しっかりした基盤を作っていきたいと思います。

Credit : sorano me

また、将来の人財基盤を担う子どもたちの思考力やプロトタイピング力の向上を目的としたプロジェクトも進めていきたいと思っています。子ども向けのワークショップを既に実施したこともありますが、更に力を入れていきたいと思っています。

パラレルで働く理由

—さくらインターネット株式会社に所属しながらパラレルで起業をしたことに迷いはありませんでしたか?

城戸:宇宙産業の受け皿を増やすためには、宇宙アセットを使ったサービス産業、利活用ビジネスがたくさん生まれてくる環境を作る必要があります。

そのためには衛星データプラットフォームサービスの普及が不可欠です。

衛星データをオープン&フリーにして公開したり、衛星データと一緒に使うと面白そうなデータを集めたりするのは新しい挑戦で、たくさんの人が協力してくれ、応援してくれているものの、超えなければならない壁がたくさんあります。まだまだ、やることやりたいことがたくさんあって時間も手も足りません。

ただ、一方で、プラットフォームだけができてもだめで、それを推し進める人たちが勇気を持ってモチベーション高く挑戦し続けられる「仲間」も重要です。どちらが欠けても目的は達成できないと考えているので、全く別々のことをやっているわけではなくて、でも役割としては別々のことを、同じひとつの目的のためにやっていくという思いで今の形を選んでいます。

「Tellus」は、今後も日本発の衛星データプラットフォームとして進化し続けなければなりません。まだまだたくさんのデータを搭載していきたいですし、データを使って解析・開発できる環境の整備も必要です。検索のしやすさも向上させる必要があります。個人的には利用者同士がナレッジをシェアしあって、どんどん活用が進んでいくように仕掛けていきたいし、衛星データの新しい使い道をプライベートごちゃまぜで実践して、発信してもいきたいです。

Credit : sorano me

せっかく「Tellus」に色々なデータが搭載されるのだから、それを自分自身が楽しく使ってみて、シェアしていきたいですよね。

オウンドメディア「宙畑-sorabatake-」はまさにこの「楽しく使ってみた結果をシェア」するのにうってつけだと思っています。衛星データビジネス事例開発の実験場として色んなトライ&エラーを発信して、それを見てビジネスの着想を得る人が増えたらいいと思っています。

宇宙ビジネス情報サイトであり、宇宙ビジネス実験サイトでもある。衛星データでこれがうまくいったら、他のアセットでもやってみたいです。

「sorano me」は、衛星データだけに限定せずに、宇宙ビジネスに挑戦する「仲間」を提供する会社です。

自分自身が副業の「sorano me」で伴走しながらビジネス開発を進めつつ、衛星データプラットフォームのサービス開発を本業で行うことで、データを使ってビジネス開発をする人に向けたデータプラットフォームとしての、これ以上ないフィードバックを得ることができると思っています。両方やっているからこそ相乗効果があると思います。

私が思う最高の形は、「sorano me」で支援して一緒にやっているチームが、衛星データを使ったビジネスアイデアを実践するために「Tellus」のプラットフォームを使って、その状況を「宙畑-sorabatake-」で発信して、仲間が増えて大きくなっていって……という状態。そうなったら「Tellus」の利用者が増えて「sorano me」の支援もうまくいって、しかも「宙畑-sorabatake-」のコンテンツとして発信することで他の人がそれを読んでまた着想を得て…といったループが回る。

ここに、「TELSTAR」で宇宙に興味を持って育ってきた元中高生たちが加わってきたらさらにおもしろいなと思います。

小さなちからでも、チームになって大きなちからを

—最後に今後のsorano meとしての意気込みを教えてください

城戸:繰り返しにはなりますが、今回の資金調達を経て、人財基盤をしっかりと作っていきたいと思います。よくメンバーにはスイミーの話をするんですが、大きなおさかなを追い払うために、小さなおさかなたちが群れになって、身体の黒いスイミーが赤い小さなおさかなたちの群れの目みたいになって、仮想の大きなおさかなを作るんです。それで大きなおさかながびっくりして逃げちゃうんですけど…。

sorano meの目指す人財基盤はこれに似ているなとおもっています。副業から関わるということもあって、一人一人は小さなちからかもしれないけれど、それがチームになることで大きな一人分のちからになるというのかな。その時々でしかも出せるちからを変えられるから、常に最強の仮想一人が出来上がるんですよね。

宇宙ビジネスの立ち上げの産みの苦しみをともに走り抜けるために、そういう仮想一人の「仲間」を提供することで、宇宙ビジネスの種をたくさん育てていきたいです。そうやって種が育って、多様な面白いビジネスが生まれてくることで、「宇宙産業を日本の誇る主産業に」していきます。