宇宙ビジネス企業50社のゆく年くる年、2021年を総まとめ&飛躍の2022年へ!
宙畑年末恒例企画!国内の宇宙関連企業50社について、2021年のトピック、2022年の抱負、欲しい人材像について語っていただきました!
※2022年1月7日 企業数更新
はじめに
2021年、ありがとうございました。そして2022年、あけましておめでとうございます。
『宙畑』では昨年より「宇宙ビジネゆく年くる年」と題して、1年の振り返りと新年の抱負について、様々な宇宙ビジネス企業にアンケートをさせていただき、宇宙ビジネスの盛り上がりを読者の皆様に1年の締めくくりとして共有しています!
【昨年の記事はこちら】
宇宙ビジネス企業39社のゆく年くる年、2020年を総まとめ&2021年へ!
第2回目となる今年は、以下3つの質問をお伺いしました。
Q1.2021年の貴社のトピックを教えてください
Q2.2022年の抱負、また、それ以降の目標を教えてください
Q3.2022年、貴社で採用したい人のイメージがあれば教えてください
昨年からの変更点として、社員/インターンの募集についても質問を投げかけています。宇宙ビジネスが働く場として、当たり前になってきているということを読者の皆様に実感じていただけれ場と思います。
また、本年のアンケートも昨年同様に、宙畑がご連絡できた宇宙ビジネス企業の皆様に、アンケートの依頼をさせていただきました。今年呼ばれていないという企業の方で、来年以降ご協力いただける企業様がいらっしゃいましたら、ご連絡をいただけますと幸いです。
各社の回答詳細はこちらからご覧いただけます。
(1)回答いただいた企業紹介
今回のアンケートでは、年末のお忙しい時期にも関わらず、総勢50の企業・法人に回答をいただきました。回答いただいた皆様には、あらためて御礼申し上げます。
以下、今回アンケートに回答いただいた企業・法人を主なサービス分野で分けてまとめました。
(敬称略、五十音順)
■製造・インフラ部門
株式会社アクセルスペース
株式会社アストロスケールホールディングス
インターステラテクノロジズ株式会社
株式会社インフォステラ
株式会社ElevationSpace
株式会社QPS研究所
SEESE株式会社
スカイゲートテクノロジズ株式会社
NEC
Space Entertainment株式会社
PDエアロスペース株式会社
株式会社Pale Blue
Honda(本田技研工業株式会社・株式会社本田技術研究所)
三菱電機株式会社
株式会社ワープスペース
■利用部門
ANAホールディングス株式会社
ウミトロン株式会社
株式会社ALE
オーシャンソリューションテクノロジー株式会社
京セラ株式会社
さくらインターネット株式会社
サグリ株式会社
株式会社SIGNATE
スカパーJSAT株式会社
株式会社スペースシフト
ソニーグループ株式会社
株式会社Solafune
株式会社天地人
株式会社DATAFLUCT
日本スペースイメージング株式会社(JSI)
日本地球観測衛星サービス株式会社
株式会社パスコ
株式会社minsora
株式会社Ridge-i
■探査部門
株式会社ispace
オリガミ・イーティーエス合同会社
株式会社ダイモン
株式会社TOWING
トヨタ自動車株式会社(TOYOTA MOTOR CORPORATION)
■その他部門
株式会社うちゅう
一般社団法人ABLab
一般社団法人SPACETIDE
Space BD株式会社
一般社団法人Space Port Japan
株式会社sorano me
株式会社デジタルブラスト
デロイト トーマツ グループ
株式会社バスキュール
パナソニック株式会社 宇宙プロジェクト
PwCコンサルティング
(2)製造・インフラ部門企業の回答紹介
まず、最初にご紹介するのが製造・インフラ部門です。
製造・インフラ部門企業とは、宇宙ビジネスの中でも、衛星やロケット、地上インフラなどを製造していたり、宇宙ビジネスでサービス提供するためのインフラを提供している企業を指しています。
世界に目を向けてみると、小型ロケットベンチャーであるRocket LabとAstraがSPAC(特別買収目的会社)を利用した上場を実施、さらなる開発のための大型の資金調達を行っています。
有人飛行では、SpaceX、Blue Origin、Virgin Galacticが相次いで民間人の宇宙飛行を成功させ、宇宙旅行時代の幕開けを感じさせてくれました。
一方で、通常のロケット打ち上げや衛星開発企業は大きなニュースは少なく、ある意味インフラとしての機能が果たされ始めたと言えるかもしれません。
では、国内宇宙ビジネス企業にとって2021年はどのような年だったのか。アンケートの回答を見てみましょう。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
・株式会社アクセルスペース
・株式会社アストロスケールホールディングス
・インターステラテクノロジズ株式会社
・株式会社インフォステラ
・株式会社ElevationSpace
・株式会社QPS研究所
・SEESE株式会社
・スカイゲートテクノロジズ株式会社
・NEC
・Space Entertainment株式会社
・PDエアロスペース株式会社
・株式会社Pale Blue
・Honda(本田技研工業株式会社・株式会社本田技術研究所)
・三菱電機株式会社
・株式会社ワープスペース
先を行くベンチャーの実運用・宇宙実証が進む
日本でも2015年以前に創業した宇宙ベンチャーが続々と実運用フェーズに入っています。
先頭を行く、衛星ベンチャーアクセルスペース社では、4機の衛星の打ち上げに成功、すでに打ち上げられていた1号機と合わせて5機体制で衛星データ販売事業「AxelGlobe」が開始しました。
宇宙空間のデブリ回収をミッションとするアストロスケール社では3月にデブリ除去技術実証衛星ELSA-dを打ち上げ、8月には試験捕獲に成功しました。
小型ロケットベンチャーインターステラテクノロジズ社では、7月に観測ロケット「MOMO」の打ち上げに成功、国内民間単独として初めて宇宙空間へのペイロード放出と回収にも成功し、実証から事業化の段階に入りました。
日本の宇宙ベンチャーの中でも着実に実証と事業化を進める企業を追いかけるように、2022年には水推進スラスタベンチャーPale Blue社が水エンジンの宇宙実証実験を予定しています。
製造分野では、宇宙空間で動く物を作れるかという「宇宙実証」が大きなゲートになります。このゲートを越えて何社が実運用に進めるのかが、問われています。
地上システム関連はサービスを開始
前項で紹介したアクセルスペース社が、衛星データ販売事業をスタートさせた他、地上でのビジネスを行う宇宙ベンチャーが続々とサービスを開始しています。
地上局のシェアリングサービスを行うインフォステラ社は、Amazon Ground Stationとの提携の発表したほか、商用サービスとしていくつかの衛星運用を開始、2022年夏頃には世界20カ国以上での地上局サービスの提供を開始予定です。同じく地上局サービスを計画しているスカイゲートテクノロジズ社は、2022年に完全なサービスローンチを目指しています。
SEESE社は、人工衛星の環境試験の支援事業として、「SEESEテストサポート(全国の環境試験場をWeb上で検索/予約)」及び「SEESEスポットコンサル(宇宙開発に関する専門家紹介)」の2つのサービスを開始、2022年は事業のさらなる拡大を計画しています。
宇宙空間にハードウェアを必要としない、地上系のサービスでは比較的サービスインが早い傾向があります。顧客ニーズを適切にとらえ、事業拡大の1年となるか、注目です。
資金調達と人員強化
2021年も引き続き、宇宙ベンチャー各社の資金調達のニュースが数多くありました。
アストロスケール社がシリーズFとして、過去最大の資金調達を実施、累計調達額が約334億円に達したほか、シリーズAの調達として、Pale Blue社やワープスペース社が調達を発表しています。
また本年は、大企業から宇宙ベンチャーへの出資として、京セラ社からアクセルスペース社への出資や、豊田通商社、吉本興業ホールディングス社からPDエアロスペース社への出資などが見られ、大企業の新規事業の位置づけで宇宙ベンチャーの出資が行われています。
資金調達に伴い、各社で人員の増強も行われており、Pale Blue社、Elevation Space社、インターステラテクノロジズ社などが2021年のトピックとして人員増強を挙げています。本記事のレポートでは各社が2022年に採用したい人のイメージを公開していますので、興味のある方はチェックしていただければと思います。
政府プログラムによる宇宙ビジネス支援が進む
海外でも宇宙ベンチャーの立ち上がり期を支援するために、様々な政府施策が実施されていますが、日本でも経済産業省やJAXAが宇宙ベンチャーを支援するためのプログラムを発表しています。
アストロスケール社は、経済産業省より宇宙船外汎用作業ロボットアーム・ハンドの技術開発を受託したほか、英国宇宙庁による軌道上衛星2機の除去研究プログラムに選定されました。また、JAXAの商業デブリ除去実証プロジェクト(CRD2プロジェクト)フェーズⅠにも選ばれている、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の組立作業を2022年前半に開始する予定です。
アクセルスペース社も経済産業省の「超小型衛星コンステレーション技術開発実証事業」に採択され、多様なミッションに対応可能な汎用衛星バスおよびその量産、運用システムの開発に着手したほか、NICTの「Beyond 5G研究開発促進事業」にも採択され、次世代小型衛星には標準搭載が想定される光通信機の開発も開始しました。
各国で自国の宇宙ビジネスを発展させるための政策立案が進む中、日本政府は、宇宙産業ビジョン2030の中で、日本の宇宙産業の市場規模の倍増を掲げており、具体的にどの領域の宇宙企業をどのように育てていくのか、戦略が求められます。
宇宙技術で社会貢献を進める
宇宙ベンチャーによるアグレッシブな活動が目立つ一方で、古くからの大企業も、宇宙インフラの構築やアカデミック分野への貢献などの分野で着実に事業を進めています。
NECでは、JAXAの深宇宙探査技術実証機「DESTINY+」のプロジェクトを担当することが決定。全体システム、サブシステムの設計や製造、組み立て、試験を実施予定です。
三菱電機では、開発を担当した「みちびき初号機後継機」の打上げが10月26日に成功、GPSだけでは得られないセンチメートルレベルの高精度な測位データの提供に貢献しています。また、JAXAの革新的衛星技術実証プログラム小型実証衛星2号機の打上げも成功し、今後の宇宙実証の結果が待たれるところです。
宇宙ビジネスはともすると、ベンチャー企業の華やかなニュースに目が行きがちですが、すでに社会インフラとして成立している通信測位や気象、また、研究の分野では、着実な開発が求められます。
(3)利用分野企業の回答紹介
次に紹介するのは宇宙ビジネスにおける「利用分野」です。利用分野企業とは、衛星データや位置情報データ、通信衛星を利用したサービスの運営企業を指します。また、人工流れ星のような宇宙空間を利用したサービスを展開する企業も含んでいます。
2021年は、世界に目を向けると、地球観測衛星コンステレーションのパイオニア企業であるPlanet Labsが上場し、NASAが購入した同社の衛星画像を、NASAが支援する約28万人の研究者に無料解放するといったニュースがありました。
また、昨年ベータ版のテストを開始した、SpaceXが提供するStarlink衛星を用いた通信サービスは、ユーザー数が15万人を超えたことを発表した他、日本の大手通信キャリアのKDDIが同回線をau基地局のバックホール回線に利用する契約を締結したことを発表しました。
では、国内宇宙ビジネス企業にとって2021年はどのような年だったのか。アンケートの回答を見てみましょう。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
・ANAホールディングス株式会社
・ウミトロン株式会社
・株式会社ALE
・オーシャンソリューションテクノロジー株式会社
・京セラ株式会社
・さくらインターネット株式会社
・サグリ株式会社
・株式会社SIGNATE
・スカパーJSAT株式会社
・株式会社スペースシフト
・ソニーグループ株式会社
・株式会社Solafune
・株式会社天地人
・株式会社DATAFLUCT
・日本スペースイメージング株式会社(JSI)
・日本地球観測衛星サービス株式会社
・株式会社パスコ
・株式会社minsora
・株式会社Ridge-i
報道に、農業、漁業他様々な産業に……衛星データ活用の社会浸透が加速
今年も衛星データが利用されている場面を目にする機会が多い1年でした。
直近の活躍で記憶に新しいのは、小笠原諸島の海底火山「福徳岡ノ場」の噴火で噴出した軽石の観測でしょう。軽石は、船舶航行や漁業に影響を及ぼし、現在も問題は継続中。JAXAが軽石の場所が分かる観測情報サイトを立ち上げたほか、衛星画像を用いて全球で変化検知ができるサービス「GRASP EARTH」のサービスを提供する株式会社Ridge-i社も、AIを用いた「軽石ビューア」をローンチし、テレビ、新聞、Webサイトと様々な場所で衛星データを用いた軽石の報道が行われました。
2021年12月には、株式会社天地人の衛星データを活用した土地評価エンジン『天地人コンパス』を用いて、収穫量が増え、より美味しく育つ可能性のある圃場を選び、他企業と共同で育てた「宇宙ビッグデータ米」が販売開始されています。
また、オーシャンソリューションテクノロジー株式会社がTellusのアライアンスメンバーに加入。各所で漁業における衛星データ活用の今が広く語られ、同社は2021年は飛躍の年になったと語っています。同じく漁業への宇宙技術含む最先端テクノロジーの導入を進めるウミトロン株式会社は、同社のテクノロジーを用いて育てたシーフード販売を開始し、1年間で100万食の販売実績があったとのこと。
そして、各社の回答を見ると、2022年以降の衛星データ活用の盛り上がりにも期待が高まります。農業分野では、耕作放棄地の検知サービスを提供するサグリ株式会社と、エリアに関するビッグデータを統合・分析し、データに基づく持続可能なまちづくりを実現するプラットフォーム『TOWNEAR』を公開した株式会社DATAFLUCTが資金調達を発表。また、ANAホールディング株式会社やスカパーJSAT株式会社といった大企業も衛星データを活用したサービス展開を進める構想を公表しました。
国内衛星データ活用ベンチャーの世界進出も続々と
2021年は国内の衛星データ利用に関わる宇宙ベンチャーの名前が世界に広まった年でもありました。
特に象徴的だったのは、株式会社天地人が世界最大規模の宇宙ビジコン「Gravity Challenge」で日本企業で初めて優勝したことでしょう。同社は、国連開発計画との協業、Coprernicus Mastersでの受賞による独 BayWa 社との協業等も進め、まさに「グローバルな事業展開」を体現していました。
また、株式会社Solafuneが行う衛星データ分析コンテストは、グローバル版をリリースして海外利用者の比率も増加しているとの回答があった他、株式会社スペースシフトは貿易技術ベンチャーの Standage 社と共同でアフリカ市場における農家向けのマイクロファイナンスを支援するため、SAR 衛星データを活用した農家の与信評価の仕組みをリリースするなど、海外への展開を積極的に進めています。
衛星データ活用の宇宙企業/法人間連携が拡大
今年の宇宙ビジネスの利用部門における話題として外せないのは、各種企業間法人間の提携発表でしょう。
例えば、上述の株式会社Solafuneは日本マイクロソフト社と協業を発表し、共同でのコンペを開催。また、スカパーJSATはNTTとの業務提携を発表したほか、QPS研究所との事業提携も発表しました。SIGNATEでは、スペースシフトが主催するSARデータによる新規構造物検知コンペも開催されています。各社の今後の展開やサービスの拡張が楽しみですね。
また、Tellus上で、日本地球観測衛星サービス株式会社、株式会社パスコ、日本スペースイメージング株式会社のデータプロバイダー3社のデータ販売提携が発表されるという、国内における衛星データの利活用拡大に期待が高まる1年でもありました。
新しい利用の種を芽吹かせる準備期間としての1年
そして、2021年は、利用部門における一部の宇宙ビジネス関連企業にとっては、来年に向けて着々と事業展開までの準備を進める1年でもありました。
ソニーグループ株式会社は2022年に最初のソニー製人工衛星を打上げ、いよいよ宇宙感動体験事業が展開される予定です。同社は、プロジェクトが大きく成長し、宇宙感動体験事業の実現に近づいた実りのある1年だったと2021年を評価しています。
また、人工流れ星事業を展開することで著名な株式会社ALE社は、NTT、理研、国立天文台と共同で民間気象衛星で自然災害に挑む産学連携プロジェクト「AETHER(アイテール)」の発足を発表しました。今後、小型衛星で取得した体型データを使い、気象予報精度を向上させることで防災/減災に貢献するとコメントがありました。
京セラ株式会社には、次世代衛星通信事業への参画を目指して事業企画を検討中というコメントをいただいており、国内発の新たな宇宙利用ビジネスの発表が待たれます。
(4)探査分野企業の回答紹介
次に紹介するのが、宇宙ビジネスにおける「探査分野」です。
探査分野企業とは、月や火星といった地球以遠の天体(深宇宙)において、探査するローバー(車)を開発したり新しい衣食住の在り方を定義する事業に取り組んでいる企業を指します。
2021年は、6月に日本で「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(通称、宇宙資源法)」が成立し、日本国内の事業者による、宇宙空間に存在する鉱物や水などの探査・開発が許可制で認められるように。これは、日本国内の宇宙探査事業者が月面でのインフラ構築に乗り出す中で、日本の国際的な競争力向上を大きく後押しする大きな契機となりました。
また、世界に目を向けると、2021年2月にNASAのマーズ2020ミッションの一環である火星探査車「パーサヴィアランス」が着陸し、様々な印象的な画像や動画を地球に届けてくれました。他にも、ルクセンブルクが宇宙資源スタートアップ支援プログラムを発表するなど、今後の宇宙探査の進展が期待される発表が多かった1年でした。
宇宙探査部門で、今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
・株式会社ispace
・オリガミ・イーティーエス合同会社
・株式会社ダイモン
・株式会社TOWING
・トヨタ自動車株式会社(TOYOTA MOTOR CORPORATION)
日本の宇宙探査技術の1歩目がお披露目となる2022年
2022年は日本の宇宙探査ベンチャーにとって、とても重要な1年となります。株式会社ispaceが進める民間月面探査プログラム「HAKUTO-R」のミッション1で使用する月着陸船が2022年に打上げ予定。いよいよ株式会社ispaceの開発した機体が月面に降り立ちます。
また、株式会社ダイモン社が開発する月面探査車YAOKIの最初の打ち上げも2022年です。
2021年は前澤さんがISSへ宇宙旅行したことが大きく話題になりましたが、2022年の一大イベントは日本が開発したものが月面に着陸することでしょう。
来る宇宙探査時代に向けて、長期視点で挑み続ける技術実証
そして、宇宙ビジネス全般に言えることですが、宇宙探査事業は特に、参入してすぐ収益化に繋がることはなく、何か物を作るとしても、一朝一夕でできるものではありません。事業化までには地道な実証や研究が必要となります。
そして、そのような宇宙探査事業に参入している企業として、上述のispace、ダイモン以外にも3社、今回アンケートに回答いただいた企業がありました。
まず紹介するのは、昨年も宙畑の年末特集に回答いただいた、日本でその名を知らない人はいないだろうトヨタ自動車株式会社です。同社は、JAXAと月面でのモビリティ「ルナ・クルーザー」の共同研究を進めており、これらの取り組みの中に昨今注目されているカーボンニュートラルやサーキュラエコノミーの実現も検討しているとのことです。
また、JAXA発宇宙ベンチャーであるオリガミ・イーティーエス合同会社は、昨年から実施する月面有人与圧ローバ用の計量大型展開構造の共同研究が2021年にひと段落したと回答しています。
そして、月面に限らず、地球と宇宙の「食」の課題解決を目指すのが株式会社TOWINGです。同社は、2021年に半閉鎖環境での宇宙栽培実験拠点を立て挙げている他、月の土や火星の土を材料に、月面や火星の基地内での畑を展開するプロジェクトを開始。地球から物資を運ぶことにも大きなコストが必要になる現状において、同社のプロジェクトが宇宙における資源循環型の持続可能な食サイクル実現を早めることが期待されます。
(5)その他部門企業の回答
上記3分類には当たらない、もしくは3分野を通して広く関わっている企業をこちらでご紹介していければと思います。
今回アンケートに回答してくださったのは以下の企業です。
・株式会社うちゅう
・一般社団法人ABLab
・一般社団法人SPACETIDE
・Space BD株式会社
・一般社団法人Space Port Japan
・株式会社sorano me
・株式会社デジタルブラスト
・デロイト トーマツ グループ
・株式会社バスキュール
・パナソニック株式会社 宇宙プロジェクト
・PwCコンサルティング
宇宙との距離が縮まり、宇宙旅行が日常に溶け込み始めた1年
2021年は、株式会社バスキュールが1月1日にみんなで「宇宙初日の出」をライブで眺める番組を実施したことから始まりました。その後も、日本実験棟「きぼう」内に開設されたKIBOスタジオで前澤さんによる民間人としての初利用が実現。例年と比較して、多くの日本人が宇宙を話題にする機会が増えた1年だったでしょう。
また、世界に目を向けるとヴァージンギャラクティック社、ブルーオリジン社による有人宇宙飛行が実現した他、SpaceXが民間人だけの宇宙旅行を行い見事成功。2021年12月に前澤さんの宇宙旅行もあって、宇宙に人が行くということに注目が集まる1年ででした。
そして、国内各所で検討される宇宙へアクセスできる場所「宇宙港(スペースポート)」のハブとして活動するのが一般社団法人Space Port Japanです。2021年には、国内外のスペースポートマップを発表して注目を集めたほか、今後有人宇宙飛行の法制化も目指して活動しています。
他産業からの宇宙ビジネス参入計画もさらに加速
今年も宇宙ビジネスとは異なる業態の複数の著名企業が宇宙ビジネスへの参入を発表しました。
今回非宇宙産業からの宇宙ビジネス参入企業として回答いただいたのは、宇宙探査部門でも紹介したトヨタ自動車に加えて、パナソニック、Honda(ホンダ技研工業株式会社・株式会社本田技術研究所)の3社です。
パナソニック株式会社は有志で活動していた宇宙プロジェクトが2020年度から業務として認められ、2021年度は社外講演での登壇もあったようです。同社は、2022年を飛躍の年として、水面下で温めてきた宇宙ビジネスへの取り組みを次々と世に出していきたいと語っています。
また、Hondaは2021年に宇宙への研究開発の広がりを公表したほか、JAXAと月面での循環型再生エネルギーシステムの共同研究、再使用型ロケット、月面ロボットの研究について発表した1年でもありました。
各社、基盤となる自社技術やチャレンジがあっての宇宙ビジネスへの転用ですが、さらに共通しているのは将来に向けた取り組みとして長期視点での事業であると未来を見据えていること。今後、5年、10年で拡大するだろう宇宙ビジネスの中で、各社がどのように活躍するのか、今からとても楽しみですね。
宇宙ビジネスを加速させる法人・団体も活発に
そして、様々な宇宙ベンチャーが誕生し、非宇宙産業企業による宇宙ビジネス参入が続々とあった2021年。宇宙ビジネスの成長を下支えする基盤を作ったり、宇宙ビジネス事業推進を加速する企業や法人の活躍も目覚ましいものがありました。
宇宙商社として、宇宙ビジネスにおける様々なニーズに答え続けるSpaceBD社は、メンバーが1年で約2倍に。
アジア最大級の宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人SPACETIDEは、2021年2月に過去最長となる4日間のカンファレンスを実施。国内外から80名の業界リーダーが登壇し、250名以上がオンサイトで、500名以上がオンラインで参加しました。
コンサルティングサービスを提供するデロイトトーマツグループ、PwCコンサルティングも自社内における宇宙ビジネス事業が活発化した年のようです。デロイトトーマツグループは独自の衛星開発企画を始めた他、グローバルな宇宙ビジネスマッチングプログラム「GRAVITY Challenge」の日本展開も始動。PwCコンサルティングも2021年は宇宙ビジネスに関する問い合わせが非常に多くあり、コンサルティングの質の向上と関連ビジネスへの展開が実現した年だったと回答をいただいています。
また、宇宙ビジネスに関わる人口を増やす取り組みも目立った1年でした。一般社団法人ABLabは会員数が100名を超え、同法人から3つ目の事業創出が行われました。宇宙ビジネス推進人財を集積し、輩出していくコミュニティ「ソラノメイト」をリリースした株式会社sorano meも、コミュニティメンバーが30名を超えたことをコメントしています。
さらに、株式会社うちゅうが提供する中高生向けのワークショップや、株式会社デジタルブラストが運営するSpaceMediaのように、宇宙ビジネスとの接点は今後さらに拡大するでしょう。
(6)宇宙経験不問!? 宇宙ビジネスに求められるスキルと人材
宇宙ビジネスと聞くと、宇宙に特化した特別なスキルや経験が求められていると思いがちですが、今回回答いただいた各社の人材要件を見ていくと、必ずしもそうではないことがうかがえます。
技術分野では、ハードウェアに近い部分では複雑なシステムのまとめを行う人材、ソフトウェア系では、サービス提供を行うためのITシステムの構築や衛星データを扱うデータ解析人材を挙げる企業が多くありました。
ビジネスサイドでは、技術(シーズ)ベースに寄りがちな宇宙ビジネスにおいて、顧客と話をし、顧客課題を解決するために必要なソリューションをエンジニアサイドと話をしながら作ることができる人材が求められており、これは宇宙分野での経験というよりも、事業企画系の職種の方々であれば適応可能と言えるでしょう。
多くの会社に共通しているのは、これから成し遂げようとしている各社のビジョンへの共感やミッション達成に向けた熱量です。宇宙ビジネス分野はまだまだ発展途上であり、なにが正解かどうすればよいのか分からない分野であるからこそ、未開の地で好奇心を持って進んでいける人材が求められていくのでしょう。
(7)2022年の宇宙ビジネス予想(投資額、市場規模、企業数)
今回アンケートのご協力いただいた50社(1社回答保留)に聞いた2022年宇宙ビジネス予測は、上図の通り、投資額・市場規模・新規企業参入数のいずれも横ばい、もしくは増加との回答があり、減少を予測する企業はありませんでした。
昨年のアンケートと比較して上向きな回答となっており、これは昨年のアンケートと比較してもポジティブな回答で、ワクチンの普及などによりコロナ禍の収束がある程度見えてきたこと、海外をはじめ宇宙ビジネスに明るいニュースが多かったことなどが要因と考えられます。
(8)まとめ
以上、「宇宙ビジネス企業50社のゆく年くる年、2021年を総まとめ&2022年へ!」でした。
昨年の同企画のまとめでは、2020年を「黎明期のNEW SPACEが築いた道が新規参入宇宙ベンチャーの事業スピードアップに繋がっている」と表しましたが、2021年は新規参入宇宙ベンチャーによる活躍も目覚ましく、黎明期のNEW SPACEにとっては、アクセルスペース社を筆頭に、遂にサービス化が実現した1年だったように思います。
また、「NEW SPACEと古参企業の融合はあるか」と昨年のまとめに書いていた点についてもスカパーJSAT社とQPS研究所との提携、Solafuneと日本マイクロソフトとの提携など、多くの事業提携が続々と発表される1年でもありました。
2022年も、ispace社とダイモン社の開発した機体が月面に降り立つといった楽しみなイベントが待っています。
一方で、2021年は世界に目を向けると多くの宇宙ビジネス企業がSPACを用いた上場を果たして新たな資金調達を実現。今後、ますます事業推進のスピードを上げていくことが予想されます。国内の宇宙ビジネス企業にとっては「世界の競合他社と比較して、宇宙技術を用いたサービスがどこまで社会に実装されていくのか」という目がより厳しくなる1年でもあるでしょう。今後の各社の事業展開やサービス発表にも注目です。
以上、宇宙ビジネス企業ゆく年くる年2021~2022でした。2022年も宙畑は宇宙ビジネスを盛り上げるため、分かりやすく、そして宇宙ビジネスへの興味をさらに引き立てる記事を更新していきたいと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。