2025年以降の地球低軌道活動はどうなる?米国はISSの運用を延長。日本は夏頃に政府が方針を決定する見込み
【2022年1月28日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
上空400kmを周回する巨大な実験施設、国際宇宙ステーション(ISS)──
中国が宇宙ステーションを構築する以前は、運用が続く唯一の有人滞在拠点であり3000件以上の科学実験が実施されてきました。
一方、ISSは老朽化が進んでおり、ポストISS時代の検討が急がれています。
アメリカは民間企業による宇宙ステーション構築を支援しつつ、2030年までISSの運用を延長した意向を発表。この動きを受けて、日本においても継続参加の検討が本格的に始まりました。
これまでの経緯や日本の意思決定の論点と流れをまとめます。
ISS誕生から2024年までの運用継続合意まで
まずは、ISS構築と運用の歴史を振り返ります。
ISSは1998年に最初のモジュールが打ち上げられ、軌道上での組み立てが開始。40数回に分けてモジュールや部品が打ち上げられ、2011年に完成しました。
当初ISSの設計寿命は2016年までとされていて、参加国間で運用の継続が合意されていたのは2015年まででした。これまでに運用期間が2度延長され、補修を行いながら運用が続けられている状況です。現在参加国間では、少なくとも2024年までの運用継続が合意されています。
NASAが2024年までの継続を発表したのは、オバマ政権時代の2014年1月。有人火星探査を見据えた研究活動にISSが必要であること、そしてISSでの科学実験が医学や産業の発展に貢献することなどが継続に踏み切った理由として挙げられました。
日本は2014年4月に文部科学省の宇宙開発利用部会に国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会を設置し、ISSの運用継続に対してどのような姿勢を取るか検討を始め、2015年12月に延長参加に合意しています。
アメリカが2030年までの延長を発表。民間主体の運用へのシームレスな移行が狙い
NASAが2度目のISS運用延長が発表してから7年が経った昨年2021年12月末、NASAのネルソン長官は、ISSの運用を2030年まで延長する方針を発表しました。
老朽化が懸念されているISSですが、2021年7月に実施された技術評価から「適切な保守を継続しながら、2030年まで地球低軌道における卓越した生産的なプラットフォームとして維持できる」と認められています。
延長の背景について、ネルソン長官は談話で、アルテミス計画に向けた技術革新が期待できることや搭載されている観測装置が気候サイクルの理解に役立てられること、そして2030年までの運用延長により、2020年代後半には、地球低軌道での活動能力を商業的な所有・運用へとシームレスに移行させることが可能となるということを挙げています。
NASAは2021年7月にISSの後継となり得る商業宇宙ステーション構築を支援するCommercial LEO Destinations(CLD)プログラムを発表し、提案を募集。その結果、12月にブルーオリジン、ナノラックス、ノースロップ・グラマンの3社が選定され、NASA総額470億円を支援することを発表しました。
3社はそれぞれ宇宙関連企業と連合を組み、独自の商用宇宙ステーション構築を目指しています。構築は2020年代後半に予定されていて、2029年から2030年までの2年間でNASAのISS利用をこれらに移行する方針です。
継続参加を検討する各国の動き。日本は2022年夏頃に政府方針を決定見込み
文部科学省によると、NASAのネルソン長官から参加各国、日本には文部科学大臣宛てにISS延長への参加を促す書簡が送付されているといいます。
アメリカがISS運用延長を表明したことを受け、継続的参加の可否をヨーロッパ宇宙機関は2022年11月末に開催される閣僚級会合にて決定、カナダ宇宙庁は2023年第1四半期を目標に決定、ロスコスモスは2022年中頃に決定する見通しです。
日本においても、国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会による対応の検討が始まっています。
宙畑メモ 延長参加を判断する検証項目
2020年に改訂された宇宙基本計画では、2025年以降のISSを含む地球低軌道活動について、具体的に検討を進めるとの方針が示されていました。当時は各国のISSの運用方針が定まっていなかったため、国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会は、今後遅滞なく意思決定を行うことができるよう、検証すべき項目の整理を実施していました。
1 国際宇宙探査活動を見据えた地球低軌道活動のビジョン
2 更なる国際宇宙探査に必要な技術の獲得
3 社会的課題の解決、科学的知見の獲得、国際協力等
4 宇宙活動を担う人材を長期的・継続的に育成する好循環
5 民間が主体となった利用へのシームレスな移行
6 費用対効果の向上のためのコスト削減の方策
今後は、国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会が、検証項目に沿って日本の対応を2022年4月頃までに4回の会合で検討し、その内容を提言案として宇宙利用開発部会に報告します。その後、宇宙利用開発部会が提言を取りまとめ、内閣府宇宙政策委員会にて政府方針案を決定し、夏頃に宇宙開発戦略本部が政府方針を決定する見込みです。
小委員会で語られた民間宇宙ステーション構築に向けた要望
1月19日に開催された国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会の議題として上がった検討項目は、「国際宇宙探査活動を見据えた地球低軌道活動のビジョン」と「民間が主体となった利用へのシームレスな移行」についての2点。アメリカのベンチャー企業が進める商用宇宙ステーション計画に携わる日本企業とJAXAへのヒアリングが実施されました。
そのなかで、企業からは
「2025年でISSの運用が終了した場合、社内でノウハウを蓄積する時間がない。2025年以降のISS運用期間を確保していただかなければ、(商用宇宙ステーション事業への)参入は難しい」
「日本が民間主体で有人拠点を所有することが必要だとご認識いただけるのであれば、開発していくための資金を工面する必要がある」
「日本がISSで培ってきた技術・知見をポストISSへシームレスに引き継ぎ・発展させるためには、日本版CLDプログラムが望まれる」
「NASAが商用宇宙ステーション開発に取り組む企業に20名程度の専属職員をつけているように、JAXAにもポストISS専属部隊を設営していただけると非常に強力な支援をいただけると認識している」
といった意見が出ました。
当面の小委員会での議題は、ISSの運用延長への参加可否についてですが、ポストISS時代を見据えた民間宇宙ステーション構築に対する日本の方針も検討していく必要があります。
今後はどのように議論が進んでいくのでしょうか。
後日、文部科学省の担当者を取材するとこのような回答がありました。
「(小委員会では)民間宇宙ステーションの動向を踏まえ、ISSの2030年まで延長可否をどう考えるかという議論をしたいと思っています」
「海外は、模索しながら2030年以降の在り方を検討しているところです。今回の短期的な範囲(4回の小委員会)では、日本の民間宇宙ステーションへの対応は、とても検討しきれる内容ではありません。民間宇宙ステーションへの対応は、なるべく早く、ただし時間をかけて議論をしなければならないと考えています」
日本は、ISSに「きぼう」実験棟を設置し、宇宙環境利用・技術実証の場を獲得したことで、医療やバイオ分野を中心に多くの研究成果を挙げてきました。地球低軌道の活用は、宇宙開発だけでなく、科学技術の振興に広く関わる議題です。
2030年までのISSの運用延長に日本が参加を決定した場合も、民間宇宙ステーションへの移行期間を考慮すると、残された時間は長くはありません。様々な選択肢を模索しながら、議論を進めていく必要があります。
宙畑編集部のおすすめ関連記事
商用宇宙ステーションの活用に向けて、総合商社・兼松がSierra Spaceと提携【週刊宇宙ビジネスニュース 2021/9/6〜9/12】
調達額は宇宙分野で史上2番目。Blue Originらと宇宙ステーションを構築予定のSierra SpaceがシリーズAで1,600億円増資【宇宙ビジネスニュース】
参考
宇宙開発利用部会 国際宇宙ステーション・国際宇宙探査小委員会(第45回)の開催について
Obama Administration Extends International Space Station until at Least 2024