宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

国際航空宇宙展2018 セミナーレポート① 「宇宙機のスタートアップ企業」

11月28日~30日まで東京ビッグサイトで開催された国際航空宇宙展2018(以下JA2018)。そのうち、宙畑の注目する3つの講演に参加してきました! 全3回の初回となる今回は、「宇宙機のスタートアップ企業」という講演についてレポートしていきます。

11月28日~30日まで東京ビッグサイトで開催された国際航空宇宙展2018(以下、JA2018)。

2年に一度世界各国の航空宇宙産業の企業や研究機関が出展し、展示やセミナー、講演などが行われます。
※次回は東京オリンピックと重なってしまう関係で2021年の開催とのこと

今年は3日間の来場者・出展者は延べ約2万7千人と非常に大きなイベントとなりました。

そのうち、宙畑の注目する以下、3つの講演に参加してきました!

・宇宙機のスタートアップ企業
・中小宇宙ベンチャービジネス
・打ち上げサービス及び人工衛星の現在そして次世代

全3回の初回となる今回は、「宇宙機のスタートアップ企業」という講演についてレポートしていきます。

 

(1)小型ロケット・小型SARとは?

今回の講演者は、小型ロケットの打ち上げサービスを目指すスペースワン株式会社取締役の阿部耕三氏と小型SAR衛星の開発・運用を目指す株式会社QPS研究所の代表取締役社長の大西俊輔氏です。

この2社が手掛ける小型ロケット、小型SAR衛星とはどのようなものなのか、講演をレポートするまえにおさらいしましょう。

近年、技術の進歩により安価なものでも十分な観測ができるようになったことで衛星データビジネスが拡大し、小型衛星の需要が高まってきています。

同時に、その小型衛星を打ち上げるための小型なロケットの需要も合わせて高まっていることにも注目です。

小型ロケットとは、従来、国家主導で開発・運用が進められてきた大型で高額なロケットに対して、小型かつ安価なものを指します。

世界ではどのような小型ロケットビジネスが展開されているのか、見てみましょう。

小型ロケットを手掛ける世界の企業
※図表は2018年12月末時点での情報をもとに作成
※SSO:地球観測衛星がよく打ち上げられる軌道。太陽同期軌道。 Credit : sorabatake

そして、一方小型SAR衛星とは、合成開口レーダー(SAR)を用いた観測を行う衛星のなかでも小型のものを指します。

SARは、太陽光の反射を観測するのではなく、様々な種類の電波を地球へ発し、その反射を観測することで地上を観測します。使用する電波は雲を突き抜けることができるため、天候や時間帯など、環境状況によらず、地球を観測することができることにメリットがあります。

SAR衛星について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

SAR技術は、多くの電力を用いたり、大きなアンテナが必要になったりと、技術的難易度が高く、小型化が光学衛星より発展が遅れた経緯がありますが、技術進歩により近年徐々に小型SAR衛星の実現が可能になってきています。

QPS研究所の競合となる小型SARを開発している企業は主に、以下の通りです。

小型レーダー衛星ベンチャー一覧 Credit : sorabatake

小型ロケットや小型衛星、SAR衛星については以下の宙畑の記事もぜひご覧になってください。

(2)「スペースワンの目指す宇宙輸送サービス」

スペースワン株式会社の講演については大きく以下の項目となっていました。
順番に簡単にお伝えします。

①会社概要
②異業種協働
③スペースワンの行う宇宙輸送サービスの概要-世界最短・最高頻度-
④行ってきた実績、スケジュール

①会社概要

スペースワン株式会社は、キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行の4社の出資により立ち上げられた事業会社です。

同じく4社で立ち上げられていた事業の検討を行う「新世代小型ロケット開発企画株式会社」の名称を変更、増資などの必要な手続きを終え、2018年7月に発足しました。

②異業種協働

注目は電機、重工、ゼネコン、ファイナンスという異なる業種の、大きな企業が協働するというところでしょう。    

ロケットには搭載する電子機器や、ロケットの推進・構造などの技術、そして射場の建設・設備構築や10年、20年先を見据えた金融政策などの多岐にわたるノウハウが必要になります。

それらのノウハウを持つ4社が協働するスペースワンは、今までの4社の信頼と実績を生かして、他のベンチャーとは一線を画したいとしています。

③スペースワンの行う宇宙輸送サービスの概要-世界最短・最高頻度-

同社が目指すサービスの売りは「世界最短・最高頻度」です。

上記の目標を目指すうえで、同社の予定している固体燃料というタイプは燃料を充填した状態で射場作業ができるなどのメリットがあります。

そのようなことから、契約から打ち上げまで1年以内、衛星の引き渡しから最短4日を目指し、即時の打ち上げにも対応したいとしています。

地球観測衛星がよく打ち上げられる太陽同期軌道には、200kgの衛星を打ち上げる能力を予定しており、100kgの衛星2機を打ち上げるなどの多くのニーズへの対応も検討中とのことです。

このロケットで2021年にサービスを開始し、20年代半ばには年間20機以上の打ち上げを目指すとしています。

④行ってきた実績、スケジュール

スペースワン株式会社の関連する実績としては、キヤノン電子製のアビオニクス(ロケットに搭載する電子機器類)の実証をJAXAの打ち上げた小型ロケット「SS-520」の4号機及び5号機で実証したことが挙げられます。

4号機は打ち上げを失敗したものの、その不具合究明などのノウハウを得ることができ、5号機ではその実証に成功するなどのかけがえのない経験を得たと阿部氏は語りました。

またロケットの構造や推進などの技術に関しては、現在も運用中であるイプシロンロケットの開発を行っているIHIエアロスペースの実績があります。

今後は2020年末にロケットのシステムフライトを計画中であり、2021年のサービスインに向け、開発を進めているとのことです。

(3)「九州発宇宙ベンチャー『世界初』への挑戦。小型SAR衛星による次世代地球観測

株式会社QPS研究所の講演については大きく以下の項目となっていました。

同じく、順番に簡単にお伝えします。

①QPS研究所の概要
②小型SARのコンセプト
③アンテナによる技術革新
④QPS研究所の目指す未来

①QPS研究所の概要

QPS研究所は九州大学で教鞭を取っていた八坂教授の1995年からの小型衛星の研究開発に端を発し、2005年に三菱重工のエンジニアと九州大学の名誉教授を中心に創業されました。

今や北部九州宇宙クラスタ―とも呼べる町工場を含めた中小企業とともに小型SAR衛星を開発しているとのことです。

②小型SARのコンセプト

QPS研究所の目指すコンセプトは「リアルタイムGoogleマップ」であるといいます。

従来の光学式の大型観測衛星では夜間や悪天候時は撮影できず、常に衛星が上空を飛んでいる状態にしないといけないため、莫大なコストがかかってしまいます。

その問題をSARという方式を使うことで天候などに左右されず、小型であることによりコストをさげ、多くの機数を打ち上げることでこのコンセプトを実現したいと考えているとのことです。

③アンテナによる技術革新

QPS研究所のSAR衛星の注目点として、衛星に搭載されるアンテナの3つの技術革新があります。

1点目は、アンテナにメッシュ素材を使用することで100kg以下と超軽量としたことです。これは他の衛星と比較して数分の一から二十分の一の軽量化とのこと。

2点目は低コストという点。QPS研究所の小型SAR衛星は1機あたり数億円と、従来の100分の1という低コストで製造されるとのことです。

そして、3点目は収納性の高い展開式のアンテナの開発にあります。

大型のアンテナを収納し、打ち上げたあと、軌道上で展開することにより大きなアンテナの性能を小さな衛星で実現したのです。

④QPS研究所の目指す未来

QPS研究所では最終的に、その小型SAR衛星36基を打ち上げることで、10分間隔で世界中のほぼどこでも撮影できる状態を目指しているとのことです。

このような準リアルタイムGoogleマップが実現すれば、物流や交通量から地域ごとの経済予測や穀物の生育状況、人や車の行動パターンまでのビッグデータが取得でき、様々なビジネスやサービスに展開できるとしています。

2019年前半に12時間毎の観測が行える小型SAR衛星を打ち上げ、2020年前半には2機目の打ち上げを行うとしており、2024年以降には36機の軌道投入を行い約10分間隔の観測を行う予定とのことでした。

(4)まとめ・小型SARと小型衛星の組み合わせが拓く未来

衛星データを使いやすくするためには、低価格かつ情報の更新頻度が高くなる必要があります。そのためには、人工衛星とロケットが低価格で製造・運用できることが不可欠です。

従来までの大型ロケットや大型観測衛星では、コストも時間も膨大にかかっていました。近年、衛星やロケットの小型化が進みましたが、小型にしただけで安価になる訳ではありません。量産するノウハウや、短期間で製造できる設計など、様々な条件がそろってやっと安価に製造できるようになるのです。

今回、QPS研究所は従来まで小型軽量化が難しかった高性能なアンテナを、大学の研究で蓄積した技術を用いることで開発し、安価に製造できるようにしました。また、スペースワン株式会社の小型ロケットについても、各企業が有するノウハウを集約していることや、量産技術をもつ電機メーカの参入していることで、安価に製造できることだけでなく、開発期間・打ち上げまでのスパン短縮が期待されます。

このように、技術を有するプレイヤーや異分野のプレイヤーの参入により、宇宙市場の活性化が進みます。最終的には衛星データを私たちが安価に利用できるようになるまでは長い道のりがありますが、QPS研究所とスペースワン社の登場は、市場活性化に向けて大きな一歩であることは間違いありません。

今後の2社それぞれの動向はもちろんのこと、小型SARや小型ロケット市場がどのように影響しあいながら成熟していくのか注目です。