箱根駅伝強豪校の通学路は坂道が多い?都市伝説を衛星データで検証してみた
箱根駅伝にまつわる都市伝説(?)の一つとして「箱根駅伝が強い大学は、通学路に坂道が多い」というものがあります。今回の記事ではそんな都市伝説が本当か、衛星データを使って探ってみたいと思います!
箱根駅伝には毎年20校の大学が出場し、10人が力を合わせゴールまでのタイムを競います。選手たちが一生懸命、次の選手へと襷をつなぐ姿は、何度見ても心が動かされます。
箱根駅伝にまつわる都市伝説(?)の一つとして「箱根駅伝が強い大学は、通学路に坂道が多い」というものがあります。
今回の記事ではそんな都市伝説が本当か、衛星データを使って探ってみたいと思います!
※本記事は宙畑メンバーが気になったヒト・モノ・コトを衛星画像から探す不定期連載「宇宙データ使ってみた-Space Data Utilization-」の第12弾です。まだまだ修行中の身のため至らない点があるかと思いますがご容赦・アドバイスいただけますと幸いです!
(1) 箱根駅伝の強豪校の通学路は坂道が多い?
箱根駅伝のコースはそもそも坂道が多いことで知られています。特に心臓破りの5区は他の大会とは大きく異なる特徴と言っていいでしょう。
さて、箱根駅伝にまつわる都市伝説(?)の一つとして「箱根駅伝が強い大学は、通学路に坂道が多い」というものがあります。
たしかに、筆者の知るところでは、例えば東海大学は駅から大学までの道のりに急な坂道があったなあと思います。
果たしてこの都市伝説が本当なのか、検証してみたいと思います。
今回は2019年の箱根駅伝に出場するシード校の10校を対象に、その通学路の高低差を確認していきます。
10校のキャンパスは関東圏の広範囲に渡ります。このように広範囲に及ぶときには、一度に広い範囲を撮影している衛星データが最適です。
(2) 標高データDEM(デム)とAW3D
衛星データの一つとして標高データ:DEM(デム。Digital Elevation Modelの略。)というものがあります。
人の目が2つあり同じ地点を2つの目で見ることで奥行きの情報が分かるのと同じように、同一地点を衛星の場所を変えて2方向から撮影すると高さ方向の情報を得ることができます。
日本が作っているDEMとして、JAXAが作成しているAW3Dという衛星データがあります(厳密にはAW3DはDSM(Digital Surface Model)という分類ですが今回は割愛します)。
AW3Dとは、JAXAの衛星である「だいち」に搭載されたPRISM(プリズム)というセンサで観測したデータをもとに作成された標高データです。
AW3Dにも何種類かありますが、無料で公開されているAW3D30と呼ばれるデータセットの場合、水平方向の解像度は約30m、高さ方向の解像度は約5mとなっています。
メールアドレスの登録さえすれば、誰でも無料で利用することのできるデータです。
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/aw3d30/index_j.htm
今回はこのAW3D30のデータを用いて、箱根駅伝の高低差について考えてみることにします。
(3) 箱根駅伝のコースの高低差解析
本題の通学路の高低差に入る前に、まずは箱根駅伝のコース自体の高低差について解析を行ってみます。
解析の手法は以前ご紹介した「東京五輪マラソンは本当に暑い? 衛星データで過去と比較してみた」と同様、駅伝コースのデータ化を行い、それにAW3Dのデータを重ね合わせることで、コースに沿った標高データを抽出することができます。
既にオープン化されている箱根駅伝のコースのKMLファイル(位置情報ファイル)がないかと探してみたのですが見つからなかったため、今回も自分でポチポチとコースをクリックしながらファイルを作成していきました。
これをあらかじめダウンロードしておいたAW3Dのデータと組み合わせた結果がこちら。
青から赤になるにしたがって、標高が高くなっていることを示しています。箱根駅伝のコースは5区間を色を分けて表現してみました。
右上の東京駅近く、読売新聞社前からスタートし、鶴見中継所、戸塚中継所、平塚中継所までは青で塗られた平坦な道が続きますが、最後の小田原中継所からの5区(図中緑線)は、赤で塗られた標高の高い部分を一気に駆け上がっていく様が見て取れます。
これを数値で示したグラフが上図です。
1~4区と比較して、いかに5区の勾配がきついかが分かります。
この勾配に向かっていける能力と、通学路の高低差に果たして関係はあるのでしょうか!
(4) 箱根駅伝の強豪校の通学路の高低差解析
いよいよ、本題の「箱根駅伝が強い大学は、通学路に坂道が多い」という都市伝説の検証に移っていきます。
2019年の箱根駅伝のシードを獲得している10校とその練習場所、最寄り駅は以下の通りです。
これらの最寄り駅から練習場までの道のりをKMLファイル化し、先ほどと同様にAW3Dのマップと重ね合わせて数値化したグラフがこちらになります。
法政大学が圧倒的に遠い!高低差がすごい!ということが分かりましたが、近年連覇している青山学院大学や2位の東洋大学はこうして見比べてみるとそれほどでもないことが分かりました。
(5) まとめ
「箱根駅伝が強い大学は、通学路に坂道が多い」という都市伝説は、間違っているということが分かりました。
考察としては、
〇ある程度距離が長くなっている大学ではスクールバスが走っている。
〇駅伝部は大抵練習場の近くに寮があり、駅から通っていない
などの検討漏れがあるのではないかなと思っています。
一方で同じような解析を行うと、たとえば新しい家を探すときに駅からの高低差まで含めた道のりや自転車に最適なルートなどにも役に立つのではないか、ということが考えられます。
みなさんも身近な疑問や困りごとを、標高データで解決してみてはいかがでしょうか?