宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

【成長産業に保険会社あり!】宇宙産業は第2の自動車産業になれるのか

2022年9月29日に北海道で開催された宇宙ビジネスイベント「北海道宇宙サミット2022」のスポンサーの変化について、その背景をまとめてみました。

オンライン含め、4700人もの視聴者が参加した大規模な宇宙ビジネスイベント「北海道宇宙サミット2022(以下、宇宙サミット)」が2022年9月29日に開催されました。

平日にも関わらず、リアルの参加者も700人と賑わっていたこと、また、22名の宇宙ビジネスに携わる著名人が集まり、会場を沸かせていたことは言うまでもありません。本イベントで語られた内容の一部は、また別の記事でご紹介します。

本記事では、宇宙ビジネスイベントのスポンサーの変化とその期待について述べたいと思います。

(1)宙畑が気になった、北海道宇宙サミットのスポンサーの変化

宇宙サミットのスポンサー数は計43社、PRブース出展企業が16社と、宇宙関連産業の枠におさまらない多種多様な企業が様々な期待をもって参加していました。

そして、特に気になったのは、東京海上日動火災保険株式会社、三井住友海上火災保険株式会社という大手損害保険会社2社がダイヤモンドスポンサーとなり、イベントの冒頭で宇宙産業への期待が語られていたことです。

昨年の宇宙サミットのスポンサーが14社で損害保険会社がスポンサーになっていなかったことを考えるとこの1年で大きな変化があったのではないかと考えられます。

(2)宇宙サミットで語られた大手損害保険会社2社の宇宙産業への期待

この大きな変化は、宇宙産業が今後10年、20年を見据えて確実に盛り上がる産業であると認められたひとつの兆しなのではないかと考えられます。

宇宙サミットでは、東京海上日動火災保険株式会社が1914年に日本初の自動車保険を開発し、販売を始めた歴史が紹介されました。

当時、日本を走る自動車の数は1,000台ほどしか走っていない時代でした(同社HPより)。その約50年後の高度経済成長期には、自動車の保有台数とともに自動車保険の契約数も爆発的に増えたそうです。

では、日本の宇宙保険はいつから始まったのか。それは、三井住友海上火災保険株式会社が1975年に人工衛星「きく1号」の打ち上げに際しての日本初の宇宙保険の引き受けを行ったことがはじまりです。意外と昔からあるのだなと思われた方も多いのではないでしょうか。

そして、大手損害保険会社2社が本格的な宇宙ビジネス参入を発表したのも、初の宇宙保険誕生から約50年という月日が経過したこのタイミングでした。

東京海上日動火災保険株式会社は、2022年4月に保険商品の開発・提供やリスクコンサルティングを通して、宇宙産業に携わる企業の取り組みや社会課題の解決を支援し、より一層産業の成長・発展に貢献することを目指す「宇宙プロジェクト」の取組みを始動。

また、2022年9月にはインターステラテクノロジズ社のパートナーシッププログラム「みんなのロケットパートナーズ」に参画を発表しました。超小型人工衛星打上げロケット「ZERO」のグローバル展開と新たな保険商品の開発の実現に向けて、相互に協力していくとのこと。

一方の三井住友海上火災保険株式会社も、2022年7月に JAXAと「宇宙旅行保険事業」に関する共創活動を開始すると発表。2022年9月には同社の公式サイトで「宇宙保険特設コンテンツ」を開設し、両社ともに宇宙サミットのスポンサーになるだけでなく、今年度から本格的に宇宙産業の成長を意識して宇宙保険事業に取り組み始めていることが分かります。

三井住友海上火災保険株式会社の動画にあるように、宇宙保険は打ち上げ前までの地上におけるロケットや人工衛星の損害を補償する『打上げ前保険』、打ち上げから宇宙空間に到達する前までの人工衛星の損害を補償する『打上げ保険』、人工衛星が宇宙空間に到達してからの人工衛星の損害を補償する『寿命保険』、ロケットの打ち上げや人工衛星の運用等により生じた損害賠償責任をカバーする『宇宙賠償責任保険』と、宇宙保険は大きく4種類に大別できます。

すでに宇宙産業に必要な保険の整備がある程度進んでいる状態ではありますが、今後の宇宙産業の発展に応じて保険商品もアップデートしていくと両社のスピーチに共通して語られていたことも印象的でした。

実際に、三井住友海上火災保険株式会社、東京海上日動火災保険株式会社の両社は新たな宇宙保険として月面探査が今後さらに増えることを想定した月保険の開発を進めています(東京海上日動火災保険株式会社は、イギリスの保険会社と月面ローバーを開発するDymon社と開発し、保険契約を締結済み)。

宇宙産業のような新しいチャレンジがより求められる産業にとって、リスクマネジメントは重要です。その点、大手損害保険会社の本格的な参入表明は日本の宇宙産業が成長するうえでとても心強い動きなのではないでしょうか。

(3)宇宙サミット後、2社にうかがった3つの質問

以上は、宇宙サミットを通して感じた宙畑編集部としての所感です。そこで、実際にどのような意図で宇宙サミットのダイヤモンドスポンサーになることを決めたのかなど、気になったことを直接うかがいました。

Q1.2021年から2022年までの間に貴社内での宇宙ビジネスに対する見立ての変化などがあったのでしょうか?また、そのほかスポンサーになることを決めた背景があれば教えてください。

<東京海上日動火災保険株式会社さまの回答>

全社横断の「宇宙プロジェクト」を2022年に立ち上げたことが大きなきっかけです。

本プロジェクトでは、宇宙特有のリスクに対する保険やリスクコンサルティングをより多くの宇宙関係者にお届けするとともに、「宇宙」を切り口とした新たなソリューション開発や地方創生に取り組むことで宇宙産業の発展に貢献することを目指しております。

北海道宇宙サミット2022で掲げられた「宇宙と出会おう」というコンセプトは、まさに宇宙プロジェクトを推進するうえで当社としても大切にしたいキーワードであり、ぜひこのイベントを一緒に盛り上げたい、との想いでこのたび参画することといたしました。

<三井住友海上火災保険株式会社さまの回答>

極めて多くのスタートアップが誕生してから節目の10年程度が経過しようとしている中、宇宙に関する事業で売上を計上し始めた企業が出てきました。加えて非宇宙企業が新たに宇宙領域へ参入することを表明するケースも増えてきており、「宇宙がビジネスの場となる」との思いが確固たるものになってきてます。

一方で、宇宙は未知の分野で、常にリスクと隣り合わせであるため、宇宙保険は必須と考えていますが、まだまだ認知度が低いと感じています。そのため、数多くの宇宙関連企業が参加・来場される北海道宇宙サミットにおいて宇宙保険をアピールし、宇宙領域への参入を躊躇される企業の不安を和らげ、参入障壁を下げるご支援ができれば、との思いでダイアモンドスポンサーに参画しました。

Q2.北海道の宇宙港、そして街づくりが徐々に盛り上がっていることについて期待していることを教えてください。

<東京海上日動火災保険株式会社さまの回答>

HOSPOを中心とした盛り上がりは、まさに地方創生のモデルケースといえ、当社としても注目させていただいております。

当社も全国の自治体様と地方創生の盛り上げに取り組んでおりますが、北海道についても現地営業部店と連携しており、引き続きご支援してまいりたいと思います。

また、HOSPOをはじめとする国内の打上げ射場が増えることは、国内宇宙産業の発展に大きく寄与するものと期待しています。

国内における打上げの場所・回数の柔軟性が高まることによって、近年急速に高まる国内の衛星打上げ需要に応えられるだけでなく、外需の取込みの可能性も高まると考えております。海外に向けたHOSPOのプロモーションもお手伝いできればと思います。

<三井住友海上火災保険株式会社さまの回答>

北海道宇宙港であるHOSPOは、垂直離陸と水平離陸を同時に行える数少ない射場です。また南東が海に面していることも大きな強みと考えています。静止軌道への打上げは赤道近辺から行うことが有利と言われていますが、今後爆発的な伸びが期待できる低軌道への打上げは、HOSPOの持つ地理的な優位性が世界で戦える大きな武器になると考えています。

Q3.宇宙ビジネスの盛り上がりについて、貴社がどのように事業として関わっていきたいか、また、アピールしたいことを教えてください。

<東京海上日動火災保険株式会社さまの回答>

宇宙ビジネスは他の産業と比べてまだまだリスクは未知数な領域が多く、保険会社の果たすべき役割は非常に大きいと感じております。当社は約50年間に亘る宇宙保険の提供を通じて培った専門性・ノウハウを活かし、あらゆる宇宙活動に対して「安心と安全」をお届けすることで、国内宇宙産業の発展に貢献していきたいと考えています。

<三井住友海上火災保険株式会社さまの回答>

我々は1975年に日本で初めての宇宙保険を幹事会社として引き受けました。以来、約50年にわたって日本の宇宙業界を支援してきた老舗の宇宙企業です。これからも、「月保険」や「宇宙旅行保険」のような新たな保険を開発し、宇宙へ挑戦する皆さまのリスクの低減に努めてまいります。是非とも宇宙に関するリスクは三井住友海上へご相談ください。

あらためて、両社の回答からは保険会社が宇宙産業に今まで以上に注目し、企業として本格的に取り組んでいくという意思が明確になったのだと分かります。

他産業と比較して前例が少ないという点が宇宙産業の事業推進刷る上でのハードルのひとつですが、ispace社やDymon社が月保険を両社と開発・締結を進めているように、新しいチャレンジを進める各社がリスクと上手に付き合いながら宇宙産業の発展がより加速される事例が今後もうまれてくるでしょう。