アストロスケールCEO 岡田光信氏に聞く、グローバルで戦う宇宙ベンチャー戦略~②人材獲得編~
連日、宇宙ビジネスニュースを賑わせるアストロスケールCEO(最高経営責任者) の岡田光信さんに、同社の躍進の秘密について詳しくお伺いします。第二弾は人材獲得についてです。
スペースデブリ除去を含む軌道上サービスの提供を目指すアストロスケール社。
日本人創業者の宇宙ベンチャーの中でも、その資金調達実績や経営層のグローバル化が抜きんでており、海外を含む宇宙機関との連携も手広く行われている印象です。
同社の躍進の秘密は果たしてどこにあるのか、CEO(最高経営責任者) の岡田光信さんに①資金調達②人材獲得③グローバル展開の3つのキーワードでお伺いしました。
本記事は第二弾として、②人材獲得と③グローバル展開についてお伺いしていきます。
アストロスケールCEO 岡田光信氏に聞く、グローバルで戦う宇宙ベンチャー戦略~①資金調達編~
アストロスケール CEO 岡田光信さん
軌道上サービスに世界で唯一専業として取り組む民間企業アストロスケールホールディングスの創業者兼CEO。2013年の創業以来、5ヶ国でのグローバル展開、360名以上のチーム、累計総額334億円の資金調達を達成するまでに成長。
トップが完全にグローバルじゃないとダメ
宙畑:まず、経営メンバーのお話をお伺いできればと思っています。特徴的だなと思っているのは、海外の方が多いというところなんですが、この点について、意識されているところはありますか。
岡田:アストロスケールでは、今、従業員がおよそ360名いるのですが、そのうち約2/3が海外で、日本は1/3程度です。
正直、日本では宇宙人材というのは極めて限られていると思うので、グローバルのチームを集団で作っていかないと成り立たないし、そうしないと海外展開なんてできないですよね。
その時に、企業文化はトップから来ます。したがって、トップがグローバルであるということが大事だと考えています。
一番良いのは、創業者が日本人だったら、ナンバー2は海外の人にするということです。これが、ナンバー2も日本人だと、日本語が正となり、グローバルにしたくても言語や文化が障壁となってしまいます。グローバルな企業文化を確立させるには、それくらい、強制的に変えないといけないと思います。
そうでないと海外の人が入ってきてくれないです。全部のドキュメントが英語になってないと、入ってくれないんですよ。よっぽど日本好きの海外の人でないと入って来れないです。
公用語を英語にしないとグローバルにプレイはできない
宙畑:グローバルで戦っていくために必要なことはなんでしょうか。
岡田:国籍に関わらず活躍できる環境、グローバルな企業文化が必要不可欠なのではないでしょうか。具体的な例を挙げると、宇宙ビジネスでは英語を公用語として使うことです。そうしないとグローバルにプレイはできない。徹頭徹尾、英語にしなければいけないと考えています。
例えば、エンジニアのドキュメントも英語ですし、社内の日本でやる定例会議も英語です。英語を正にして日本語を副にしなきゃいけないというのをそういうところから徹底しています。
あとは、社内のいろんなシステムもグローバルに対応してます。例えば、会計基準は IFRS(国際財務報告基準)を採用していて、 日本の会計基準ではないですし、全部ドルで計算しています。
そういったことをしていないのに、なかなか海外展開できないなどと言うのは、言い訳だと思っています。全てを英語でというのは多くの日本人にとってしんどいと思います。しかし、言語を乗り越えられないと永遠に世界に出られなくなってしまいます。
人を選ぶには、より多くの人に会うこと、魔法はない
宙畑:経営メンバーについて、グローバルということに加えてもう一点、皆さん、政府の宇宙機関で重要なポストでの経験であったり、大手宇宙企業で長年培われている経験であったり、宇宙ビジネス分野でのキャリアが豊富な素晴らしい方々が集まっている点も印象的です。この点について、なにか良い人材を集めるコツがあれば教えてください。
岡田:一つあるのは、膨大な数の人に会うということです。より多くの人に会うと誰と会ったらいいかが、より分かると思います。
今のアストロスケールのチームはとても強いです。手前味噌になりますが、国際会議や国連に出しても恥ずかしくない人が30人くらいいると思います。エンジニアもとても優秀です。
どうやってこういうクオリティのチームを作ったのかとよく聞かれます。でも、魔法は無くて、ちゃんと会って、その人のプレゼンや学会での発表を聞いて、質問してみて、ああ凄いなと思ったら、挨拶しに行って、喋って、ミッションを伝えて、一緒にやらないかと言って、本当そんなことの繰り返しですね。
最初100人までは、全部私がそうやって面接もやっていたのですが、最初はそういう1+1+1+1みたいなものの積み重ねでした。
宙畑:非常に地道な活動をされてたということなんですね。
ジョブディスクリプションをバキバキに細かく定義することで、チームが放たれる
宙畑:ここまで主に経営メンバーについてのお話をお伺いしてきましたが、従業員として実際にビジネス開発や衛星開発に関わる現場の方々について、採用の時に大事にしている観点を教えてください。
岡田:人って、ロボットではないので、千差万別で、雇ってみても想像していたのと違うということは絶対にあります。わずか数回の面談では、その人のスキルからキャラクターまで全部把握できるわけではありません。
ただ、なるべく齟齬がないように、雇う側も雇われる側も双方がハッピーになるようにするためのプロセスは作れると思っています。
その一つが、ジョブディスクリプション(職務記述書)をものすごく細かく書くということです。
例えば、デブリ除去の衛星を作りますという時にも、必要な技術は膨大にあるので、その一つ一つを分解していって必要なスキルセットやその人が何をするのかを明確に定義します。その状態で面接をやって、ギャップがあるなと思ったらまたジョブディスクリプションを書き直します。
日本の会社では大手も含めてジョブディスクリプションがない会社が多いですよね。これはあまり良くないと考えています。
宙畑:求める人材像が「物事を考え抜ける人!」みたいな抽象的な表現が多いですよね…
岡田:抽象的なのは致命的だと思っています。
アストロスケールでは、採用後もジョブディスクリプションは頻繁に書き換えています。そうしないと、同じことを違う部署でやったり、技術にギャップが生まれたりしてプロセスが輻輳したり分断したりします。
組織の作り方も、その時の会社の規模、人が何人いるかで、常に変えています。人数に応じて、それぞれにどういうところまでデリゲーション(権限移譲)していくのかも違いますので、そういうのを丁寧に行っています。ここに使う時間は膨大です。
でも、それをするとチームの足腰が強くなるし、個々に任せられるようになるし、個々の力が放たれるんです。
宙畑:組織が小さい時って、どうしても業務が流動的だったり、どんどん変わっていったりする中で、何でもできる人を求めがちなのかなと思うんですが、そうではなくて、その時点で必要なジョブディスクリプションを突き詰めて考えていくことで、今やらなければいけない仕事全体が整理されていくようなイメージでしょうか。
岡田:そうですね。
例えば、ランデブー(衛星同士をドッキングさせること)をする技術の人を求めるというと、ランデブー技術の開発経験がある人は、宇宙業界を見てもとても少ないわけです。
でも、その中を分解していくと、膨大な数の技術に分かれていて、その中の一つにセンサー技術があります。センサーで把握したデータには、ノイズやバイアスなどがかかっているので、それを取り除いてから、取り扱う必要があります。
この「データからノイズやバイアスを取り除ける人」ということになると、全然宇宙分野の人でなくても、たくさんいるわけです。
宙畑:なるほど。宇宙分野でなくても、例えば、地上での画像処理などの技術を持っている方ということになるわけですね。
岡田:はい。 そうなってくると必ずしも宇宙業界だけで探さなくても、世の中にいることが分かってきます。
宙畑: そうやって一つ一つ必要な技術を分解していった時に、宇宙以外のその分野のご経歴や実績を確認して、会社に入っていただくかどうかの判断をしているということなんですね。
岡田:そうですね。
日本人が世界で戦っていくためには、海外で英語でとにかく喋ること
宙畑:ちょっとここまでと視点を変えた質問になるんですが、アストルスケールの経営メンバーのご経歴を拝見していて、日本人の宇宙人材でなかなかこのレベルに達している人の数が少ないなと感じています。
これは、アストロスケールの社長という立場ではなく、1人の日本人としてお伺いしたいのですが、このギャップを日本が埋めていくためには何をしていかなければいけないか、アイデアはありますでしょうか。
岡田:日本人って、正しく喋らないといけない、間違えちゃいけないという強迫観念が強すぎて、海外で英語で喋らない傾向が強いと思うんです。でもこれは良くないと思います。喋らないと、人を採用するにも、事業を伝えるにも、投資資金を得るにも、全部伝わらないので。
例えば今、私ってアストロスケールの創業者でありCEOという立場もありますけども。国際宇宙航行連盟(IAF)の副会長でもありますし、他にもいくつか役職があります※。
そういったものに就くのも、結局は、自分で手を上げて、英語で喋るということです。
正直、私は英語が得意なわけではないです。すごく限られた語彙でしか話せないし、ネイティブの発音ではないし、ネイティブが使うような言い回しや冗談などを使うこともできない。3本ぐらい手足を縛られてるような感じでやっています。
それでも、ちゃんと中身があることを言っていれば、文法や語順が間違っていても、人は聞いてくれますので、とにかく喋るということ。ずっと繰り返していると、誰だってこなれてくるのではないでしょうか。
私もそういうことの繰り返しでした。最初は海外での講演は手に汗を握ってやっていましたが、今は国連の会議でも直前に入って、パーッと喋って終わるという感じでできています。それは慣れだし、言うこと自体も成熟してきていると感じます。間違えながらも、場数を踏むということをやっていったらいいのではないかと思います。
宙畑:具体的にどういう場に出ていくと良いか、アドバイスはありますか。
岡田:それも一つのパスがあるわけじゃなくて、どこでもいいんです。機会があれば、全てありがたく受けて、出て、喋る。それをするとそれを聞きつけて、また次につながったりするんです。
中身のあることを言っていれば、必ず誰かが聞いてくれます。それは繋がっていくので、最初のうちは機会を選ばない方がいいのではないでしょうか。
※編集部注:The Space Generation Advisory Council (SGAC)アドバイザリーボード、英国王立航空協会フェロー(FRAeS)など。2021年まで世界経済フォーラム(ダボス会議)の宇宙評議会共同議長も務められています。
人材獲得編まとめ
ここまで、アストロスケールCEOの岡田光信さんに人材獲得のアプローチについてお話を伺いました。
日本の宇宙ベンチャーの中でも、ひときわ強力なメンバーを揃えている印象のある同社ですが、そのアプローチは決して特殊な事をしているわけではなく、地道にたくさんの人と会って話すこと、お互いがWINになれるように丁寧にジョブディスクリプションを更新していくこと、ということで、今日から自分でも実践できるヒントが満載のインタビューでした。
次の記事では、同社の目覚ましいグローバル展開についてお伺いしていきます。