宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

海への流出を防げ!岡山市における航空写真×AIを使った河川のごみ探し

株式会社Solafuneによる「海ごみはどこからやってくる!?上空からの画像の解析により河川流域をモニタリングしたい!」という岡山市で実施された実証実験の取材に行ってきました。果たしてAIで航空写真を分析した結果から河川にあるごみは発見できたのか?

2~6万トン。この数字が何を表すか分かりますか?

これは1年間で日本から海へと流出しているゴミの量だと言われています。現在、海洋ゴミを減らす取り組みは世界各国で行われています。日本でも、2019年に日本財団・JASTO・リバネスの3者により「海ごみ削減を実現するビジネス」を社会実装していく流れを生み出すプロジェクト・イッカクが立ち上げられました。

プロジェクト・イッカクでは海洋からくる海ごみに主に着目していたのに対して、そもそも河川からごみが海へ流出するのを防ごう!と立ち上がったプロジェクトがあります。

それが岡山市における実証実験プログラムであるGovTech Challenge OKAYAMA 2022で採択された株式会社Solafuneによる「海ごみはどこからやってくる!?上空からの画像の解析により河川流域をモニタリングしたい!」というプロジェクトです。

今回はSolafuneと岡山市が報道機関向けにこちらのプロジェクトの実証実験の成果を公開する、ということで取材に行ってきました。

実証の成果を報告された左から岡山市の吉田さん、Solafuneの光武さん,上地さん Credit : sorabatake

プロジェクト実施の背景

市域が広い岡山市には、灌漑用の用水路・排水路が延べ約4,000km以上張り巡らされています。その水路は最終的に海に繋がっていることから、市内のごみが海に流出しやすい環境にあると言えます。

岡山市内の河川。毛細血管のように至る所に張り巡らされている。 Credit : https://www.openstreetmap.org/copyright Source : 国土交通省国土数値情報ダウンロードサイト

従来までは、人が直接現地調査することで、海ごみがどこに滞留しているか把握し、その上でボランティアの方などの協力を得ながら清掃してきたようです。しかしながら、現地調査の結果からごみが滞留する「ホットスポット」は200箇所以上あることが分かっており、かつこのホットスポットは潮の満ち引きなどによって変化することも分かっています。市内には人が気軽に行けない場所もあり、そのような場所にごみが滞留した場合にはなかなか気がつくことができません。

河川までの距離が遠いような場所も
Credit : sorabatake

河川にごみが流出しないようできればもちろん良いのですが、カラスなどがゴミ袋をつつくことで意図せずごみが河川に流出してしまうことはあります。ごみが河川に流出しないように至る所に水門を立てると生態系への影響も大きいので難しく、なので河川にごみがある間に回収することが大切です。

そこで岡山市は2022年3月に「岡山市海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」を策定することで、市として市民の協力も得ながら海ごみ問題の解決を積極的に進めようとしています。

私たちが流出させてしまった海ごみは、河川から海へ流出します。流出した海ごみは魚等が食べることで魚の体内に蓄積し、私たちはその魚を食べることで私たちの体内に蓄積しているかもしれません。海ごみの流出量が増えれば増えるほど、このようなリスクは発生しやすくなります。このような事態を防ぐためにも、どうにかして海ごみの流出を防ぐことが重要になるのです。

人が出したプラスチックが人へと循環してくる Credit : 岡山市

市内全域の河川、特にごみが滞留するホットスポットを継続的にモニタリングできるようになれば、ごみの流出量を減らすことができるかもしれません。そうすると瀬戸内海へ陸から流出する海ごみが減り、海洋環境保全され、私たちも安心して魚を食べることができるようになります。

なぜ上空から河川にあるごみをAIで検出しようとしたのか

株式会社Solafuneと岡山市が河川にあるごみを検出する手段として着目したのは衛星画像・航空写真をAIで解析することでした。

両者はそもそも河川にあるごみを上空から発見できるのか、ということを確認するべく、航空写真をAIで解析することでごみを検出することを今回の実証で試みました。航空写真は撮影頻度が3年に一回と低いため、将来的には高頻度に撮影される衛星画像からごみを検出することで、時系列でのホットスポットの場所を推定したり、時系列でのごみの流出量の変化を可視化することを目指しているようです。

水路延長が長いことから海ごみのホットスポットを人手で見て回ることは現実的ではないため、衛星画像や航空写真を利用すると良さそうだな、と感じた方は多いのではないでしょうか。

これに加えてAIを利用するのはなぜか?というと、探索すべき範囲が広いため、人手で目視確認しながらごみを探すことは困難であることが挙げられます。

例えばGoogle Mapでごみと思われる物体は以下のように見えます。このようなごみを目視で市内全域見ようと思うと、大変困難な作業になるわけです。

一枚ですら大変な中で、時系列でのホットスポットの変化を見つけようと思うと、何枚もの画像を見ながらになるため、さらに大変です。画像を確保できれば分析結果をすぐに出せる状態になることが実際にサービスとして利用する上で重要となってくるわけです。

感覚としてはから海へごみが流出していそうなことはわかるものの、1日でトラック一台分のごみが流出しているんですよ、と言われても、そんなに流出しているのかな?と思う方が多いかと思います。上空からの写真でごみを検出し、定量的にごみがどの程度流出していそうか示すことができれば、私たちも実感を持つことができるようになります。実感を持つことは、海ごみを減らすために行動変容させる上では非常に重要なことになります。

航空写真からAIで海ごみを検出するまで

開発は大きく3ステップで実施されたようです。

ステップ1:開発方針の決定
上空から見つけると言っても、見つけ方はいくつかあります。

大まかには、画像の中から海ごみのホットスポットと思しきものを直接検出するのか、切り出した画像の中に海ごみのホットスポットがあるのかどうか推定するのか、と言った方法になるでしょう。今回は後者の方法でホットスポットの検出を試みたようです。

そして、どのようなアルゴリズムを用いて分析するのか、ということも決める必要があります。

ステップ2:データの収集、加工

次に、水域を特定できるようになる必要があります。岡山市内全域で計算処理すると計算負荷が重いのですが、河川に絞ればその分計算負荷は軽くなります。今回は1,324枚に分割した航空写真から水域291枚を選別したようです。

また、AIで何かを検出しようとすると、検出対象の教師データが必要になります。そのため、今回は切り出された画像の中に海ごみが映っているかどうかを目視で判読しながら教師データの作成を行ったようです。選定された291枚の水域画像をさらに70分割することで、20,370枚にごみが映っているかどうかのラベリングをしたようです。結果として1,134枚のごみ有りの画像を用意できたようです。

ステップ3:モデル構築、学習

最後のステップでやっとAIのモデルを構築します。今回は画像認識を得意とするモデルを選定し、教師データを学習させることでホットスポットの検出を試みたようです。

上空から海ごみは見えたのか

以上のような流れで解析された結果は以下の画像のような形になります。航空写真から水域と判定された画像が青色に、その中で海ゴミのホットスポットがありそうな画像が赤色に可視化されています。

水域(青)と海ゴミのホットスポット(赤)を可視化した例 Credit : Solafune

気になるのは赤い場所に本当にごみがあるのか?

メディア向けに公開された実証実験の成果報告会に参加することで、ごみが本当にあるのかどうか一緒に見にいくことができました。

海ごみを探すSolafuneの上地さん・光武さんと岡山市の吉田さん
Credit : sorabatake

結果として、ホットスポットと推定されている場所にいくと、多くの海ごみが存在していました。

分析した結果をタブレットで確認しながら現地を確認するSolafuneの上地さん・光武さん
Credit : sorabatake

こちらの場所はよく海ごみが滞留している場所だそうで、前回ボランティアの方々によって回収されたごみは以下の画像のような量があったようです。

回収された海ごみ
Credit : 岡山市 吉田さま

上記のようにアクセスしやすい場所であればごみの回収も容易かもしれませんが、河川沿いは必ずしもアクセスしやすいわけではない、つまりは必ずしもごみを回収しやすい場所ばかりではありません。例えば以下の場所は道なき道を歩いた先にあった海ごみです。以下の場所は道までの距離も遠いため、ごみを見つけて回収したとて、ごみ収集車に回収してもらえる場所までごみを運ぶことも困難ですが、このまま放置するとこれらのごみは海へと流出してしまう可能性もあるため、回収する必要があります。

河川沿いにある海ごみたち
Credit : sorabatake

実証実験を受けて

岡山市の吉田さんから実証実験の結果を受けて以下のようにコメントをいただきました。

航空写真を使った調査を行うことで、広範囲を一括して調査でき、市域のホットスポットの見える化ができました。

今回の事業は、「海ごみ問題は遠い海洋で亀やクジラが困っていること。」ではなく、「自分たちの行動が海ごみの発生源になり得る。」と海ごみ問題を自分事にしてもらうことを意図して企画しました。

海ごみは、陸域から流出していると伝えるのに、AIが解析したというインパクトが大きな発信力となったと感じています。
その上で、市民それぞれが海ごみゲートキーパーとして活動していただきたいと活動の旗印をかかげました。この旗印のもとで、市民一丸となって取組みを進めていきたいと考えています。

今後は、地理院地図など全国一様に提供されているデータを使用した連携市町への横展開や、衛星画像を使用した時間の経過による変化を分析するなど、AIを活用した海ごみ問題の発信を行っていきたいと思います。

編集後記

今回の実証実験は岡山市側の熱量も、実証に参加したSolafune側の熱量も非常に高いものでした。両者共に航空写真や衛星画像が万能ではないことは把握した上で、課題を解決することで現状よりも良くするにはどのようにすると良いか、考えていらしたことが印象的でした。
また、海洋ごみゼロプロジェクトin岡山実行委員会SDGs海川フォーラム2023など、海ごみに対する啓蒙活動も積極的に行われていることで、岡山市全体として海ごみをどうにかしていこう、という動きも感じられました。

衛星画像だけで課題が解決されることはもちろんないのですが、定量的にどの程度のごみがあるか定期的に可視化されると、どうにかしないといけないという意識が芽生える、この意識の芽生えこそ重要なのだろうなと感じさせられました。
今後も続くであろう本取り組みの今後の成果も非常に楽しみです。

関連記事