宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

衛星データ利用を拡大するには?衛星データ市場を牽引する3社未来対談!

地球観測分野での衛星データ利用が急速に拡大し、多様な産業に影響を与えていますが、さらなる普及に課題が残ります。SAR衛星を製造・運用するSynspective、主にSAR衛星のデータ解析ソリューションを提供するスペースシフト、光通信の中継衛星を開発するワープスペースの3社に、事業内容や衛星データ活用の課題と展望について語ってもらいました。

昨今、地球観測分野では安全保障や防災のみならず、農業や漁業、環境モニタリング、インフラ監視や保険、金融など様々な産業で衛星データの利用が急速に拡大しています。

しかし、より一般的に広く衛星データが使われていくにはまだまだ課題もあります。今回は株式会社Synspective、株式会社スペースシフト​、株式会社ワープスペースの3社に各社の事業内容と合わせて、現在の衛星データ利活用に関する課題や今後の展望についてお話を伺いました。

取材場所:宇宙ビジネス拠点X-NIHONBASHI

左から、ワープスペースの森さん、スペースシフトの金本さん、Synspectiveの福田さん Credit : sorabatake

(1)衛星データ利活用を考える上で知っておくべきこと

対談の内容に入る前に、衛星データの利活用を考えるうえで、知っておくべき衛星データに関する基礎知識について整理しました。

各社の事業や対談内で語られている今後の展望が何の話をしているのかの勘所を掴んでいただくためにも、本章を読んでから対談の内容を読んでいただければと思います。
※すでにご存知だという方は読み飛ばしていただいて問題ございません

衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~

衛星の撮影頻度

地球観測衛星で地上の見たい場所を撮影するためには、衛星が撮影したい場所の真上もしくは真上近辺を通過しなければなりません。衛星が同じ地点に戻ってくる日数のことを「回帰日数」と呼びます。回帰日数は、衛星の軌道によって異なるため、衛星ごとに撮影頻度が異なるということになります。従来の地球観測衛星は、撮りたい場所の真上に衛星がきて撮影できるまでに数日〜数週間単位の時間を要し、短いタイムスパンでの地上の状態の変化検出や今すぐに衛星データが欲しいニーズに応えることが難しい状況でした。

しかし、昨今、複数の超小型衛星を打ち上げる衛星コンステレーションによって、毎日(場合によっては一日に何回も)地上の状態を観測できるようになってきました。より高頻度で同一地点の観測を行いたいニーズや、リアルタイムで地上の状態を知ることのニーズは年々増えており、さらに撮影頻度を上げていくことが求められています。

撮影からのデータの取得速度

地球観測衛星が撮影したデータは、撮影してすぐに地上で利用できるわけではありません。地上で利用可能になるためには、衛星から地上局へデータの送信が必要であり、撮影した衛星が地上局の上を通るタイミングでのみ送信が可能となります。

衛星は全世界を撮影しているため、どの地点を撮影してもすぐに地上に送信されるようにするためには、複数の地上局を世界中に設置する必要がありますが、多額のコストがかかる現状があります。

今後、衛星データがより高画質・高頻度化することに伴い、衛星データの容量は膨大になっていきます。通信速度が現状のままの場合、伝送が必要なデータ量が増えることになると一度に一気に地上にデータを下ろせないこともあり、結果として、解析結果が手元に届くまで時間がかかってしまう課題があります。

そこで、衛星内でデータの解析処理を行い、必要な情報だけにデータ量を圧縮して地上に伝送するエッジコンピューティングや、光通信の中継衛星を介して高速での常時通信を可能にする手法が注目されています。いかに通信遅延を無くし、欲しいタイミングで必要なデータを入手することができるかが求められています。

宙畑メモ:エッジコンピューティングとは
ネットワークの端点(宇宙システムの場合は人工衛星)でデータ処理を行うこと。

衛星の解像度

地球観測衛星によってどの程度地上の状態を細かく観測できるかは違います。衛星の性能を測る指標として「地上分解能 = GSD(Ground Sampling Distance)」がありますが、現在の商用観測衛星(光学)で最も良い地上分解能(GSD)は0.3mとなります。

0.3mGSDにもなれば、衛星から車の前後の向きや、場合によっては人の有無まで分かるようになりますが、地上分解能が細かくなるほど、データの価格は高くなります。

また、光学センサは太陽光の反射を利用しており、上空に雲がかかると撮影することができません。そこで、天候に左右されず定期的に観測できるSARセンサが注目されていますが、SAR画像は電波の反射を可視化した白黒の画像でカラーの光学画像と比較して直感的に分かりづらいため、様々な衛星を用途に応じて組み合わせて使っていく必要があります。

今回は代表例として、衛星の撮影頻度やデータの取得速度、解像度の問題を上げましたが、他にも衛星データの解析の難しさやユーザニーズの発掘の難しさから認知度にいたるまで、衛星データがより一般的に広がるには、まだまだ多くの課題があります。

次章からは、衛星データ利用を拡大するために、各社が課題を解決するために行っている取り組みや今後の展開についてお話を伺っていきます。

(2)各社の取り組み

福田 豪
株式会社Synspective ソリューション技術部ゼネラルマネージャー
前職で人の行動を読み取るデバイスのデータを使い、ソリューション提供を行った経験を有し、同社にジョイン。ソリューション開発部を統括する。

福田さん:弊社の事業内容としては大きく2つあります。一つは自社で小型SAR衛星「StriX」シリーズの開発、製造を行い、衛星から取得できるデータをそのまま販売しています。もう一つは、そのデータをもう少し一般の人が使いやすいように加工して、ソリューションとして提供しています。

私たちは、2020年代後半に30基の衛星を軌道上に配置するロードマップを策定しており、昨年目標としていた3基目が打ちあがりました。なぜ衛星の基数を増やすのかというと、数が増えればデータを取得できる頻度が上がります。高頻度になればなるほど、将来的に一般の方たちが使いやすいデータになっていくと想定しているからです。

さらに、衛星データをソリューションとして提供するために、私たちはアナリティクスプラットフォームを構築しようとしています。最終的には数時間に1回、アナリティクスプラットフォームを通して、皆さんが衛星データを欲しいと思った時にすぐアクセスができる状態を作っていきたいと考えています。

宙畑:衛星の開発からソリューション提供まで、ワンストップでサービスを提供されているのですね。衛星の製造側と、ソリューション側ではどのような社員比率になっているのでしょうか?

福田さん:社員の人数比率としては、やはり衛星の製造側の人数の方が多く、衛星開発・製造とソリューションで7:3の比率になっています。

宙畑:ありがとうございます。直近のプレスリリースを拝見すると、Synspectiveさんは販売パートナーの提携を進めている印象があるのですが、最近のトピックスはありますか?

福田さん:衛星データを作り、販売することがメインのビジネスとなりますので、そのためには販売するチャネルを構築していく必要があります。重要視しているのは、衛星データをそのまま販売しているパートナーだけでなく、私たちの提供したデータに一味も二味もつけて、お客様の課題解決のためにソリューションとして付加価値をのせることができるパートナー(衛星データのソリューションを使う顧客の業界に近いパートナー)を増やしていきたいと考えています。また、場合によっては、私たちがパートナーと一緒にソリューションを作り上げていくことも考えています。

宙畑:先に販売体制を構築してから、その後に衛星を作るということでしょうか?

福田さん:両方あると思います。もちろん販売できる状況を作ってから衛星を開発した方が安心感はありますが、競合企業との競争も考えると、先にある程度衛星を作ることも必要となります。

弊社はシンガポールに子会社があり、東南アジア、東アジアを注力領域としていますが、今後は欧州や北米にも進出していきたいと考えています。

宙畑:ありがとうございます。今、SAR衛星のデータの解析は盛り上がっており、今後もますます期待されている分野ですよね。続いて、主にSAR衛星のデータ解析ソリューションを提供されているスペースシフトの金本さんお願いします。

金本 成生
株式会社スペースシフト 代表取締役
学生時代にはAIを研究し、IT業界、音楽業界などを経て2009年に同社を設立。衛星データとAIを組合せた自動解析技術の開発を行い、非宇宙企業による衛星データ利活用を促進する。​総務省「宇宙xICT」懇談会委員、産総研特任研究員などを歴任。ニュースペース研究会副事務局長。​​

金本さん:弊社は衛星データを解析するソフトウェアの開発をしており、特にSAR衛星のデータを解析しています。自社では衛星を開発しておらず、保有もしていません。

SAR衛星でいえば大型衛星から超小型衛星まで、アメリカ、ヨーロッパ、日本などの世界中の衛星オペレータと連携して事業を行っております。

目指しているのは、ユーザが見たい時に見たいものを見れるようにするために、特定の衛星に依存せず、光学やSAR、大型から超小型衛星まであらゆる衛星のデータを組み合わせて、バーチャルコンステレーションとして欲しい情報を自動で得られるソフトウェアの開発です。

宙畑メモ:バーチャルコンステレーションとは
複数の企業や機関が運用するそれぞれの人工衛星を、仮想的に一つの観測網とみなして利用すること。

2020年代後半には、合計すると200基くらいのSAR衛星が活用可能になると考えています。200基すべての衛星を組み合せて解析することができれば、5分〜10分に1回は地球のどこでも見ることができるようになります。そのためのAIを開発しており、ミドルウェア的に便利に使っていただくことができると思います。

直近はディープラーニングのエンジニアを増やしており、今年はアメリカやルクセンブルクにも拠点を作り、海外展開のための基盤づくりも進めていきます。

宙畑:様々な衛星のデータを組み合わせて、データフュージョン(データ融合)されているのが特徴的ですね。他に取り組まれていることはありますか?

金本さん:そうですね。エッジコンピューティングに取り組むことも考えています。

これからSAR衛星が、常用で200基、300基打ちあがる中で、将来的にデータ量が大きく増加していきます。世界中で欲しい時にすぐデータをおろせることが期待されていますが、データ量が膨大ですべてのデータを地上におろすのには時間もコストもかかるため、軌道上で衛星内で処理をして、必要な情報だけを地上におろしてくるといったことも考えています。

例えば、船を見つけたいとニーズがあった際に、どの緯度経度にどの種類の船があるのか、これはテキスト情報に変換できますので非常に軽い情報として地上におろせるようになりますし、それを受け取ってさらに細かい情報を見たければ必要な部分だけデータをおろしてくるということも可能になります。

私たちはソフトウェアの開発側として、オンボード(衛星に搭載しているという意味)のアプリケーションで誰が何を望んでいるのか、どこにどのようなニーズがあるのか、ニーズに対してどのようなアルゴリズムや精度で解析するべきなのか、そこに着眼点を置いています。そのための軌道上実証の機会を模索しています。

最近のトピックスとしては、AWS(Amazon Web Services)さんと一緒に、センサーから読み取れる地上データと衛星データを利用・解析処理して、鳥取のネギの生育状況をモニタリングする取り組みを行っています。

スペースシフト、AIを活用した精密農業ソリューションをAWS上で開発

地上データと衛星データを一括で、AWSのようなクラウドプラットフォーム上で管理することで、アプリケーションとしても進化していきますし、使う側としてもクラウド上に全てデータが展開されていれば、より便利にすぐに使えるようになります。

宙畑:ありがとうございます。最後にワープスペースの森さんお願いします。

森 裕和
ワープスペースCSO/アメリカ拠点CEO。宇宙ビジネスコンサルタント
英エジンバラ大学理論宇宙物理学部飛び級入学・首席卒業。日系の大手経営コンサルタントとして、宇宙×グローバル×DXの新規事業創出と事業戦略をテーマにコンサルティングを行う。一般社団法人SPACETIDECXOアドバイザー、世界初民間初宇宙飛行士訓練事業Blue AbyssのVP of Business Development、一般社団法人Space Cosmetology Organization理事など併任。)

森さん:弊社では、低軌道にある観測衛星の事業者や宇宙ステーションなどに向けて、レーザー光でデータの送受信が可能な中軌道の中継衛星を通じて、データ通信の遅延性をなくし、即効性を高めた中継サービス「WarpHub InterSat」を提供しています。

観測衛星事業の課題として、データは過去数年でさまざまな観測衛星コンステレーションが稼働し溜まってきており、ユースケースも徐々に広がっていますが、リアルタイムでデータがおろせなかったり、AIや機械学習を使用したソリューションを作る時に必要な教師データがまだ足りない実態があります。

そこで、通信速度を速めることで、おろせるデータ量を増やしていくと同時に、中継衛星を用いることで即時に地上にデータをおろせる世界観を作っていきたいと考えています。

例えば、災害時に災害状況を把握したいとなったとしても、国の衛星では数時間、場合によっては1日以上時間がかかったりしますが、その時間を短縮することに実利があります。

事業状況としては、昨年米国拠点を作り、米国の官庁や民間事業者と技術的な検討を進めています。主流の光学やSARだけでなくハイパースペクトル(通常の光学センサよりも細かく波長を観測できるセンサ)やRF(電波)など様々なセンサーを使用する観測衛星事業者に、データを送るパイプラインとして分け隔てなくサービスを提供していきます。

宙畑:ワープスペースさんには衛星データの取得速度を上げたいというニーズが多いと思うのですが、どのような衛星プロバイダーからの問い合わせがあるのでしょうか?

森さん:衛星プロバイダーの種類は様々で、光学、SAR、ハイパースペクトル、最近だと気象系などもあります。私たちの強みは、既存の電波の通信速度よりも光だったら約10倍、ポテンシャルは100倍速くすることができることにあります。即応性の部分で、特にSAR衛星はデータ容量が大きいので、すぐにデータをおろしたいとなった時でも既存の電波でできるものはなかなか存在しないんです。そんな時に、私たちのサービスを見つけた方は試したくなると思います。エンドユーザとしては、安全保障も含まれますが国や官公庁が多いですね。

宙畑:ありがとうございます。それでは対談のテーマの方に入っていきたいと思います。

(3)衛星データ利活用における課題

衛星データ利用が進まない日本の課題

宙畑:世界や日本で衛星データの利用が進んでいる実感はありますか?

金本さん:世界では、衛星データ利用は増えているというのが私の実感です。例えば私たちはイタリアの企業と提携し、建物をミリ単位で変位をみる干渉SARという技術を使った解析を提供しています。利用する顧客も増えており、地上で測量している結果と、衛星から解析した結果がほとんど一致していることを確認して頂いています。衛星データが使えるということで、地上計測を衛星に置き換え、継続的に利用いただける企業が増えています。

宙畑:衛星データ利用が広がっている実感が生まれたのは、解析技術が上がったことが大きいのでしょうか?

金本さん:実は今と同様な精度は10年以上前から出ていて、海外では利用も広がっていました。ただ、日本では前例主義的な企業も多く、「いつもここで発注しているから、今回もここに発注しよう」と前例をなかなか変えることが難しいので、新しい技術が導入されにくいのではと思います。

これまで、衛星データのPoCを提案しても「取得頻度が上がれば」「解像度が上がれば」と断られてしまい、なかなか導入するにいたらないんです。

私たちから今後の衛星の能力向上や基数が増える話を行い、今のうちから体制を整えておく必要性を説いているものの、現場としては今役に立たないものにお金は払えないとなりますので、調査・研究用途だとなかなかうまくいかないと感じているところです。

しかし、電力会社などのインフラ事業者は昨今のエネルギー事情もあり、徐々に収益性を考えないといけなくなってきています。過去に衛星データを使ってみたものの、当時の技術では上手くいかなかった人たちが、「今の衛星データを使ってみたら案外使えるね」というのがこの2年くらいで起こり始めています。

衛星データ利用の認知不足

宙畑:衛星データのトレンドとして、利用ニーズは高まっていると感じますか?

金本さん:そうですね。宇宙旅行やアルテミス計画、月面探査など宇宙関連の話題も多いですし、政府も後押ししているので、ニーズは高まってきていると感じています。ただし、これまでの実証実験などでは、業界や多くの事業者が動くほどの具体的な成果がでていないのも事実です。なので、成果が出始めた企業から新聞やメディアにどんどん露出して、ユーザの皆様に興味をもってもらうことが大事だと思います。

宙畑:それは宙畑としても、情報を発信していかないといけないと感じています。

森さん:普段宇宙関連の情報にアンテナを立てている人は、トレンドに敏感ですが、見ていない人は気づかないですよね。

金本さん:イベントも多く開催されていますが、まだまだ宇宙業界の人が宇宙業界の人向けに実施しているイベントが多いなとも思っています。宇宙業界ではない人向けのイベントをどれだけ増やすかを考えていかないといけないと感じます。

森さん:コンソーシアムも色々とありますが、メンバーの7、8割は宇宙系の人ばかりですので、本当に広げていくのであれば非宇宙の人をもっと集めていく必要があります。そのためには、こちらから非宇宙の会社や団体に呼び込みに行く姿勢が大事ですね。

安全保障から民間へ

宙畑:先ほど森さんからエンドユーザとしては国や官公庁が多いと話がありましたね。

金本さん:官公庁のニーズのおかげで衛星もたくさん打ちあがっていますし、衛星データの利用事例も増えているので民間も増やしていきたいですよね。

森さん:そうですね。いいドライバーになれればと思います。スペースシャトルやISSができた時、その技術が半導体や自動車産業に移っていったのと一緒で、宇宙だとソフトの領域を中心に、今まで民間にはなかった技術が官からでてくるようになることで、新たな民間の利用事例が生まれることが望まれます。

宙畑:民間に広げていくために乗り越えるべきハードルはどのようなものがありますか?

森さん:国や官公庁のニーズとしては、衛星データをそのまま欲しいという特徴があります。安全保障に関わっている方は、衛星データに触れることにも長けている方が多い印象ですので、自分たちで解析をすることができます。一方で、民間の事業者にそのままのデータをお渡ししても、解析できる人がほぼいないことが課題になっていると思います。

衛星の基数、地上局の数、データ量の不足

宙畑:顧客が望むソリューションを提供する上で、衛星の数やデータ量は足りているのでしょうか?

福田さん:衛星データは撮像後、極力早くデータをおろす必要があります。それができないと次の撮影機会を失ってしまうんです。その対応策として、衛星間での通信もあれば地上局の場所や数も増やしていかないといけません。撮影したい時に撮影できるキャパを開けておくのが今のところ重要だと思います。

宙畑メモ:地上局とは
軌道上にある衛星や宇宙ステーションに、コマンドを送りミッションデータを入手するための地上システムのこと。

宙畑:地上局の話でいくと、ワープスペースがリーフスペース社(Leafspace)と提携することを発表されましたね。

ワープスペースがLeaf Spaceと業務提携。同社の光通信ネットワークの地上インフラサービスで連携【宇宙ビジネスニュース】

森さん:はい。Leaf SpaceはGSaaSの企業で、去年の6月に業務提携を行いました。

宙畑メモ:GSaaSとは(Ground Station as a Service)
地上局ネットワークをシェアリングサービスとして提供する事業のこと。

金本さん:KSAT(Kongsberg Satellite Services)の地上局のアンテナの本数も今すごい多いですよね。アンテナを置けるだけおいているのでこれ以上通信量を増やすのは難しいんじゃないかと思います。

私たちが利用する超小型SARコンステレーションでも、タスキング(撮像要求)が却下されることがあります。そういう意味では衛星の基数や衛星を飛ばす軌道自体が全然足りていないと感じています。

衛星間でのデータの個体差も課題

金本さん:また、衛星個体ごとの出力データに違いがあることも課題に感じています。

福田さん:そうですね。私たちも基数を増やす時に、どのような量産体制をとるのか議論しているところです。製造の量産化体制は非常に重要だと感じていて、サプライチェーンから自動車を作るみたいにやらないといけない。それができていないと個体差が大きいものができてしまうんです。今のところは人の力だけで組み立てるみたいなところがあるのでそのような課題がうまれています。

(4)各産業における衛星データの突破口

農業×衛星データ

宙畑:農業で衛星データ利用を拡大していくためには、どのような取組を行う必要があるのでしょうか?

金本さん:私たちが農業に関する衛星データの利活用で行っているのが、マーケティング・広告業界との連携です。具体的には、広告代理店がCMを打つタイミングを農作物の収穫状況から予測することを行っています。例えば、キャベツの価格が安くなるタイミングに回鍋肉の素のCMをたくさん打てば、商品が売れるだけでなく、キャベツがたくさん売れ、農家さんにも還元ができ、フードロスも削減することができます。

人工衛星データ活用による 広告の高度化を通じた需給連携事業

広告代理店にとっても、「衛星データ(新しい技術)を使って、御社のマーケティングをしてますよ」とお客様にアピールすることができますし、社内でも注目されます。動いているお金の金額も大きいので、衛星データが寄与して業績を数パーセントでも変化させることができれば、数千億円規模のビジネスになります。

世界全体の広告業界の市場規模は7000億米ドル(日本円で約95兆円超)、大きな市場にいかに衛星データが寄与するかが重要であるという点はその場にいた全員がうなずきました。

同じインパクトを純粋な農業利用で作り出すのは時間がかかり難しいので、まずは市場のインパクトの大きなところから取り組むのが重要だと考えています。

また、衛星データから農作物の生産状況の総量をみることで、小売店が変動の大きい市場価格で野菜を買うのではなく、年間を通して一定の価格で変えるような安定供給の仕組みを作ることができれば、生産と販売にとってWin-Winの関係になるのではと考えています。最終的には全体最適しないと続きませんので、個別の農家様での活用と並行して、全体の話から取り組んでいます。

災害×衛星データ利用

宙畑:防災やインフラ産業で衛星データ利用を拡大していくためには、どのような取組を行う必要があるのでしょうか?

福田さん:まず、いつどこで災害が起きるかが分かりません。何が起きても大丈夫なように、常に日本全国を撮影するのがベストではありますが、膨大なコストがかかります。

そのため、災害箇所をある程度予測してタスキング(撮像要求)で衛星データをとることを行っていく必要があります。例えば、台風が発生した際に、2日後東京に到着するはずが栃木にいった、みたいなこともありますので、自然現象の予測精度を高めていくことが大事だと考えています。気象学などの別の学問とも一緒に考えていくことが求められていると思います。

インフラも防災での利用と少し似ていて、結局衛星が見ることができるのは何か予兆が起こるか、起きた後どれくらいの被害があったかなどになるので、予兆を測るアルゴリズムとして開発も必要になってくると思います。そのためには、今よりももっとデータが必要となりますので、衛星だけでなく、IoTから取得できるデータを組み合わせたり、場合によっては全く違うデータソースからデータをくみ上げる必要があります。

森さん:衛星にコマンドをすぐ送り、衛星の姿勢制御を行えば理論上は見たい場所をすぐ撮影することは可能なのでしょうか?

宙畑メモ:衛星コマンドとは
地上局から衛星へ送信する情報のこと。コマンドを送るには地上局設備が必要となるため、急に撮影したい場所が変わった時にコマンドを送っても撮影が間に合わない。

福田さん:そうですね。いつどこで災害が起こるか分からないことが困るのであって、リアルタイムで場所を特定することができれば、可能だと思います。そのためには地上の情報と衛星からとれる情報をうまくマッチさせる必要がありますので、そういう方法を考えていかないといけないと思います。

宙畑:災害時に、衛星に撮影依頼を出してからデータが届くまでの時間を縮めることはどのようなメリットがありますか?

福田さん:自治体は災害が起きた際、より早くどこに救助を集中投下するのかを考えます。それが一日後だともう遅いんです。人が亡くなったり被害が大きくなってしまうというのもあって、そこは早ければ早い方がいいと思います。

現在、被害の状況もSNSで確認ができるかもしれませんが、SNSで発信されていることだけを頼りにしてしまうと、どうしても人が集中している場所に情報が偏ってしまいます。そのため、衛星データを使って全体を俯瞰して判断することはとても重要だと考えています。

災害が起きた際の被害状況を正確に把握するという点で、広域に地上の状態を確認できる衛星データは有用である一方で、気象情報や地上の情報といかに連動するか、いかに早くデータを取得するかという点ではまだまだ課題もありそうです。

金本さん:通信や道路などのインフラを管理されている事業者も同様で、災害でどこかが寸断されているとそもそも現場に行くことができませんので、被害状況が分かりません。災害復旧計画をたてる際に対応が後手後手になってしまうので、まずは状況を知りたいというニーズが多いですね。場合によっては、ドローンもいけないくらい遠い場所だったりもするので、衛星を使うことで数分でどこのインフラが寸断されているのか状況が分かるようになれば、復旧の対応が早まることに繋がります。

森さん:やはり即応性が大事ということですね。

即応性を上げることで開拓できる市場

宙畑:即応性を上げることで他にどのような分野に進出できるのでしょうか?

金本さん:やはりスピードが求められるのは、災害と安全保障ですね。

福田さん:あとは日常で例えば、工事など日々変化するものを見たいケースが考えられます。工事はリアルタイム性が重要で、朝晩衛星から地上の状況を見る必要があります。今のところは、衛星データは工事計画をたてる上で判断する材料の一つにしかなっておらず、実務は全く別のやり方になってしまっています。撮像頻度があがれば、実務の部分にも利用いただけるのかなと思います。

(5)今後の展望

衛星データがインフラになる

宙畑:今後、衛星データ利用の環境が改善し、利活用が進むことでどのような未来があるのでしょうか?

金本さん最終的にインターネットのように、私たちの日常の生活に取り込まれていくと思います。人が何かを知りたいと思った時に、能動的にインターネットで検索する必要がなくなり、衛星データから見た人間の行動そのものが情報源となり、状況に応じた広告や行動指針のレコメンドがARデバイスを通じて出てくる世界になっていくのではと思います。

例えば、家を出て駅に向かう時にいつものルートは工事してるから、右にいったほうがいいよとデバイスが教えてくれたり、いつものルートは危険なので、オススメのルートにそって移動すれば、保険料が安くなったり。場所によってはIoTや個人のセンサ情報も融合しつつ、世界中をみていくとなると広範囲で観測できる衛星利用が肝になっていくのではと考えています。

それとメタバースやデジタルツインが組み合わさり、サイバーとフィジカルの領域が融合していく。その時にリアル世界の地球全体をアップデートしていくのが衛星データの役割になるので、私たちはそのためのインフラになっていくのだと思います。

今はユーザが個別にデータを買っていますが、将来的には音楽配信のようなデータ流通網が構築されて行くと考えています。既に、どこが一番効率的に観測網を構築するケーパビリティを持つのか競争が起こっています。

宙畑:衛星データだけでなく、ほかのセンサーの情報も使いながら可視領域を増やしていくことが必要ということですね。

森さん:あとは、それを実現するためのマイルストーンをどう置くかが重要ですね。データ容量、通信容量、遅延性などをどうしていくのか総合的に考えていく必要もあります。1日1回分解能1mで、かつ光学だけでなくSARなどさまざまなセンサーで取得したデータを地球上の土地全てという規模のデータを地上に送るとなると、光通信による衛星中継があっても通信容量が足りなくなりますよね。

これから、衛星データが日常の生活に浸透するうえで、解決すべき課題があると森さん。ワープスペース社が提供する光通信を用いた中継衛星は通信容量の問題において寄与するだろうと話します。その上で考えるべきこととして話を続けます。

森さん:そして、どこの分解能を高めて、どこを頻繁にとるのか、考えていく必要があります。衛星プロバイダーと解析事業者は連携していかないと、あとデータがいきなり増えて多すぎても解析会社や地上局側は困ってしまうので、バランスが大事ですね。

金本さん:そうですね。そのためにも、衛星データを使うことで喜んで頂ける方がどれくらいいるのか、ユーザニーズを掴めるのかが大事ですね。

森さん:お客さんが知りたいのは衛星データそのものというよりは、衛星データを使うことで実利があるのか、利益率がどう変わるのかですので、そのために良いアプリケーションを作っていかないといけないですね。

福田さん:その通りで、私たちもそこを狙っています。お客さんは衛星データかどうかはどうでもいい。知りたいことは、お客さんの課題を解決するものであるかどうかです。今まで通りの「とりあえずデータを作って売れればいい」ビジネスのやり方では通用しなくなると思います。衛星データをどうやって使っていくのかをユーザに教育することも大事ですが、全体で広げていくことを考えた時に、より便利で簡単に使っていけるようにすることも大事です。

金本さん:Synspectiveさんは地上データも融合して、解析していく予定はあるのでしょうか?

福田さん:あります。ただ、それも結局はデータを信頼できることが大事だと思っています。例えば、小売店がコロナ対策で行っている入店者の体温測定も、センサで35度〜36度なら安全と共通認識がありますよね。それは、私たちが体温は何度だったら普通だと今までの経験からデータを信じているからだと思うんです。

地上データと衛星データを組み合わせることで、お客さんがデータを信じることができればそうしますし、衛星データだけでよければ地上データを使う必要はないとも思います。データの質よりも認知度であったり、よく使うものであると理解を促進していくことが大事です。そうしないと安全保障用途に閉じたものになってしまいます。

金本さん:私たちが感じている変化はデータの信頼性の面での普及は進んでいると感じています。衛星データの結果と地上の結果をユーザ自身が確かめる状態ができてきているのではないかと。

森さん:今は黎明期をこえて、成長期になってきておりますので、いろんなプレイヤーが有象無象ありますが、今後は顧客のニーズに応じて選定されていきますね。

衛星データの新しいマネタイズ

宙畑:将来的には衛星データの流通やマネタイズはどのような形になるのでしょうか?

金本さん:私はiTunesみたいになっていくと思うんです。プラットフォームがあり、アーティストに当たるのは衛星で、個人や企業が好きな時に衛星データを使える。既にプラットフォームとしては何種類かありますが、GAFAやSpaceXかそれとも全く新しい会社か、どこかがやると思います。解析処理をするソフト面では私たちもプラットフォームの一部になると思いますし、今の動画のサブスクと構造としては似てくるのではないかと。

インターネットも2001年〜2003年くらいまでは今の衛星データ産業と同じような感じでした。ブロードバンドになって常時接続になり、スマートフォンがでて一気に広がりましたよね。今から衛星利用のキラーアプリが何かと聞かれた時に、あの時点でスマホの存在を想像できないように難しいですが、インターネット産業発展の経緯にヒントがあるのではと思います。

森さんデータビジネスとしてはSaaSになるのが、最終形なのかもしれないですね。

金本さん:そこに行くためには、今ある技術でできる部分と、まだまだ技術的に足りていない部分のGAPを私たちが埋めていく必要があります。インフラとして複数の衛星をつなげて、リアルタイムでデータをさばけないといけないので、宇宙データセンタも必要になるかもしれません。

宙畑:衛星データのライセンス(使用許諾)としてはどういう形で普及していくといいのかでしょうか?

森さん:今は衛星データを購入しても、当初に申請した目的外での利用が禁止されていたり、ある程度加工しないと顧客に提供してはいけない等、契約書で細かく利用条件が縛られるので、大変ですよね。アプリと一緒で、ライセンスもなくなっていくんじゃないかと思います。

日本が世界の衛星データ市場で勝つためには

宙畑:日本が世界で勝つためには、何が必要なのでしょうか?

金本さん:海外を回ると安全保障の話ばかりで、私たちが衛星データを使って農作物の生育状況を把握して広告業界とコラボしている話をすると、どうやっているか教えてくれと言われるんです。そういう意味では、日本はニーズを掘り起こすことにおいては最先端をいっているのではと思います。

海外の衛星プロバイダーは、SPAC上場(自社では事業を持たず、上場後に未上場の企業を買収することを目的とすること)やIPOした先の事業戦略を考え始めているので、そのための事例づくりやアプリケーションは日本がリードできる可能性が大いにあると思います。今は利用ノウハウを蓄積して、ノウハウに紐づく技術を提供していくのがいいですね。

あとは、日本だと各会社が連携して、政府とも一緒に日本連合としてやっていきたいです。海外には衛星の能力や解析処理では及ばないですが、個々のアプリケーションを組み合わせた一貫性のあるソリューションを提供できれば強みになると思います。

森さん:日本にも衛星地球観測コンソーシアム(CONSEO)(産学官のプレーヤーが集まり、日本の衛星地球観測全体の戦略や政策議論を通じた提言をまとめることを目的とした、国内最大の衛星地球観測コミュニティ)がありますね。経済産業省でも、海外の事例を日本で広めようとしてくれています。そういった要素もあるので、今年大きく変わるんじゃないかと思います。

宙畑:日本連合とは勇気の出る言葉ですね。宙畑も情報発信の側面から貢献できたらと思います。本日はありがとうございました。

対談中は衛星データ利活用の課題について真剣に議論する場面も多くありながら、今後の衛星データ利活用の未来について前向きな会話も多くあった2時間でした。福田さん、金本さん、森さん、ありがとうございました!

(6)まとめ(宙畑所感)

今回のインタビューを通じて、衛星データ利用の課題を知るとともに、突破口となる事例や今後の展望をお伺いすることができました。

最終的に「インターネットのように、衛星データが日常で当たり前に使われる世界」を実現することは衛星データ産業に関わる方にとって、共感できる内容であったのではないでしょうか。

衛星が今後さらに打ちあがる中で、各衛星間や地上データを組み合わせ、またデータ通信の即応性を高めることで、ユーザにとってより便利で使いやすいデータに変わっていくことが望まれます。

今後も日本発企業として、世界の最先端で事業を推進する3社の動向に注目していきたいと思います。