気象予報士、斉田季実治さんに訊く、異常気象の原因と今後、衛星データ活用の可能性
近年、夏が暑すぎる、自然災害が増えたのではないかと感じている人も多いかもしれません。私たちの暮らしに直結する気象の今について、気象予報士、斉田季実治さんにお話をうかがいました。
本格的な冬を目前に控え、冷え込む季節になってきました。
今年は東京都心の11月の最高気温が100年ぶりに更新され、夏も真夏日が2か月間も続く異常な1年だったと考える方も少なくないでしょう。
今回、NHKの天気予報コーナーで気象キャスターとしても活躍し、防災士、一級危機管理士、星空案内人(星のソムリエ)など、さまざまな資格も持つ斉田季実治さんにお話をうかがい、今年の猛暑を振り返りながら、地球に起きている変化についてお話を伺ってきました。昨今の激甚化する自然災害や地球温暖化について学び、その環境下で衛星データがどのように活かせるのか考えていきます。
(1)2023年の暑さは異常だった?
宙畑:今年の夏は真夏日が続いていたと記憶しています。おかしいなと感じた人も多いのではないでしょうか。
斉田:今年は明らかに異常な面が多かったですね。東京では、最高気温が35度以上の猛暑日が22日間もあり過去最高でした。最高気温が30度以上となる真夏日も、7月6日から9月7日までずっと真夏日でした。
私が子供の頃は、「猛暑日」という言葉はありませんでした。「猛暑日」という言葉が生まれたのは2007年です。
特に今年は約2カ月の間「真夏日」が続きましたが、「真夏日」だけで暑さを表現していくことは難しくなり、気温35度以上を「猛暑日」としています。最近では40度を超える日も多くあるため、民間の気象会社では40度以上を「酷暑日」とも表現しています。
東京都の場合は、都市化の影響など、温暖化だけでなく様々な影響が考えられますが、各地で記録を更新しているような状況ではありますね。
また、今年は飛行機や新幹線でダイヤが乱れる事が頻繁に起こりました。その理由として、大気の状態が非常に不安定で急に雷雨などが起こりやすかったことが挙げられます。気象庁では、毎年の猛暑日の日数や、1時間に50mm以上と80mm以上の雨の回数の統計をとっており、年々増加傾向にある状況です。
(2)地球温暖化によって環境が変化する理由とは
宙畑:大気の状態が不安定ということについて、具体的にはどのような状態なのでしょうか。
斉田:気温が高くなると空気中に含むことができる水蒸気の量が増えるため、一度にざっと降る雨の量も多くなります。空気中の水蒸気量が多い状態は大雨になる原因ですが、地上の気温が高く、上空の気温が低いと積乱雲が高くまで発達しやすくなります。このような雨雲が発達しやすい状態を一般的に大気の状態が不安定といいます。
そのため、今年の夏のように暖かく湿った空気が地上にあると、大気の状態が不安定になりやすく、大雨が一気にざっと降ることも多くなるというわけです。
宙畑:今年のような大気が不安定な状態は今後も続くのでしょうか。原因が分かれば教えてください。
斉田:地球温暖化の影響で大気の状態が不安定になりやすくなっています。例えば、今年の異常気象についてはラニーニャ現象からエルニーニョ現象に移行する過程で日本周辺の海水温が非常に高かったことに加えて、温暖化の影響もあると言われています。
他にも、2018年7月の西日本豪雨や、2019年10月の令和元年東日本台風は広範囲で大雨が降りましたが、温暖化の影響を加味しないとあれだけ大量に広範囲の大雨は降らなかっただろうという試算結果も出ています。日降水量300mm以上の大雨は、1980年頃と比較して、おおむね2倍程度に頻度が増加していますし、広範囲での大雨も近年起こりやすくなっています。
また、昨今言われる「異常気象」は基本的には30年に1回程度発生する稀な事象を指します。その原因は、その原因は、温暖化によってベースの気温が上昇していることに加えて、エルニーニョ現象や偏西風の蛇行など様々な気象現象が重なることが1つの理由と言われています。この様に、温暖化と様々なスケールの気象現象が重なることで一定の基準を超えてしまうと異常気象となり、災害に繋がるわけです。
ただし、海はさらに長いサイクルで変動していますし、太陽活動の変動も気象と密接な関わりがあります。さらには地磁気の逆転も大きな気象変動の引き金になる可能性があると言われています。これらの自然の変動の影響を受けて昨今の異常気象が発生しているため、異常気象の全てを温暖化のせいにはできないと考えています。
宙畑:気象の観測技術が発達する中で、異常気象の原因の切り分けはどこまでできてきているのでしょうか。異常気象に対して理由が複雑に絡み合っている様に感じていますが、温暖化が原因なのか、またはエルニーニョ現象など変動サイクルの影響なのか判断することはできるのでしょうか。
斉田:切り分けることは難しいと考えています。温暖化によって基本の温度は上昇していますが、自然現象としてさらに温度をあげる要因が重なり、異常気象が発生していると捉えています。温暖化がベースにあることで異常気象が起こりやすくなっているのは事実ですが、事象に対してその理由を断定することは難しいですね。
そのため、地球温暖化を抑える取り組みと、増加してしまった異常気象に対処する両軸の対応が必要だと考えています。
(3)人が住む場所に被害が増えているのか、被害が起きやすい場所に人が住み始めているのか
宙畑:異常気象は私たちの生活にも影響を及ぼすことが増えたように感じています。
斉田:土砂崩れや川の氾濫は1つの自然現象ですが、人間が影響を受けることで災害となります。そのうえで、人間がそういった影響を受けるところに進出して住み始めたことで、災害が増えたようにも感じています。
宙畑:異常な豪雨によって土砂災害も起こりやすくなっていることはあるのでしょうか。
斉田:土砂災害は雨が降ることによって発生しますが、頻繁に雨が降る地域では既に崩れた土地であるため新たに土砂災害が発生しにくい状態にあります。例えば、高知は降水量が非常に多い地域ですが、土砂災害が比較的少ないのはそのためです。
一方で、これまで大雨が少なかった地域で豪雨が発生すると土砂災害が起こりやすい傾向があります。特に今年は秋田県で大雨被害が多く発生していますが、背景には、海水温が高かったことが挙げられます。海水温が高ければ、台風の勢力が衰えずに北上することも増えます。これまで台風の被害を受けることが少なかった東北や北海道でも台風による災害が起こりやすくなっていると考えられます。
ただし、すべての土砂災害が大雨や台風などによって引き起こされているわけではありません。例えば、2014年に広島県で発生した大規模な土砂災害は、土砂災害が起こりやすい土地で開発が進んでしまったことで、災害に発展したとも言われています。人間の活動範囲が広がったことで、その土地が危険かどうかを知らずに住んでしまっている実態があるのかもしれません。
宙畑:自然災害に加えて、人災とも言えることが発生しているのですね。
大雨の際に車を避難させるためのマップなど、誰もが分かるツールがあるといいのではないかと思いました。現在はどの様な対策が取られているのでしょうか。
斉田:まさに、その土地がどの様な災害の危険があるのか把握する必要があります。現在はハザードマップをベースとして、自治体は避難情報を住民へ共有するようになりました。
斉田:ハザードマップは自治体によって厳密には異なりますが、かなり普及してきていると考えています。これまでは市町村全体に避難指示を出していましたが、今では地域を限定したり、家が安全な場所にある住民には在宅避難を呼びかけたりするなど、情報発信の仕方も変わってきています。
土砂災害、洪水などのハザードマップがあり、災害別で危険地域に該当する人へ避難を促しています。気象情報も連携して、大雨による災害の危険度がどの程度高まっているのかリアルタイムで分かる「土砂キキクル」「浸水キキクル」「洪水キキクル」の情報発信があります。
例えば、洪水キキクルでは、従来の指定河川の水位レベルの情報だけでなく、上流から下流に水が流れていくことを計算し、河川が氾濫するリスクが予想されて色分けして表示されています。
斉田:また、2018年の西日本豪雨の際にはメディアでも多く取り上げられたバックウォーター現象(大きな河川が増水すると、その河川に流れ込む周囲の河川の水位が上がり氾濫しやすくなること)も、最近では危険性を予測する情報もあります。
すべての中小河川に計器がついているわけではないため、特定の河川だけなく周りの中小河川に対する情報として、大きな河川の増水と過去の河川氾濫事例から、その周辺の中小河川の氾濫の危険性や、何時間後に氾濫するおそれがあるのかを知ることができます。
宙畑:情報発信の内容や取得する場所も増えてきているのですね。
斉田:ただし、情報は使う側にも知識が必要で、事前に知っておかないと緊急時に役立ちません。防波堤や防潮堤などのハードは、一度作ってしまえば防災効果を常に得られますが、情報のようなソフト面の対策は、活用する側に緊急時の判断は都度委ねられます。
さらに言えば、ハード面の整備をすることで危機意識が薄れてしまう懸念もあります。例えば、定期的に氾濫する河川周辺の住民は、危険性や対策を理解して緊急時に行動できます。一方で高い堤防が設置されたことで、多少の雨も問題ない状況が続くと、住民は危険性への認知や対応が分からず、突然の大雨によって氾濫した際に大変なことになってしまいます。
ソフト面の浸透課題には、気象キャスターとも連携して行く必要があると考えています。
(4)災害情報を生活者に平等に届ける取り組みの最前線
宙畑:今、情報の浸透を改善する取り組みはどのようなことが行われているのでしょうか?
斉田:例えば、大雨による避難の要否は、情報を元に判断をする人が必要となります。避難情報は気象庁が発出しているのではなく、自治体が実施することになっているため、自治体には適切な情報に基づいて判断できる人間が必要となります。
一方で、自治体にも様々な部署があり、防災だけを担当し続けてきた人が少ない現状や、他の業務を担当しながら緊急事に防災対応をしている実態があります。そのため、防災を専門的に取り扱える人材が必要だと考えています。
気象庁では、自治体向けに気象庁や自衛隊のOBなどを気象防災アドバイザーとして専属の担当を紹介しています。加えて、気象予報士が気象防災アドバイザー育成研修を受けて、適切に予報から避難までの情報発信ができる人材を増やす取り組みを行っています。
宙畑:最近の防災アプリには緊急時に通知がくるような機能がありますよね。情報を受け取り、適切に避難の準備を始める判断ができる環境があるものの、情報を入手する機会が少ない人は、状況や適切な対応を把握できず遅れることもあるのでしょうか。
斉田:自治体が適切な避難の情報を出して、その避難情報が十分に活用されなくてはなりませんが、その両輪を回すことが難しく、現在どちらも十分とは言えません。
ただ、気象予測の精度は上がって、危険地域も把握しやすい環境になっているのは事実です。対策ができている自治体では、足の不自由なご高齢の方に対して誰が声をかけて避難させるのかなど、災害の種類に応じて細かく対策をしている地域もあります。
また、ハザードマップに触れる機会を増やす取り組みも進んできていると考えています。防災のスタートとして、自分が暮らす地域のどこが危険なのか、自分にどんな危険があるのかを知ることが重要です。
以前から自治体や企業では、ハザードマップなどの各データを統合して、例えば台風接近前から必要な行動を示すようなタイムラインに沿った防災行動計画がありました。数年前から、国土交通省や自治体などによってマイタイムラインという取り組みが進められています。
マイタイムラインとは、住む地域の危険性や、避難場所の情報、警報の段階などをベースに、それらの情報に合わせて、個人・家庭単位で避難時のタイムラインを事前に考えておくことです。その前提情報としてハザードマップを確認して欲しいと考えています。
(5)天気予報は絶対ではない。気象キャスターが伝える言葉の重み
宙畑:気象予測自体の精度は、どの程度上がってきているのでしょうか。日本全国にアメダスが設置され始めた時と比較して、またラジオゾンデ観測も少しずつバージョン更新されていると聞きましたが、気象予測精度はどのように変化してきていますか。
斉田:気象予報の精度について、翌日に雨が降るか降らないかの適中率は、前日の夕方時点の天気予報で全国平均で85%を超えるくらいにはなっていますし、2022年の東京は88%でした。東京の精度検証で、私が生まれた1975年当時は80%を切っていたので、精度は随分向上していますね。
今では当たり前になっている気象衛星ひまわりやアメダスなどは、活用され始めて50年程度たっていますが、それ以前にも天気予報は存在していました。
宙畑:衛星やアメダスなしに天気予報をするのは、今に比べて相当大変だったでしょうね。
斉田:精度向上の背景として、雨雲レーダーはめまぐるしい進化をしています。昔は単純に雨雲がその場にあるのかを判断していましたが、今はドップラーレーダーを使うことで雨粒の動きがわかるため雨雲の動きを判断して竜巻注意情報が発出できるようになりました。
最近ではドップラーレーダーがさらに進化して、雨粒の大きさがわかるようになったことで、より正確に雨が降る量が割り出せるようになってきています。
宙畑:コンピュータが算出したデータに対して、実際に斉田さんのような気象予報士の方はどのような点に着目して、生活者の皆さんに情報を届けていただいているのでしょうか?
斉田:計算結果に加えて、気圧配置や風の変化など様々な要因が重なって雨が降るため、本当にその計算結果が確からしいのかを確認しています。
条件によっては、経験則的に計算が外れやすいケースもあると思っています。コンピュータが導き出す天気予報はブラックボックス化してる側面もありますが、なぜその天気になるのかを根拠を持って伝えることが、気象キャスターには必要だと思っています。
また、計算上と、実際の天気が異なるケースは発生しており、その際に被害を最小限に抑えるためにどのように情報発信するかは重要なポイントだと考えています。
典型的なのは関東の雪ですね。冬から春にかけて、関東の南海上を通る南岸低気圧は、低気圧のコースや気温、湿度など様々な要因で、雨か、雪か変わってきますが、実際に雨で済むのか、雪が降るのかによって私たちへの影響も全く変わって来てしまいます。
例えば、計算上の雨や雪の予想を3〜4日先まで見せてしまうと、複数の可能性がある中での計算結果の1つでしかないにも関わらず、一般の方がその天気予報を見ると、そうなるだろうと思い込んでしまいますよね。防災上で悪影響を及ぼすおそれもあるため、見せるべきではない情報もあると考えています。
宙畑:天気予報が外れた場合にも、被害を最小限にするための伝え方はとても重要ですね。
(6)気象衛星の進化と天気予報
宙畑:気象衛星が天気予報や日常生活の利便性に役に立っている事例を教えてください。
斉田:例えば、台風の進路予測も大幅に精度が上がり、特に、5日くらい先までの気象予測は精度が上がってきています。台風の進路をある程度先まで予想できるようになってきたことで、交通機関の計画運休も可能となりました。計画運休では電車などが止まることによって社会自体も一時的に止まるので、強制的に被害が起きにくい状況にすることができます。
最近では航空会社も台風の時には、事前に無償振替の案内が出されていますが、これも気象予測の精度が上がったことでできるようになったことの一つでしょう。ある程度早い段階から気象が予測できることに加えて、単純に雨量情報だけではなく、災害の危険性レベルとして気象情報が発信されるようになったことは近年で大きい変化だと考えています。
宙畑:気象衛星は具体的にどのように天気予報へ活かされているのでしょうか。
斉田:気象衛星はひまわりと、アメリカの気象衛星などを含めて現在5機で全球を観測しています。
天気に国境はなく、世界各地で様々な予想が出されていますので、特に台風の時には海外の予想と日本の天気予報を比較してズレを確認し、気象予測の精度を判断することもあります。
宙畑:気象予報士のお仕事では、ひまわりの衛星データを見ることと、加工されたテーブルデータを見ることではどちらが多いのでしょうか。
斉田:どちらも見ます。ひまわりの衛星データは、大きく分けると写真と同じような見え方をする可視画像と、赤外線画像の2種類があります。夜間は赤外線画像しか見れないので、2種類の画像をうまく組み合わせることで、雲の状態を見ています。また水蒸気画像を見ながら、どのあたりに水蒸気が多く分布していて、雨雲が発達しやすいのかを確認しています。
特に気象衛星ひまわりの良いところは、観測機械が置けない海上の情報を大量に得られるという点にあります。さらに、ほぼリアルタイムで広範囲同時に情報が得られることで、積乱雲がどこで発達しているかを把握するのに役立っています。
宙畑:海上の情報は、船舶から情報を得られないのでしょうか。
斉田:船舶からの観測データもあります。例えば陸上で発生する線状降水帯を予測するために、夏の時期は九州の西の海上に、観測機器を載せた船を展開して水蒸気量データをとることもしています。
線状降水帯については予測精度を上げるため、次に打ち上げる気象衛星10号、11号には赤外サウンダという水蒸気量を調べるための新しい機器を載せる計画になっています。衛星で観測することで広範囲に、リアルタイムで大気の水蒸気の変動を把握することができます。
衛星の打ち上げは、気象庁単独予算では打ち上げておらず、多目的衛星として他の省庁の予算と合わせて打ち上げを行っています。次の打ち上げでは、総務省主導の宇宙天気に関わる観測機器も一緒に搭載される計画となっています。現在もアメリカの衛星GOESは気象だけでなく、宇宙天気に関連するデータを観測していますが、人工衛星の役割はさらに発展していくはずです。
宙畑:テーブルデータはどのようなものを見られているのでしょうか。
斉田:皆さんがよく見るのは、地上の天気図がメインだと思いますが、実際には上空1500m付近、5500m付近、さらに上空のデータなど気圧ごとに分かれた高層天気図もあります。これらはラジオゾンデなどのデータを元に作られていますが、資料を立体的にみて予測を行っています。
基本的に気象の予測は、上空のデータで大きな流れを見て、広く捉えた上で特定の現象が起こりえる場合に地域を絞って、地上ではどのようなことが起こるのかを様々なデータと照らし合わせてみる流れです。その結果、どこで大雨や暴風のおそれがあるのか、何の理由で起こるのかが見えてきます。宇宙から地球を捉えるひまわりの情報は大気の流れなどを把握できるためとても重要です。
(7)小型気象観測衛星コンステレーションで何が変わる?
宙畑:気象衛星ひまわりについてうかがいましたが、現在は、小型の気象衛星コンステレーション構築が世界的に進んでいます。どのような期待がありますか。
斉田:一番の期待は、小型衛星をいくつも組み合わせることでこれまで以上にいろんな情報が得られるようになることですね。軌道の観点では、地球を遠くから捉えるひまわりよりも、より細かい情報が得られるようになります。災害情報も同じですが、情報をより細かく把握することで、それらのデータを組み合わせて判断することができるようになると考えています。
宙畑:ひまわりで見たときの雲と、小型の気象衛星コンステレーションで見る精度高く見える雲というのは、気象予報的にどのような有用な違いがあるのでしょうか。
斉田:小型の気象衛星コンステレーションによって、気象予測の精度を向上できる例では、台風の予測が挙げられます。台風は過去の雲のデータを元に、台風の発達具合をみて気圧が推定されています。これまでの気象衛星の打ち上げで少しずつ精度が上がってきた背景を踏まえると、ひまわりよりさらに細かいデータが取れるようになれば、今後ますます精度が上がっていくと考えています。気象観測衛星は、台風発生時の頼みの綱にすでになっていますね。
宙畑:ひまわりは静止軌道にいるため2.5分に1回データが送られて来ますが、小型のコンステレーションの観測頻度は、計画では1〜2時間に1回と言われています。
斉田:リアルタイムで撮り続けるのは難しいため、複数の衛星を組み合わせながら見ていく可能性もあるでしょう。また2時間ごとに観測する場合には、雲そのものをみる目的ではなく、影響変化として地上の被害や川の様子の変化などを精度高くみることが重要だと考えています。
今でも既に様々な業界が、気象情報と必要なデータを組み合わせて情報発信しています。例えば保険会社では、過去の台風情報と建物被害のデータから、今回の台風の勢力と比較して被災予測情報を出している会社もありますね。このようなデータ活用は、小型低軌道衛星が増えることで、さらに社会で役立つ可能性が広がると考えています。
宙畑:将来に向けて、技術的な実現可能性とは別に、こんなデータが取れるといいなあと思うものはありますか。
斉田:地球観測データについては、既に様々な周波数帯のデータがあり、データを増やす以上に精度高い情報を広範囲で取ることが重要になってきています。今後は太陽側の観測データを収集したいという思いが強いです。太陽側のデータ観測によって、データの役割をさらに広げることができると考えています。
例えば、スターリンクの小型衛星は、太陽風の影響を受けやすい状況があります。過去に打ち上げられたスターリンクの衛星が、40機程度落ちてしまった事象も発生しましたね。その原因も、太陽風の影響であったと分析されています。
宙畑:スターリンク以外にも、低軌道の衛星コンステレーションを構想している企業もあるので、今後宇宙天気の需要は増えるだろうと考えています。
斉田:将来的に月や火星に滞在する際にも宇宙天気が重要になるでしょうね。例えば、ispace社では2040年台には月に人が住み始める将来像を描いていますが、その頃には宇宙天気はメジャーになっていると思います。私自身、昔から宇宙飛行士に憧れがあったこともあり、その時には月面宇宙天気キャスターとして仕事で宇宙に行きたいですね。小型気象観測衛星のコンステレーションは、そんな将来の第一歩を切り開くものだと考えています。
(8)まとめ
異常気象のメカニズムに加えて、斉田さんの「誰に、何を届けるべきか」ということに対する思いをうかがいました。私たちが日々の天気予報を信頼できるのは、衛星観測技術の進歩と共に、キャスターの皆様の伝え方などの努力の賜物であるとあらためて感じました。
地球が変わっていく中で、地球に住む私たちの行動と意識も変える必要があります。小型気象衛星のコンステレーションも構想されていますが、観測データを私たちが活用するからこそ、新しいニーズが生まれ技術が進歩していくものだと考えています。
まずはハザードマップを確認する事で、異常気象に向き合う一歩を一緒に踏み出しましょう。