宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

人類は再び月へ~必要なキーテクノロジーとは?~

最近、週刊宇宙ニュースでは、連日のように各国の月探査の話題を目にします。本記事は、人類が月を再び目指している経緯と今後必要となってくるキーテクノロジーについて、ご紹介します。

最近、週刊宇宙ニュースでは、連日のように各国の月探査の話題を目にします。

人類が初めて月面に降り立ってから50年が経過する今、世界各地で様々なプレーヤーが月を目指しています。

本記事は、人類が月を再び目指している経緯と今後必要となってくるキーテクノロジーについて、ご紹介します。

(1) 月時代の到来

人類は1969年7月16日に初めて月に降り立ちました。しかし、72年を最後に、人類は月へ行っていません。にも関わらず、最近になって様々なところで、月に関する実験や開発プロジェクトを耳にするようになってきました。これはなぜなのでしょうか。

これには、大きく分けて二つの理由があります。
①民間企業が効果的に関われるように政策が変わってきていること
②国際宇宙ステーション(ISS)の寿命延長よりも、月での基地建設に焦点が集まってきていること
それぞれについて詳しく解説していきます。

 

①月探査に関する政策の変化

宇宙開発はかかる費用が膨大で、参入しづらいもの、大企業だけのもの、というイメージが昔からあります。これは、宇宙開発とビジネスがほど遠くなってしまったためで、この状況を打破するためには、政府やNASA(アメリカ)、JAXA(日本)、ISRO(インド)、ESA(ヨーロッパ)などの国の宇宙機関と、土台となる政策を変えていくことが必要です。

従来のアプローチでは、どちらかというと内向きで、国としての優先順位や研究活動によって導かれるターゲットを達成することを目指してきました。

これに対して新しい宇宙政策では、より外向きで、世界規模に破壊的、かつ高速に製品やサービスを提供できるようにすることを目指しています。イーロンマスク率いるSpaceXや、AmazonのCEOジェフベソスのBlueOrigin、日本ではiSpaceやアストロスケールなどがこれによって台頭してきました。

②ISSから月面基地へ

当初の計画で15年の寿命と想定していたISSですが、材料の劣化などの問題はあるものの、まだ利用できる余力が残っているため、各国の政府機関は運用を民間に任せる枠組みを作り、次々と民営化してきています。

では、ISSが民営化されたあと、各国は何を次なる目標に据えるのでしょうか?そこで検討の遡上に上がっているのが、月面基地の建設なのです。

月面基地は研究に利用されることはもちろん、火星探査への足掛かり、資源の抽出などに役立つと考えられています。

各国が月に注目してきたこともあり、大企業やスタートアップ、XPRIZE財団も月に注目し始めました。

The Google Lunar XPRIZE (GLXP)は、2007~2018年に実施されたコンペで、XPRIZE財団が主催し、Googleがスポンサーとなっていたコンペティションです。2018年3月までに初めに月面に着陸し500m走破しすることができたチームに賞金を進呈するというもので、これにはアメリカ、日本、インド、ドイツ、イスラエルなどの各国から様々なチームが参加しました。このコンペを通じて立ち上がったスタートアップなどが、月面基地に向けた研究開発を今も推し進めています。

(2) 月面基地建設のために解決すべき課題

ビジネスリーダーやエンジニアにとっては、課題を解決することが主な事業開拓へのモチベーションになります。しかし、企業が月での課題を技術で解決しようとするとき、そもそも何が課題になるのでしょうか?月面基地を建設していくのに、今何が求められているのでしょうか?

①月面科学と地図作成

月について、アポロ時代から様々な開拓がされてきているものの、まだ月と月表面について、わからないことも存在します。人間が月面で生きていくためには、月面の組成などについてより深く調査していくこと、月面の地理環境を理解していくことが必要になります。

②燃料と物流拠点の整備

人間が生活していく物資を供給するためには、地球と月の往復をするための燃料が必要です。地球から持っていった物資や燃料を貯蓄するための物流拠点が必要になります。

③有人着陸機の開発

人間が地球と月の間を往復するためには、最新の技術を使った有人の月面着陸機が必要です。ESA(欧州宇宙機関)では、以下のような要素が将来の有人月面着陸機の鍵となると考えています。

  1. ・人類による探査を安全に行うため、生命維持装置が組み込まれた固定式および移動式の居住ユニット
  2. ・人類の進出を準備するために自動で動くロボットシステム
  3. ・人類の月面での活動を支援し、最終的には月面基地をも支えられる電力発生装置と蓄積装置
  4. ・人間が生きていくために必要な消費財(酸素、水)を月面にある利用可能な材料から生成するシステム

アポロ計画の時は人類を数日で月まで輸送することができましたが、着陸機は軽量とは言えないものでした。現在の技術であれば、より軽い着陸機や装置を作ることができ、月面基地を作るにあたり必要な物資や安全性を確保できます。

④通信インフラの整備

月面基地が、人間が生活する拠点であろうと、その手前、科学的な実験を行うことが主目的の施設であったとしても、通信インフラは非常に重要です。地球にいる人間とのコミュニケーション、研究データの送受信、など大量のデータのやりとりが想定されます。また、月面上の通信インフラも現在は存在しないため、地球上と同様、youtubeを観たり、友達とFacetimeをしたりするためには、通信インフラを整備することは欠かせません。

(3) ”通信インフラ”整備に向けたNokiaの挑戦

月面基地建設のために必要な課題は多々存在しますが、中でも通信インフラに関しては、人間が生活をする前のフェーズ、月面を開拓するフェーズでも重要度が高いことから、月面基地建設においてキーテクノロジーになると考えられます。

通信インフラの整備において、主な課題は以下の3つです。

  1. ・なめらかで安定した遅延のない通信の実現
  2. ・ゼロからの月での通信網整備
  3. ・月の激しい環境(放射線と温度変化)に耐える小型軽量なネットワーク機器の開発

通常、月と地球の間は両方向で1.3秒の遅延が発生します。アポロミッションの時は1.3~2秒の通信遅延が月と地球の間で発生していました。なめらかで安定した遅延のない通信を実現するためには、大容量のアンテナや送電用の人工衛星の整備が必要になってきます。

現在、月面上に通信網は存在しません。Nokiaは、ボーダフォンドイツとともに、ドイツの新しい宇宙企業PTscientist とチームを組み、2019年に月面上に4Gの携帯ネットワークを構築することを発表しました。

Credit : PTscientist

通信インフラを構築してきた実績を生かして、Nokia Bell Labsで挑戦するのは、1kg以下の史上最軽量の4Gネットワークの構築です。次世代ネットワーク5Gは依然として試験フェーズであり、月面で用いるには安定性に欠けるため、安定感があり地球上での確固たる実績がある4G回線を採用しました。

(4) 月探査の未来

PT-Scientist・Nokia・ボーダフォンのチームでは静止衛星からの通信提供を試みていますが、AUDACYでは、月周回軌道から連続的な通信ネットワークを提供する計画を発表しています。

今回のような、複数の通信事業者+スタートアップのチームによるオープンイノベーションの取り組みが、月における通信の競争を後押しするようになると、月面基地開発がもっと推進されていくかもしれません。

最近では、中国の嫦娥4号が月の裏側への着陸成功がニュースを賑わせました。過去の月探査ミッションの対象となっていたのは月の表側であり、調査が進んでいない裏側に人工物が到達するのは初めてのことです。そんな嫦娥4号の着陸地点のマップは、他のミッションのものとは比べものにならないほど関心を多くの人から惹くことでしょう。

また今回のミッションでは、植物の育成にも成功しています。これまで国際宇宙ステーションで植物が育成された事例はありましたが、月面での取り組みは世界初となります。
少しずつ現実味を帯びてきている、月面基地計画。今回の取り組みは、地球から供給を受けずに生活を送ることができる常設拠点を建設するための最初のステップだといえるでしょう。

さらに打ち上げが延期されていた、インドの2度目の月探査ミッション チャンドラヤーン2号は1月から3月の間に打ち上げられると予想されています。これまでの延期は、月面への着陸を容易にするための大幅なデザイン変更が原因になっていたということです。

これらの探査ミッションをはじめとする人類を宇宙へと導く最先端技術によって、私たちは新たな希望や命の綱を生み出すことができるでしょう。