元電通マンの高松聡さん、Axiom SpaceのISS滞在飛行を予約。AIにはできない“心を打つ”地球撮影を目指す【宇宙ビジネスニュース】
【2024年3月4日配信】一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを宙畑編集部員がわかりやすく解説します。
元電通の広告クリエイターで、ロシアで宇宙飛行士訓練を受けた経験を持つ、高松聡さんが30日間のISS滞在に向けてAxiom Spaceと座席予約契約を完了したことを2月8日に都内で開催された記者会見で発表しました。ISS滞在中に、高松さんは⾼性能カメラで地球の撮影を⾏う計画です。
高松さんがISS滞在を目指した経緯や自ら地球を撮影することを目指すに至った理由をうかがいました。
個展で掴んだ写真家としての自信
子供の頃から宇宙飛行士に憧れていたという高松さん。大学在学中の1983年にJAXAの前身である宇宙開発事業団(NASDA)が実施した宇宙飛行士選抜試験の受験を試みるも、裸眼視力が応募要件を満たさずに、受験を断念したといいます。
そんな高松さんが宇宙に携わるチャンスを掴んだのは2001年のことでした。ISSのきぼう実験棟の本格的な利用開始を前に、船内の高精細度テレビジョンカメラを利用した事業提案をNASDAが公募し、高松さんらが提案した大塚製薬の健康飲料・ポカリスエットのCM制作がパイロットプロジェクトとして選定されたのです。日本初の宇宙CM『ポカリスエット』“IN SPACE”篇は、ロシアの宇宙飛行士の協力のもと、ISSで収録されました。
高松さんがこの宇宙CMを編集していたとき、アメリカでは同時多発テロが発生し、世界を激震させました。
「テレビのニュースに釘付けになって編集が完全に止まってしまいました。1年間これ以外の仕事は一切できないほど、宇宙CMの制作は本当に大変な手間がかかりまして、正直人生で2度とやりたくないと思っていました。ところが、9.11のニュースを見て、もし次の機会があるならば、平和をテーマに宇宙から地球を撮るCMをやりたいと心の中で密かに思いました」
「次の機会」は意外にも早くやってきたと高松さんはいいます。平和への願いを込めた、日清カップヌードルのCM「NO BORDER」の制作です。
その後、広告業界を引退した高松さんは、2015年にISSへの宇宙飛行を計画していたソプラノ歌手のサラ・ブライトマンさんのバックアップクルーとして、ロシアで訓練を行っていました。ところが、ブライトマンさんが飛行を辞退したことで、高松さんの宇宙飛行への道が絶たれてしまいました。
その一方で、訓練地のロシア・星の街やバイコヌールで撮影した写真を展示した個展「FAILURE」を2020年に開催し、大勢の来場客があったことで、写真家としての道を歩む自信つけたといいます。
AIにはできないフレーミングで、人の心を打つ映像を
30日間のISS滞在中に、高松さんは6台の⾼性能カメラをスタックして同時運⽤し、静⽌画3億画素、動画24K、VRではヘッドマウントディスプレイで60PPDを超える360度動画再⽣を実現する撮影を⾏う計画です。
さらに帰還後は、世界各地で映像を巨大なシアターで上映するエキシビションを開催することも計画しているといいます。
「100mのスクリーンを3m離れて見ると、宇宙ステーションから地球を見る相対感覚と同じ画角になります。つまり、実際に国際宇宙ステーションから宇宙飛行士が見ている景色です」
高松さんによると、宇宙から地球を見た多くの宇宙飛行士は、地球の環境の重要性を直感的に感じたり、⼀つの惑星で国家間の戦争が続いている現実を宇宙から考え、戦争のない地球を強く希求したりする「オーバービューエフェクト」と呼ばれる体験をするといいます。こうした「宇宙から地球を⾒る体験」を高松さんが立ち上げた、今回のミッションを推進するコミュニティ「WE」では、地上で提供していきたい考えです。
地球観測衛星が普及してきているなか、ISSから人が撮った映像にはどのような魅力や価値が出てくるのでしょうか。記者会見の終了後、高松さんにインタビュー取材を行い、うかがいました。
「僕が求めているものは、車1台1台や標識、歩いている人が見える、スパイ衛星のような高精細さではなく、宇宙から地球を一つの半円形として見たときに、それを限りなく高精細に見ることです。衛星で非常に細かいところで撮れる写真は、いわば顕微鏡で覗いているような写真ですけども、僕は地球というものを一つの惑星として撮ろうとしています」
「フレーミングをする行為に、やはりアーティスト性ないしは写真が心を打つポイントが出てくると思います。10年後はAIでもできると予想しますが、少なくともこの2、3年は、フォトグラファー、アーティストが宇宙に行く必要があるでしょう。どこをどう切り取って、どういう質で、どんなダイナミックレンジ(明暗の幅)で収めるか。一番明るいところの白飛びを許して、暗いところを潰さないようにするのか。意図的なダイナミックレンジの使い方も、フレーミングにありますから。そういう総合的な写真の作成判断がまだAIではできず、アーティストが宇宙に行く必要があると思います」
また、高松さんはISS滞在の先には、衛星の打ち上げも計画していることを語って下さりました。
「実は、将来的には人工衛星を打ち上げたいと思っていまして。ISSの軌道は低すぎて、地球を半円形に撮ろうとしたら、相当超広角レンズでないと写りません。それに、ISSの太陽光パネルが邪魔になって、なかなか地球だけの写真は撮れないんです。ですから、もっと高い軌道に地球撮影衛星を打ち上げたいですね。人が乗らない人工衛星だからこそ、自由な高度から写真を撮れます」
⾼松さんは第⼀回⽬の Axiom Space への⽀払いをすでに完了していて、今後は世界中の個⼈、ブランド、財団等に協賛を依頼し、必要経費のファンドレイジングを⾏う予定です。
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参考
アートコレクティブ WE(代表 ⾼松聡)は Axiom Space(⽶国ヒューストン)との重要なマイルストーンを発表します。