宇宙戦略基金、第1弾の公募が出揃う。衛星データ利用実証や衛星部品開発など、宇宙ビジネス新規参入者求む2つのテーマ
2024年8月23日、2024年4月に発表された約3000億円分の第一弾の技術開発テーマすべてにおいて公募が出揃いました。そのなかでも、宇宙ビジネス新規参入者を求む2つのテーマを宙畑編集部独断でピックアップして事例と合わせてまとめています。
2024年8月23日、宇宙戦略基金のHPにて、新たに5つの公募テーマの公募が開始されました。この掲示をもって、2024年4月に発表された約3000億円分の第1弾の技術開発テーマ、すべての公募が出揃いました。
どのような技術開発テーマがあるかについては「宇宙産業に関する政府支援プログラムと予算の割り当てまとめ~宇宙戦略基金、SBIR、スターダスト、Kプログラム~」をご覧ください。
宇宙戦略基金の発表があってから今に至るまで、宇宙戦略基金への期待の声が多くありました。その一方で、宙畑編集部では、宇宙ビジネスに現時点で参入してない企業の方からは「宇宙ビジネスに興味があるけれど自社で何ができるかわからない」という声も聞いています。
そこで、本記事では、第一弾で発表された公募の中でも、これまで宇宙ビジネスに参入していない企業が応募できる可能性のある公募テーマを宙畑の独断で2つピックアップして紹介します。本記事で紹介する2つのテーマ以外にも参入チャンスのあるテーマはもちろんありますので、興味がある方はぜひすべてのテーマをご覧ください。
(1)先行事例にはカゴメ、日清食品、王子製紙も? 衛星データ利⽤システムの海外実証
まず紹介したい技術開発テーマは「衛星データ利用システム海外実証(フィージビリティスタディ)」です。
衛星データとは、地球を観測する人工衛星が取得したデータを総称したもので、私たちの目で見るような光学カメラによって撮影したデータもあれば、SARといってレーダーを活用して地上を観測した衛星データなどがあります。
衛星データにどのような種類があるかは「衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~」をご覧ください。
具体的にどのような利用例があるのかピンとこない方も多いかもしれませんが、実は、すでにすでに衛星データをビジネスに取り入れている日本企業も少なくありません。
例えば、東京海上日動火災保険が国内で自然災害が発生した際に迅速に被保険者に保険金の支払いができるように衛星データで被害の状況が把握できるようなソリューションを開発しています。他にも、関西電力は衛星データを用いて太陽光発電の供給量を予測し、発電の最適化を行っています。
そして、今回の衛星データ利用実証の舞台となるのは海外です。地球観測衛星は日本に限らず地球全体を国境に関係なく、広域に撮影が可能となるため、日本企業であっても海外となんらかのかかわりがある事業を進めている場合は利用のチャンスがあります。
日本企業でありながら海外での衛星データ利用を行っている企業もすでに存在しており、本記事ではその事例をいくつか紹介します。
海外での衛星データ利用事例①:ケチャップ用トマトの栽培(カゴメ)
誰もが一度は見たことがあるだろう家庭用ケチャップを生産するカゴメは、ケチャップやトマトソースといった加工用のトマトを栽培する農園をポルトガルに持っています。
では、どのように衛星データを利用しているかというと、衛星データとベテラン農家の行動データをかけ合わせることで営農支援システムを開発しています。これまでは原料のトマト調達が農家さんのスキルに依存してしまい、安定的にならないという課題があったところから、営農システムを使うことで使わない圃場と比較して以下の画像のような明確なトマトの生産量の差が生まれたそうです。
実際のお取り組みの内容や営農支援システムの完成に至るまでの経緯は「『結果が出なかった時期も、駄目だなとは全然思わなかった。』海外のトマト栽培を変えるカゴメxNECの新規事業に迫る!」でまとめておりますので、ぜひご覧ください。
海外での衛星データ利用事例②:パーム油の原料となるアブラヤシ農園のモニタリング(日清食品)
続いての事例はカップヌードルや日清焼そばU.F.O.といった即席麵の人気ブランドを展開する日清食品の取り組みです。
同社の即席麺の揚げ油にはアブラヤシから採れるパーム油が使用されていますが、アブラヤシは、一部の農園で熱帯雨林の破壊、生態系の破壊、泥炭地火災による温室効果ガスの排出、農園労働者の人権侵害などの問題を抱えていることが指摘されています。
そのため、衛星モニタリングツール「Satelligence (サテリジェンス)」を用いて、ミル(搾油工場)や周辺のアブラヤシ農園が位置するエリアの森林や泥炭地の破壊リスクを検証しながら、リスクが高いと判断されたミルについては、購入元の油脂加工メーカーと事実関係を確認し、状況改善に向けた対応策を検討しているそう。
カゴメの場合は、自社の商品のための原料となるトマトの生産量を増やすために衛星データを活用するという事例でしたが、日清食品の場合は環境に配慮した原料調達を行うための衛星データ利用事例となっています。同じ食品業界と言えども様々な衛星データ利用事例が存在します。sorano meが発行する「衛星データ利活用レポートsorano me Inisight vol.1<食品産業編>」によると、食品業界の約40%がすでに衛星データの利用経験があるとされています。
海外での衛星データ利用事例③:紙の原料となるブラジルの森林監視(王子ホールディングス)
続いての事例は、「nepia」のブランドでおなじみのティッシュペーパーやトイレットペーパーの製造と販売を行う王子ホールディングスの衛星データ利用事例です。
同社は、NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthと名のついたNEDOグリーン分野に係る課題の解決を、衛星データ等を活用することで、より効果的に実現する技術を収集・分析し、将来の共同研究等に繋がる技術シーズを発掘する懸賞金型コンテストに協力をしています。
同コンテストの一環で行われたイベントでは、国内外に約60万haの森林を保有しており、ブラジルの森林については衛星データを用いたモニタリングを行っているとの発表がありました。
また、NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earthのサイトには「新しい技術を活用して、社有林の生物多様性の価値の定量化、経済指標化に取り組みたい」と同社の狙いが記載されており、衛星データ利用に注目していることがうかがえます。
海外での衛星データ利用事例④:会計監査における資産の現物確認や状況把握(EY新日本)
続いての事例は監査法人であるEY新日本の衛星データ活用事例です。同社は建設業、電力業、金属業の2024年3月期の会計監査において、世界中に点在するクライアントの資産等の現場視察の補完手続きや状況変化の確認のために人工衛星が取得した衛星データの活用を開始したと発表しています。
活用の背景には海外や山地などの遠隔地や広範囲に存在している場合など、現地の往査や全体の状況把握が難しいケースがあり、資産の実在性や稼働を効率的かつ効果的に確認するためとしています。
本事例は、農地や森林といった自然物だけではなく、人工物についても衛星データの利用事例があるという一例として紹介しました。人工物を見た衛星データ事例としては、他にも車の数を数えて特定企業の売上予測、駐車場を見つけてシェアリング打診の営業に利用、石油タンクの蓋の状態を見て原油の在庫量予測といった利用事例もあります。
以上、日本企業で海外を舞台とした衛星データ利用を進めている事例の一部を紹介しました。ここで紹介した事例の他にも、衛星データ利用は様々な可能性を秘めており、事例も多く存在します。
その他の衛星データ利用事例に興味がある方は、ぜひこれまでに宙畑で取材を実施した衛星データ利用事例記事の一覧もごらんいただけますと幸いです。
また、衛星データ利用実証に興味はあるが、何から考えたらよいか分からない、どの企業に相談したらよいかわからないという方がいらっしゃいましたらいつでも宙畑宛にお問い合わせをいただけますと幸いです。
(2)日本の宇宙産業のサプライチェーンを強固に! 人工衛星コンポーネントの開発・実証
もうひとつ、これまで宇宙ビジネスに参入していなかった企業でも注目の技術開発テーマは「衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証」です。
現在、ひとつめの技術開発テーマで出てきたような地球を観測する人工衛星に加えて、通信衛星など、多種多様な衛星の量産化と早期の衛星コンステレーション(星座を指す単語で、複数の衛星を宇宙空間上に配備することで目標とする機能を実現するシステム)構築が重要となっています。そのため、小型の衛星を量産するための部品・コンポーネントの供給体制を確立することも同じく重要です。
さらに、ただ量産できればよいというわけではなく、衛星ミッションの高度化も進んでおり、高機能・高性能な部品・コンポーネント技術が求められています。実際に公募に記載されている内容を見ると「精度・効率・寿命・消費電力・出力等の機能・性能において、ユーザの要求水準に達していないものや、製品の機能・性能としては成熟していても、価格や納期、調達自在性等の観点から課題のあるものが存在し、これらの課題が、今後の衛星のシステムとしての機能・性能向上や量産化に向けたボトルネックとなっている」という記載もあり、日本の宇宙産業を成長させるうえで既存のサプライチェーンだけでは課題があるという現状がうかがえます。
一方で、現時点宇宙ビジネスに参入していない企業が今後の衛星に必要な部品・コンポーネントを開発できるのかという不安もあるかもしれません。その不安を払拭できるかもしれない興味深いお話として、2024年8月22日に北九州市で行われた九州宇宙ビジネスキャラバンでインターステラテクノロジズのファウンダーである堀江貴文さんが話されていた内容を紹介します。
インターステラテクノロジズは民間企業として初の宇宙空間に到達したロケットを開発した企業であり、現在はZEROと名のついた超小型衛星打ち上げ用の新型ロケットを開発中です。
堀江さんによると、ロケットに使われるとある部品について、国内で作れる会社はその1社しかなかったことが心許ないということで、別の会社に発注をして、試作品を作ってもらったそうです。その結果、既存の1社と同じぐらいの性能で使えたことで「これが日本のサプライチェーンの厚さだ」「航空宇宙のクオリティで使えるような部品が作れるポテンシャルを持っている会社が日本にはたくさんある」と思ったと北九州市で話されました。
では、どのような部品・コンポーネントが重要とされているのでしょうか。宇宙技術戦略で重要性が掲げられている衛星部品・コンポーネント技術を並べると以下の通りです。
また、自律性の観点から日本として特に開発が必要な部品・コンポーネントであって、製品として未だ十分な技術成熟度に到達しておらず、技術開発のリスクが特に大きい技術については、国が委託事業で技術開発を行う必要性が認められるとして、以下2つの衛星部品・コンポーネント技術については、委託開発の対象になるとされています。
-価格・性能において競争力のある国産太陽電池セル
– 宇宙耐性のある高性能計算機を構成する国産デジタルデバイス及びそ
の主要部品(CPU、MPSoC、FPGA 等)
ぜひ、上記の技術開発の具体的な項目を見て、我が社でも取り組めるものがあるのでは?と思われた企業は応募を検討してみてください。また、本記事の内容は公募の内容を宙畑編集部の視点でまとめたものとなっておりますので、実際に応募をされる際は必ず公募の詳細をご覧ください。
(3)2035年約1.8兆ドルにまで成長する宇宙ビジネス市場への挑戦
以上、本記事ではこれまで宇宙ビジネスに参入していない企業が応募できる可能性のある公募テーマを宙畑の独断で2つピックアップして紹介しました。
2024年4月に公表された「Space: The $1.8 Trillion Opportunity for Global Economic Growth」によると、宇宙ビジネスの市場規模(世界全体)は2023年時点で6300億ドルから2035年には1兆7900億ドルと約3倍になると予想されています。
本記事をご覧になって、成長が期待される宇宙ビジネスの世界に飛び込んでみたい!という方がいらっしゃいましたらぜひ宇宙戦略基金の公募に応募してみていただけますと幸いです。今回の記事で紹介した公募の応募〆切といった概要は以下の通りです。
■衛星データ利用システム海外実証(フィージビリティスタディ)
・公募期間:2024年8月23日から2024年10月24日まで
・概要:海外における社会課題等に対応する衛星データ利用システムの開発・実証を支援し、日本の衛星データ利用ビジネスのグローバル展開に繋げることで、宇宙ソリューション市場の拡大を目指す。
・公募リンク:技術開発テーマのページを見る
■衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証
・公募期間:2024年8月23日から2024年10月24日まで
・概要:ユーザニーズに応える部品・コンポーネントの機能・性能向上や、QCDの課題解決に必要な技術開発を支援し、日本の衛星システム全体としての自律性や競争力の強化を支えるとともに、技術優位性を持つ部品・コンポーネント単位での国際競争力獲得を目指す。
・公募リンク:技術開発テーマのページを見る