宙畑 Sorabatake

アップデート

様々な産業にAI、そして衛星データが溶け込む未来へ。「IVS 2025」で見た宇宙産業への熱視線

2025年7月2日~7月4日の3日間、京都で開催された国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2025」について、宇宙ビジネスに関するセッションや注目のポイントをまとめました。

2025年7月2日~7月4日の3日間、京都市勧業館「みやこめっせ」、ロームシアター京都などの会場で日本と世界中の起業家・投資家などが集まる国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2025」が開催されました。公式のXの投稿によると、参加者数は13,000人以上と非常に大盛り上がりだったようです。

IVS 2025では、宇宙ビジネス関連のカンファレンスや登壇も多く、宇宙ビジネスへの注目度の高まりが感じられる3日間でした。

本記事では、IVS2025で見た宇宙ビジネス関連セッションの一覧と、衛星データに関する話題があったセッションについてはその内容も紹介をします。

(1)IVS2025で見つけた宇宙ビジネス関連セッションと登壇

まずは、IVS2025における宇宙ビジネス関連の話題を並べると以下の通りです(宙畑編集部調べのため他にも存在した可能性あり)。

・ピッチコンテスト「IVS LAUNCHPAD」でJAXAベンチャー天地人が2位

IVSの目玉イベントと言っても過言ではない、「次世代の起業家の登竜門」とも呼ばれるピッチイベント「IVS LAUNCHPAD」に、JAXA認定の宇宙ベンチャーである天地人の代表取締役、櫻庭康人さんが登壇し、同社の宇宙水道局を紹介。その結果、350社以上 (うち海外企業およそ15%)の応募があったなかで見事2位を受賞しました。

著名な投資家・経営者・起業家から選出される審査員の前で衛星データ含むその他ビッグデータを活用したソリューションの可能性をアピールし、その魅力がしっかりと伝わったことが分かる結果になったように思います。

その翌日、宙畑編集部では櫻庭さんに独占インタビューの機会をいただきました。後日インタビュー記事を公開予定です。

・DEEPTECH STAGE「宇宙へ挑む、市場の最前線と成長 へのロードマップ」

宇宙ビジネスへの注目が高まる中、参入・成長・IPOはどう描かれるべきか。衛星データ、成層圏観光、宇宙メディア、投資家といった最前線のプレイヤーが登壇。スタートアップの成長戦略や投資家の視点、そして世界から見た日本の動向まで、宇宙ビジネスのリアルに迫る。

本セッションは、唯一宇宙ビジネス関係者のみで登壇者が揃えられたセッションでした。Uchubizの編集長である藤井涼さんがモデレーターとなり、パネリストにはTellusのCOO・牟田さんのほか、Solafuneの代表取締役・上地練さん、岩谷技研の取締役・田中克さん、Z Venture Capitalのプリンシパル・内丸拓さんが登壇。

Z Venture Capitalの内丸さんからは同社で300億円規模の新しいファンドを2025年1月に立ち上げ、明確に宇宙ビジネスがDeep Tech領域の中でも注目の領域であり、インターネット産業の初期の盛り上がりと同様の状態にあるとこれからの宇宙ビジネスへの期待を話されていました。

また、岩谷技研の田中さんからも、実際に市場として大きくなる期待感や売り上げが実際に立ち始めているという実感は投資家の方にも浸透し始めているとコメントがありました。

本セッションについては、第2章でも興味深かったポイントを紹介しています。

・DEEPTECH STAGE「緊急提言!世界情勢から考える経済安全保障とデュアルユーススタートアップ」

米中摩擦が激化する中、日本は米国の戦略的パートナーとして安全保障上の存在感を強めるポジションにいる。政府は経済安全保障を重視し、ディープテックへ巨額補助金を投入。通常資金調達を超える成長機会と評価基準の変革を生み、特に宇宙×防衛領域が加速成長の鍵となる。本セッションではVC、省庁、企業が政策によるビジネスチャンスとリスクを徹底討論する。

本セッションには、小型の中継衛星による光通信ネットワーク「WarpHub InterSat」の構築を進めるワープスペースのCFO、北原明子さんが登壇。

・ENTERTAINMENT STAGE「宇宙視点で拓く、文化・アートの新境地」

『宇宙視点で拓く、文化・アートの新境地』は、宇宙という究極の外部視点から、人間の感性や身体性、そして文化やアートが持つ非言語コミュニケーションとしての所作の価値を問い直す40分の知的対話である。東洋的な宇宙観、禅的マインドフルネス、ロボットとの融合を通じ、シンギュラリティ時代の新たなビジネス領域を切り拓く視座と実践的ヒントを提供する。

本セッションのモデレーターを務められたのは、スペースデータの執行役員CMO、スペースポートジャパンの創業者兼理事である片山俊大さん。

参加者は座って聞いて止まっているように見えるが、実は地球の自転しており、約1,500km/hという速さで動いている。また、公転速度は約10万7000km/hであり、太陽の銀河系における公転速度は……というように、宇宙という視点を人間が持つことによって、これからの新しい時代を豊かに生き抜くヒントを得られるという興味深い時間でした。

・【サイドイベント】宇宙ミートアップ「AI時代のビジネスに“宇宙“という選択肢を―衛星データのリアルな使い方と未来像」 by サテライトデータビジネス協会 / JAXA

衛星データを活用できる人材の育成を通じて宇宙技術の社会実装を促進するサテライトデータビジネス協会が主催する初の関西開催イベントです。

本イベントでは、スタートアップ企業の経営者・事業開発担当者、投資家・VC関係者、大企業の新規事業開発担当者、技術系エンジニア・データサイエンティスト、地方自治体の産業振興・防災担当者、学生・研究者など幅広い方々に参加いただき、関西地区における宇宙ビジネスエコシステムの構築を促進し、衛星データを活用した新たなビジネス創出につなげることを目指しています。

サテライトデータビジネス協会は、株式会社天地人、株式会社sorano me、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)によって、新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(J-SPARC)」の枠組みのもと設立されました。

近年の宇宙予算増大に対して、宇宙人材が足りていないという課題が顕在化するなか、教材及び検定システムの開発を通じて、衛星データの使い道を広く世の中に啓蒙するとともに、衛星データ利用人材拡大を目的として活動しており、今回のサイドイベント開催もその一環でした。

【サイドイベント】宇宙・セキュリティ・防衛Meet up

宇宙・セキュリティ・防衛に関するスタートアップ、事業会社、投資家のためのミートアップ&資金調達、事業連携、情報交換を目的としたネットワーキングイベント。

対象者は宇宙・セキュリティ・防衛のスタートアップ、宇宙・セキュリティ・防衛にご関心のある事業会社・投資家・行政機関となっており、宙畑編集部は参加できませんでした。参加した方によると、海外から普段会えないような投資家の方もいらっしゃっていたそうです。

以上、サイドイベントも含めると6つの宇宙ビジネス関連の登壇者やキーワードが含まれたセッションがありました。

ちなみに、ここで挙げたセッション以外にも、政策によるスタートアップ支援の事例として宇宙戦略基金に関する話題が取り上げられていたことを、たまたま通りがかったセッションで確認しました。宇宙ビジネスという話題のセッションに限らず、宇宙ビジネスの話題が取り上げられるような状態になっていたことは非常に印象的でした。

(2)通期黒字化を達成しているSolafuneが考える衛星データ活用の価値と衛星データ活用のハードル

では、具体的にどのようなことがそれぞれのセッションで語られていたのか。衛星データに関する話題に絞って、いくつか印象に残ったポイントを紹介します。

まず、Solafuneの代表取締役である上地練さんとTellusのCOOである牟田梓さんらが登壇した「宇宙へ挑む、市場の最前線と成長 へのロードマップ」では、衛星データを活用したビジネスを展開するうえでの重要なポイントが語られました。

Solafuneは、衛星データやその他必要なデータをもとに顧客が必要な情報をインサイトとして提供するビジネスを行っています。2024年のIVS LAUNCHPADでは、天地人と同様に2位を受賞しています。

上地さんの言葉で、非常に印象的だったことは「日本は良くも悪くもインフラが整っており、国の面積も小さい。衛星データは惑星規模で様々なデータを取得できる中で、日本での活用に限定するような衛星データ活用事例を作ろうとする動きがあるのはもったいない。だからこそ、私たちは衛星データの本来の強みを活かせるようなポジション取りや事業開発、顧客との関係構築を愚直にやっている」と語られていたことでした。実際に、2025年7月25日にはコンゴ民主共和国鉱山省とMOUを締結を発表していました。

また、現在は、防衛省、内閣官房、警察庁、海外では国連やその他政府機関などと直接契約を締結しており、通期で黒字化を達成しているとのこと。

また、Uchubizの藤井さんからTellusのユニークなポイントについて質問された上地さんは「日本で衛星データの活用を促進するために基幹システムを整備しようという動きが出てきたことは素晴らしいこと」と前置きしたうえで、「衛星データを使おうとしても、ライセンスの問題で自由に使えるわけではないことや、ダウンリンクのスピードが遅い」といった課題についても言及しました。

(3)様々な産業にAI、そして衛星データが溶け込む未来を作るヒント

サテライトデータビジネス協会が主催した宇宙ミートアップは、以下の3つのセッションと最後にミートアップの時間がとられた4部構成でした。

最初にJAXA・新事業促進部事業開発グループ長の高田真一さんが宇宙ビジネスの概況を紹介。その後、天地人の寺田胡桃さんのモデレートのもとで、天地人・データプロセッシングチームの大貫航太朗さんと、sorano me・共同創業者であり、宇宙ビジネスメディア「宙畑」編集長の中村友弥が、衛星利用ビジネス検定や衛星データ利用の可能性が紹介され、最後にJAXA第一宇宙技術部門衛星利用運営センターの江藤由貴さんによる衛星データの基礎や利用事例についての非常にしっかりとした紹介が行われました。

参加予定の登録者は132名で、会場を訪れた参加者は宇宙ビジネスや衛星データについてまだ関わっていないという方が多く参加。JAXAの高田さんと江藤さんの発表では、宇宙産業に関わっていない企業が宇宙ビジネスに関われる時代になったことが示され、ミートアップの時間は高田さんと江藤さんとの名刺交換のため、時間切れになるまで長蛇の列ができていました。

天地人の大貫さんからは、実際に同社のツールである天地人コンパスを用いて、衛星から取得した夜間の光のデータや地表面温度のデータが紹介されました。同社はこれらのデータを用いて水道管の漏水リスク評価を行っているとのこと。

また、宙畑の中村が登壇した際に、Starlinkを知っている方に手を挙げていただいたところ、ほとんどの方が手を挙げ、Starlinkの知名度の高さに驚くという場面も。中村からは、Starlinkと同様に、地球観測衛星も地球全球をモニタリングすることが可能なツールであり、様々な産業に活用の余地があることと、宙畑のカテゴリも各産業に応じた事例を見つけやすくなるようにリニューアルしたことを紹介しました。

(4)まとめ

今回、宙畑編集部としてIVSに参加したのは初めてのことでした。昨年は、Solafune以外にもIVS LAUNCHPADの決勝でAI×衛星データ×不動産に取り組むPenetratorが登壇していたことなど、数あるスタートアップの中でも宇宙ビジネスへの注目が集まっていることを知るため、非常に気になっていたイベントでした。

実際に訪れて感じたのは、生成AIに関するセッションやサイドイベントが多く行われ、注目を集めていたことです。これはおそらく生成AIがあらゆる産業をアップデートする可能性があるという期待の現れでしょう。

生成AIと同様に「世界のマクロナーデータを集める際には衛星データを使うのが当たり前」となるためにも、衛星データで何ができるかを知ること、そして、実際に衛星データを使える人が増えることは非常に重要です。

そのような背景からも、衛星データ利活用のハードルを下げる衛星データプラットフォームTellusの取り組み、衛星データについて学べるメディアや検定事業といった取り組みは非常に重要だと実感した3日間でした。