【持続可能な宇宙開発に向けた快挙】Pale Blue、世界初となる水イオンエンジンの軌道上作動に成功!【宇宙ビジネスニュース】
2025年9月10日、Pale Blueは、水を推進剤とするイオンエンジン(PBI)の軌道上作動に、世界で初めて成功したことを発表しました。その概要を紹介します。
2025年9月10日、安全で持続的に利用可能な「水」を推進剤に用いた人工衛星向けの推進機(エンジン)の開発・製造を進めるPale Blueは、水を推進剤とするイオンエンジン(PBI)の軌道上作動に、世界で初めて成功したことを発表しました。

2025年1月8日には、イタリアのD-Orbit社と契約し、同社の小型衛星にPBIを搭載して2025年内に2回の打ち上げを行うことを発表していました。
参考記事
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今回成功した水イオンエンジン(PBI)は、1U+サイズ(約10cm四方)と非常に小型でありながら、非常に高い推進効率を有しています。クラスタ化(複数台組み合わせることでより大きな推力を得ること)も可能であり、様々な衛星ミッションに対応できます。
宙畑メモ:水イオンエンジンとは
水を直接プラズマ化し、それを電気的に加速・噴射することで推力を得るエンジン。燃料となる水は安全で安価、かつ我々の身近に存在するため、持続可能な宇宙開発に貢献する技術として注目されている。
宙畑メモ:1Uとは
超小型衛星(Cubesat)のサイズを表す基本単位のこと。1Uは約10cm×10cm×10cmの立方体で、質量は約1.33kg以下と定められている。この規格に則る形で、2U、3U、6Uといった様々な超小型衛星が開発されている。
従来、衛星の推進剤にはヒドラジンなどの毒性・爆発性のある物質が使われることが多く、取り扱いや燃料充填に特別な設備と注意が必要でした。また、噴射に要する余熱時間が短く、必要に応じて速やかに噴射することができます。
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安全で調達・運用が容易な「水」を推進剤とすることにより、開発・製造におけるリスクやコストの削減、調達を含むサプライチェーンの簡素化、より柔軟な衛星運用の実現が期待されます。この特徴を活かし、様々な小型衛星ミッションでの活用が期待されており、同社はすでに量産体制を確立し、国内外のパートナーへの納入を進めています。

今回の成功に際し、Pale Blue 代表取締役の浅川純さんは、以下のようにコメントしています。
「この度、水イオンエンジン『PBI』の軌道上作動成功という大きなマイルストーンの一つを達成することができました。PBIは、安全性・取り扱い性・調達性に優れた推進剤である水を使用し、約10cm四方と非常に小型でありながら高い性能を持つ、世界でも類を見ない推進機です。この製品・技術が、今後の宇宙開発や衛星利用の可能性を拡げることに繋がると確信しています。ご支援いただいた全ての皆様に深く感謝するとともに、PBIの社会実装に取り組んできたPale Blueのチームを心から誇りに思います。」
また、Pale Blueは、2025年9月14日からロンドンで開催される国際電気推進会議(International Electric Propulsion Conference)にて、今回の実証成功に関する学会発表も行っています。
近年、世界各国が小型衛星のコンステレーション構築を進める一方で、衝突リスクの増加や運用後に衛星がデブリとして留まることが問題視されています。特に、推進機を搭載しない小型衛星は軌道変更ができず、他の衛星との衝突リスクを高める要因となります。
今回実証された1U+サイズで高性能な水推進機は、これまで構造的に搭載が難しかった超小型衛星にも搭載できる見込みがあり、ミッション終了後に計画的に軌道離脱させる有効な手段となります。また、安全・低コスト・調達性のある「水」を燃料とすることで、コスト面で推進機の搭載が難しかった小型衛星にとっても受け入れやすくなることでしょう。これらの活動によって、小型衛星のデブリ化を防ぐ良い兆しになると期待が持てます。