【ispace、シスルナ・エコノミーに向けて月面開発で連携加速】栗田工業・高砂熱学工業との提携など5つの重要発表【宇宙ビジネスニュース】
2025年10月6日、ispaceが、今後の月面探査・開発を大きく前進させる5つの重要な発表を立て続けに行いました。その概要について紹介します。
2025年10月6日、月面開発に取り組むスタートアップであるispaceが、今後の月面探査・開発を大きく前進させる5つの重要な発表を立て続けに行いました。特に、水処理大手の栗田工業や空調設備大手の高砂熱学工業との資本業務提携は、月面での水資源利用の実現に向けた動きを加速させるものとして注目されます。
ispaceは、月への高頻度かつ低コストの輸送サービスを提供することを事業の中核としており、2023年には民間企業として世界で初めて月面着陸ミッション(ミッション1「HAKUTO-R」)にチャレンジし、今年の6月にも2度目の月面着陸(ミッション2)に挑戦しました。
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                                今回発表された5つのニュースは、ispaceの技術開発、資金調達、そしてグローバルなパートナーシップの拡大を同時に示すものであり、同社が描く月経済圏「シスルナ・エコノミー」の構築が着実に進んでいることを裏付けています。
宙畑メモ:月経済圏「シスルナ・エコノミー」とは
ispaceがビジョンとして掲げる、地球と月の間の宇宙空間(シスルナ空間)に構築される持続可能な経済圏です。第一段階として月への輸送サービスを事業化し、第二段階で月の水資源を開発・利用。最終的には、月面で水から製造した水素や酸素をロケット燃料として供給したり、月面でのインフラ建設や人間の長期滞在を実現したりすることで、地球の経済圏を宇宙にまで広げることを目指しています。
(1) 栗田工業との提携で目指す「月面の水を『使える水』へ」
ispaceは、栗田工業を割当先とする約20億円の第三者割当増資を発表しました。これにより、両社は月面における水の回収・浄化・再利用に関する革新的なソリューションの創出を目指します。栗田工業は、水処理装置や薬品、メンテナンスなど、水に関わるあらゆる事業を手掛けた実績があり、ISSで実証した水処理技術など、宇宙における水処理にも挑戦しています。将来的には、月の水からロケットの燃料となる水素や酸素を製造したり、人間の滞在に必要な水を供給したりと、持続的な月面活動の鍵を握る技術として期待されています。
また、本リリースについて、ispace CEOの袴田武史さんは「栗田工業様との連携は、ispaceが掲げるシスルナ経済圏の実現に向けて、極めて重要なマイルストーンであり、持続可能な宇宙活動の基盤となる水資源の循環技術の確立に大きく寄与するものと確信しております。3月の水処理システムの技術検討における覚書と今回の資本参加を通じて、月面における水の回収・浄化・再利用に関する革新的なソリューションの創出を加速させ、将来的な有人探査や月面居住の実現に向けた礎を築いてまいります。栗田工業様との強固なパートナーシップのもと、宇宙と地球の未来に貢献する技術開発を推進してまいります。」とコメントしています。
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(2) 高砂熱学工業との提携は月面での熱制御と資源採掘のため
同様に、高砂熱学工業を割当先とする約30億円の第三者割当増資も発表されました。高砂熱学工業が持つ熱制御技術は、極低温から高温まで温度差が激しい月面環境において、水資源の採掘や利用、さらには精密機器の保護に不可欠です。また、世界初の月面での水電解装置の開発を進めており、ミッション2の着陸機には実証用の機器が搭載されていました。両社は技術検討を更に加速させ、2028年までに打上げを予定する2回のミッションで、ペイロード搭載と月面実証を目指します。
また、本リリースについて、高砂熱学工業の代表取締役社長、小島和人さんは「このたび当社は、『月面エコシステムの構築に向けた技術実証への挑戦』に向け、株式会社ispace様が実施する第三者割当増資を引き受けさせて頂きました。ispace様が挑戦される月経済圏の構築は、地球環境の枠を超えた新たな価値創造の可能性を秘めており、当社の「環境クリエイターⓇ」の理念とも深く共鳴いたします。今後も、当社はispace様をはじめとした様々なパートナーとの協働を通して、技術力の向上と挑戦を志向する組織風土の醸成を図り、地球と宇宙の未来に貢献してまいります。」とコメントしています。
(3)「宇宙戦略基金」事業での台湾国家宇宙センター、東京科学大学との連携
ispaceは、台湾国家宇宙センター(TASA)が公募する科学ミッション機器の月面輸送サービスに採択されました。2028年に打ち上げ予定のミッション4にて、TASAの「ベクトル磁力計及び紫外線望遠鏡」を月へ輸送する契約を締結予定です。契約総額は8百万米ドル(約11.7億円)となる見込みです。ispaceは、ミッション2では台湾中央大学による深宇宙放射線プローブをペイロードとして搭載するなど、台湾の産学官との間で連携を進めてきました。
また、ispaceは、東京科学大学を代表とするプロジェクトチームの一員として、「宇宙戦略基金」の「月面の水資源探査技術(センシング技術)の開発・実証」プロジェクトに参画しています。ispaceは、同事業に関する衛星開発と打ち上げ輸送、運用業務を担当することを発表しています。具体的には、ミッション4として、このプロジェクトチームで開発したペイロードを搭載予定であり、TASAとの開発機器は、同ミッションの第二のペイロードとなる見込みです。
(4) ispace EUROPE、米企業と大型ペイロード契約を締結
ispaceの欧州法人であるispace EUROPEは、月面資源開発企業であるマグナ・ペトラと、総額22百万米ドル(約32億円)のペイロードサービス契約を締結しました。2027年に予定されているミッション3で、NASAが開発した月面用質量分析計「MSOLO」を月へ輸送します。これは、月面レゴリス中に含まれるとされる、ヘリウム3などの資源探査を目的としたもので、核融合によるエネルギー源や量子コンピューターの冷却技術として注目されています。ispace EUROPEは、MSOLOを搭載するローバーの設計開発を行い、米国法人であるispace technolgies U.S.がそれらを搭載する着陸機(APEX 1.0)を開発する予定です。
宙畑メモ:ヘリウム3とは
ヘリウムの同位体の一つで、大気や磁場のある地球上にはごくわずかしか存在しない希少な資源です。月面には、ヘリウム3が太陽からの太陽風によって、数十億年にわたり降り注ぎ、月の砂(レゴリス)に豊富に蓄積されていると考えられています。注目すべきは、次世代のエネルギーである核融合発電の燃料となり得る点です。現在の原子力発電と異なり、高レベルの放射性廃棄物をほとんど出さないことから安全でクリーンなエネルギー源として注目されています。それに加え、量子コンピュータが稼働するために不可欠な、極低温環境を作り出す冷却材としても活用が期待されています。
(5) まとめ
ispaceは、2027年にミッション3、2028年にミッション4を予定しており、今回発表された様々なパートナーシップやペイロード輸送が、これから具体化していく見込みです。特に、水資源の探査や利用に関する技術は、今後の月面開発に直結する重要な要素となります。
ispaceによる今回の一連の発表は、同社が月面輸送サービスの商業化を軸に、月面での資源開発という「シスルナエコノミー」の第二・第三段階に移行しつつあることを示唆しています。特に、水処理・水電解技術など確かな技術力を持つ、栗田工業や高砂熱学工業との連携は、月面での産業や身近な暮らしを、現実に実現し得る技術課題として、着実にispaceビジョンが形になりつつあることを示しています。今後の月面開発の進展から、ますます目が離せません。
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