ABB、カナダ宇宙庁の契約を獲得。気候観測用赤外線装置「TICFIRE」を開発へ【宇宙ビジネスニュース】
ABBは、カナダ宇宙庁(CSA)より、気候観測用赤外線装置TICFIRE(Thin Ice Clouds and Far InfraRed Emissions)の概念設計契約を獲得したと発表.。その概要と目的を紹介します。
2025年10月23日、カナダ・ケベック市を拠点とし、電力と自動化技術の分野で世界をリードするABBは、カナダ宇宙庁(CSA)より、気候観測用赤外線装置TICFIRE(Thin Ice Clouds and Far InfraRed Emissions)の概念設計契約を獲得したと発表しました。
TICFIREは、カナダ主導の衛星ミッション「HAWC(High-altitude Aerosols, Water Vapour and Clouds)」の中核を担う観測装置です。気候変動の予測を難しくしている一因である、大気中の冷たい水蒸気や氷雲を、初めて正確に測定しようとしています。
HAWCミッションは、上層大気における水蒸気・雲・エアロゾル(微粒子)の動態を解明し、異常気象の予測精度向上、気候変動の予測モデル向上、大気汚染の影響評価、さらには火山噴火、森林火災、豪雨といった自然災害の監視に役立てることを目指しています。
得られた観測データは、干ばつ予測や水資源の管理、熱波や大気汚染への対策、森林や生態系の変化の追跡などに活用され、人々の暮らしを支える幅広い分野で役立てられる予定です。
TICFIREは、赤外線センサを用いて、地球の大気を観測することができ、冷たい水蒸気や氷雲が、地球に入ってくる太陽エネルギーと、地球から放出される熱エネルギーをどのように遮断しているかを評価します。
これにより、地球の冷却メカニズムを正確に理解することが可能になります。こうした観測は、従来の地上からの観測では不可能であり、衛星を用いた宇宙空間からの観測によって初めて実現するものです。
ちなみに、ABBはこれまでに地球観測用の光学機器を40機以上軌道上に送り出しており、1999年にはカナダ宇宙庁と共同で大気観測装置MOPITT(大気汚染観測用放射計)を開発しています。MOPITTは世界で初めて二酸化炭素と一酸化炭素の地球規模の分布を、世界で初めて地球規模でマッピングしました。
今回の契約は、ABBの宇宙分野での革新への継続的な取り組みを強化し、同社の宇宙技術エンジニアの高い技術力を示すものです。
ABBカナダ 計測・分析部門のゼネラルマネージャーであるMarc Corriveau氏は、「この重要な科学ミッションの一員になれたことを誇りに思います。TICFIREは地球の気候に対する理解を大きく前進させるでしょう。ABBの使命は“より持続可能で資源効率の高い未来”を実現することです。このようなプロジェクトを通じて、私たちは地球の仕組みをより深く理解し、長期的なレジリエンス(回復力)の確保に貢献します。」とコメントしています。
ABBの今回の取り組みは、気候変動の仕組みを解明するために、宇宙の技術を応用する良い事例となり得ます。今後のTICFIREの活動・進捗に注目です。

