宙畑 Sorabatake

宇宙政策

【米国宇宙産業の規制障壁の解決へ】トランプ大統領令で切り開く2030年までに商業宇宙活動拡大に向けた4つの主要施策【宇宙ビジネスニュース】

2025年8月、トランプ大統領が署名した商業宇宙産業の競争促進に関する大統領令について、4つの主要施策とその影響を解説します。

2025年8月13日、トランプ大統領は商業宇宙産業の競争促進に関する大統領令に署名しました。この大統領令は、米国宇宙産業が直面する規制障壁を解決し、2030年までの商業宇宙活動拡大を目指します。

環境影響評価の長期化、複雑な許認可プロセス、不明確な規制枠組みなどの障壁を取り除くことで、米国が宇宙開発の主導権を維持し、競合国への優位性を確保することを狙ったものです。

本記事では、この大統領令の4つの主要施策について、課題と変革内容を解説します。

(1)米国宇宙産業の競争力強化、4つの主要施策とその影響

大統領令とは、米国大統領が連邦政府機関に対して発する行政命令で、議会の承認を必要とせずに政策を実行できる強力な手段です。今回の大統領令は、運輸省、商務省、国防総省、NASAに対し、具体的な期限を設けて規制改革実施を命じています。

この大統領令は単なる規制緩和ではなく、宇宙産業の競争力強化を国家安全保障の観点からも重要視したもの。これにより、各省庁は従来の縦割り行政を超えて連携し、統一的な規制改革を進めることが義務付けられました。

大統領令では「打ち上げ・再突入の許認可規制緩和」、「スペースポート手続き統一・迅速化」、「新規宇宙活動の承認手続き整備」、「規制推進体制・責任体制の強化」の4つの主要施策について言及していました。

以下に、それぞれの項目が重要である背景と具体的な解決策を整理しています。

1.打ち上げ・再突入の許認可規制緩和

【背景】
ロケットの打ち上げ許可取得には、環境影響評価(NEPA)などで一般的に数年を要することがあります。本手続きにより、年間打ち上げ回数が制限され、衛星コンステレーション構築や宇宙製造業の発展スピードに課題があると考えられています。

宙畑メモ:NEPA(国家環境政策法)とは
1970年に制定された米国の環境基本法。連邦政府の重要な行動に対して環境影響評価 (開発プロジェクトが自然環境に与える悪影響を事前に調査・分析すること) を義務付けており、宇宙打ち上げ施設の建設や打ち上げ活動も対象となります。評価プロセスには通常数年を要し、商業宇宙開発の大きなボトルネックとなっています。

【解決策】
大統領令では運輸省に対し、環境審査の撤廃・迅速化とNEPA適用除外の設定を指示しています。飛行終了システムや自動飛行安全システム搭載機体は規制要件を免除、ハイブリッド型宇宙機で航空機耐空証明を持つものは規制を緩和などが記されていました。

これにより、許認可期間の短縮と打ち上げコスト削減、頻度増加が期待されますが、規制排除によって環境影響の軽視につながらないかなども懸念されます。

2.スペースポート手続き統一・迅速化

【背景】
米国内のスペースポート開発では、複数の規制が絡み合っています。沿岸域管理法(CZMA)、国防総省、運輸省、NASAの重複審査プロセス、絶滅危惧種保護法などがあり、新規参入企業にとっては高い障壁となっています。

宙畑メモ:沿岸域管理法(CZMA)とは
1972年制定の米国連邦法で、連邦政府が沿岸州に対して沿岸域の土地・水域利用を管理する権限を与えた法律です。連邦政府の活動も州の沿岸管理計画に整合する必要があり、スペースポート建設時には州の承認が必要となります。この州の拒否権が開発の障壁となることがあります。

宙畑メモ:絶滅危惧種保護法とは
1973年制定の米国連邦法で、絶滅の危機にある動植物とその生息地を保護することを目的としています。スペースポート建設予定地に保護対象種が生息する場合、開発が制限される可能性があります。その場合、代替地の検討や緩和措置が必要となります。

【解決策】
大統領令は180日以内の関係省庁間覚書締結による審査プロセスの統一・簡素化を指示しています。

商務長官は州のCZMA遵守状況を評価し、スペースポート開発を妨害している州については、連邦政府がその州に与えているCZMA管理権限を取り消すことを検討します。これにより州はCZMAに基づく連邦活動への審査権限を失い、連邦主導でスペースポート開発を進められるようになります。また、連邦用地での開発を阻害する州・地方制限は司法省に通報します。

さらに、スペースポート開発の新たなNEPA適用除外カテゴリーを設定します。

また、国家安全保障上の重要性から絶滅危惧種委員会への申請も検討し、絶滅危惧種保護法による開発制限の適用除外を目指します。

3.新規宇宙活動の承認手続き整備

【背景】
宇宙ビジネスにおいては新しい技術開発がどんどん生まれています。既存の規制に当てはまらないものが出てくることも少なくありません。例えば、宇宙太陽光発電、小惑星採掘、軌道上製造、宇宙デブリ除去などの革新的宇宙活動は既存規制枠組みでカバーされておらず、明確な承認プロセスが存在しません。

そのため、投資家が資金提供を躊躇し、企業は事業計画を立てづらい状況にあります。これにより、より柔軟な規制環境を持つ他国に対して米国企業が遅れをとるリスクがあります。

【解決策】
大統領令は商務省に対し、150日以内の個別ミッション (宇宙条約第6条の対象となる新規活動に関するもの) 承認プロセスを提案します。

このプロセスには明確な申請要件、確定的な承認期限、関係省庁からのフィードバック手続きが含まれます。承認プロセスの申請から承認までの予測可能性を確保します。

これにより、投資家は事業リスクを適切に評価できるようになります。企業は革新的な宇宙ビジネスモデルの開発に集中できます。米国が新たな宇宙経済分野でリーダーシップを確立できます。

宙畑メモ:商務省とは
米国の連邦行政機関の一つで、経済成長、技術革新、産業競争力の促進を担当しています。宇宙分野では、商務省内の宇宙商業局が商業宇宙活動全般の促進を担当しています。今回の大統領令で宇宙商業局が長官直属組織に格上げされました。

宙畑メモ:宇宙条約第6条とは
1967年に発効した宇宙条約の第6条は、締約国に義務を課しています。自国の非政府団体(民間企業等)の宇宙活動について許可と継続的監督が必要です。これが各国の宇宙活動規制の根拠となっています。

4.規制推進体制・責任体制の強化

【背景】
現在の規制体制は、商業宇宙産業の急速な発展に対応できていません。

連邦航空局(FAA)の商業宇宙輸送局や商務省の宇宙商業局は各省での位置づけが低く設定されています。

宙畑メモ:連邦航空局(FAA)とは
米国運輸省傘下の政府機関で、民間航空の安全規制を担当しています。宇宙分野では、商業ロケットの打ち上げ・再突入の許認可、打ち上げ場の運用許可を管轄しています。事故調査なども行い、商業宇宙活動の安全性確保において中核的な役割を果たしています。

具体的には、FAAでは予算の観点では航空交通管制システム運用や空港インフラ整備の優先順位が高く設定されております。また、商務省の宇宙商業局は国立海洋大気庁 (NOAA) 内の1組織でした。商務省の中で国立海洋大気庁の予算は大きいものの、気象衛星運用や気象サービス系の優先順位が高く設定されております。

宙畑メモ:国立海洋大気庁(NOAA)とは
商務省傘下の科学機関で、海洋・大気・気候に関する観測・予報・研究を行っています。気象予報、ハリケーン監視、津波警報、漁業管理、海洋調査などを担当し、日常生活に直結するサービスを提供する米国最大級の科学機関です。

そのため、連邦航空局(FAA)の商業宇宙輸送局および商務省の宇宙商業局は革新的な規制改革を推進する権限と影響力が不足していることも少なくないようです。

これにより、産業界の要望と規制当局の対応にギャップが生じ、米国の宇宙産業の競争力を損なっていることが課題と位置づけられています。

【解決策】
大統領令は60日以内の運輸長官直属のポスト新設を指示しており、商業宇宙輸送産業の革新と規制緩和を専門的に助言する体制を整備します。また、運輸省ではノンキャリアのシニアエグゼクティブを商業宇宙輸送局副局長として任命し、商務省では宇宙商業局を商務長官直属の組織に格上げします。

これにより、規制改革の意思決定が迅速化され、産業界との対話が強化され、宇宙産業政策が省庁の最優先事項として扱われるようになります。

結果として、規制当局が産業の発展を阻害するのではなく、積極的に支援する体制が構築されることが期待されます。

(2)まとめ

今回の大統領令は、米国の商業宇宙産業が直面してきた4つの主要な規制障壁を体系的に解決しようとする画期的な取り組みです。

打ち上げ許認可の迅速化により開発サイクルが加速します。スペースポート整備促進により打ち上げ能力が拡大します。新規宇宙活動の承認プロセス確立により革新的ビジネスが生まれます。強化された規制体制がこれらを支えます。

本大統領令により、2030年までに米国は商業宇宙打ち上げの頻度が増加します。また、宇宙製造、資源採掘、エネルギー生成などの新産業創出も期待されます。宇宙が経済成長と国家安全保障の新フロンティアとなる時代において、この大統領令は米国の宇宙覇権を確立する重要な一歩となるでしょう。また、日本の宇宙産業にとっても学びを得られるポイントも多いかもしれません。

気になった方はぜひ原文も合わせてご覧ください。

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