宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙安全保障分野のビジネスとは?その背景と課題は?「宇宙安保とビジネス」イベントレポート

2024年2月28日に開催されたイベント「宇宙安保とビジネス〜国際連携と民間協力が牽引する宇宙安全保障とビジネス展望〜」の概要をまとめました。

2024年2月28日、虎ノ門にあるスタートアップシェアオフィスCIC Tokyoにて、航空自衛隊宇宙協力オフィスの主催する「宇宙安保とビジネス〜国際連携と民間協力が牽引する宇宙安全保障とビジネス展望〜」が開催されました。

イベントは宇宙安全保障の研究を牽引する防衛研究所主任研究員の福島康仁氏による講演「安全保障領域における官民連携の最前線:米国の場合」、産官学の登壇者によるパネルディスカッション「宇宙安保の強化に向けた民間企業への期待」、宇宙ベンチャー企業の登壇者による「民間企業から見た宇宙安保の機会と課題」という構成で行われました。

宇宙安全保障はビジネスとどのように関わりがあるのか?

その背景や内容、課題は何か?など、講演やパネルディスカッションで議論された内容をご紹介します。

(1)宇宙安全保障とビジネスの現況とは?

そもそも宇宙開発は軍事・安全保障利用と強い関わりを持ちながら発達してきました。

アメリカは冷戦期や湾岸戦争、イラク戦争でも宇宙技術を軍事的に使用しています。また、2022年に発生したウクライナ戦争でも民間企業が紛争の地域を自社の衛星で撮影したり、ウクライナが民間の衛星通信サービスを利用するなどしています。

福島氏はウクライナ戦争を「戦いの当事者双方が本格的に宇宙を作戦利用している初めての戦争」(『ウクライナ戦争はなぜ終わらないのか』文春新書、p109)と分析。また海外メディアのSpaceNewsは「the first “commericial space war”」と呼ばれるほど商業宇宙システムが軍事的に大きな役割を果たしている戦争であることを指摘しています。

ウクライナ戦争に加えて、日本を取り巻く安全保障環境も厳しさを増しており、中国や北朝鮮、ロシアは軍事力を増強させています。このような状況のなか、日本政府は2022年12月に国家安全保障や防衛の方針である「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」を新たに策定しました。

国家安全保障戦略に基づいて、2023年6月には「宇宙安全保障構想」が策定され、「我が国が、宇宙空間を通じて国の平和と繁栄、国民の安全と安心を増進しつつ、同盟国・同志国等とともに、宇宙空間の安定的利用と宇宙空間への自由なアクセスを維持すること」という宇宙安全保障上の目標が定められました。

宇宙安全保障構想の目標と3つのアプローチ Credit : 内閣府宇宙開発戦略本部 概要

この目標を達成するために、宇宙からの情報収集や通信の確立を目指す「安全保障のための宇宙システム利用の抜本的拡大(宇宙からの安全保障)」、宇宙空間にある物体を監視する宇宙領域把握(SDA)の強化などを目指す「宇宙空間の安全かつ安定的な利用の確保(宇宙における安全保障)」、政府や関係機関の役割強化や民間イノベーションの活用を目指す「安全保障と宇宙産業の発展の好循環の実現(宇宙産業の支援・育成)」という3つのアプローチが掲げられています。

3つ目のアプローチ「宇宙産業の支援・育成」では、官民が一体となる技術力の強化や重要技術の自律性の確保が挙げられています。今回のイベントとまさに関連するのは「イノベーションをけん引する産業界の活力を活かすため、安全保障上も重要な技術を開発する異業種やスタートアップ企業に対する支援プログラムを拡大する」という点です。

そのアプローチを象徴するような事例として、航空自衛隊は2023年10月2日、虎ノ門ヒルズビジネスタワー内にあるCIC Tokyoに宇宙協力オフィスを開設しました。

このオフィスは航空自衛隊が民間企業と意見交換を行い、民生技術の知見を得ることで、今後の防衛装備品の導入などに反映し宇宙空間における能力向上につなげていくことを目的としています。つまり宇宙安全保障構想で掲げられた民間企業や産業界との協力も進みつつあります。

宇宙協力オフィスのエンブレム Credit : 航空自衛隊リリース

南課長によると、航空自衛隊は2023年3月から宇宙領域把握(SDA)の任務をスタートさせ、JAXAや民間企業との協力でミッションを行っているということです。南課長は「宇宙領域把握はあくまでファンダメンタルなベースとなることであり、Beyond SDAをどのように構想していくのかが今後の課題」だと述べています。

SDA(宇宙領域把握)やSSA(宇宙状況把握)といった、似ている言葉の定義については「SSA(宇宙状況把握)とは〜日本の防衛省と国際状況、企業の貢献、技術課題、運用システムを総合的に解説〜で紹介しています。

さらに、国内における産官学の協力だけではなく、多国間連携による訓練や議論が非常に加速しており、日本も積極的に参加しているということです。これらの協力では「コミュニケーション(communication)、コラボレーション(collabolation)、コーポレーション(cooporation)という「3C」が重要」と南課長は話します。そのうえで「まずはコミュニケーションが大事で、その後にコラボレーション、コーポレーションにつながる」と話しました。

(2)米国における宇宙安全保障の体制と課題

宇宙と安全保障 – 軍事利用の潮流とガバナンスの模索(千倉書房)の著者で、防衛研究所の福島氏は「防衛分野における官民連携の最前線 米国の場合」と題して講演を行いました。米国防省はなぜ民間との連携を宇宙領域で重視しているのか、米国防省の中にはどの様な組織があるのか、米国防省における官民連携に関する課題と模索について説明しました。

福島氏によると、米国防省は2010年代半ばから米国内外の環境が大きく変化していることを認識していたといいます。

2001年9月以降の「対テロ戦争」から中国やロシアに対する軍事的な優位性を維持するための「大国間競争」の時代へと移行していきました。同じ頃、米国防省の中では「宇宙の戦闘領域化」という言葉が使われはじめ、米国にとっての競争相手である中国やロシアが、東アジアやヨーロッパにおける米国の軍事的介入を防ぐ手段の1つとして宇宙利用を妨害する能力を強化しているとの懸念を深めるようになりました。

このような状況のなかで、国防イノベーションの追求がはじまります。米国防省は2014年に国防イノベーションイニシアチブを開始し、民間のイノベーションを国防に活用する取り組みを強化していきます。こうした動きは、いかに中国やロシアとの戦いに適した組織に変えていくのかを念頭に置いて、国防省全体を変えていこうとする取り組みとして始まり、宇宙もその主要な取り組み領域として位置付けられました。このような流れと同時にニュースペースの時代も2010年代後半から本格的に到来したと指摘しました。

福島氏によると、アメリカでは官民連携の「官」といっても国家安全保障宇宙活動に関わる色々な組織があり、「迷宮」と呼ばれることもあるそうです。アメリカ国防省と一括りにいっても、空軍省、陸軍省、統合軍などのそれぞれに宇宙に関する組織があります。空軍省には2019年に発足した宇宙軍があり、さらに宇宙軍には宇宙開発局(SDA)や宇宙システムズ軍団(商業宇宙室)などがあります。

SDAは、宇宙軍の制服組トップである宇宙作戦部長の直轄組織であり、ミサイルの探知・追尾などを行う低軌道衛星コンステレーションであるPWSAの構築を行っています。

PWSAは、既存の民間技術を最大限活用することで衛星の取得にかかる年数を短縮し、2年ごとに新たな世代の衛星群を打ち上げることを目標にしているということです。SDAは商業宇宙イノベーションの「速やかな追随者(fast follwer)」になることを目指しているといい、アメリカの宇宙領域の国防イノベーションに関わる人々が期待を託している組織でもあるということです。

非常に巨大な国防省の組織ですが、福島氏は官民連携という点から国防省の課題を指摘しました。まず、商業宇宙サービスの利用をどこまで拡大するべきかという論点があるといいます。民間サービスの活用は、研究開発上のリスクを外部化できる一方で、軍事作戦上のリスクを生んでしまう恐れがあります。関連して、商業宇宙システムが攻撃を受けてしまう可能性もあります。また、国防省は民間のイノベーションを受容できる組織・文化をつくることに苦労しているということです。

(3)日本で宇宙安全保障ビジネスを活性化させるには?

1つ目のパネルディスカッションは「宇宙安保の強化に向けた民間企業への期待」と題し、防衛研究所の福島康仁氏、経済産業省の伊奈康二氏、Arclevの浅井誠氏が登壇しました。モデレーターは防衛省航空幕僚監部の南賢司氏が務めました。

パネルディスカッションの冒頭で、南氏は現代では軍事オペレーションをする上で民間のことを知らなければオペレーションが成り立たないことを強調。そのうえで、日本における民間宇宙ビジネスに期待することや日本で民間宇宙ビジネスを活性化させるために独自のアイデアとして何に取り組む必要があるのかを問いました。

福島氏は、日本はまだ民間におけるイノベーションを活性化させていくフェーズにあると指摘しました。米国の場合はすでに大規模衛星コンステレーションを用いた衛星通信や地球観測サービスなどを企業が始めている中で民間の技術・サービスをいかに国防省の活動に組み込んでいくのかが主な課題となっている一方で、日本はまず民間のイノベーションをどのように活性化させていくかを検討する状況だと述べています。

さらに福島氏は、「民間企業の目線で考えたときに、防衛省や自衛隊は接点をもつのが容易ではない。これを解決するためには、今回のイベントのようにCIC東京のような場所で防衛省からアプローチをして相互理解を深めていくことが、お互いのニーズを知る出発点となる」といいます。

経済産業省の伊奈氏は、日本のものづくり産業に注目。特に自動車技術や電気技術などを宇宙技術に生かしていくことを提案しています。実際に、宇宙産業ではない業界からの部品の紹介を宇宙産業に紹介したところ話が良い方向に進んだという実例もあったそうです。

また、こうしたアイデアや政策を考えるとき、アメリカのモデルや成功例を日本の事例に当てはめて考えることがありますが、浅井氏は「アメリカのモデルを日本にそのまま持ち込むことはできない」と指摘します。日本は戦後に立ち上がった、いわゆる当時の「スタートアップ」が現代まで成長して支えているのが現実だと説明します。このような大企業と現代のスタートアップがどのように協力して宇宙へいくのかを議論することが大切だと主張しました。

パネルディスカッションの後半は、安全保障ニーズと民間企業のニーズをどのようにして繋いでいくかを議論しました。伊奈氏は、両者のニーズを満たすために防衛省を含めた官庁で「宇宙技術戦略」を制定し、この戦略を踏まえて1兆円規模の基金を用いて投資していく動きがあると紹介しました。

しかし、戦略の作成では関係者へヒアリングも行っているものの、宇宙企業中心であり、他の分野にまで広げられていないと課題も述べました。浅井氏はものづくりを行う高度な人材を育てる場として大学が機能していないのではないかと指摘します。さらに福島氏は、民間のイノベーションを防衛に効果的に活用するためには防衛省・自衛隊の組織のあり方や考え方も最適化していく必要があるのではないかといいます。

(4)民間企業の宇宙安全保障に対する期待と課題

2つ目のパネルディスカッションのテーマは「民間企業から見た宇宙安保の機会と課題」です。登壇者はアストロスケールの井筒俊司氏、ワープスペースの北原明子氏、アクセルスペースの太田祥宏氏で、軌道上サービスや衛星を利用した光通信、地球観測を行う企業が集まり、それぞれの企業がどの様に宇宙安全保障に関わっているのかについて議論しました。モデレーターは本イベント運営に協力する一般社団法人SPACETIDE代表理事兼CEOの石田真康氏です。

まず、「安全保障はDIMEが課題です」とアストロスケールの井筒氏が指摘しました。DIMEとは、外交(Diplomacy)、情報(IntelligenceもしくはInformation)、軍事(Military)、経済(Economy)の頭文字を合わせた言葉です。井筒氏は宇宙安全保障を議論するとき、防衛省だけでなく、経済や技術がその大部分を占めることになると述べました。

太田氏によると、衛星画像は「どこを撮るか、それを何のために使うか」が重要であり、そこに貢献できれば提供していきたいと展望を語ります。日本では衛星画像などの衛星データを増やしていくことで、新たな使い方を発見し、他産業への裾野を広げるという循環自体が良いと述べました。

安全保障は機密情報を扱うため、セキュリティに配慮をする必要があります。北原氏は「(宇宙産業が)安全保障と切っても切れない産業」であるがゆえに、ビジネスとして協業や協力できる国も限られていると指摘しました。このような宇宙安全保障の秘匿性(confidentiality)について、衛星画像を扱う太田氏は「(安全保障関係の顧客は)当たり前だけれども、衛星データを何に使うかは明確に話されることはありません」と述べており、企業自ら模索をしながら安全保障関連の事業を行っているとうかがえます。

北原氏も民間企業が顧客のニーズに応え、調査をしながら市場に必要なサービスを提供するという循環がまわりにくいことも示唆します。しかし秘匿性のある情報をどのように扱い、守っていくのかというセキュリティ面と資金調達などのビジネス面をどのようにバランスをとっていくのかが今後の課題だと考えられます。

議論の後半では、宇宙安全保障分野でビジネスを行うための課題と政府への期待について議論がありました。井筒氏はコンソーシアムという言葉に注目して、「官官民民で考えなければいけない」と指摘しました。太田氏は「調達の数や契約の経験値を増やしていくことで、どのようなケースであれば事業を行うことができるのかを掴んでいく必要性がある」と述べています。

しかし、このような経験値を増やすために最初の一歩を踏み出さなければいけません。宇宙開発は初期投資が非常に大きいため、スタディコントラクト(study contract、reserach contractとも、研究契約)などで契約を結ぶと経験値が変わってくるのではないかという意見も出ました。

また「平時」と「有事」における官民連携の関係性も今後の課題として挙げられました。太田氏は、衛星画像が平時にはインテリジェンス目的で、有事ではオペレーション目的で使用される場合、画像の使われ方が異なり、それを1つの契約でできるのかという議論があると指摘。災害時にすぐに土木工事が行われるような制度を参考にして制度設計をしてほしいと述べました。

(5)まとめ

「宇宙安保とビジネス」では防衛省・自衛隊が主催となり、産官学の登壇者が一同に会した新しい議論・交流の場でした。

安全保障や防衛は日本の未来を守るために常に考えていく必要があり、産官学が相互連携し、協力を深めていくことで、より強固に日本を守り抜くことができます。過去にどのような事例があり、なぜ現在のような状況となっているのか。どのように防衛省や自衛隊は民間企業と協力をしていくべきか、そこにある課題をどうすれば解決できるのか。こうした課題は産官学のどれひとつが欠けても解決されません。

このような意味で産官学の関係者が集まり、宇宙ビジネスという視点から議論する場は非常に重要であり、今後の日本の安全保障がより進展していき、それを語る上では貴重なイベントの場でした。