宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

【イベントレポート】「Slush Tokyo」で語られた宇宙ビジネスの成功のTips

2019年2月22・23日に開催された、世界最大級のスタートアップとテクノロジーの祭典「Slush Tokyo」。その後日レポートを宙畑編集部がお届けいたします。

2019年2月22・23日に、「Slush Tokyo」が東京ビックサイトにて開催されました。同イベントは世界最大級のスタートアップとテクノロジーの祭典。

2日目には民間での宇宙探査を目指すispace COO 中村氏や衛星通信アンテナのシェアリングサービスを手がけるインフォステラ COO石亀氏らが登壇しました。本記事は大盛況のうちに幕を閉じたTokyo Slush の様子を宙畑編集部の後日レポートです。

世界最大級のスタートアップとテクノロジーの祭典「Tokyo Slush」とは?

フィンランド発祥の「Slush(スラッシュ)」。初回開催の2008年からわずか10年で、国際的な人材とビジネスモデルが生まれる一大ムーブメントとして、東京、シンガポール、上海へと拡大しました。東京での開催は今年が5回目。80カ国からスタートアップ企業の経営者や投資家、学生、メディア関係者ら8000人以上が参加しました。

Slush Tokyo メインステージ Credit : 宙畑

イベントは、名だたる起業家たちによるパネルディスカッションが行われる、メインステージ、スタートアップ企業によるピッチコンテスト、世界各国から集まったスタートアップのブース出展と盛りだくさんの内容です。

HOW DOES SPACE BUSINESS WORK?

2日目のメインステージにはフィンテックやAI、ブロックチェーンなどのビックワードをテーマにしたセッションが並んでいました。

中でも宙畑が注目していたのが、宇宙ビジネスのセッション、「HOW DOES SPACE BUSINESS WORK?」です。
同セッションは、モデレーターに日欧産業協力センターでテクノロジー創造アドバイザー兼特別研究員制度「ミネルヴァ・フェローシップ」の研究員を務めるヘレン・トゥン氏を迎え、ispaceでCOOを務める中村貴裕氏とインフォステラでCOOを務める石亀一郎氏らが登壇しました。

ispaceは民間月面探査プログラム「HAKUTO」を手がける、月面探査を目指すベンチャー企業です。取締役兼COOを務める中村氏は東京大学大学院で惑星科学を学んだのちに、大手外資コンサルティング会社、大手情報サービス会社を経て現職に就いています。

中村氏はispaceが目指す将来像をショートムービーで紹介。月面に送られた小型ローバーが発見した水からエネルギー基地が作られ、やがて2040年には1000人が暮らし、年間1万人が旅行で訪れる都市が作られるまでを描いたものです。ラストの「月は新しいビジネスの舞台になる」という一言には編集部の私自身鳥肌が立ちました。

ispaceのビジョンを語る、COO 中村氏(向かって左) Credit : 宙畑

インフォステラは「人工衛星向けアンテナのAirbnb」と称される「StellarStation」を手がけています。同サービスは、衛星運用者と地上アンテナのオーナーをつなぐことができるプラットフォームで、衛星通信者にはより多くの通信機会をアンテナのオーナーには非稼動時間の収益化の機会を提供するものです。

同サービスは衛星の打ち上げ数が劇的に増加していく中で、非常に重要なものだと石亀氏は言います。一つの地上アンテナにつき衛星とコミュニケーションのチャンスは1日あたりたったの40分。これでは開発や打ち上げのコストにはなかなか釣り合わないのです。

インフォステラのサービスを説明する石亀氏 Credit : 宙畑

共同創業者兼COOである石亀氏はフォーブスによる「30アンダー30アジア」に選ばれた注目の宇宙起業家として知られていて、彼の説得力のある話し方に引き込まれました。

注目の2社のCOOが語る、宇宙スタートアップの意義は?

近年宇宙産業は、政府が主導で行われるOld Space Industryと民間によって進められるNew Space Industryに分類されます。企業の概要紹介に続いて、トゥン氏はNew Space、宇宙スタートアップの意義を2人に尋ねます。

中村氏は宇宙スタートアップ企業の役割として、企業と政府の間でエコシステムを築いていくことをあげました。
ispaceは2016年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)と月面資源開発に関する覚書、ヨーロッパ・ルクセンブルク政府による月や小惑星の資源探査および資源の商業利用を目指す「SpaceResouces.lu」計画と覚書を締結し、共同調査・開発を行なっています。これは宇宙資源開発分野で外国政府と連携した国内初の事例です。

石亀氏は宇宙ビジネスを創業するにあたって重要なポイントにグローバル市場への参入をあげました。宇宙と一言にいっても、インフォステラが行う衛星通信事業やispaceが行う宇宙資源開発事業、そのほかにも打ち上げ輸送サービスなど、その中にもさまざまな市場があります。もちろん宇宙の中でもどの市場なのかにもよりますが多くの場合、初期段階から自然とグローバル市場への参入が求められます。そうすると企業には多国籍な人材が集まることになります。
実際にインフォステラの社員の半数は海外出身者で、社内でのやりとりも英語。それだけでもハードルが高そうに聞こえてしまいますが、このグローバルな環境をポジティブに捉えることができれば、一気に活躍の場が広がるのではないかと感じます。

さらに、トゥン氏はそれぞれの企業での最近の業績について尋ねます。

ispaceはイベントの前日である、2月22日にispaceは三井住友海上火災保険株式会社、日本特殊陶業株式会社、日本航空株式会社とコーポレートパートナー契約を締結したことを発表しました。このことについて中村氏は、宇宙産業以外の企業を巻き込むことができた点で大きな進歩であったと言いました。

石亀氏は、昨年2018年にアマゾンが提供するアマゾン・ウェブサービス(AWS)が衛星通信事業への参入を発表したことをあげました。アマゾンやグーグルといった有名企業は、業界や規模を問わずスタートアップ企業にとって、恐怖でもあります。そのアマゾンの参入は衛星通信市場においての大きなゲームチェンジ。しかしながら3年前から市場に参入しているインフォステラにとっては、競争がはたらくチャンスであると捉えることもできるのです。2019年はインフォステラとって鍵となる1年であると話しました。

宇宙ビジネス 挑戦者へのメッセージ

盛り上がりをみせたセッションも終わりの時間が近づいてきました。トゥン氏は最後の質問として中村氏と石亀氏それぞれに会場へのアドバイスを求めます。

中村氏は、New Space 産業に取り組むことは難しく、すでに活躍している中村氏自身でも難しさを感じていることを話し、スターウォーズのマスター・ヨーダの言葉「Do, or do not. There is no try(やるかやらないか。試しはない)」を会場に送りました。

石亀氏は「Think outside of box(枠にとらわれないこと)」という言葉とともに、宇宙産業における市場には未だ勝者がいないこと、そして自身のビジネスアイデアを諦めないことを訴えました。

セッションは幕を閉じ、登壇者へ拍手が贈られました。今回のSlush Tokyoには、8000人を超える、学生やスタートアップ経営者、投資家、メディア関係者が参加していました。

会場の様子から、多くの参加者にとって「宇宙ビジネス」は未だ馴染みのないものであったと感じましたが、本セッションを通じて、多くの人が関心を持ち、他分野との新たなコラボレーションが生まれるきっかけになったのではないかと思います。

会場の様子 Credit : 宙畑

参考

PR TIMES「日本最大級のスタートアップ・テクノロジーの祭典「Slush Tokyo 2019」2日間のプログラム全貌・ラインナップを発表」
ispace Webサイト
インフォステラ Webサイト
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