宙畑 Sorabatake

企業人インタビュー

研究開発と人材育成は表裏一体。文部科学省・宇宙開発利用課に聞く宇宙のこれから【政策からひも解く宇宙産業の未来#3】

文部科学省における宇宙開発の歴史と役割、宇宙戦略基金第1期の成果と課題の振り返りと第2期の狙いなど、文部科学省宇宙開発利用課の梅原弘史課長にお話を伺いました。

宇宙政策は、研究開発や産業振興、国際協力など、さまざまな要素が重なり合いながら進められてきました。

政策からひも解く宇宙産業の未来」シリーズ第3弾となる今回は、文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課 梅原弘史課長にインタビュー。文部科学省が目指す方向性から、宇宙戦略基金第1期の成果と課題の振り返り、今後の展望など、じっくりお話を伺いました。宇宙政策の“今”と“これから”をお伝えします。

お話を伺ったのは……

文部科学省 研究開発局 宇宙開発利用課 課長
梅原 弘史さん
2001年に文部科学省に入省。ライフサイエンスや宇宙開発、人材政策などの科学技術・学術や、初等中等教育行政等に従事した後、米国ジョージワシントン大学宇宙政策研究所客員研究員、つくば市(国際戦略特区部長)及び外務省(在ロシア日本大使館)への出向、文部科学大臣秘書官、科学技術・学術政策局拠点形成・地域振興室長、高等教育局専門教育課長など歴任。2025年4月より現職。

(1)文部科学省と日本の宇宙開発の歩み

宙畑:まず、文部科学省(以下、文科省)としての宇宙分野への関わりの沿革についてお伺いします。文部科学省はどのような役割を担いながら、日本の宇宙開発に関わってきたのでしょうか。宇宙分野に取り組み始めた背景や当初の狙いも含めて教えてください。

梅原:文科省としての宇宙分野への関わりを振り返ると、ひとつの大きな区切りは2001年だと思います。中央省庁再編により、文部省と科学技術庁が統合され、宇宙科学研究所(ISAS)、宇宙開発事業団(NASDA)、航空宇宙技術研究所(NAL)という三つの宇宙関連機関をまとめて所管する体制が整いました。また、2001年は、私自身が文科省に入った年でもありますし、H-IIAロケットの初号機が打ち上げられた年で、私はH-IIAロケットと同期なんです。なお、三機関は2003年に統合され、JAXAが発足しました。

当時は、2000年のM-Vロケット4号機の打ち上げ失敗、2003年にはH-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗が起きて、厳しい局面が続きました。現場ではさまざまな混乱や試行錯誤があったと聞いていますが、20年以上が経ち、結果として良い形に落ち着いたのではないかと感じています。

衛星地球観測の分野でも、当初は(だいちシリーズのような)衛星が取得したデータを解析・利用するための知見を蓄積することが中心でしたが、文科省・JAXAの体制のもとで社会に使ってもらえる段階まで押し上げてきました。また、小惑星探査機「はやぶさ」のサンプルリターンに代表されるような日本のお家芸ともいえる技術を築いてきました。

そして、文科省と宇宙分野の関わりという点で少し歴史を俯瞰してみれば、個人的には、その始まりは、明治期にまでさかのぼることができると思います。現在の文科省庁舎があるこの場所は、明治初期に創設された技術者養成機関である工学寮工学校(1877年に工部大学校に改称。以下、工部大学校)の跡地です。

1876年に刊行された「明治東京全図」より。現在は外堀が埋められ、道路となっています。 Credit : NATIONAL ARCHIVES OF JAPAN

梅原:工部大学校は、明治期に新橋〜横浜間の鉄道建設に携わったお雇い外国人の提言などを受けて、日本人技術者を育成するために1873年に開設されました。これに伴い工部省が設けられ、その下で工学教育が体系的に整備されていきます。工部大学校はその後、帝国大学に編入されて本郷に移転し、現在の東京大学工学部へと発展しました。戦後の糸川英夫博士のご業績などにもつながっています。つまり、この場所は日本の工学教育の原点というわけです。

実は、工部大学校が設立された当時、工学は、天文学や数学などの理学に比べ、欧米でも高等教育として必ずしも高い評価を受けていませんでした。そのようななかでも、日本では工学を大学の正式な学問として位置づけ、世界に先駆けて教育体系を築きました。機械工学や造船、流体力学といった分野を基盤に、教員や技術者の育成が進められ、これが後の航空分野や宇宙分野の発展へとつながっていったのです。

宙畑:日本のものづくりが評価される原点はこの土地からだったのですね。

(2)世界と日本の宇宙開発の転換点

宙畑:梅原さんのご経歴を拝見すると、日本、アメリカ、ロシアとそれぞれの場所で宇宙分野に関わられていますね。

梅原:もともとの専門はエネルギー科学でした。ただ、宇宙は今後大きく成長していく分野であり、研究開発中心だった取り組みが、利用や産業、国民生活に近い領域へと広がっていくと感じていました。そうした変化の中で、文科省としてどのように関わるべきか、強い関心を持っていました。

梅原:現在は課長を務めていますが、おっしゃる通り、2008年から2010年頃にかけて課長補佐として宇宙分野を担当した時期もありました。当時、日本では宇宙基本法が制定されるなど、政府の体制が大きく変わり始めた時期でした。

一方で、米国では民間主導の動きが目立ち始めており、そうした変化を体系的に学びたいと考えるようになりました。そこで、ジョージ・ワシントン大学 宇宙政策研究所に客員研究員として1年間滞在し、スコット・ペース所長のもと、日本と米国の宇宙政策や制度の違いを比較しながら、研究と調査を行いました。東日本大震災が発生するなど慌ただしい時期でもありましたが、留学制度を利用できるタイミングでもあり、宇宙分野を担当した直後だったこともあって、渡米を決断しました。

米国から帰国した後は、茨城県つくば市役所に出向し、自治体の立場からJAXA筑波宇宙センターを支える業務などに携わりました。その後は在ロシア日本大使館に約3年間勤務していたこともあります。当時は、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する宇宙飛行士はソユーズで飛行していた時期で、米国とは異なる視点で、宇宙開発に携わることができました。帰国後は、当時の萩生田光一文部科学大臣の秘書官を務めました。この時期は、日本が米国主導のアルテミス計画へ参画するかどうか議論されていたタイミングでもあり、大臣をお支えする立場として、関連する業務に携わりました。このようにさまざまな立場で宇宙分野に接するご縁があり、現在は、改めて宇宙分野を担当する立場に戻ってきています。

宙畑:ジョージ・ワシントン大学に在籍されていた2010年は、SpaceXのFalcon9ロケットの初打ち上げを成功させた年ですね。当時、SpaceXをはじめとする企業の動きは、すでに意識されていたのでしょうか。

梅原:SpaceXについて最初に耳にした時期は、はっきりと覚えていません。ただ、調査を行っていた時期や米国に滞在していたときには、社名が耳に入ってきていました。米国でドラゴン宇宙船のモックアップが展示されていたのを見たことがありますが、当時はまさかこんなにも世界を席巻する存在になるとは思っていませんでした。

米国には、ボーイングやロッキード・マーティンといった、長年宇宙開発を担ってきた企業があり、両社の合弁会社であるユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)のような存在もあります。彼らが米国の民間宇宙開発の中心であり、その周囲でベンチャー企業が何か面白い仕事をするのだろうと想像していました。

その後、スペースシャトル退役後の取り組みとして、NASAが商業軌道輸送サービス(COTS)や商業補給サービス(CRS)を通じて民間企業を支援し、多くの研究者や技術者が存在していた環境の中で、非常にうまく後押しを行ったことが、企業の成長につながったのだと思います。

宙畑メモ:NASAによる民間支援プログラム
NASAは、民間による宇宙輸送能力の創出を後押しするため、財政面・技術面から支援を行ってきました。物資輸送システムの開発を対象とする商業軌道輸送サービス(COTS)、ISSへの商業補給サービスを契約ベースで実施する(CRS)、商業有人宇宙機の開発を目的とする商業乗員輸送開発(CCDev)といった複数のプログラムが運用され、民間事業者の参入と能力向上が図られました。SpaceXは、これらの枠組みの下で支援や契約を受けながら開発を進めた企業のひとつです。

梅原:そこに、米国のSpaceXなどの企業が自己資金を大胆に投じる姿勢が重なり、結果として大きな成果を生んだ点は、NASAの取り組みとしても成功例だと受け止めています。

(3)日本の宇宙開発が変化した2つの大きな転換点

宙畑:日本の宇宙開発の転換点はこれまでにいくつかあると思います。大きな転換点だったと考えられるポイントを教えていただけますか?

梅原:政府の視点でまず挙げられるのは、2008年に宇宙基本法が制定されたことです。

宙畑メモ:宇宙基本法
宇宙基本法の制定により、個別省庁による分野別の取り組みから、政府全体としての総合的な枠組みの下で進められる体制へと整理されました。内閣府が司令塔として宇宙政策全体の企画・調整を担い、各省庁はそれぞれの強みを生かした役割を分担する形が明確化されました。

梅原:当時は、官主導の研究開発を中心としながらも、次第に宇宙利用が拡大している時期でした。そうした流れの中で、2008年の宇宙基本法は、体制の変化という転換点だったと感じています。内閣府を司令塔とした体制が整い、文科省、経済産業省、総務省などがそれぞれの役割に専念できるようになったことは、大きな強みです。その中で文科省は、科学技術を所管する官庁として、研究開発と人材育成という基盤を担う役割をより明確に意識するようになりました。研究開発と人材育成は表裏一体であり、最先端の研究を進めながら、次世代を担う人材を育てていくことが重要だと考えています。

さらに、より意識しなければならないのが、研究開発の連続性です。生み出された成果を、最終的に社会の出口へとつなげていくため、技術を育てる段階から量産や標準化を見据え、経済産業省や国土交通省や農林水産省といった宇宙技術を利用する可能性がある省庁の政策領域に円滑に引き渡していく必要があります。このように、関係省庁との連携の裾野を広げながら進めていくことが、今後ますます重要になってくると感じています。

その後、2016年に制定された宇宙活動法をはじめとする制度整備が進み、スタートアップを含む民間事業者の参入が本格化してきたことも大きな転換点と言えるでしょう。従来のように、JAXAと限られた企業が中心となる枠組みから、より幅広い民間事業者にどう伴走していくかが課題となり、この点については文科省単独では対応が難しく、内閣府や経済産業省と連携しながら取り組むようになりました。近年では、宇宙戦略基金の創設もあり、大きな転換点になっていると受け止めています。

宙畑:研究開発のなかでも基礎研究は、すぐに役立つかどうかが分からない中で進められるものだと思いますが、文科省としては、どのような考え方で政策を企画・実施していらっしゃるのでしょうか。

梅原:文科省としては、基本計画や技術戦略に基づき、政府として進めるべき技術開発には着実に取り組んでいますし、他省庁からのニーズを受けた研究開発も行っています。一方で、トップダウンだけでなく、ボトムアップの研究を大切にすることも文科省の重要な役割です。科学研究費助成事業(科研費)なども含め、自由な発想に基づく研究の中から、JAXA相模原キャンパスでの小惑星探査のような成果が生まれてきました。天文学の分野も含め、一定の割合でこうしたボトムアップ型の研究を支え続けることが、人材育成そのものにつながると考えています。

(4)国際社会での日本の役割

宙畑JAXAの瀧口太理事にお話を伺った際、日本は国際的な取り組みも存在感をしっかりと発揮していることを教えていただきました。

Credit : NASA

梅原:そうですね。国際宇宙ステーション(ISS)計画への参加は、大きな出来事として挙げられます。

宙畑メモ:ISS計画参加の経緯
国際宇宙ステーション(ISS)計画は、NASAのスペースシャトル計画に続く有人宇宙計画として1982年に概念検討が始まりました。同年、NASAは友好国に参加を呼びかけています。日本に対しても参加要請が行われ、同年8月には、当時の宇宙開発委員会の下に宇宙基地計画特別部会が設置され、ISS計画への参加に向けた検討が開始されました。その後、1985年5月に、科学技術庁とNASAとの間で宇宙ステーション計画予備設計了解覚書が署名され、日本においても予備設計が開始されました。

参考:ISS計画の歩み

梅原:宇宙分野における国際的な5極に日本が入ったことは、例えるなら、「宇宙版G7」に入ったようなものです。2009年には「きぼう」日本実験棟が完成し、日本独自の拠点を持つことで、実験や小型衛星の放出など、より自立的な活動が可能になりました。日本人宇宙飛行士も育ち、日本の宇宙開発は国際的なプレゼンスを高めると同時に、実運用を通じた経験を積み重ねてきたといえます。

宙畑:日本が国際的に求められている役割にはどのようなものがあるのでしょうか。

梅原:ISS計画の5極に入っているという点で、日本はアジアでは唯一の立場にあります。国際社会の中では、一定のリーダーシップを期待されているという認識です。特に、アジアを代表する立場として、国際的な規範やルールづくり、標準化では議論をリードしていく必要があると感じています。

また、アジア地域における人材育成も重要なテーマです。近年は、東南アジアをはじめ、衛星の打ち上げに取り組む国も増えてきていますが、そうした国々に対して技術面や人材面での支援を行っていくことも、日本に求められている役割のひとつだと思います。加えて、東南アジアや東アジアは災害の多い地域であることを踏まえ、だいちシリーズを活用したデータ提供などを通じて、貢献していくことも重要だと考えています。

一方で、アルテミス計画を取り巻く国際環境は、かつてのような単純な構図ではなくなってきています。米中関係やウクライナ情勢を背景とした制裁の文脈なども重なり、アルテミス合意に参加する国(2026年1月現在61か国)も増える中で、全体として状況はより複雑になっています。そうした中でも、日本としては、アルテミス計画の中でしっかりと存在感を示し、求められている役割を果たしていくことが重要だと考えています。

具体的には、月面探査車である有人与圧ローバーや月周回有人拠点(ゲートウェイ)に加え、これまでISSで培ってきたECLSS(環境制御および生命維持システム)技術への期待は大きいと感じています。また、宇宙ステーション補給機「こうのとり」や新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)に代表される物資輸送の分野でも実績があり、日本の強みを生かせる領域のひとつです。こうした分野で着実に貢献していくことが求められているのではないでしょうか。

(5)宇宙戦略基金の第1期の狙いと進捗

宙畑:宇宙戦略基金の創設によって、これまでにない規模の予算が宇宙分野に投じられることになりました。予算には限りもある中で、基金を通じて、どのような考え方で注力分野を絞り込んできたのか、お聞かせください。

梅原:まず、前提として、民間では困難で国として取り組むべき研究開発は、これまでどおりJAXAを中心に進めていきます。その上で、宇宙戦略基金が目指しているのは、民間や大学など宇宙分野のプレイヤーを増やし、宇宙ビジネスやコミュニティ全体を大きくしていくことです。膨らんでいく世界の宇宙分野の需要に応えられるよう、日本として産業のサプライチェーンも含めた基盤をしっかり構築していく必要があります。

また、国全体のGDPが大きく伸びているわけではない中で、国費だけで宇宙分野を拡大していくことには限界があり、今後は民間資金をいかに呼び込むかが重要になります。特に、メガバンクやベンチャーキャピタルなどから規模の大きな民間資金の流入を増やすためには、リスクをどう軽減するかも課題です。

宇宙戦略基金によって支えられているスタートアップも多いと思いますが、こうした支援が永続的に続くわけではありません。将来的には、他分野と同様に、民間資金が自然に流れ込む環境を整えていく必要があります。国としても、民間資金を誘発するような資金の出し方を工夫していくことが、今後は重要になってくると考えています。

宙畑:第1期を振り返って、どのような手応えを感じていらっしゃいますか。

梅原:第1期については、まずは早急に着手すべきテーマを中心に、政府として取り組むべき22のテーマを設定しました。特に期待していたのは、これまで宇宙分野に関わってこなかった民間企業にも参加してもらい、宇宙のコミュニティを広げていくことです。すべてのテーマに応募があり、現在は契約も一通り完了した段階にあります。まだ具体的な成果が出ている状況ではありませんが、まずは動き出すところまで進められた点は、良かったと感じています。

実際に、さまざまな事業者が参入しています。例えば、福井県の繊維メーカー・丸八が炭素繊維の技術を応用して初めて宇宙分野に挑戦していただくこととなりました。

梅原:また、北海道で打ち上げインフラ整備を進めているSPACE COTANのような取り組みが出てきたりしています。地方の中小企業が宇宙分野に投資し、継続的に関わっていこうとする姿勢が見えてきたことは、日本の宇宙産業全体にとっても象徴的だと感じています。

さらに、人材育成や研究開発の面では、大学を中心とした拠点づくりも進んでいます。名古屋大学や立命館大学のように、共用設備を活用しながら複数のプレイヤーを巻き込んで技術開発を行う取り組みもあり、JAXAの研究開発だけでは実現が難しかった新しい形が見え始めています。

宙畑:理想としては、宇宙戦略基金などを通じて磨き上げた技術すべてが、将来的に社会で役立っていくことだと思います。一方で、新規事業の世界では「1000やって3つ当たる」と言われるような試行錯誤が前提になることも多く、政策として進める場合には、国民から百発百中を期待されがちではないかとも感じています。そうした中で、文科省としては、どのような考え方で技術テーマを選び、取り組まれているのでしょうか。

梅原:技術の成熟度によると思います。例えば経済産業省が担う分野では、ある程度確実性を求められるフェーズが多いと思いますし、一方で、技術開発そのものは、ある程度失敗を許容しないと新しいものは生まれてきません。

ロケットについては、「1000やって3つ当たればいい」というわけにはいきませんが、それでも、実際には試行錯誤を重ねながら少しずつアップグレードしてきたのが現実です。こうした進め方については、国民の皆様の受け止め方も以前に比べると変わってきていると感じています。

また、どのくらいの成功確率で進めるのがよいのかという点も、分野ごとに違います。すべてを同じ基準で考えることはできませんし、その中で、文科省としては、挑戦を許容する世界も大事にしていかなければならないと思っています。特に、現場や研究者の発想から出てくる、いわゆるボトムアップの取り組みは、やはり大切にしたい部分ですね。

(6)第2期では「有人宇宙輸送」も視野に

宙畑:宇宙戦略基金の第2期では、「有人宇宙輸送」という言葉が前面に出てきたことが印象的でした。この背景には、どのような経緯があったのでしょうか。

梅原:宇宙基本計画の中でも、有人輸送に必要な要素技術を進めていくという整理はされています。加えて、サブオービタルを含め、民間による宇宙輸送、とりわけ有人分野の動きが世界的に活発になってきていることも背景にあります。生命維持や安全といった要素技術は、今後の民間活動を支える上でも不可欠な分野であり、そうした点をしっかり進めていく必要があると考えています。

一方で、国として米国やロシア、中国のように本格的な有人宇宙活動に取り組むのかという点については、また別の議論だと思います。第2期では、まずは民間の取り組みを支える技術開発に重点を置いて進めていくという位置づけです。ロケットや輸送に関わる人間であれば、心の中では「有人をやりたい」と思っている人は多いでしょう。ただ、国家として有人宇宙活動を行うとなると、予算規模も大きくなりますし、これまで米国やロシア、中国が積み重ねてきたような犠牲やリスクを受け入れる覚悟があるのか、慎重に見極める必要があります。有人についての議論自体は、決してタブーではありません。民間のサービスが今後どう展開していくのか、国としてどこまで関わるのかについて、もっと国民的な議論が盛り上がれば良いのではないかと感じています。

宙畑:あらためて、宇宙戦略基金を通じて、今後どのようなプレイヤーの参画や技術開発が生まれることを期待されているのでしょうか。

梅原:これまでは、JAXAと、いわゆるプライム企業を中心とした枠組みで宇宙開発が進められてきました。宇宙戦略基金を通じて、そこに加えて、地方の中小企業を含む、さまざまなポテンシャルを持った民間企業にも参画してもらい、宇宙のコミュニティをさらに広げていきたいです。

日本には、ものづくりの力があります。狭義の宇宙企業に限らず、AIをはじめとする他分野の企業も含め、総力戦で宇宙産業を育てていければと思っています。その意味でも、JAXAとプライム企業以外のプレイヤーにもぜひ積極的に参加していただきたいですね。

あわせて期待しているのが大学の役割です。これまで宇宙の基礎研究を担ってきた大学が技術開発の拠点となり、人材育成まで含めて取り組んでいくことで、将来を支える基盤が強化されていきます。実際に、名古屋大学や立命館大学、東京大学などでは、共用設備を活用しながら、多様なプレイヤーを巻き込んだ研究開発が進んでいます。大学が拠点として機能すると、企業にとっても参加しやすくなります。地元の中小企業が、身近な大学の研究者と一緒に取り組むことで、新たな連携が生まれやすくなる。そうした流れが各地に広がっていくことを期待しています。

(7)宇宙スタートアップに期待するのは機動力と民間ニーズの把握

宙畑:採択企業には、スタートアップ企業も含まれています。文科省として、宇宙分野のスタートアップをどのような存在として捉え、どのような役割を期待していますか。

梅原:大手企業としては、三菱重工業や三菱電機、NECなど、これまで官需を支えてきた企業がまず思い浮かぶと思います。一方で、近年特に成長が著しいのは、衛星データを活用して具体的なソリューションを提供する分野などです。こうした領域では、スタートアップの機動力や民間ニーズを素早く捉える力が強みになっています。国主導の官需では、意思決定に時間がかかり、大規模で一点ものの開発になりがちです。多様で細かな民間ニーズに応えていくという点では、文科省やJAXA、大手企業だけでは、どうしても限界があります。その部分を補い、宇宙ビジネスを拡げてくれる存在として、スタートアップには大きな期待を寄せています。

宙畑:実際に、事業が斬新、あるいはスピード感があると感じられたスタートアップの例はありますか。

梅原:第6回宇宙開発利用大賞で内閣総理大臣賞を受賞したSagriは、農業分野で耕作放棄地の可視化や作物の生育状況の把握といった、利用者に密着したソリューションを提供されています。

梅原:こうした取り組みは、文科省やJAXAでは直接手がけにくい分野ですが、現場のニーズを拾い上げるという点で、大きな価値があります。

こうしたスタートアップの取り組みは、JAXAにとってもメリットがあります。実際、JAXAの最近の衛星開発では、センサの性能向上を積み重ねる技術主導の開発だけでなく、ユーザーの便益やニーズから将来像を描き、そこから必要な技術を逆算する、いわゆるバックキャスト型の考え方を重視する方向にシフトしています。海洋状況把握など、いくつかのテーマを設定して進めていますが、現場のニーズを最もよく把握しているのは、現業官庁やスタートアップだと思います。そうした声を積極的に聞き、参画いただきながら、開発を進めていきたいと考えています。また、宇宙戦略基金を通して、そうした提案をいただけると非常にありがたいです。

(8)宇宙開発を支える人材、どう育てる?

宙畑:今後の日本の宇宙開発や宇宙産業の展望について、どのようにお考えでしょうか。

梅原:日本は、2020年に4兆円の市場規模を2030年代早期に8兆円へ拡⼤する目標を掲げています。この「8兆円市場」とは、主に宇宙機器の製造市場を指しています。ただ、実際には、宇宙を使ってビジネスをする人やこれまで宇宙に関わってこなかった企業など、多様なプレイヤーが参入してきています。宇宙産業は、他分野と重なり合いながら広がっていて、その広がりが結果として他の産業にも貢献できればいいですね。

文科省としては、その中で宇宙技術の基盤や人材育成をしっかり支えていく役割を担っていきたいと考えています。

宙畑:人材についてはどのような課題意識を持たれていますか。

梅原:今後、人口減少の影響が非常に大きくなります。18歳人口も、生産年齢人口も確実に減っていく中で、産業をどう維持していくかは大きな課題です。優秀な人材が宇宙に目を向けてくれることは重要ですが、宇宙の中だけで囲い込むつもりはありません。他分野とも連携しながら、能力を最大限発揮できる形をつくっていくことが大切だと思っています。

宙畑:一人の人材が、複数の分野や組織を行き来するような形も考えられますか。

梅原:そうですね。企業同士が難しければ、企業と大学、企業とJAXAといった形でもいいでしょう。ネットワークをつくりながら、いろいろな場所で能力を発揮してもらうことが重要です。これからは、一つの組織の中だけで活躍するのではなく、マルチに動ける人材が増えないと、国全体の力を維持するのは難しい。そのための環境づくりは、文科省や経済産業省にとっても重要な役割だと思います。

宙畑:最後に、人材育成について、今後力を入れていきたいことを教えてください。

梅原:宇宙分野のコアとなる人材は、研究開発や実務と表裏一体で育てていく必要があります。JAXAの相模原キャンパスや国立天文台の現場で学生が実際に衛星を組んだり、打ち上げ運用に関わったりする経験は非常に重要です。また、若手の裾野を広げることも欠かせません。高専生や高校生、AIやデータサイエンスを志す学生など、必ずしも宇宙専攻でなくても、宇宙に関われる入口を増やしていきたいですね。

私自身、前職は高等教育局に在籍していましたが、日本では理系に進む学生の割合が高くないという課題があります。特に学部・学科の構成も比較的固定的で、なかなか変わりにくいのです。海外では成長分野に合わせて新しい学科が柔軟に立ち上がり、人の流れも生まれていきますが、日本ではその点が難しかったところがあります。

そうした中で、近年はデータサイエンスやAIといった成長分野への人材誘導を進めてきましたが、そうした分野を志す方々が、宇宙にも目を向けてくれるといいなと感じています。

梅原:また、日本には学年ごとに約1万人の高専生がいますが、16歳から技術と理論を一体的に学ぶ彼らは非常に優秀です。半導体やロボコンなど、さまざまな分野で力を発揮していますが、ぜひ宇宙にも関心を持ってもらいたい。実際、JAXAの中にも高専出身者は少なくありません。

高校段階でも、最近は「宇宙コース」を設ける学校がいくつも出てきています。一方で、現場の孤立を防ぎ、教育のクオリティを上げていただくために、教材やカリキュラムの提供、教員への支援、出前授業など、こちらからお手伝いできることは少なくないと思っています。

必ずしも宇宙に特化する必要はなく、まずは文理を問わず、STEAM教育をしっかり進めることが大切だと思っています。その中で自然と宇宙に興味を持ってもらえれば十分です。将来の月面開発を例に挙げると、人類が活動領域を広げるためには、工学だけでなく、農業、地質、法律や芸術など、さまざまな分野が関わってきます。そうした多様な分野の人が宇宙に関心を持ち、参加できる環境を広げていければいいですね。