船舶が座礁、航空機が着陸不能に!? 宇宙システムの「もしも」に備える官民が一堂に会した机上演習の実施意図
宇宙システムの安定性強化に関する官民協議会の構成員が集まり、宇宙システム全体の機能保障強化のための机上演習が行われました。冒頭挨拶で話された内容や机上演習が行われた背景についてまとめています。
2026年2月10日、宇宙システムの安定性強化に関する官民協議会の構成員が集まり、宇宙システム全体の機能保障強化のための机上演習が行われました。
宇宙システムの安定性強化に関する官民協議会とは、宇宙システムに関する不測自体が生じた場合に官民が一体となった対応を適切に行うため、2023年10月に設置された官民の情報共有の枠組みです。
机上演習自体は令和2年度以降毎年実施されており、今回で6回目の開催でした。
開催当日は、内閣府宇宙開発戦略推進事務局の風木局長から冒頭挨拶があり「宇宙空間は通信、観測、測位、気象といった幅広い分野で利用が進められており、宇宙システムは我が国の経済社会活動の重要な基盤となっております」という言葉から始められました。
本記事では、宇宙システムが社会インフラの一部としてどのような役割を担っているのか、また、どのような脅威・リスクがあるのかなどについてまとめました。
(1)宇宙システムはすでに社会インフラの一部
風木局長の冒頭挨拶の通り、現在、宇宙システムは、通信、観測、測位、気象といった分野で社会を支えています。
例えば、GPSに代表される測位衛星は船舶や航空機の運航を支える基盤となっています。
実際に、2025年にも、測位システムの精度に影響を与える電磁波攻撃(スプーフィング)により、航空機や船舶の運航に重大な影響が発生する事案が世界で発生しました。
2025年5月11日、紅海を渡航中だったMCSアントニア号がサウジアラビア沖100海里で座礁。また、2025年6月23日にはデリー発の航空機のパイロットが目的地となる空港上空に到着したものの、着陸地点を特定できずに着陸不能と判断して出発地点の空港に引き返した事案が発生しました。
また、気象衛星や通信衛星もまた社会インフラです。気象予測は、防災、農業、物流、エネルギー需給など、あらゆる分野の意思決定を支えています。通信衛星は、地上設備が整備されていない場所でもインターネット接続を可能にし、私たちのビジネス・生活の幅を拡げています。ここまでの話を通して、宇宙システムに不測の事態が生じれば、私たちの社会活動そのものに直結する影響が及ぶということは、多くの方に実感いただけるのではないでしょうか。
(2)金融庁や警察庁も参加?机上演習に集う官民の幅広さ
また、今回の机上演習には、内閣官房、内閣府、金融庁、警察庁、総務省(NICT含む)、消防庁、法務省、外務省、文部科学省(JAXA含む)、経済産業省、国土交通省、気象庁、環境省、防衛省、自衛隊が参加しました。
一見すると宇宙とは直接関係がないように思われる省庁も含まれています。しかし、金融決済、交通管制、防災、通信、エネルギー供給など、あらゆる行政機能が宇宙システムの恩恵の上に成り立っている現代社会。この顔ぶれが集うことはあらためて宇宙システムが社会インフラとして重要なものであることを認識させられました。
さらに、民間からは、宇宙システム運用事業者に加え、重要インフラ事業者団体など24社6団体が参加。宇宙関連企業だけではなく、不測の事態が生じた際に影響を受ける、あるいは対応の当事者となる社会インフラ企業も含まれている点が特徴的です。
風木局長は、机上演習について、冒頭挨拶で「本来不測の事態が発生した場合には、メールや電話などで関係者間の連携を図ることになりますが、年に1回の演習であり、関係者間の一体感の醸成を図りたいと思っております。参加者が一堂に会するこうした機会は大変貴重な場です。皆様がお互い顔見知りになること、そして、組織同士の連携強化のためにこの機会をぜひ活用いただきたいと思います」とも話されていました。
1年に1度、関係者の顔が分かるような交流を行うことが、非常時の連携強化につながる機会になるというポイントは非常に印象的でした。
(3)想定された4つの不測の事態
また、今回の机上演習では、国内外の動向を踏まえ、これまで以上に厳しいシナリオが設定され、大きく分けて以下の4つの宇宙システムへの脅威・リスクが不測の事態として想定されていたようです(演習内容自体は非公開でした)。
1.宇宙システムに対するサイバー攻撃
海外の民間衛星コンステレーション事業者地上系システムに対するサイバー攻撃の発生
2.GNSSへの干渉
海外の金融・証券取引所における時刻同期システム不具合による大規模障害の発生
3.衛星へのRPO(軌道上での接近・近傍運用)
海外の衛星が他国の政府衛星と同じ軌道面に投入された事実の公表
4.大規模な太陽フレア
海外では民間商業通信衛星コンステレーションにおいて寿命短縮や早期再突入事案が発生
また、宇宙システムの安定性強化に関する官民協議会では、上記以外のASATや地上施設への物理攻撃、スペースデブリの衝突といった宇宙システムへの脅威・リスクに関する参考情報をニュースレターとして事務局から発信し、構成員間で共有しているとのことでした。
そして、これらの脅威やリスクは今後起こり得る可能性にとどまるものではありません。宇宙システムに対するサイバー攻撃、衛星へのRPOという脅威はすでに顕在化しています。宇宙領域は利用する領域から守るべき領域になっており、日本でも2025年7月に防衛省が「宇宙領域防衛指針」を策定して公表しています。
また、2025年度は大規模な太陽フレアがたびたび発生しており、 NICTから注意喚起がなされています。
(4)1分1秒早めるための「自己点検」の機会としての演習。宇宙利用の促進と不測事態への備えは両輪で進める
複雑化する宇宙システムに影響を与える脅威・リスクに対して、いかに守り、何かが発生したとしてもいかに早く復旧するか。そのスピードを1分1秒でも迅速化できることが私たちの日常生活を支える社会インフラの維持につながります。
風木局長の冒頭挨拶では、参加者一人ひとり、そして各組織にとっての「自己点検」の場であること、また、宇宙利用の促進と不測事態への備えは両輪として進めなければならないということも強調されました。
宇宙は、今や一部の専門家だけの領域ではありません。社会全体で支え、守るインフラとなっていることをあらためて実感させられた机上演習でした。

