宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

H2Aロケット 40号機の打ち上げと小型衛星の可能性 ~搭載衛星6機のスペックとミッション~

2018年10月29日(月)、日本の種子島宇宙センターより、H2Aロケット40号機が打ち上がりました。 搭載した衛星は、全部で6機。JAXAの開発する温室効果ガス観測技術衛星「いぶき2号(GOSAT-2)」、ドバイの宇宙機関が開発し地球観測を行う「KhalifaSat」、そして大学が開発した小型の衛星4機です。

2018年10月29日(月)、日本の種子島宇宙センターより、H2Aロケット40号機が打ち上がります。

搭載した衛星は、全部で6機。JAXAの開発する温室効果ガス観測技術衛星「いぶき2号(GOSAT-2)」、ドバイの宇宙機関が開発し地球観測を行う「KhalifaSat」、そして大学が開発した小型の衛星4機です。

本記事では搭載衛星それぞれのご紹介と、小型衛星に注目して利用用途やポイント、これからの展望をご紹介します。

(1) 主衛星「いぶき2号」と「KhalifaSat」とは

まずは今回の主衛星である「いぶき2号」「KhalifaSat」について。

「いぶき2号」と「KhalifaSat」の概要 Credit : sorabatake, JAXA, MBRSC

■いぶき2号(GOSAT-2)

主衛星1機目の「いぶき2号」は、2009年に打ち上げられた同様のミッションを掲げる「いぶき」の後継機となっており、JAXA、環境省、国立環境研究所の共同プロジェクトで打ち上げられる衛星です。その重さは約1.8トンと、比較的大型の衛星。

京都議定書で定められた温室効果ガスの削減義務は、観測手段や可能範囲が限定されており、集計方法や制度が各国でバラバラだったという課題を解決すべく、2009年打ち上げの「いぶき」、今回打ち上げられる「いぶき2号」は宇宙から世界中の温室効果ガスを高精度かつ均一に観測することを目指しています。

詳しくはぜひ「人工衛星『いぶき(GOSAT)』『いぶき2号(GOSAT-2)』~地球温暖化の未来を知る~」をご覧ください。

■KhalifaSat

主衛星2機目の「KhalifaSat」はアラブ首長国連邦のドバイ政府機関MBRSCが開発し、2009年、2013年に打ち上げられたDubaiSat-1、DubaiSat-2に続く3機目の衛星です。

重さは約330kgと比較的中型~小型の衛星。これまでのノウハウを生かした初のドバイ国産衛星であり、幅広く地球観測を行う予定です。

KhalifaSatについては三菱重工製のロケットの3機目の商業打ち上げ受注という点もポイント。三菱重工業は衛星打ち上げ市場へさらに進出すべく、国際競争力の高い新型の「H3ロケット」の開発も進めています。

(2) 小型副衛星とは

H2A40号機が宇宙に運ぶ小型副衛星4機、それぞれ全国の大学が開発したもので、それぞれユニークなミッションを掲げ、約1.6kg~55kgと非常に小型の衛星です。

そもそも小型副衛星とは、これらは打ち上げ能力の余裕を活用して打ち上げる衛星のこと。第4章でもご紹介予定ですが、以下の図のようにロケットに搭載されます。

小型副衛星のロケット搭載イメージ(画像はH2Aロケット30号機) Credit : JAXA

一部無償の打ち上げ機会の枠もあり、衛星自体も小型であるために技術的なハードルが低い衛星という位置付けです。
実際に今回どのような衛星が宇宙へ打ちあがるのか、以下の表にまとめたのでぜひご覧ください。
(10/29追記 以下の表には40号機の搭載がキャンセルとなった衛星も含みます)

H2Aロケット 40号機に搭載された小型副衛星の概要 Credit : sorabatake, JAXA

(3) 小型衛星の利用用途

単純に衛星のスペック比較だけをしてしまうと、もちろん大きい衛星のほうが高くなるのですが、今回打ち上がるような小型衛星のメリットは何か。

主に以下4点の目的で用いられており、それぞれご紹介します。

①人材育成
②ユニークなミッションへの挑戦
③宇宙新興国の宇宙開発・宇宙利用
④コンステレーション

①人材育成

小型衛星は一般的に購入ができる民生品での開発が可能であることなどから技術的なハードルが低く、大学の研究室単位による大学生・大学院生による開発が可能となっています。

学生のときから、実際に宇宙に行く衛星に携われるのは従来あり得なかったことであり、理工系の学生にとって、非常に有意義な機会となっているのです。

今まで打ち上げられた日本の大学による小型衛星の数は、以下の図のように非常に多く、全国にその機会が提供されていることが一目瞭然でしょう。

日本の大学で開発された人工衛星 Credit : UNISEC

また、近年では宇宙産業を生業としないサラリーマンによるDIYの宇宙開発プロジェクト「リーマンサットプロジェクト」といった研究分野、学術分野によらない衛星開発も増えてきています。

②ユニークなミッションへの挑戦

小型衛星は多額の予算を使用した国家プロジェクトと異なる趣旨を持っていることが多く、ユニークなミッションを掲げることが可能です。

今回打ち上げられた小型副衛星もそれぞれ国家機関の衛星とは趣の異なる、独自のミッションを持っていることがわかります。

過去には多摩美術大学と東京大学の共同プロジェクトとして、芸術を目的とした人工衛星プロジェクト「ARTSATプロジェクト」は、はやぶさ2打ち上げの際に小型副衛星として打ち上げられ、世界で最も遠い芸術作品となりました。

2013年打ち上げの「芸術衛星DESPATCH」 Credit : ARTSAT

③宇宙新興国の宇宙開発・宇宙利用

小型衛星は前述の通り技術的、資金的なハードルが低いため、科学技術途上国の宇宙開発・宇宙利用のフィールドとしても活用されています。

九州工業大学は「BIRDSプロジェクト」という宇宙新興国との国境を越えた学際的な衛星プロジェクトを行っており、2018年8月にはブータン、フィリピン、マレーシアの小型衛星を開発しました。

BIRDSプロジェクトで開発された衛星はその国初めての衛星ということも多く、小型衛星のハードルの低さが宇宙開発の裾野を広げていることは間違いないでしょう。

「きぼう」の小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer:J-SSOD)と超小型衛星を前に記念撮影を行う「BIRDS-2」ミッション参加国メンバーとJAXA関係者ら Credit : JAXA

④コンステレーション

従来の衛星通信や地球観測は、大型の衛星を1機打ち上げることで行われていましたが、多数の小型~中型の衛星を協調動作させ、全地表面を網羅することで機能やサービスを達成する方法が「コンステレーション」です。

大型の衛星1機でなく、小型の衛星を複数用いるため、故障リスクの回避や、低コストな小型衛星を量産することによるコストパフォーマンスの優位性、地球観測衛星の観測頻度の向上、通信衛星の通信網拡大を狙えることが特徴。

コンステレーションについて、通信衛星のお話を「地球上のどこからでもインターネットを SpaceXのStarlinkとは?」で紹介しているのでぜひご覧ください。

(4) ロケットにおける「相乗り」と小型ロケットが盛り上がる理由

では、実際に作った小型衛星を宇宙に運ぶためにはどうすればよいのか。そのための手段のひとつが今回のH2Aロケット40号機のような「相乗り」です。

JAXAでは宇宙開発の裾野を広げ、次世代の人材育成を目的として、複数の小型衛星をH2Aロケットの余剰能力を活かして打ち上げる「相乗り」衛星を公募しています。この制度を活用すれば比較的安価での打ち上げができるのです。

しかし、あくまで「相乗り」である小型衛星は主衛星の余剰能力を使わせてもらう立場であることから、主衛星へのミッションに対して影響を与えないことを前提とするもの。

小型副衛星のロケット搭載イメージ(画像はH2Aロケット30号機) Credit : JAXA

軌道に対する制約など、副衛星に対する要求は多く、必ずしも要望通りに打ち上げられるわけではないという課題も……。

そのような課題を背景に、小型衛星向けのロケットが「小型ロケット」で、近年、小型衛星の宇宙輸送のボトルネックを解決しようと盛り上がりを見せる市場です。

詳しくは「インターステラテクノロジズの小型ロケットMOMOの先にあるもの」をご覧ください。

また、国際宇宙ステーションへの補給船へ衛星を搭載し、日本実験棟「きぼう」より超小型衛星放出機構を用いて宇宙空間へ放出を行う枠組みもあります。

軌道が低いため衛星の寿命が短いというデメリットもあるものの、「相乗り」と同様に比較的安価であると同時に、補給船の物資として搭載されるため技術的な難易度も比較的低いとされることから、小型衛星の宇宙へのアクセスとして一つの選択肢として期待されています。

「きぼう」の小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer:J-SSOD)と放出される超小型人工衛星 Credit : JAXA/NASA

(5) まとめ: 小型衛星の開く未来

以上、今回のH2A40号機の打ち上げについて、主に小型衛星に焦点を当ててまとめましたが、今後小型衛星が宇宙利用に欠かせないツールとすでになっていることは間違いありません。

また、技術的、資金的ハードルの低い小型衛星はまだまだ多くの可能性を秘めていて、現状だと難しい宇宙ビジネスアイデアも小型衛星を用いて実現できる日がきっと訪れるでしょう。