宙畑 Sorabatake

特集

第一産業生産者をサポート! 最先端の衛星技術を活用して 世界の「食」を支えるUMITRON

UMITRONは、水産養殖業のためにIoTやAI、衛星データといった先端技術の活用を目指す会社です。なぜ、多田さんはこの道を選んだのでしょうか。

日焼けした肌に、ブルーのTシャツ姿。まだ4月半ばだというのに、夏パワー全開で宙畑取材班を迎え入れてくれたのは、UMITRON(ウミトロン)の多田洋史さん。溢れんばかりの笑顔が素敵なお兄さんです。

大学では航空宇宙工学を専攻。最先端のロケット製造技術を学び、将来はロケット打ち上げに携わることを夢見ていたといいます。ところが! とある授業を聴講したときに、日本の航空宇宙ビジネスの産業規模を知ります。国内の市場規模自体を大きくしていかなければ、先んじている欧米に取り残されてしまうのではないか……。日本の宇宙産業をもっともっと元気にしたいという思いから、事業開発力を最大の武器とする日本の総合商社の門を叩きました。

いわゆる一流商社マンとなった多田さん。そのまま勤め上げれば一生安泰……だったかもしれませんが、このブルーTシャツの青年は、さらなる高みを目指します。総合商社で働き始めて丸3年が経ったころ、当時は創業2年弱のベンチャー企業、UMITRONへ転職。同社創業メンバーの山田雅彦さん(やまだ・まさひこ、Co-founder/Managing director)とは、大学の先輩・後輩の仲だったそうです(彼もまた、元総合商社マン)。

UMITRONは、水産養殖業のためにIoTやAI、衛星データといった先端技術の活用を目指す会社です。なぜ、多田さんはこの道を選んだのでしょうか。

「言葉を選ばないといけませんが……」と、多田さんが切り出します。

「日本は、すでに先進的な宇宙関連技術を持っています。その一方で、その優れた技術を現場にどうもっていくかという視点が、少し弱いんじゃないかと思いました。その壁を超えるためには、『第三者的なプレイヤー』が必要だと思うようになったんです」

第三者的なプレイヤーとは、技術を持つ人と使う人をつなぐ立場のこと。養殖事業者にとって、宇宙技術は遠い世界の話かもしれません。でも、彼らが毎日、手作業で測り続けている海表面の温度、プランクトンの濃度といった重要なデータは、衛星データからも取得できるという事実があります。

「衛星データを利用すれば、実は桁違いに広範囲のデータを取得できるんです」

宇宙技術と養殖事業者との接点となり、現場のニーズに対して技術による最適解を導く。多田さんは、そんなUMITRONの仕事に魅力を感じたといいます。

(1)なぜUMITRONは水産業に注目したのか?

2016年に設立されたUMITRONは、まだ創業3年目の若い会社です。その事業概要は「水産養殖事業者向けデータプラットフォームサービスの開発、提供」。この一見ユニークな事業のアイディアは、一体どのようにして生まれたのでしょうか? 多田さんはこう説明します。

「UMITRON創業メンバーの一部は、宇宙畑の出身です。代表取締役の藤原謙(ふじわら・けん)はJAXAにいましたし、共同創業者の山田雅彦も学生時代に小型衛星のプロジェクトに携わった経験をもちます。二人には、衛星データを活用したいというビジョンがありました」

創業者の二人は、特に地表面のデータを使ったビジネスに着目します。地表の70パーセント以上は海であるにも関わらず、陸上に比べて海洋に関する衛星データについては、まだまだ活用の余地が大きいところに目をつけました。では、海洋でデータを欲している人たちは誰かと考え、水産養殖業にたどり着きます。実際に現場に足を運んで、現場の困りごとをヒアリング。そのなかで、さまざまな課題が見えてきました。

魚は水温変化に敏感な生き物です。天候が荒れて水温が急激に変わると、魚の食欲が低下します。温度が急激に変動するタイミングでエサを与えても、魚は食べてくれません。逆に満腹なときに水温が変動すると、溶存酸素量の変化などから体内調整が機能せず魚が死んでしまうこともあります(へい死といいます)。そのため、養殖において海水温のモニタリングは非常に重要であり、そういったことにも衛星データは活用可能だと考えています。特に、今後は小型衛星の活用など、衛星データの活用方法が劇的に変わっていく可能性があります。そういった時代の変化と合わせて、UMITRONが水産養殖に貢献できることも少しづつ増えていくのではないかと期待しています。

(2)日本の水産市場は縮小中。それでも水産業に注目したわけは?

UMITRONは、水産業のなかでも、特に養殖事業に着目したビジネス展開を図ってきました。それは、世界人口の爆発的増加にともなう「プロテイン需要」を見据えているからです。

「日本人にとって『養殖』は慣れ親しんだ言葉ですが、世界でみると1970年代後半から伸びてきた、比較的新しい産業なんです。それまでは、海に出れば天然の魚が獲れていた。しかし、だんだんと漁獲高が減り、養殖にシフトしていったという歴史があります。日本はひと足先に養殖業が進みましたが、世界では、これから養殖産業を成長させたいと思っている国がたくさんあるんです」

ちなみに現在、海面での養殖において生産トン数ベースで最も多いのがサーモン。ノルウェーやチリの養殖事業社が大規模に手掛けています。日本では真鯛、ブリ、サーモン、マグロなどが主要な生産品種。一方、地中海およびアジアの一部地域では、スズキや鯛、クエが主要な品種となります。地域ごとの生育環境によって魚の種類は異なるものの、養殖のニーズは世界的に高まっているようです。

しかし、単に魚を食べたいということにとどまらない、より大きな背景があります。それが「プロテイン需要」です。多田さんは「これからの人間の健康維持に関わる深刻な問題」と、続けます。

「今からおよそ30年後の2050年には、国連の統計によれば、人口が100億人近くまで増えることが想定されています。すると既に人の手で生産されている牛・豚・鶏や大豆といったタンパク源だけではプロテイン量が不足するという試算があります。そこで持続可能な水産養殖といった形で魚からも良質なタンパク質を摂取できるように、人間が生産していく必要があると考えています。タンパク質の生産量という観点で見ると、実は、水産養殖は現在最も成長しているプロテイン源なのです。

特に、私たちが拠点を構える東南アジア地域は人口増加率が高く、プロテイン需要がより高まると予測されています」

魚は昔から人間が摂取してきたものであり、地球環境を保全しながら、人が美味しく魚を食べられる環境をつくることには、大きな意義があるといえそうです。

(3)UMITRONの事業戦略と養殖業の課題

UMITRONは最初から海外でのニーズを視野に入れています。海外に出ていこう、ではなく、最初から海外ありきの事業モデルを作っているのです。また東南アジアが軸足になると考えているため、シンガポールに本社があります。

「東南アジア各国は、いま所得が向上している只中です。すると人々はより美味しい食べものを求めます。これまで東南アジアで養殖されてきたのはエビや淡水魚でしたが、今後は海面養殖のマーケットが拡大すると私たちは見ています。シンガポールを拠点に、広くアジアやオセアニアまでも視野に入れつつ、ニーズを深掘りしていこうというのがUMITRONの戦略です」

一方、UMITRONのプロジェクトがすでに動き始めているのが南米のペルー。アンデス山脈の山中、ボリビアとの国境にまたがる広大なチチカカ湖で、トラウトサーモン(ニジマス)が養殖されており、そこにUMITRONの技術が生かされているのです。米州開発銀行グループ(IDB Lab)の出資を受けながら、ペルーのトラウトサーモン養殖業を将来にわたり持続可能なものに変えていく狙いがあります。

「現場に視察に行くと、そこには昔ながらのいけすがあり、船でいけすの横に乗り着けて、従業員が船上から手でエサを撒いていました。これは日本の状況からすると、衛星データ云々以前に改善点が多々あるな、と」

現地の生産者によると、悪天候のなかで船が転覆することが年に複数回あるといいます。それで、従業員が亡くなるという最悪のケースも……。

「魚も生き物なので、エサがないと生きられない。自分たちの商品が死んでしまうのは困るので、危険と分かっていても彼らは給餌に行くわけです。でも、遠隔操作の自動給餌システムを構築すれば、実際に人間が現場に行かずにすみます。労働環境の劇的な改善につながると考えています」

ここで活躍するのが、リモート給餌を実現した「UMITRON CELL®」です。

(4)水産養殖業で活用されている「UMITRON CELL®」の技術とは?

「UMITRON CELL®」は、UMITRONが開発したスマート餌機です(詳しくはUMITRONのホームページ:https://umitron.com/ja/参照)。「UMITRON CELL®」を導入した養殖事業者は、スマートフォンからリモートコントロールで給餌を行うことができ、給餌データの履歴もグラフ化され一目瞭然となります。まさに、IoT(Internet of Things)が実現しています。

「技術ですぐに全てを解決することは難しいのですが、こういった技術の社会実装を通して、課題を一つずつ取り除くことができれば、時間はかかるかもしれませんが、いろいろな活用可能性が広がると信じています」

また、UMITRONでは、海水温をモニタリングする事にもチャレンジしています。

「魚の行動は、わずかな海水温変化に影響されるといわれています。温度が変わると、海水の酸素濃度や塩分濃度が変わるんです。魚は体内の水分を出したり入れたりしていますが、その変化に対応できないでいると、ストレスがかかります。変化が急激であるほどストレスが大きいので、どれくらいの時間で温度が変わるのかにも気を配る必要があります」

天候変化を予測して、魚にストレスを与えないような環境を作るために、地球上の海表面温度やその他環境データを衛星から広域にわたってセンシングし、給餌のタイミングをコントロールする。実際にどのようにそれを行うのか、また、そのほかにはどのような環境データを活用しているのかについては、今はまだ企業秘密とのこと。開示可能になったタイミングで、またお伺いしたいと思います。

(5)そもそもなぜ、第一次産業に着目したのか?

最後に、根本的な疑問をぶつけてみました。日本の宇宙航空産業としても、あるいは、いちベンチャー企業としても、「利潤の追求」は絶対条件なはず。その意味では、第一次産業よりも第二次、第三次産業のほうが、対価を得やすいようにも思えます。なぜUMITRONは、水産業という第一次産業に着目したのか。この質問を多田さんに率直に投げかけると、こんな答えが……。

「UMITRONという企業として一次産業をサポートすることを選んだ理由は改めて創業者に聞いてもらうとして、私自身の考えでは、貢献できる度合いがとても大きいと思っていまして。衣食住は人間が生きていく上で不可欠じゃないですか。しかも“食”のクオリティが低いと、幸せを感じることすらできにくい。

私は日本という国に生まれ、そのおかげで色々な経験をさせてもらっているし、高等教育を受けさせてもらいました。日本という国が好きですし、世界の人から愛される国であってほしいと思うわけです。そんな中で、養殖という“食”と密接に関わるジャンルで日本から高い技術を持った“クレイジー”なやつらが来て、自分たちの生活を劇的に変えてくれたとなれば、少しは日本という国に貢献できるのではないかと。そうすれば、私の人生も少しは価値があるのかなと思っていて。

現状ではまだまだですが、今後、我々がもっともっと頑張って良いサービスを提供できた時に養殖生産者の方々から頂く“ありがとう”は本当に深いと思っています。彼らにはいい魚をお客さんに食べてほしいというモチベーションがあり、高いクオリティの食物を作るパートナーになってくれて“ありがとう”という意味も込められていると思います。私たちの技術が使われた食物で幸せになってくれる人が世界中にできれば、そういう人たちにも貢献できていると考えると、この仕事はやりがいがあります」

なんとも良い話です。ただし、これを一つのエピソードに終わらせず、ビジネスとして成立するスキームを構築しているのが、UMITRONのすごいところではないでしょうか。

「いくつか進行中の話もあるので、オープンになったら具体的にお話します。私たちはテクノロジーパートナーとして水産養殖業の皆さんをサポートしたいと思っており、そこに様々な組織・企業や政府機関、政策投資銀行などがチームとなることでプロジェクトが動き始めています」

これからもUMITRON、そして多田さんの描く未来図がどんどん形になることを楽しみにしています!