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漁業×宇宙(人工衛星利用)、現状と事例【宙畑業界研究Vol.2】

様々な業界と宇宙の関係を紹介していく【宙畑業界研究】の連載第二回は、我々の生活にとって欠かせない”漁業”です!

Credit : sorabatake

宙畑では宇宙ビジネス(主に人工衛星利用)の可能性を探るため、【宙畑業界研究】の連載を全6回に分けて実施している。
第一回の農業に続いて第二回に取り上げるのは、これもまた私たちの生活を支えている水産分野について。
該当する業界の方もそうでない方もこの記事が皆様のビジネスアイディアの一助になれば幸いである。

(1)日本人、そして世界における魚の消費量推移

日本人は「魚を食べる」というイメージがあるが、実際には2001年をピークに消費量は下がり続け、2011年には魚介類と肉類の消費量が逆転している。

しかしながら、「魚を食べる」というイメージはある意味では間違っていない。いまだに魚の消費量は世界有数であり、消費している魚の種類も多い。

世界における魚の消費量はどうかというと、中国やインドネシア、インドをはじめとしたアジア圏の国々を中心に増えている。乱獲による水産資源の枯渇を防ぐため、漁業分野の持続可能性について議論が行われている。

このような漁業分野についての現状と課題、宇宙を利用することで解決できること、そして現在行われている宇宙を利用した漁業に関連するサービスについて紹介しよう。

(2)漁業の現状比較~世界の漁業が伸びている要因は養殖にあり~

漁獲量の推移 Credit : sorabatake

参考:Global Note

海洋における漁業は、大きく海面漁業と海面養殖業に分類できる。

海面漁業(以下、漁業と書く場合には海面漁業を表す)では、天然の魚を釣ることを生業としており、海面養殖業(以下、養殖業)では、人工的に魚介類や海藻を育てることを生業としている。

グラフを見ると、世界的に水産物の漁獲量・生産量は伸び続けているが、成長を牽引するのは養殖業だ。国連海洋法条約*1により、水産資源の枯渇を防ぐために各国は漁獲量は制限されている。そのため、漁業による漁獲量が伸びない一方で、養殖が盛んになってきているのだ。

世界と日本の漁業の変化 Credit : sorabtake
世界と日本の漁業の変化 Credit : sorabtake

たとえば、アジア圏、特に中国やインドネシア、インドが挙げられる。各国の傾向について見てみよう。

【中国】
中国グラフを見ると明らかなように右肩上がりの成長を見せ、1988年以降、日本に代わって常に漁獲量1位の座を占めている。特に養殖業による漁獲量が非常に多く、実に8割程度を占める。

排他的経済水域が狭く日本の半分程度のため、養殖業に力を入れているのだ。その一方で、非合法な漁船が多く、漁業管理上の問題となっている。

【インドネシア】
インドネシアの漁獲量は、海洋水産省を設置した1999年以降増加しており、2006年以降は一貫して世界2位となっている。

同国も中国と同様に、養殖業による水揚げ量が増加しており、2010年以降には養殖業が漁業生産量の半分以上を占めている。

特徴として、漁船の95%以上が無動力船もしくは5トン未満の小型漁船となっていることが挙げられる。また、中国と同様に違法操業に対する効率的な取締りができていない課題がある。

【インド】
インドもインドネシア同様、1980年代後半に漁獲量が急増した。

ただし、インドの漁業者の多くは零細であり、無動力漁船も多いことから、多くは養殖業による漁獲となっている。

【日本】
日本はというと、国連海洋法条約に批准して以降、漁業は右肩下がりである。養殖業が占める水揚げ量の割合は年々増加しているが、割合としては1/3程度である。

他国に比べ養殖が伸び悩んでいるのは、消費量が減っているとはいえ、日本人は食べる魚の種類が多い。養殖技術が確立していない魚種について漁業に頼らざるを得ないのだ。

また、水揚げ量低下の原因として、産地価格の低迷による生産意欲の低下や、生産者の高齢化などが挙げられる。

以上、各国の現状を見てみるとやはり昨今は養殖業が盛んになっていることが分かる。養殖業が盛んになっている要因は、たとえば、天然の魚を漁獲する漁業に比べると生産量の見通しが立ちやすく、また、品質を維持しやすいことが挙げられる。

しかしながら、養殖業も利点ばかりではない。工業廃水による赤潮や、台風などの自然災害、魚病をはじめ、過密養殖*2や自家汚染といった課題があるのだ。

1…なお、現在は7月第3月曜日に設定されている海の日は、もともとは海洋条約を国内で発効した7/20に設定されていた。
2…単位体積当たりに育成できる魚の量が多い方が売上高が高くなるように思える。しかし、過密養殖になると、栄養不足や餌不足によって魚の成長が悪くなり、品質の低下や疾病の発生を招く。また、畜産業の場合は、発生した糞尿を処理することで環境汚染を防ぐことができるが、養魚施設で発生した糞や食べ残した餌は海底に蓄積する。この分解に伴って酸素が消費されることで低酸素状態になる。結果、海の汚染を魚が自ら招くことになるため、自家汚染と呼ばれている。

(3)漁業/養殖業の問題解決に活かせる宇宙

漁業と宇宙利用 Credit : sorabtake

漁業、養殖業ともに課題も多くある中で、今後の漁業を救う手段の1つとして宇宙という手段があることを紹介しよう。

課題についてまとめると
1.漁船に関すること:漁船監視や航路最適化、漁獲量(乱獲)の管理など
2.魚に関すること
3.川や海の環境に関すること
などが挙げられる。

それぞれについて、宇宙を利用することで、どのように課題を解決できる可能性があるのかを見ていこう。

宇宙利用のメリット/デメリット Credit : sorabatake

1.漁船に関すること【広域性・長期観測】

まず、衛星は広範囲に渡って観測できるため、船の運転に役立つ海上の様子を広く確認できる。確認できるのは、海上の天気、風速や海水面の状態など様々。

通常、漁船に限らず船舶には、自動船舶識別装置(AIS)と呼ばれる、船舶の情報(船の現在位置や速度など)を発信する装置を搭載している*3。

一方で、違法操業を行っているような船舶はAISを搭載していない場合が多く、AISによる船舶情報と、衛星写真から確認できる船舶情報を比較することで、違法操業している漁船を発見できるのだ。

また、漁船が漁獲している際の状況を確認することができれば、水揚げ量の推定にも役立つため、乱獲に対する対策の一助にもなり得るとも考えられる。

*3…厳密には、すべての船舶に搭載する義務があるわけではなく、下記の3つのいずれかに該当する船舶への搭載が義務付けられている。
(1) 国際航海に従事する 300 総トン以上の全ての船舶
(2) 国際航海に従事する全ての旅客船
(3) 国際航海に従事しない 500 総トン以上の全ての船舶
(海上保安庁 ホームページより抜粋)
上述の情報から推測可能と思われるが、違法操業しているような船舶は小型な場合が多いため、そもそもAIS搭載が義務付けられていないことが多い。そのため、情報を比較して違法操業を判別することは難しいかもしれないが、小型衛星を多数打ち上げると時間分解能を上げることができるため、船舶の航行状況を追跡可能となり、違法操業の発見が期待されている。

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2.魚に関すること【広域性】

魚の居場所は、海水温から推測可能と言われているそこで、衛星に搭載した観測装置を通して海水温を確認し、魚が集まる漁場までの最適な運航ルートを衛星データから決めることができるのだ。

漁業に限らず、養殖業の場合にも、海中にカメラを設置し、衛星によるインターネット回線を通してその様子を確認することができれば、遠隔から魚の健康状態や成長具合などを確認することが可能だ。早く魚病を確認することができれば、他の魚に感染する前に隔離することも可能となるかもしれない。

また、野生の動物行動を知るために、ターゲットマーカーを取り付けるバイオロギング、という試みが行われているが、魚にターゲットマーカーを取り付けることができれば、魚のみならず海洋生物の生態について知ることの一助にもなるだろう。

 

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3.川や海の環境に関すること【広域性・長期観測】

養殖業を行っている沿岸部は、都市からの廃水の影響を受けやすい。工業廃水が多く流れると赤潮が発生し、水産生物に被害が生じることがある。

水揚げ上位国の多くは新興国である。新興国は現在経済成長期であり意図せず工業廃水が生じることある。河川や海の状況をモニタし、工業廃水が意図せず流れ出していないか監視することが非常に重要になる。

赤潮の発生に関連するクロロフィル濃度を衛星で観測することで、工業廃水の排出を制御することができれば赤潮の発生を防ぐことが可能となるかもしれない。

各企業の排水を監視することも手段として考えられる。衛星を利用することで広範囲の情報をより効率的に監視することができるようになるのだ。

(4)漁業/養殖業x人工衛星利用の事例紹介

宇宙を利用した漁業/養殖業のメリットと課題がある中で、すでに海外でも日本でも宇宙を利用する企業がいくつかある。以下にいくつか紹介しよう。

Credit : umitron

企業名:Umitron
事業内容:
IoTやAIをはじめとした技術を用い、コンピュータが魚を育てる社会を実現。持続可能な養殖モデルの構築を目指す。

Credit : Digital Globe

企業名:Digital Globe
事業内容:
衛星観測データから、魚のいるポイントを予測し、効率的な漁業を支援する。

Credit : raymarine

企業名:raymarine
事業内容:
漁師向けに、海面の温度を情報を提供。温度がスポット的に高い所などが分かることで、効率的に漁業を行う。

Credit : Weather News

企業名:ウェザーニューズ
事業内容:
最新の本船位置と気象・海象データおよびビジネスリスクに関係する情報を監視、船舶の安全をシームレスに支援します。

Credit : JAFIC

企業名:漁業情報サービスセンター「エビスくん」
事業内容:
海況情報や気象情報などを提供し、効率的な漁業をサポートする。サービス提供価格は非常に安く抑えられており*4、ユーザの利用障壁が下がっている。

*4 エビスくんの情報料
・「エビスくん(沿岸版)」情報利用料(JAFICへ) 10,800円/月
・「エビスくん(標準版)」情報利用料(JAFICへ) 22,680円/月
・「エビスくんⅡ(潮流情報あり)」情報利用料(JAFICへ) 30,240円/月

(5)漁業/養殖業と宇宙の未来~人工衛星が知見の”見える化”に貢献~

宙畑業界研究シリーズ第二回は漁業について取り上げた。

漁業/養殖業の難しいところは、自分が関わっている範囲のみを見ればよいのではなく、海につながる河川の状況から国内外関わらず他の漁場の状況に至るまで、包括的に状態を把握し、判断することが必要となることである。

このような観点で、広域を観測することができる衛星からの情報を利用することは有用となる。

もちろん、衛星からの情報だけで漁業に関わる諸問題を解決することができる訳ではなく、衛星からの情報に対して、他の情報を掛け合わせて理解することも重要となる。たとえば、他の情報を掛け合わせるハブの役割を宇宙からの広域観測の情報は担えると考えられる。

幸いなことに、今は無償で公開されている衛星からの観測情報が多くある。このような情報を解析することで、海洋の情報を知ることも可能だ。衛星から得られる情報に興味を持った方は、以下にあげる衛星データ配布サイトを確認してみてはどうだろうか。自分なりの解析方法を見つけることができれば、新たなビジネス創出につながるかもしれない。

【衛星データ配布サイト】

G-Portal(JAXA)

LANDSAT-8(アメリカ)の衛星データ

Corpernics Open Access Hub(ヨーロッパの衛星群Sentinelのデータ)

さくらインターネット(Coming soon)

(6) 【おまけ】宙畑が挑戦! 漁業×宇宙 ビジネスモデル試算

衛星データは漁業の持続性を高めるのに役に立つかもしれないが、持続ためするには、漁業経営体、宇宙ビジネス双方にメリットが無ければ成立しない。そのため、宙畑なりにお金のことについて考えてみたので興味がある方はぜひご覧いただきたい。

日本の漁師の8割強が沿岸漁業に携わる漁師とのことなので、まずは沿岸漁業の漁師目線で考えてみる。

漁業の収入と支出 Credit : 農林水産省

平成28年の日本沿岸漁船の個人経営体を考えた場合、1経営体あたりの漁労収入は632.1万円程度で、漁労支出は397.3万円。特に燃料費が占める割合は大きく、60.1万円ほどかかっている。

さて、衛星画像の価格はアクセルスペースの画像で150円/km^2である。沿岸漁業の場合、一回に探索する漁場が30km^2とすれば、4500円/回程度、つまり月の半分15日×12ヶ月で年間81万円のコストがさらに必要となる。

そこで購入した衛星データを用いることで、漁労収入(664.5万円)が5%伸びると仮定すると、収入の増分は年間で約32万円。さらにコストの大部分を占める燃料費を10%改善できたとすると、年間6万円のコストを低減でき、1経営体当たり年間で40万円弱の収益改善が見込める。

……ということはつまり、売上の改善と原価の低減を組み合わせても、いち個人経営体の漁師目線では、アクセルスペースの現状の衛星データに関して言えば価格がペイできるほどの価格水準ではない。

一方で、沖合漁業で考えてみると先に紹介したJAFIC(漁業情報サービスセンター)提供の「エビスくん(沿岸版)」を利用している経営体が多い。実際にコストとしては情報利用料が一番高いプランで月に30,000円程度で年間の利用料は40万円に満たず、平均13%の燃料削減効果があったと調査報告がなされていたため、漁師にとってはメリットが大きいサービスなのだろう。

ここでひとつ気にしなければならないのは、宇宙ビジネス側として、エビスくんの価格感でビジネスが成り立つのか、ということである。エビスくんの調査報告書によれば、平成27年5月時点で679隻がエビスくんを利用しているとある。全利用者が一番高いプランを利用しているとして、年間約20,000,000円の売り上げ程度。

小型衛星を1機打ち上げるのに製造5億、打ち上げ5億で10億円のコスト(実際は1機では不足がある)が必要であることを考えると、どうしても少なく見えてしまう。

ただし、世界規模で考えれば漁船の燃料消費量は年間約 150 万トンで約 1300 億円(漁業センサス 201320の漁船
数及び重油価格等より三菱総合研究所推計)となっており、10%の改善で年間130億円のコストカットが見込める上に、現状政府の衛星データは無料で利用できるので、ロマンにまみれた夢物語というわけでもない。

以上の考察より、宇宙ビジネスを漁業に広めるためには、漁業側に啓蒙活動をしながら、金銭的にも宇宙ビジネス側の利用ハードルを下げ、世界全体に対してサービスを広めていく必要があるのは明白。もちろん、漁業側にサービス利用のメリットがあれば衛星製造・打ち上げのコストも加味した適正な値付けをすることも重要である。

と、厳しいまとめになってしまったが、無償で公開されている情報も多くある今、宇宙ビジネス側で画像撮影と解析の原価は下がるだろう。また、国外の漁船に対しても国内の解析結果を転用することもできるなど、宇宙ビジネス側の今後に期待できる点も多い。

人口増加がさらに進み、食糧危機が叫ばれる昨今、農業の話同様、持続可能な水産資源ついて宇宙ビジネスが救いの一手となることを期待したい。

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