農業×宇宙(人工衛星利用)、現状と事例【宙畑業界研究Vol.1】

宙畑では宇宙ビジネス(主に人工衛星利用)の可能性を探るため、今回から6回に分けて様々な業界と宇宙の関係を紹介していく【宙畑業界研究】の連載をスタート。第一回は、我々の生活にとって欠かせない”農業”を取り上げる。
該当する業界の方もそうでない方も、記事をお読みいただき、皆様のビジネスアイディアの一助になれば幸いである。

■ 目次
(1)農業の現状~拡大する世界市場と伸び悩む日本市場~
(2)農業で活かせる宇宙~宇宙から田畑の状態を把握、農機の自動運転を可能にする~
(3)農業x人工衛星利用の事例紹介
(4)農業と宇宙の未来~人工衛星が知見の”見える化”に貢献~

農業の現状~拡大する世界市場と伸び悩む日本市場~

世界銀行データより宙畑が作成)

世界の人口は70億人を突破し、2050年には98億人に到達する見込みだ。人口増加に合わせ、食べ物の需要も増えることは想像に難くないだろう。今回焦点を当てた“農業”は当然ながら食を支える第一次産業であり、爆発的な人口増加が予測されている現状において、今後の発展、つまりは生産量の増加を期待される業界である。
   
農業において生産量を増やす方法は、ざっくり分けると2つ。1つは、畑や田んぼを大きく(開墾)して収穫量を増やすこと。もう一つは、生産効率を上げることだ。

国土が十分にある国では、田畑を切り開き、農地面積を広げていくことができる。中国やインドで大幅に生産額が伸びているのは、国の政策として農業の推進を掲げ、田畑を開墾し、農業従事者を増やしているためである。

ただし、国土が十分な国だからといって課題がないわけではない。農地が広いということはその分管理することも大変になる。農地を耕したり、種や苗を植えたり、水や肥料を与えたりと広い農地ですべてを人がひとつひとつを手作業で行うことは現実的ではない。

さて、私達が住む日本はというと、まず地理的に他国と比較すると不利である。先述した中国やインドなどに比べると農地面積となる国土が足りていない。つまり、日本が生産量を増やすためには生産効率の改善が必要となる。

しかし、日本の農業従事者は個人経営や零細企業が多く、保有する農地面積が狭い。また高齢化や農業離れによって日本での農業生産額は1980年代をピークに下降傾向が続き、昨今政府が政策を打つも横ばいを何とか保っている、というのが日本の農業の現状である。

つまり、上のグラフでは順風満帆に見える中国・インドも、また、すでに頭打ちとなっている日本の生産効率改善策についても課題があるのだ。そこで、改善策のひとつとして昨今注目を集めているのが宇宙(主に人工衛星)の利用である。


農業で活かせる宇宙~宇宙から田畑の状態を把握、農機の自動運転を可能にする~

では、農業の生産性改善に宇宙(人工衛星)の利用がどのように寄与するのか、図を用いながら紹介しよう。

トラクターで田畑を耕したり、作物の生育状況を確認したりするには、耕地面積が広ければ広いほど時間がかかる。日本の限られた国土でさえも農地の広さによっては耕す作業だけで1日をつぶしてしまうこともある。作育状況をチェックするにも作物の1つ1つを毎日見て回ることは現実的ではない。

そこで宇宙を利用するとどうだろうか。人工衛星が宇宙から調べることができて、農業にも活かせる情報というのはいくつかある。地表面温度、土壌水分量など、土地の環境を調べることができる上に植物の生育状況を色から判別することもできる。(地球観測衛星についての詳細は、こちらの記事を参照いただきたい。)

広い土地を管理できる【広域性】

宇宙から観測しているため、中国やインドといった大きな面積を持つ国でもかなりの広範囲を一度に観測することができる。また、GPSをはじめとした測位衛星から取得した高精度な位置情報を利用すれば、農機の自動運転を可能とし、広い田畑を耕す、種や苗を植えるなどの作業を大幅に効率化することができる。(測位観測衛星についての詳細は、こちらの記事を参照いただきたい。)

同じ場所を観測し続ける【長期観測】

衛星のデータを使ってリアルタイム(現在はデイリーでの更新)で各農地のモニタリングをすれば、作物の状態をいちいち広い農地を見て回る必要もなく、削減できた時間で作物の質を高めるための対応に当てることができる。さらに年々の観測データが溜まれば溜まるほど、戦略的な作育計画を立てることができる。

と、ここまで農業x宇宙利用の理想を述べてきたが、農業の効率化は始まってきてはいるものの、そう簡単に普及するわけではない。

利用へのハードルが高い【IT化の促進】

衛星データを導入するハードルはまだまだ高い。衛星データや管理ツールを使うためのノウハウを持つ農業従事者が少なく、また、管理ツールを導入してもすぐにその農地に合うツールとして活用ができるわけではなく、その土地に応じた環境データなどを反映し、日々更新していく必要がある。

小規模な農場が多い【大規模化】

衛星を使えば広大な土地を一度に観測できるものの個人の農業従事者で利用するには範囲が広すぎるという課題もある。農地を集約して管理する一つ上のレイヤーが必要となる。

このような課題の中、衛星データを農業従事者に使いやすく提供するサービスを行う企業も出てきている。

農業x人工衛星利用の事例紹介

上記のように、宇宙を利用した農業のメリットと課題がある中で、海外でも日本でも宇宙を利用する企業がいくつかある。以下にいくつか紹介しよう。

株式会社日立ソリューションズ

事業内容:
衛星画像や位置情報を利用した農業支援アプリケーションGeo Mationの提供

株式会社ビジョンテック

事業内容:
水稲圃場モニタリングサービスAgriLookなど人工衛星データの解析、データ解析システムの構築

株式会社クボタ

事業内容:
トラクター、田植え機、コンバインなどの農機の自動運転

Planet

事業内容:
人工衛星の設計から運用、衛星データ活用ツールの提供

Monsanto

事業内容:
遺伝子組み換え作物や除草剤などのバイオ化学メーカー。降雨や気温データ、GPSなどの衛星情報を使った管理サービスの提供

◆企業名:eLEAF

事業内容:
衛星データから収穫量、水資源などの管理サービスの提供
 

農業と宇宙の未来~人工衛星が知見の”見える化”に貢献~

宙畑業界研究シリーズ第一回は農業について取り上げた。

世界規模で見ると人口の増加にともない爆発的に拡大している農業だが、日本では担い手不足・IT化の遅れなどにより伸び悩んでいる現状が分かった。

人工衛星のデータを利用すると、今まで人の経験や勘に頼っていた農業のノウハウが”見える化”され、新しい世代が農業に参入しやすくなると考えられる。

もちろん、ドローンや地上センサでも今盛んに行われているが、人工衛星も組み合わせて用いることでより広い範囲を継続的に観測することが可能になるのだ。

日本は国土が狭いため、人工衛星を使った農業が強みを発揮するのは難しいかもしれないが、今後後継者不在による小さな農地の買収が進めば一社あたりの農地は点在しながらも広くなる。担い手は少ないままであるから、衛星データをはじめとするIT技術の導入は必須である。

もっとも、田畑を国内に限る必要はないかもしれない。グローバル化が進み、海外の田畑を所有した経営などは今後広がっていくと考えられる。その時に、質の高い日本の農業の知見をどれだけ”見える化”できるか、それを海外に伝えられるか、である。

日本の農業の未来は、宇宙が農業を支えるキーテクノロジーとなっていることを期待したい。

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