ガンプラ宇宙に翔ぶ!! 東京2020宇宙プロジェクトの全貌と期待
本記事では、12月に行われた公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会による記者会見の内容から「G-SATELLITE」の全貌と本プロジェクトから垣間見える今後の宇宙活用の新たな可能性についてご紹介します。
2020年、始まりましたね。いよいよ待ちに待った東京2020が開催されます。
では、東京2020を応援する「ONE TEAM PROJECT」のひとつとして、東京大学が開発する小型衛星に搭載された機動戦士ガンダムのプラモデルが、宇宙からエールを送るというプロジェクト「G-SATELLITE」をご存知ですか?
本記事では、12月に行われた公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会による記者会見の内容から「G-SATELLITE」の全貌と本プロジェクトから垣間見える今後の宇宙活用の新たな可能性についてご紹介します。
1.東京2020を応援する宇宙プロジェクト「G-SATELLITE」とは?
東京2020では、「ONE TEAM PROJECT」という枠組みの中で様々なプロモーション企画が打ち出されています。
「ONE TEAM PROJECT」とは、日本を代表する様々なクリエーター&イノベーター(文化人、芸術家、学者、etc)が東京2020へ向けたそれぞれの想いを表現する特別プロジェクトです。
そして、「ONE TEAM PROJECT」の一つが、今回ご紹介する
【宇宙から東京2020エール!第2弾 “G-SATELLITE 宇宙へ”】
になります。
この企画はJAXA、東京大学と機動戦士ガンダムのコラボプロジェクトで、「機動戦士ガンダム」のプラモデル“ガンプラ”を搭載した小型衛星「G-SATELLITE」を東京大学が開発し、JAXAの協力のもと、2020年3月~4月頃(予定)にISSから宇宙空間に放出され、東京2020大会の期間前から期間中にかけて、地球周回軌道を飛行しながら、東京2020への応援メッセージを地球に向けて発信していくという、誰もが童心に返ってワクワクするようなプロジェクトです。
2.今回の小型衛星の仕様は?
では、ガンダムを宇宙に放出するにあたり、どのような小型衛星を開発し、どのようなハードルがあったのでしょうか。
まず、今回は、小さな衛星の中にガンプラを搭載し、それを宇宙空間で確実に出てくる機構というのが新しいポイントでした。そのような機構を持つ回の超小型衛星は、10cm×10cm×34cmというサイズで、重量はおよそ2.9kgで電源は4面に貼られた太陽電池とリチウムイオンバッテリー。
そのうえで、「G-SATELLITE」には以下3つの主なミッションがあり、それぞれに達成するための工夫が施されています。
- ・電光掲示板の搭載
電光掲示板には、東京五輪に向けての様々な応援メッセージを表示できます。日本語・英語・フランス語といった多言語のメッセージ表示が可能で、文字以外に画像も表示ができるようにもなっています。
- ・ガンプラ制御内臓
今回のプロジェクトの目玉であるガンダムのプラモデルは、シャア専用ザクと一緒に格納されています。衛星打ち上げの際は格納されていますが、宇宙空間で展開される仕組みに工夫が施されているようです。具体的には、パネルを保持しているテグスがニクロム線の発熱により切れることで展開します。ニクロム線に電気が流れさえすれば確実に展開する機構となっています。
- ・7台の撮影カメラを搭載
「G-SATELLITE」にはメインカメラ・サブカメラ・動画カメラ・固定サブカメラ・背面カメラ・地球撮影カメラ・内部カメラの合計7台のカメラが搭載されています。メインカメラでは、ガンプラと電光掲示板を合わせて1枚の写真として撮影することが可能で、内部カメラでは、ガンプラが衛星に格納された状態においてもガンプラを至近距離で撮影することができるようです。
東京2020大会終了後の衛星については、ISSから放出されたのち、1~2年程度で地球大気圏に突入する予定で宇宙デブリ(ゴミ)になることはありません。
※残念ながら、本衛星は再突入時には燃え尽きるようになっており、地球再突入機能は備わっていないとのことです(笑)
3.宇宙用に仕上がったガンダムの全貌
また、衛星だけではなく、ガンプラ自体も宇宙空間という特殊な環境に放出されても耐えられるように、今回特別な製造がなされています。
プロジェクトの責任者である山中さんからは、以下の点について説明がありました。
- ・宇宙環境への対策
まず、今回のガンプラについて、塗料は既製品と同じものを使用しているそうです。しかしながら地球低軌道環境には原子状酸素(AO)が存在し、塗料を浸食してしまうため、耐AOコーティングを施しているとのこと。更に、その上から紫外線を照射して、宇宙環境に耐えるようにしています。また、ガンプラに使用する他の部品もすべて宇宙環境に対応可能な部材を採用しています。これにより、マイナス数十℃から百数十℃程度の温度に耐えられるようになっているとのことでした。
- ・製造方法
次に、製造方法にも工夫があります。一般的なプラモデルの製造方法は射出成形ですが、今回は光造形を採用したとのことです。
光造形では焼却後に炉で焼く工程がありますが、この工程によりプラモデルの強度が増すとのことです。使用したのは、ハイテンプと呼ばれる耐熱性に優れた樹脂です。宇宙空間では、太陽が当たっていると超高温、地球の影に入ると超低温。この環境では、簡単にヒビが入ってガンプラが割れてしまいます。その状態を避けるために、ハイテンプで焼く時も、冷却過程に細心の注意を払ったそうです。
具体的には、何度刻みで冷却するのが最適か、どれくらいの時間をかけて冷却させることが最大の強度を引き出すことができるか。小型人工衛星の試験よりも多い、4~5回の熱真空試験を福井県の試験場で実施したそうです。これにより、真空・超高温という環境でも耐えうる強度を持ちつつ、既製品に劣らない精度を達成することができたそうです。ちなみに、今回のガンプラは小型衛星の中に格納する必要があるため、サイズは一般のガンプラよりも小さい1/200を採用しています。
- ・LEDとモーターによる機能
最後に、今回のプロジェクトならではのこだわりをご紹介します。ガンプラには真空対応のLEDが搭載されており、これらは五輪カラーの5色・パラ五輪カラーの3色を発色すること可能とのこと。明滅したり光度を調整することもできるようです。さらにガンダムは宇宙環境に対応したモーターを搭載しており、首を動かすことができます。東京2020の会期中に宇宙から応援メッセージを発信する際に、地上からコントロールすることで自由に動かすことができるとのことです。
4.「宇宙」×「エンタメ」の今後の展望
以上が2019年12月に行われた「G-SATELLITE」の記者発表会で語られた内容の一部。当日はガンダムの原作者富野由悠季氏や宇宙飛行士の山崎直子氏など豪華な登壇者が呼ばれておりとても盛り上がっていました。
そして、本プロジェクトはジャンル・媒体問わず様々なメディアで取り上げられ、話題となっています。あらためてガンダムの人気の根強さを実感するとともに、PR・マーケティングという視点に立って本プロジェクトを捉えると、「実際に宇宙に行く」というプロジェクトがガンダムが新しく脚光を浴びる機会を作ったという見方もできます。また、東京2020を彩る企画としても、秀逸なプロジェクトとして目立っていることは間違いありません。
このように、宇宙空間を活用したプロジェクトは今後間違いなく増えていくでしょう。例えば、堀江貴文さんが出資する小型ロケットを開発するインターステラテクノロジズは、サブオービタル軌道にハンバーグやお好み焼きといったこれまでにないユニークな荷物を載せることでも話題になっていました。また、宙畑で一度取材した「株式会社スペース・バジル」も、宇宙xエンタメを掲げ、今後様々な宇宙空間利用を展開すると語られていました。
1969年にアポロ11号が月面に着陸し、人類が月面を歩いてから50年の月日が経過し、今を生きる私たちにとって、宇宙は手が届く場所となっています。今後どのようなプロジェクトが宇宙空間で展開されるのか、今後も注目して追いかけていきたいと思います。
「Tellus」で衛星データを触ってみよう!
日本発のオープン&フリーなデータプラットフォーム「Tellus」で、まずは衛星データを見て、触ってみませんか?
★Tellusの利用登録はこちらから