NEW SPACE対応でSaaS化する地上サービス【週刊宇宙ビジネスニュース 2020/11/9〜11/15】
一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!
今週の宇宙ビジネスは、地上セグメントのニュースがいくつか見られました。
ノルウェーの地上局サービス企業KSAT、船舶監視コンステ企業と契約
世界中に複数の地上局を持ち、衛星運用者へ貸し出しているKSAT社が、フランスの宇宙ベンチャーUnseenlabs社と契約を結んだことを発表しました。
Unseenlabs社は、海洋上の船舶が発する電波(AIS)を検知し、船舶の位置情報を把握・提供する企業です。2019年8月に初号機を打上げ、技術的・商業的に運用を開始しています。
KSAT社は、2002年創業のノルウェーの地上局サービス企業で、従来の大型衛星向けのサービスに加えて、近年起こっているNEW SPACEと呼ばれる衛星の小型化やコンステレーション化に対応するKSAT Liteというサービスを発表しており、今回の契約もこのサービスを利用するものです。
Unseenlabs社はKSAT社が有する世界25カ所、200基のアンテナにアクセスできることにより、これまでの3分の1の時間で、顧客に船舶の位置情報を提供できるとしています。
衛星コンステレーションを使って、地球の様子を把握しユーザーに提供をするサービスは各社が行っていますが、その中でも位置情報やIoTのサービスは即時性(情報収集からユーザーへの提供までの時間が短いこと)が強く求められる分野です。
KSAT社は今後もこういった即時性ニーズのあるNEW SPACEの衛星運用者との提携を増やしていくものと思われます。
地上局サービス企業SSCはESAと次世代の超小型衛星向け地上セグメントの検討へ
KSATと同じく、古くから地上局サービスを展開するSSC(Swedish Space Corporation)社も近年起きている衛星の小型化の動きに対応を進めており、SSC Infinityというサービスを発表しています。
今週新たに発表されたのは、SSC社が欧州宇宙機関(ESA)と次世代のNEW SPACE向けの地上システムのコンセプト検討を行うというニュースです。
The Global Newspace Network Evolution (GNNetE) と呼ばれるプログラムは、比較的コストの安い、小規模から中規模程度のコンステレーションを開発する超小型衛星の運用者の支援を目的として実施されます。
SSC社は欧州の超小型衛星の様々な企業と活動を行っており、事業者にとって一番の障壁となる、周波数割り当てや効率的なコンステレーション運用についてのソリューションを提供しています。
World Satellite Business Weekでも地上システムのセッションを開催
今週は11月9日~11日の期間で、欧州のコンサルEuroConsultが主催するWorld Satellite Business Weekがオンラインで開催されました。
カンファレンスの中で、「Ground segment & data management: the new value proposition」というタイトルで、地上セグメントに関するセッションが開催されていました。
登壇者は、前述の老舗地上サービス企業KSAT社、SSC社に加え、NEW SPACEとして新たに登場したAWS Ground StationおよびイタリアのスタートアップLeaf Spaceという、地上セグメントのキープレイヤーが一堂に会したセッションとなりました。
ここではセッション中に出た、いくつかのキーワードを紹介します。
対応するミッションの拡大
SSC社からは、現在地上サービスを主に提供している、地球低軌道周回の衛星向けサービスだけでなく、月面やラグランジュポイント*など深宇宙探査ミッションなどへ対応を拡大していきたい旨が述べられていました。
*ラグランジュポイント:地球や太陽などの天体の重力の均衡により、宇宙空間で安定する地点のこと。天体観測などに利用できると注目されている。
地上サービスの自動化
Leaf Space社がキーワードに挙げたのが地上サービスの完全自動化です。
現状の地上サービスでは、運用計画の立案に人手がかかっている状態ですが、衛星運用事業者が多くなれば逐一対応していくのは困難であり、スケールするには自動化がキーワードとなりそうです。
AWS Ground StationやKSATでも、衛星運用者がインターネット上からAPIなどでアクセスできることを指向しており、地上サービス事業者全体のトレンドと捉えることができます。
データを持つのはエッジか、中央か
AWS Ground StationとKSAT社が言及したのは、エッジ側でストレージやコンピューティングなどを持つべきか否かという問題です。地上システムでいうエッジとは、アンテナのある地上局を指します。
現状ではアンテナは世界中さまざまな場所にあることが望ましいとされていますが、アンテナから受信した衛星データを、衛星運用者の拠点などに集約するのか否かという部分は議論があるようです。
AWS Ground Stationでは、そもそもAWSのデータセンターのある場所にアンテナを設置し、エッジとデータストレージやコンピューティングがダイレクトにつなげられることを訴求しています。
また、本セッションには登壇していませんでしたが、新たに地上サービスへの参入を表明したMicrosoft Azure社は別のセッションで、コンテナ型のデータセンターをアンテナと一緒に設置することで、エネルギー企業が採掘場などインターネット環境が十分ではない僻地で利用することができると発言しています。
一方のKSAT社は、どちらで持つべきかは顧客の要求によって異なるため、両方のプランに対応していくと述べていました。
地上システムは、これまでのハードウェア先行のサービスから、顧客がインターネットを通じて時間単位でサービスを享受できる形へ、ITジャイアントの参入も手伝って、ますますSaaS化が加速すると考えられ、注目の分野です。