アストロスケールCEO 岡田光信氏に聞く、グローバルで戦う宇宙ベンチャー戦略~③グローバル展開編~
連日、宇宙ビジネスニュースを賑わせるアストロスケールCEO(最高経営責任者) の岡田光信さんに、同社の躍進の秘密について詳しくお伺いします。最終回はグローバル展開についてです。
スペースデブリ除去を含む軌道上サービスの提供を目指すアストロスケール社。
日本人創業者の宇宙ベンチャーの中でも、その資金調達実績や経営層のグローバル化が抜きんでており、海外を含む宇宙機関との連携も手広く行われている印象です。
同社の躍進の秘密は果たしてどこにあるのか、CEO(最高経営責任者) の岡田光信さんに①資金調達②人材獲得③グローバル展開の3つのキーワードでお伺いしました。
本記事は第三弾として、③グローバル展開についてお伺いしていきます。
アストロスケールCEO 岡田光信氏に聞く、グローバルで戦う宇宙ベンチャー戦略~①資金調達編~
アストロスケールCEO 岡田光信氏に聞く、グローバルで戦う宇宙ベンチャー戦略~②人材獲得編~
アストロスケール CEO 岡田光信さん
軌道上サービスに世界で唯一専業として取り組む民間企業アストロスケールホールディングスの創業者兼CEO。2013年の創業以来、5ヶ国でのグローバル展開、360名以上のチーム、累計総額334億円の資金調達を達成するまでに成長。
10年分の技術ロードマップ、KPIが項目別で全てクリアにある
宙畑:アストロスケールのビジネスの進め方の特徴として、様々な政府機関との連携という部分もあると思っています。JAXAや英国宇宙庁、欧州宇宙機関など世界の宇宙機関と、様々な連携をされていると思うんですけども、そのきっかけや意図について、お伺いできますか。
岡田:日本もそうですし、ヨーロッパやアメリカなど各国の政府宇宙機関、それから各省に様々な繋がりを持っています。それ以外にもいろんな契約があるんですが、それは全部、最初は門をたたくところから始まっています。
宇宙事業は官も民もお客様になり得ます。アストロスケールにはかなり細かい10年越しの技術ロードマップがあり、いつまでに何を実現するというものが明確にあります。そのロードマップの中で、これを一緒にできませんかというアプローチを世界中、官も民も問わずやっています。
宙畑:10年越しの技術ロードマップというのはすごいですね…どこまで具体的に書かれているんでしょうか。
岡田:アストロスケールでは、10年後のゴールがあって、その逆算で年間別の KPI を項目別で設定しています。そのため、この一年で何をやらなければいけないというのがクリアです。それに事業も計画も、全て紐付いています。
当然随時見直しますが、全体の戦略的なマップと、技術ロードマップや事業計画、人員計画がマッチしている。それを考えないと、明日を生きられないと思うんです。明日はどっちを向いているのか一週間後どこにいなければいけないのか。そういうエクササイズをしたほうがいいし、一回網羅的なものを作ると、あとはリバイスするだけなので、明確になっていくと思います。
これは CEO の仕事です。社員だけではなくて、取締役会も投資家もみんなCEOを見るので、私の一言って結構大事なんですよね。そこがぶれているとか、昨日言ったことと明日言うことが違うというのはあってはいけません。上の方向性が定まっていると、下はまっすぐ迷わず歩けるので、とても大事な役割だと考えています。
宙畑:一人でそれをまず全部考えられてるというのも驚きですね。他のインタビューでも、まずは自分で文献を読み込んで、仮説を作って、人に聞いてどんどんアップデートされていくというお話を拝見したんですけれど、そういった仮説はどれくらいのレベルで作られるんですか。
岡田:仮説は仮説なので、ボロボロで構わないです。人に叩いてもらうと、だんだんレベルがあがっていって、叩かれなくなりますので、その辺りで目処が立つ。一人だとどうしてもバイアスがかかりますので、そのためにチームがいるがいるんだと思っています。
各国の政府のプロセスとポリシーをちゃんと理解しているか
宙畑:岡田さんと言えば、もう一つ、元大蔵省というご経歴をお持ちで、政府機関の意向をよく理解していらっしゃるというところも、強みになるのかなと思うのですが、このあたりの政府との連携のコツはありますか。
岡田:そうですね、もし私たちが各国政府とうまくやっているのだとすると、各国の政府のプロセスとポリシーをちゃんと理解してるということだと思います。
例えば、各国政府には必ず宇宙政策があり、政府はその宇宙政策に沿ったものしかできないです。つまり、宇宙政策を端から端まで読み込んで把握しているかどうかというのが、まずは大事になってきます。
自分たちのやりたいことが宇宙政策にはまればいいし、はまらないのであれば、どの国でも1、2年前から宇宙政策を見直すタイミング、プロセスがあります。それに何度も何度も入って、宇宙政策の中に反映させていくということをしなければいけない。
その時の入れ方にもやり方があって、政府というのは税金ですからフェアでなければいけないので、個社支援のような形にならないように、一歩引いた形で冷静に俯瞰した形の政策にしなければいけないんですね。
やりがちなこととして、宇宙ベンチャーがものすごい熱量で「これをしてほしい!」と政府に突発的に言うことがあるのですが、これは宇宙政策に沿わないし、フェアにもならないので、政府としては受けられない。
政策として何があるべき姿なのか、という一歩自分の会社から離れた姿を考え、各国政府の違いに合わせて、相手と喋りながら、調整しなければいけないところは調整して、その中でいかに自分たちが考えていることが織り込まれていくのかというのを議論させていただき、一年二年三年というスパンの中で、バジェットを重ねていくプロセスを構築しなければいけない。それには政府の言葉を使わなければいけないし、考え方に寄らなければいけないですね。
どんな連携も最初は門をたたくところから始まる
宙畑:実際の活動という意味では、どこの国にターゲットを絞っていくかを各国の政策を読み込んで決められて、そこに支社を出されて、各国政府と交渉して、ということをやられているということですか。
岡田:シンプルではないです。当たり前のことで、まず足繁く通う。各国政府に会っていく中で、だんだん理解していただき、名前を知っていただき、その中でより上の方に会っていただき、というのを繰り返していく。
その間に実績を積み、ああ、あの時のアストロスケールさんそこまで行ってるんだね、という風になってさらに上の人に会わせていただき、そうこうしているうちに現地で人も採用して行き、プレゼンスを見せ、みたいな複雑なことを地道にやっていく。
この時、自然体でやっていく、というのが大事です。誰かに納得していただくプロセスというのは何度も喋る必要があり、ちゃんと考えて実行して見せていって信用を得ていく作業が必要になってきます。
宙畑:非常に地道な、かなりタフな活動をされてるんですね…実際そういう活動をされているのは数か国ですか、それとも、もっとたくさんの国でやられているんですか。
岡田:今私達がやっている国は多いです、とても多いです。
宙畑:つまり、それ以上の数の国の宇宙政策を読んだ上で、そういう活動をされているということですよね。
岡田:はい。メジャーな国の宇宙政策はすべてを読み込んで、理解もしています。
宙畑:なるほど…当たり前と言えば、そうかもしれないんですが、アストロスケールさんの強さは、その当たり前の活動をきちんと原理原則に従ってできるところなんだなと今お伺いしながら思いました。
岡田:目的達成のために必要なことを細分化し、一つずつ地道に、当たり前にやるということだと思います。
令和の時代っていうのは言い訳がダサい時代になってきてる
宙畑:今回のインタビューは、日本で宇宙ベンチャーを立ち上げられたばかりのCEOの方や、宇宙ベンチャーを立ち上げたいと思っている方向けに、岡田さんの秘訣をお伺いできたら、という想いでお話をお伺いさせていただいているんですが、最後にそういった方々に向けて、アドバイスをいただけますでしょうか。
岡田:今は、どこに拠点を置いているからとか、何人(なにじん)だからとかっていうのは関係ないと思います。今、24時間いつでも、情報も技術も資金も人もインターネットで手に入るので、逆にちょっと言い訳ができない時代になってきたなと思っています。昔だったら色々言い訳しても、もっともらしかったこともありますが。
例えば、政府が遅いとか。でも今は政府が速いですからね、もし政府がめちゃくちゃ遅いと思うんだったら、自分が働きかけができていないのだと思います。それぐらい、令和の時代っていうのは言い訳がダサい時代になってきている。どこで始めても、何歳で始めても、戦い方はあるのではないでしょうか。
グローバル展開編まとめ
ここまで、アストロスケールCEOの岡田光信さんにグローバル展開についてお話を伺いました。
華々しい国際連携のニュースが目立つアストロスケール社ですが、そのコツをお伺いしていくと、地道な「当たり前」を膨大な量積み重ねて行くことの大切さを、改めて知ることが出来ました。
今回の3回にわたる岡田さんのお話は、宇宙ベンチャーをこれから立ち上げようとされているCEOの方々だけでなく、様々な場所で新たな事業を立ち上げようとされている全ての方にとって、今日から行動するヒントになるような言葉がたくさんあったと思います。
宙畑編集部でも改めて何をゴールに据えてその為に今何をするべきなのか、考え行動していきたいと思います。