製造業が宇宙産業に参入するには?参入メリットと事例、参入する際の補助線となる考え方_PR
製造業が宇宙産業に参入する意義やメリット、具体的な成功事例、参入のために押さえるべきポイントを、株式会社sorano meが2025年3月に発行したレポートをもとにまとめました。
これまでJAXAや大手電機メーカーが主導してきた宇宙産業は、安全保障や科学技術分野への貢献が中心でした。
しかし、現在は、宇宙ベンチャーや宇宙技術を活用する異業種まで、多様なプレイヤーが参入する大きな変化が起き、宇宙産業は、将来の日本の基幹産業となりうる重要な産業と位置付けられています。
日本において宇宙産業に注目が集まっている理由のひとつは、日本が精密加工技術や高品質な製造で国際的に評価されており、宇宙産業との親和性が非常に高い国であるということです。
実際に、近年では部品や機器単位での参入が広がり、「ものづくり力」を持つ企業に新たな道が開かれているほか、10年で1兆円の政府予算が投入される基金において、2024年に「衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証」が公募テーマに、2025年に「高頻度打上げに資するロケット部品・コンポーネント等の開発」が公募テーマとなっております。
一方で、これまで宇宙産業に関りがなかった製造業を営む企業がすぐに宇宙産業に参入しようとしても、専門用語や宇宙特有の環境など、分からないことが多く、一筋縄ではいきません。また、宇宙産業への参入がすぐに大きな売上・利益につながるのは難しいというのが実情です。
そこで、本記事では、製造業が宇宙産業に参入する意義やメリット、具体的な成功事例、参入のために押さえるべきポイントを、株式会社sorano meが2025年3月に発行したレポートをもとに解説します (詳細はこちらを参照ください)。

日本における宇宙産業の発展の意義と産業化への期待
日本政府は宇宙産業を新たな成長分野として位置づけ、支援を強化しています。宇宙産業は人工衛星やロケットなど高度な技術を要する分野ですが、その発展によって新しい市場が生まれる可能性があります。
政府は企業がこの分野に参入しやすくするため、日本の宇宙政策の計画を示した「宇宙基本計画」の中で「宇宙技術戦略」や「宇宙戦略基金」に関して言及し、それらの施策を通じて積極的に後押ししています。
「宇宙戦略基金」は10年間で総額1兆円の資金を提供し、企業や大学が長期的な技術開発を進められるよう支援する仕組みです。
「宇宙技術戦略」では、輸送機や人工衛星などの分野ごとの技術開発の進め方を定め、国際競争力の向上や自律性の確保を目指しています。これにより、これまで宇宙産業に関わってこなかった日本企業が宇宙関連事業に参入する機会が拡大し、国内産業の新たな成長エンジンとなることが期待されています。

宇宙産業の拡大は、各地域のものづくり企業にも新たな機会をもたらしています。例えば、九州に拠点を置くQPS研究所は、小型SAR衛星の開発・運用を行い、九州の製造業と連携を強化しています。また、福島県南相馬市では宇宙関連企業の誘致が進み、地域の産業基盤が強化されています。こうした動きは、地域経済の活性化や雇用創出にもつながり、国内全体での宇宙産業の底上げが期待されています。
「地域×宇宙の5つの可能性」九州宇宙ビジネスキャラバンに学んだ地域×宇宙イベント企画のヒント
これから宇宙産業は「遠い世界」ではなく、「ものづくり」企業が挑戦できる新市場として、さらに広がっていくでしょう。
宇宙戦略基金で注目されるロケット・人工衛星の部品・機器製造が日本で求められるワケ
現在、日本では宇宙機器の自立性確保と国際競争力強化を目指しております。その中で、ロケット・人工衛星の部品・機器 (コンポーネント) の国産化と高度化が重要課題となっています。背景には、これまで人工衛星の約4割、特に基幹電子部品の8割以上が海外依存だった現状があります。輸入部品の納期遅延や突然の仕様変更は、納期厳守・高信頼が求められる宇宙開発にとって深刻なリスクです。
こうした課題を受け、政府は「宇宙戦略基金」のもと、国内で宇宙機の中核要素 (リアクションホイール (宇宙機の向きの能動的変更に利用) やスラスタ (宇宙機の位置の能動的変更に利用)、バッテリー、通信機器など) を開発・量産できる体制構築を技術開発テーマとして公募を行っていました(2024年度に公開された第1期では衛星の部品・コンポーネント開発が公募され、第2期ではロケットの部品・コンポーネント開発がテーマとなっています)。
世界的に宇宙市場が急拡大するなか、ボトルネックとなる部品の国産供給力を高めることは、日本が成長機会を逃さず、安全保障面でも自立性を確保するために不可欠です。製造業にとっても、自社技術を宇宙産業向けに展開できる大きなチャンスが広がっています。
製造業の宇宙業界参入が求められる背景と他国と比較した日本のポテンシャル
では、宇宙産業はどの程度盛り上がっているのでしょうか?また、宇宙産業における日本のポジションはどの程度のものなのでしょうか。
実際に世界では宇宙開発が急拡大しています。特に、ロケット打上げ数と人工衛星の製造数については米国と中国が大きくリードしているのが現状です
。

一方で、日本はこの10年間でロケット打ち上げ数と人工衛星の製造数はほぼ変わっておりません。近年、日本においてロケット開発や人工衛星開発を実施するスタートアップが増加しており、国内の産官学合わせてロケット打上げ増、人工衛星の生産増の潮流が顕出していますが、それらを支えるサプライチェーンの強化が追い付いていません。
具体的には、現在、人工衛星の部品・コンポーネントの4割は海外に依存しており、特に基幹となる能動電子部品 (トランジスタやIC、ダイオード等) は8割を海外に依存しています。
ただし、上記のような宇宙産業のものづくりには課題があるものの、日本のものづくりは「高品質なものづくり」と「精密加工技術」で国際的に評価されています。日本は、自動車や半導体、航空機などの製造業を支える人材と産業基盤が各地域に存在しています。
日本のものづくりの強さを表す象徴的な事例をご紹介します。経済産業省の令和4年度の「ものづくり基盤技術の振興施策」のレポートによると、エレクトロニクスや自動車等の部素材は世界的な競争力を誇り、世界シェアの60%以上を占める品目は、米国や欧州、中国と比較して圧倒的に多く220品目に及びます。
また、日本のポテンシャルの1つとして、日本の宇宙開発機関であるJAXAが宇宙探査含め長年にわたり蓄積してきた技術や知見、国際的な信頼を有しています。そのため、日本は衛星やロケットのコンポーネント製造において圧倒的なポテンシャルを持っているといえるでしょう。
製造業が宇宙ビジネス参入で得られるメリットと事例紹介
実際に、宇宙産業参入によって製造業が得られるメリットは多岐にわたります。sorano meは実際に宇宙産業に参入した製造業5社にうかがったアンケート結果をレポートで詳しく紹介しています。
社外向けには、「事業規模拡大」や「PR・宣伝効果」、さらには「ネットワークの拡大」が挙げられます。一方、社内向けには、「既存事業へ波及」、「組織のモチベーション・スキルの向上」が大きな効果として期待できます。

例えば、オーエスジー株式会社と株式会社由紀精密は高精度加工技術を活かし、宇宙産業参入を通じて競争力を強化しています。また、湯本電機株式会社、石敏鐵工株式会社、株式会社菊池精機は他産業展開や信頼性向上を実現しています。
さらに、多くの会社が「宇宙に携わっていることで社外からの自社への興味が増大したり、仕事に対する従業員のモチベーションが向上したりする」ことをメリットとして挙げていました。
宇宙部品・コンポーネントの製造参入に入るうえで重要な機能ベース思考
宇宙産業には専門的な用語が多く、また、宇宙特有の環境に適応する必要があるため、特殊なものづくりの技術が必要であると考えられることが少なくありません。ただし、ものづくりの原理原則は変わりません。
衛星の構成機器(コンポーネント)や部品について、専門的な機器名や技術に焦点を当てるのではなく、目的を達成するために「それぞれの構成機器や部品に どのような機能がどう求められているか」に焦点を当てた機能ベースでの把握を可能とすることで、宇宙以外の様々な業種で使われている技術適用を考えやすく、分野を横断した技術革新がしやすくなります。

本記事をご覧になっている方が製造業にお勤めであれば、自社の製品がどのような機能を持っているかを言語化することで、宇宙産業参入のヒントが見えるかもしれません。また、地元のモノづくりの活性化を検討する地方自治体の産業振興の部門の担当者の方であれば、地場産業の持つ技術で実現できる機能の一覧を作ることが、宇宙産業に参入するヒントとなり得るでしょう。
sorano meが制作したレポートでは「ジャイロ」「ホールスラスタ」「太陽電池パドル」「熱系部品」「全固体電池」「SDS用計算機」という6つの部品・コンポーネント・サブシステムについて、求められる機能から参入が期待される業界まで一気通貫で解説をしています。
例えば、記載内容の具体例として、「ジャイロ」を紹介しています。衛星の飛行状態 (姿勢) を把握する上では、衛星がどのくらいの速度で回っているか (回転速度) を把握することが重要であり、そのための機器がジャイロです。
その上で、ジャイロに求められる機能は「衛星の回転速度を測る」となります。
また、本事例では、特に半導体技術を応用したMEMSジャイロに着目し、参入が期待される業界として、半導体メーカーおよび他業界のMEMSジャイロメーカー (車載用センサメーカー、スポーツ用センサメーカー、航空機用センサメーカー等) があると紹介しています。


上図のように、求められるスペックについても紹介しているなど、製造業にお勤めの方々が各社の技術を用いての開発可能性の判断の材料に本レポートを使用することができます。さらに各項目について理解を深めるため、内容解説、関連キーワードについても併せて示しています。
製造業参入にあたって知っておきたい参入手順と相談先の概観
ここまでの内容をもとに、宇宙産業に参入する最初の一歩として開発する部品・コンポーネント開発への参入に興味を持っていただけたあとは、実際に宇宙産業に参入のための段階に合わせた活動が必要となります。
その段階は大きく分けて①参入検討初期段階、②事業創出検討段階に大別されます。
①参入検討初期段階では『宇宙産業の現状と将来性の理解』、『自社が提供可能な技術の評価と、宇宙産業への転用可能性の検討』を目的とした活動が必要で、②事業創出検討段階では『持続可能なビジネスモデルの設計』、『宇宙産業向け製品・サービスのコンセプト・試作品の開発』、『試作品の実証環境の模索』を目的とした活動が必要となります。
これらの活動の中で主な問い合わせ候補先一覧は地方自治体・地域団体、研究機関・技術センター、政府系機関、コンサルティング会社、コミュニティがあります。

sorano me発行レポート「製造業における宇宙開発参入のヒントと実例」で詳細を見る
今回紹介した内容は、すべて株式会社sorano meが発行したレポート「製造業における宇宙開発参入のヒントと実例~衛星コンポーネント・部品 vol.1~」に基づいています。

また、本レポートでは、実際に宇宙産業に参入した5社(石敏鐵工株式会社、オーエスジー株式会社、株式会社菊池精機、株式会社由紀精密、湯本電機株式会社)へのアンケート結果 (宇宙産業へ進出するメリットや課題、参入における関連技術キーワードなど) も掲載しております。現場感のある課題・成功のコツが詳しく解説されています。
さらにロケットにフォーカスした新レポートをsorano meが6/16(月)に発刊。
レポートでは「バルブ」「非加工品分離機構」「高純度液化メタン燃料」「アビオニクス」「通信系サブシステム」という5つの部品・コンポーネント・サブシステムについて、求められる機能から参入が期待される業界まで一気通貫で解説をしています。
精密機械系のメーカーから医療機器メーカー、通信機器業界、化学産業、航空機産業等様々な製造業の方にとって興味を惹く内容となっておりますので、ぜひご興味のある方は下記からレポートにアクセスしてみてください。
宇宙を活用した新たな事業機会の創出や技術革新のきっかけを求めている製造業の皆様にとって、極めて実践的なヒント集となる一冊となることを願って制作しました。ぜひご覧ください。
⇒sorano meのレポート一覧を見る