日本初「宇宙」を冠する大学院、立命館大学が2028年に「宇宙地球フロンティア研究科」を新設。非宇宙業界でも活躍できる人材の育成・輩出に?
2028年4月、立命館大学に国内最大級の宇宙分野の大学院「宇宙地球フロンティア研究科」が誕生します。発表会で語られた新しい学びの場が生まれた背景や展望とは。
3月23日(月)、立命館大学は複数の学問を横断・融合して研究する宇宙のエキスパートを育てる「宇宙地球フロンティア研究科」を新設することを発表しました。研究科の設置は2028年4月が予定されており、その構想内容について発表会が開催されました。
(1)日本初、名称に「宇宙」を冠する大学院
立命館大学によると、研究科の名称に「宇宙」を冠する大学院の設置は日本初となります(研究科の設置計画は予定であり、今後、内容に変更が生じる可能性があります)。
現在、宇宙開発は、GPSに代表されるような測位衛星、気象衛星による天気予報の精度向上、その他、地球観測衛星による農作物の生育管理、通信衛星の利用拡大など、社会インフラとしてその重要性が増しています。今や国が推進するだけではなく、民間企業の参入や投資の急増によって商業化・事業化が加速しました。一方で、その拡大の速さから、現場を支える「宇宙人材」の深刻な不足が大きな課題となっています。
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宇宙地球フロンティア研究科には、これからを担う宇宙人材の育成・輩出が期待されます。入学定員規模は博士課程前期課程で100名、博士課程後期課程で15~20名が予定されており、宇宙に関するプロフェッショナル人材育成の大学院規模としては国内最大級の研究科になるとのこと。
(2)発表会で語られた宇宙地球フロンティア研究科の概要と期待
発表会当日は、立命館大学の仲谷善雄学長、宇宙地球探査研究センター(ESEC)の佐伯和人センター長、小林泰三・副センター長、研究科長に就任予定という現東京大学大学院工学系研究科の中須賀真一教授の4名が登壇しました。
実際にどのようなことが学べるのか。宇宙地球フロンティア研究科の立ち上げ背景について、仲谷学長が話された内容を抜粋してご紹介します。
「本学は2030年に向けた学園ビジョンにおいて、『社会の複雑な課題に果敢に挑戦する次世代研究大学の実現』と『イノベーション創発性人材を通じて新たな社会共創価値を創出する大学への挑戦』を掲げています。今回設置する「宇宙地球フロンティア研究科」は、まさにこのビジョンを体現する教育研究組織となります。
今求められているのは、単に特定分野の高度な専門知識を持つ人材だけではありません。宇宙を総合的に理解し、工学・理学・情報・マネジメントなど多様な知を横断しながらプロジェクトを構想・推進し、産業やビジネスを創出できる高度なフロンティア人材です。
従来の日本の大学教育は、個々の専門分野(ディシプリン)の中で宇宙を扱うことが多く、社会が必要とする『総合的かつ俯瞰的な視点』を持った人材育成に十分応えきれていない現状があります。高い研究力を産学公連携に結びつけ、地のフロンティアを切り拓く次世代研究大学を目指す本学にとって、この人材不足の解消に貢献することは重要な使命であると考えております。
こうした観点から、超小型人工衛星の世界的な研究者であり、産業界との強固なネットワークを通じて数多くの人材を輩出してこられた『宇宙ベンチャーの父』である中須賀真一先生を研究科長就任予定者としてお迎えできることは、本研究科のコンセプトにおいて大変心強く感じております。中須賀先生の挑戦的な研究姿勢と実績は、本学が目指す姿と深く重なるものです。」
また、立命館大学は、宇宙戦略基金第1期「SX研究開発拠点」と宇宙戦略基金第2期「月面インフラ構築に資する要素技術」に採択されており、第1期と第2期ともに採択されている大学は東京大学、京都大学、名古屋大学と立命館大学のみ(2026/3/23時点)とのこと。
また、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の有人宇宙技術部門と、月面探査のための「有人与圧ローバー」の研究開発及び月面探査の検討・普及に関する連携協定を2025年3月に締結、三井住友海上火災保険と、月面開発における研究開発クラスターの形成と宇宙産業の裾野拡大を目的に、2026年3月23日付で連携協定を締結するなど、企業・機関との連携による研究推進にも積極的です。
ESECと密接に連携した大学院であることで、大学院で学ぶ学生ながら、本格的な大規模なプロジェクトに参画できる貴重な経験が得られることも大きな魅力です。
(3)宇宙地球研究フロンティア研究科での学びで非宇宙分野でも活躍する人材に
また、宇宙地球フロンティア研究科は、宇宙業界だけでなく、エネルギー・資源、建設・インフラ、IT・通信、商社・コンサルタントといった宇宙業界以外の分野でも活躍できる人材の育成、技術を事業化・ビジネス化できる企業人材の育成にもつながると話されました。
宇宙地球フロンティア研究科の学びは宇宙業界以外でどのように役立てられるのか。この質問に、中須賀先生、佐伯先生、小林さんのお三方に回答をいただきました。
中須賀真一教授
「一言で言うと、システムインテグレーションと非常に難しいプロジェクトのマネジメントですね。これがないと宇宙開発はできません。システムインテグレーションの観点では、例えば衛星開発において、熱や構造など特定の分野を最適に設計しようとすると、必ず他の分野で不都合が生じます。これらをどう調整し、解決していくかというプロセスが不可欠です。
また、マネジメントにおいては、『時間・コスト・人的資源・リスク』といった要素を、プロジェクトを進めながら自然に学んでいくことになります。これはどの分野にも適用できるマネジメント技術であり、非常に重要なものです。
このプロセスは、組織の中の人間関係のマネジメントにも通じます。『最終的にどう答えを出していくか』を考えていく力は自然に身につきますし、それが大きな波及効果だと思っています」
宇宙地球探査研究センター・佐伯和人センター長
「理学的な観点からも少しお話しさせていただきます。今後、月面や月・地球周回でできることが増えていく中で、『自然界の複雑なものから何を抽出したら、将来の我々の生活に役立つか』を見極める能力がより必要になってくると思います。そうした本質を抽出する能力についても、新しい研究科での教育を通じて育んでいきたいと考えています」
宇宙地球探査研究センター・小林泰三副センター長
「私の専門は土木工学です。月面基地建設に貢献したいと考えていますが、日頃は地上のゼネコンや土木企業の方々と一緒に研究をしています。現在、地上では人手不足の影響もあり、建設機械の『自動化・遠隔化』が大きな潮流となっています。これらを進めていくことは、月での無人施工に必要な技術と基本的には同じものです。
地球よりも宇宙の方が環境が厳しく、克服すべき技術課題が大きいため、そこで開発された技術は地上への『スピンオフ』として十分応用できるでしょう。
また、これまでの日本は「ものづくり」に邁進してきましたが、これからは新しい価値を生む『ことづくり』が重要です。建設系企業を含め、どの会社も新しい産業にチャレンジしたいと考えていると思います。そうした新しいジャンルを切り拓き、実際に進めていける人材を輩出したいと考えています」
日本で初となる「宇宙」というキーワードを冠する大学院の新設にあたり、その発表初日から非宇宙分野でも活躍できる人材の育成・輩出を目指すと話されたことは意外でした。
宇宙地球フロンティア研究科が目指すのは日本の宇宙産業、ひいては日本の産業全体を牽引する人材を育成・輩出するための新たな学びの場。繰り返しになりますが、これからの「宇宙開発」は理学、工学の研究だけではなく、宇宙探査の意義を考えること、また、いかに地球社会に役立ち、事業として持続可能な「宇宙ビジネス」に転換するかが重要です。その点、宇宙地球フロンティア研究科は、その出口まで見据えた人材の育成・輩出をすることを目標とされています。
また、開校時は第一線の研究者が15〜20名体制で参画している予定とのこと。
2028年の開校に向けて、あと2年。宇宙地球研究フロンティア研究科の具体的な教育カリキュラムや開校時の最終形が今から楽しみになる発表会でした。

