宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス入門・基礎

「進取の精神で空振りを恐れない」IT、自動車、食品加工…異分野が交わる “宇宙”の化学反応。福岡県商工部長に聞く、県内宇宙ビジネスの現在地

QPS研究所の衛星打ち上げ成功や上場を契機に、九州、特に福岡県では宇宙ビジネスへの関心と参入の動きが広がっています。福岡県商工部長の見雪和之さんに県内の宇宙ビジネスの動向や今後の展望についてお話を伺いました。

QPS研究所の衛星打ち上げ成功や上場を契機に、九州、特に福岡県では宇宙ビジネスへの関心と参入の動きが広がっています。福岡県商工部長の見雪和之さんにインタビューし、県内の宇宙ビジネスの動向や今後の展望について話を聞きました。

(1)福岡の産業構成と新しいもの好きの県民性

―見雪さんのこれまでのご経歴を教えていただけますか。

平成元年(1989年)に福岡県庁に入庁しました。これまで、生活保護のケースワーカーや知事の秘書を経験し、商工部にも長く在籍しました。特に新産業振興課(現先端技術産業振興課)では、成長産業の振興やスタートアップの支援に力を入れてきました。商工部は、県庁の中でも挑戦が求められる、比較的自由度の高い組織だと思います。

私自身は北九州市出身で、日本の近代化を支えた八幡製鐵所の高炉の火を誇りに育ちました。その高炉の停止に伴い、街の元気がなくなってきた様子を目の当たりにした世代でもあります。そうした背景もあり、商工部では中小企業支援や企業誘致など、地域に活力を生み出す政策にやりがいを感じて取り組んできました。

―福岡県の産業構造と特徴を教えてください。

福岡県は、鉄鋼に代表される素材型産業が発展し、日本の近代化を牽引してきた地域です。

現在では産業構造も多様化しています。自動車産業ではトヨタ自動車九州(宮若市※筑豊エリア)、日産自動車九州(苅田町※北九州エリア)、ダイハツ九州(久留米市※筑後エリア)といった国内有数の生産拠点が県内に集積しています。

Credit : 福岡県

さらに、産業用ロボットで世界的なシェアを持つ安川電機の本社(北九州市)もあります。TSMCの工場が熊本県にできたことで盛り上がっていますが、半導体関連企業は九州全体で約1000社のうち約400社が福岡県に集まっており、重要な集積地です。軽量かつ高強度な材料加工や高精度部品の製造といった技術を持つ企業が多く、衛星やロケットの部品開発にも十分なポテンシャルを持つ地域だと考えています。

県南地域では筑後川流域を中心に農業や醸造が発展してきました。酒蔵が多く、発酵・醸造といった伝統技術が蓄積されています。現在はバイオ産業の振興にも取り組んでおり、次世代創薬に挑戦するバイオベンチャーに加え、機能性表示食品の分野でも全国的に高い存在感を持っています。こうした技術は、宇宙食への応用も期待できるでしょう。さらに、福岡市を中心に若い人材が多く、ユニークなITスタートアップの集積も進んでいます。宇宙分野においても、衛星データの活用などで、こうしたデジタル分野のプレイヤーが新しい価値を生み出していく可能性があります。

このように福岡県は、伝統的なものづくり技術と新しいデジタル・バイオ技術の双方が集積している点が特徴です。ハードとソフトの両面をあわせ持っていることが特徴だと考えています。

―一次産業から三次産業までバランスよく発展している点が、福岡県の強みだと感じました。このような産業構造は、歴史的にどのように形成されてきたのでしょうか。

福岡は大陸に近く、古くから日本の玄関口としての役割を担ってきました。海外から新しい技術や文化が最初に入ってくる場所でもあり、そうした環境が地域の特性を形づくってきたのだと思います。実際、うどんやそば、お饅頭なども福岡発祥とされています。大陸から新しい技術やものが入ってきたことが「進取の精神」と言いますか、新しいものを取り入れる県民性につながっているのではないでしょうか。

県政においてもその姿勢は一貫していて、服部誠太郎知事からは「空振りを恐れるな!」とよく発破をかけられています(笑)。つまり、失敗を恐れずに新しいことに挑戦する風土が、福岡県にはあるように感じています。

―福岡県では、新しい産業を支えるさまざまな支援制度が整備されていると感じています。これまでの産業振興の取り組みの中で、特に効果があった、もしくは手応えを感じている取り組みについて教えてください。

福岡県は、産学官の距離が物理的に非常に近いのが特徴です。大学、企業、行政の関係者が日常的に顔を合わせ、非公式な場も含めて密にコミュニケーションが取れる環境があります。

こうした近さを背景に、福岡県では産学官が連携するプラットフォームをつくり、成長産業の育成に取り組んできました。たとえば、半導体分野では「福岡県半導体デジタル産業振興会議」を設置しており、会員数は1200を超えています。

Credit : 福岡県

IT分野でも「福岡県未来ITイニシアティブ」を立ち上げ、こちらも900を超える会員が参加しています。これらのプラットフォームでは、研究開発から新製品開発、さらにはビジネスマッチングまでを一体的に支援しています。特にディープテック系の成長産業においては、このような産学官連携の枠組みが有効に機能しており、一定の成果が出ていると感じています。

宇宙分野は「福岡県宇宙ビジネス研究会」を設置しました。参入のハードルが高い分野ですが、現時点で468の会員が参加しています。
※会員数はいずれも2026年2月時点の情報です。

(2)IT産業振興から宇宙ビジネスへ

―福岡県が宇宙ビジネスに取り組み始めたきっかけを教えてください。また、立ち上げ当初の県内企業や関係者の反応はいかがでしたか。

当初は、宇宙ビジネスを目的としていたわけではなく、IT産業の振興から始まっています。福岡県では、プログラミング言語「Ruby(ルビー)」をフックに、スタートアップ支援に取り組んできました。その一環として、「フクオカRuby大賞」を設け、優れたプロダクトを生み出す企業を表彰してきた経緯があります。

そうした中で、2014年にQPS研究所が県の補助事業を活用して、軽量Ruby(福岡県内の産学官が連携して開発した組込み分野向けプログラミング言語)を用いた衛星の制御システムの開発に取り組み、2019年にフクオカRuby大賞および福岡県知事賞を受賞しました。私自身も、当時新産業振興課で企画監を務めていた際に、大西社長からプロジェクトの説明を直接伺う機会があり、果敢に挑戦する姿に、大きな可能性を感じたことをよく覚えています。

その後、2019年12月にQPS研究所の初号機が打ち上げられた際には、県庁でパブリックビューイングを実施しました。夜間の開催にもかかわらず、お子様からご年配の方まで500名を超える県民の方々が集まり、大きな盛り上がりを見せました。福岡県は宇宙好きの方が多いようです。このとき、宇宙への関心の高さと地域として応援していこうという機運の広がりを実感しました。県議会からも、挑戦する企業を支援していこうという共通認識が生まれたのです。

こうした流れを受けて、翌2020年度から本格的に宇宙ビジネス振興の予算を確保し、取り組みを進めることになりました。宇宙分野に特化した補助制度も創設しています。これに対しては、中小企業のものづくり企業を中心に非常に大きな反響があり、挑戦したいという声も多く寄せられました。

現在では、国の宇宙ビジネス創出推進自治体にも選定され、県としての重点施策の一つとして位置づけ、知事も力を入れて宇宙ビジネスの振興に取り組んでいます。

―過去には、2005年に福岡市で世界最大級の国際宇宙会議「IAC(International Astronautical Congress)」が開催されました。

当時は、県として半導体やバイオ、水素エネルギーなどの成長産業政策に着手した時期です。宇宙開発はまだ国が担うものという認識が一般的で、宇宙ビジネスに取り組む機運は醸成されていませんでした。IAC2005にはイーロン・マスク氏も来日していたと聞いており、今振り返ると非常に象徴的な出来事だったと思います。

同じ2005年には、九州大学名誉教授の八坂哲雄先生がQPS研究所を創業されています。当初は九州各地を行脚し、約200社のメーカーに声をかけながら仲間を集めていったと伺っています。

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一例として、家具産業の集積地である大川市の企業・カネクラ加工は、自動車シートの縫製で培った技術を活かし、QPS研究所のパラボラアンテナの製造に関わっています。金属メッシュをしわなく縫製する高度な技術は、まさに中小企業の現場で磨かれてきたものです。このように福岡には、異なる産業分野で培われた技術を宇宙分野に展開できるポテンシャルがあり、ものづくり企業の技術力は大きな強みになっているといえるでしょう。

2025年度から実施している「福岡スペースビジネスミートアップ」も毎回満員となっており、参入機運の高まりを実感しているところです。

(3)企業の参入が加速、福岡で広がる宇宙ビジネス

―宇宙産業は長期的な取り組みが前提になる分野ですが、すでに県内で現れている効果や変化を実感していることがあれば教えてください。

宇宙ビジネスに参入する企業は着実に増えています。すでに県内で約50社が参入しており、さらにこれから参入を検討している企業も、把握しているだけで約200社にのぼります。加えて、新しいプレイヤーの動きも出てきています。今年度は県内の大学発スタートアップが3社誕生しました。

さらに、QPS研究所の衛星製造に関わっている久留米市のオガワ機工が、自らの衛星を製作し、打ち上げを目指すプロジェクトを立ち上げたと聞いており、宇宙ビジネスの裾野は着実に広がってきていると感じています。

―2027年のアジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)が福岡で開催されることが決まりました。

日本の宇宙ビジネスを牽引するQPS研究所の存在や高い技術力を持つハード・ソフト企業の集積、さらに、九州大学や九州工業大学といった宇宙分野に強みを持つ大学が立地していることがAPRSAFの誘致に繋がったと考えています。

加えて、福岡はアジアの玄関口としての歴史を持ち、アジア太平洋地域との関係が非常に深い地域です。市内には複数の国の領事館があり、国際交流も活発に行われています。こうした国際性も評価された要素の一つだと考えています。

また、グローバルビジネスの拠点としての環境も整いつつあります。スタートアップ支援で知られるCIC(ケンブリッジイノベーションセンター)が東京に次ぐアジア2か所目となる拠点を福岡に開設し、その中に本県初となるスタートアップ支援拠点「グローバルコネクト福岡」を設置したほか、県と福岡市が連携して国際金融機能の誘致にも取り組んでいます。

さらに、知事だけでなく、県議会も宇宙ビジネスに対して深い理解を示し、強力に後押ししていただいている点も強みです。加えて、これまで多くの国際会議を開催してきた実績や、県庁からタクシーで10分ほどの場所にある福岡空港に代表される利便性の高い交通インフラも総合的に評価されたのだと思います。

APRSAFはアジア太平洋地域を代表する宇宙分野の国際会議です。この機会を通じて、県内企業や大学と海外の関係者との交流を促進し、福岡の宇宙ビジネス拠点としてのポテンシャルをしっかりと発信していきます。

(4)衛星データ利活用と人材育成に注力

―宇宙ビジネスにはさまざまな領域がありますが、特に伸ばしていきたい分野はありますか。

特に伸ばしていきたい分野として、まず挙げられるのは衛星データの利活用です。福岡県にはユニークなITスタートアップが集積しており、その強みを生かして、データ活用の分野をさらに拡大していきます。

なかでも、QPS研究所が進めているSAR衛星コンステレーションは重要な基盤です。将来的に36機体制が実現すれば、昼夜や天候に左右されず、世界中を高頻度で観測できるようになります。こうしたデータ基盤が整うことで、新たなサービスやビジネスが生まれる余地は非常に大きいと見ています。行政としても、防災やインフラ分野での活用を進めていく方針です。2026年度は、県内IT企業を対象に、SAR衛星データを活用したモデル事業に取り組む予定で、具体的なユースケースの創出につなげていきたいと考えています。

あわせて、人材育成にも引き続き力を入れていきます。福岡県には優れた技術を持つ中小企業が多い一方で、その魅力が十分に知られていないという課題があります。特に人材確保の面では、首都圏への流出も含めて大きな悩みを抱えている企業も少なくありません。

そこで、中小企業の技術や取り組みを実際に体験できる「オープンカンパニー」のような仕組みを新たに展開していく予定です。若い世代に地元企業の魅力を知ってもらい、就職先の選択肢を増やしていくことが狙いです。大企業だけでなく、地域にも魅力ある企業があるという認識を広げていきます。

あわせて、将来の担い手を育てる取り組みも進めています。たとえば、キッザニアと連携した「福岡テクノロジー人材創生塾」では、宇宙分野もテーマにしながら、子どもたちに実践的な体験機会を提供しています。私自身も現場を見ましたが、参加している子どもたちの目がキラキラとしていて、将来の可能性を感じました。この取り組みは非常に好評で、2025年度は定員を上回るニーズがあったため、2026年度は参加人数を拡大し、より多くの若い世代に機会を提供できるようにしていく予定です。

最終的には、第二、第三のQPS研究所のようなスタートアップの創出に繋げていきたいと考えています。

―予算には制約がある中で、新たな取り組みに対する予算も増えているように感じています。こうした宇宙産業分野への予算拡大は、県としての期待の表れと捉えてよいのでしょうか。

そうですね。福岡県の強みは、知事と県議会が同じ方向を向いていることです。先ほどもお伝えしたように、知事は「空振りを恐れるな」という姿勢で新しい分野への挑戦を後押ししていますし、県議会も、優れた技術を持つ地元の中小企業をしっかり支えていくべきだと応援していただいています。

このように行政と議会が両輪となって政策を進めていることは、私たちにとって非常に大きな追い風になっています。その結果として、新しい分野への予算措置も実現しやすい環境が整っているのだと思います。皆様にとって実際に価値のある、良い政策を実現するために、現場の皆様の声を丁寧に聞きながら、ときには熱い議論も重ね、施策の内容を磨き上げていくことを意識しています。

―見雪さんにとって、「良い政策」とはどのようなものですか。

私たちがやりがいを感じるのは、やはり支援した企業の挑戦が実際の成果につながったときです。県として有望な分野を見極め、研究開発や新製品開発の支援を行っていますが、補助金があるからといって簡単に成功するわけではありません。企業側も人材や資金を投じ、大きなリスクを取って挑戦しています。

そうした中で、たとえば宇宙分野ではJAXAとの取引につながり、売上の拡大に結びついた企業もあります。また、半導体関連では、超精密加工技術を持つ企業が大型展示会への出展をきっかけに医療分野へ展開し、新たな製品開発に成功した事例もあります。こうした成果を見ると、政策が企業の成長に寄与できたと実感します。

すべての企業を一律に支援しようとすると、予算がいくらあっても足りません。行政の一番の仕事は、挑戦しようとする企業の背中を押すことです。そのうえで、企業が自らの努力で成果を出し、事業を拡大していく過程に関われたときはグッときますね。

また、組織としては、自由に意見を出し合える環境も大切にしており、多少の雑談も大目にみています(笑)。それは、日常的な会話や議論の中から、新しいアイデアや政策の種が生まれることも多いからです。そうした雰囲気を大切しながら、政策をつくっていきたいと考えています。

―最後に読者へメッセージをお願いします。

福岡県は、優れた技術を持つ多様な中小企業が集積している地域です。これは大きな強みであり、誇るべき資産です。

宇宙分野への挑戦は、すぐにビジネスとして成果が出るものではありませんが、その過程で技術力の高度化や人材育成につながります。さらに、宇宙分野で求められる高い品質基準に対応することで、いわゆる宇宙品質を獲得し、他分野への展開にもつながっていく可能性が期待できます。

福岡県には、そうした挑戦を担うだけの力を持った企業が数多くあります。だからこそ、宇宙に挑戦する企業をさらに増やし、福岡から新たな成長事例を生み出していきたいです。