宙畑 Sorabatake

ビジネス事例

【デモ体験レポ有り】現地に行かず、地盤沈下の兆候を探す。無料で試せる「NEOSAP」_PR

2025年にリリースされたNEC地球観測衛星画像解析サービスプラットフォーム「NEC Earth Observation Satellites’ image Analysis Services Platform(略称:NEOSAP)」について、その特徴、顧客との対話を重ねた開発の舞台裏、今後目指す姿を伺いました。

ある施設の一角で、2022年から約30ミリの沈下とみられる変位が起きている――。画面上の青い場所をクリックすると、変化の推移がグラフで表示されます。この変位を捉え、直感的にわかるビジュアルで可視化したのは、NEC(日本電気)が2025年にリリースしたNEC地球観測衛星画像解析サービスプラットフォーム「NEC Earth Observation Satellites’ image Analysis Services Platform(略称:NEOSAP)」です。

NEOSAPのコンセプトは、衛星データを安く、早く、手軽に利用できるようにすること。SAR衛星の画像から地表の変位を可視化し、無料登録すれば全国の低解像度データを閲覧できます。

しかし、精度の高い解析結果を届けるだけでは、ユーザーの意思決定や行動にはつながらないこともあります。

「変位が分かって、それで何になるのか」

顧客から寄せられた声を受け、NECは危険な場所とその理由まで示す土砂災害リスクマップの開発にも乗り出しました。

こうした「衛星データ×AI」による危険度の可視化は、防災・インフラ業界において今後さらに需要が高まると見られており、国内外で類似サービスの開発が進んでいます。その中でNECがどのような独自性を打ち出しているのか、本記事では、実際の画面を使ったデモを交えながら、NEOSAPの特徴、顧客との対話を重ねた開発の舞台裏、今後目指す姿について、開発担当者に宙畑編集部と宇宙ライターの井上榛香が詳しく伺っていきます。

大野翔平さん
エアロスペース事業部門
スペース&インテリジェンスシステム統括部
宇宙利用ソリューショングループ マネージャー

NEOSAPのデモを体験。無料で使えるフリープランも

―まず、NEOSAPでは何が分かるのか、実際の画面を見ながら教えてください。例えば、この青く表示されている箇所では何が起きているのでしょうか?

NEOSAPでは、衛星が捉えた地表の変位を色分けし、地図上に表示します。青が濃いほど、地表が衛星から遠ざかる方向への動きが大きい、つまり沈下が起きていると考えられます。拡大した解析結果は、国土地理院の標準地図に重ねて表示しています。

ここは、太陽光パネルが設置された場所です。画面を拡大してみると、パネルが並ぶ範囲の中でも、特に左側の変位が大きいことがわかります。さらに、調べたい地点をクリックしてグラフを表示すると、その地点がどのように変化してきたのかを時系列で確認することも可能です。この地点では、2年間で約20ミリ以上の沈下とみられる変位が確認できますね。

―時系列の変化まで分かると、どのようなことに活用できますか?

変位が一定の割合で進んでいるのか、何らかの出来事を境に急激に変化したのかを確認できます。その推移を見ながら、設備や地盤に問題が起きている可能性を判断し、必要であれば現地調査につなげます。

広い範囲をすべて人の目で点検するのは、時間も費用もかかります。まず衛星データで変化が起きている場所を見つけ、現地調査が必要な場所を絞り込めることがNEOSAPのメリットです。

―こうした変位は、無料版ではどこまで確認できるのでしょうか?

無料のアカウント(フリープラン)をご登録いただければ、低解像度の解析結果をどなたでも閲覧できます。無料版では、広い範囲を見ながら「この場所は色が濃く、何か変化が起きていそうだ」という兆候を探すことができます。

フリープランでは拡大するとモザイクがかかったように表示されるため、何がどのように動いているのかまでは確認できません。より詳しく見たい場所が見つかった場合は、1キロメートル四方の区画を選択し、有料プラン(ビジネスプラン)に変更・申込依頼できます。ビジネスプラン契約後は、選択した範囲の詳細な解析結果や、地点ごとの時系列グラフを閲覧できるようになります。

NEOSAPでは、基本的に2年間の衛星データを解析し、その結果を定期的に更新していくことを目指しています。

―先ほどの太陽光発電施設は、パネルの重さで沈下しているのでしょうか。

衛星データだけで原因まで断定することはできません。地盤そのものが沈下している可能性と、太陽光パネル自体が傾いたり、動いたりしている可能性の両方があります。周囲の変位や土地の状況も含めて判断する必要があります。

この場所は、一部分だけではなく面的に変位が広がっているため、太陽光パネルの重さによって地盤全体が沈下している可能性が考えられます。ここは、過去に廃棄物の処分や埋め立てに使われ、その後、太陽光パネルが設置された土地です。こうした土地の履歴と衛星データを組み合わせることで、現地調査が必要かどうかを検討できます。

―サービスには、どのような衛星データを使用していますか?

現在使用しているのは、欧州の地球観測衛星「Sentinel-1」のSARデータです。Sentinel-1のデータは無償で公開されているため、衛星画像にかかる費用を抑えられます。

加えて、日本全国をカバーし、撮影頻度が高いことも理由です。Sentinel-1は月1回程度、年間約12回のデータが得られるため、変位を継続的に捉えるのに適しています。

衛星データを使ったサービスをご提案すると、お客様から最初に「でも、お高いのでしょう?」と言われることが少なくありません。NEOSAPには、解析結果をできるだけ安く、早く届けたいというコンセプトがあります。そのための工夫の一つが、Sentinel-1の活用です。

NEOSAPを支えているNECの技術的な強みは、様々な衛星データを処理する解析技術やアルゴリズムを持っている点にあります。そのため衛星を限定せず、目的やコストに合った衛星データを選んでいます。

NEOSAPのここがポイント①ユーザーが分かりやすい見せ方にこだわっている
SAR衛星が異なる時期に撮影した2枚の画像を処理すると、地表の変化が虹色の縞模様で表された干渉画像が得られ、そのまま世の中に公開されることが少なくありません。
※干渉SARについては「干渉SAR(InSAR)とは-分かること、事例、仕組み、読み解き方-」もご覧ください。

SAR衛星画像を用いた干渉画像

しかし、この画像は一定の衛星データに関する専門的な知識を持っている方でなければ、変位を読み取りにくいという課題があります。

NEOSAPでは、20~30枚ほどの衛星画像を用いて統計的な処理を行い、ノイズも低減したうえで、変位の大きさが直感的に分かる色で表示しています。これにより、衛星と地表との距離の変化、つまり隆起や沈下などの地盤変動を捉えることができます。

衛星データの解析精度はミリメートル単位です。水準測量結果と比較して統計的な誤差(RMSE)は2~4ミリ程度になります。

高リスクの根拠まで記載。土砂災害リスクマップ

―次は土砂災害リスクマップですね。画面に表示されている色は、何を示しているのでしょうか。

全国各地の土砂災害が発生するリスクを色分けして表示しています。色がついていない場所はリスクが非常に低く、黄色、オレンジ、赤の順に高くなります。

例えば、この赤く表示された場所を拡大すると、高速道路であることが分かります。さらにクリックすると、リスクが高いと判定された理由が画面の右側に表示される仕組みです。

例えば、「この場所はこうした地質で、さらに地表の変位も確認されているため、リスクが高い」といった説明を確認できます。

―これだけたくさんのリスク箇所があるのに、一つひとつに、なぜ危険なのかという説明がついているんですか!?

最初の試作品には、判定理由を表示する機能はありませんでした。ところが、お客様にお見せしたところ、「なぜリスクが高いのかまで分からなければ、意思決定がしづらい」という声をいただいたんです。

自治体や保険会社など、普段から計測データを扱っているわけではない方にとって、地表が変位しているという情報だけでは、それが具体的にどのくらい危険なのか判断しにくい。担当者自身が行動に移せないだけでなく、上司や住民への説明も難しくなります。そこで、お客様との対話をもとに、判定理由まで表示する機能を追加しました。

さらに、土砂災害警戒区域や太陽光発電施設の位置などを、リスクマップに重ねて表示できます。そうすることで、もともとリスクの高い場所に、被害を受ける可能性のある施設が設置されていないかを確認することができます。

実際に、斜面が崩れて太陽光発電施設などが被害を受けることを懸念する保険関連のお客様がいらっしゃいました。リスクが高い場所と、守るべき施設の位置を一緒に確認できれば、現地調査の優先順位づけや保険のリスク評価といった判断に活用できます。

こうしたお客様からの要望が多かったことに加え、過去の災害データも比較的多く公開されていたため、まずは土砂災害リスクマップの開発に取り組みました。

―リスクが高い理由を説明する文章は、どのように作成しているのでしょうか?

生成AIを使っています。まず、ホワイトボックス型のAIによって、入力したデータのうち、リスク判定への影響が大きかった要素を抽出します。その結果を生成AIの文章化する能力と組み合わせ、説明文として表示する仕組みです。

一つひとつ人が書いていたら、コンサルティングを担う人たちが疲弊してしまいますから(笑)。AIを活用することで、判定結果だけでなく、根拠まで効率的に提示できるようにしました。

―土砂災害のリスクは、どのようなデータから評価していますか?また、AIによるリスク評価の精度は、どのように確認していますか。

衛星データから得た地表の変位に、斜面や標高、地質、降雨量などのオープンデータと、過去に土砂災害が発生した場所の情報を組み合わせ、AIで分析しています。使用している公開情報の出典も画面上で確認できます。

過去の災害記録には、国の研究機関などが公開しているデータを活用しています。広島県や九州地方など、記録が比較的充実している地域がある一方、データの整備状況には地域差があります。そのため、全国で一律に同じ量のデータがそろっているわけではありません。

また、あくまでも予測なので、やはり100%当たるものではありません。精度を検証する際は、過去の災害事例の一部だけをAIに学習させ、学習に使わなかったデータをどの程度捉えられるか評価しました。その結果、過去に災害が発生した場所に対して、6~7割程度の再現率が得られています。

既存の土砂災害警戒区域の情報を使った場合と比較しても、リスクが高いエリアについては同等程度の再現率が得られており、リスクがやや高い程度のエリアも含めることで、20ポイントほど再現率が向上しました。また、本サービスの特徴である、過去に災害が発生した場所と類似する条件をもつ場所を絞り込んでいる点を、お客様から評価いただいています。

―将来的にNEOSAPは、既存の点検やハザードマップに置き換わるものなのでしょうか。

すべてを一度に置き換えようとは考えておらず、現場のお客様からも、「今の業務を180度変えたいわけではない」「まずは部分的に効率化したい」という声をよくいただきます。

私たちとしても、衛星データは、既存の点検や判断を補うセカンドオピニオンのように使うのが現実的だと考えています。

例えば、従来のハザードマップとリスクマップを並べ、両方でリスクが高い場所を重点的に確認する。あるいは、二つの結果が異なる場所を詳しく調べる。こうした使い方によって、現地で確認する範囲を絞り、限られた人員や予算を有効に使えると考えています。

―この土砂災害リスクマップは、NEOSAP上で利用できますか。

現在お見せしているものは、まだNEOSAPのサービス外で開発している試作品です。10月下旬ごろを目標に、NEOSAPのコンテンツとして提供する計画を立てています。

搭載後は、NEOSAPの画面から「土砂災害リスクマップ」を選択し、必要なエリアを有料で閲覧できる形を目指しています。まさに今、サービス化に向けて開発を進めているところです。

NEOSAPのここがポイント②ハザードマップとの併用でより安全な街づくりへ
災害の被害予測を民間企業がリスク評価に利用する場合、自治体が内部の判断材料として使う場合、住民向けのハザードマップとして公開する場合では、求められる精度や信頼性が異なります。特に、自治体が公式情報として公開するハザードマップには、厳密な基準と精度の担保が必要です。

そのため、NECはNEOSAPを既存のハザードマップへ置き換えるのではなく、まずは民間企業や自治体内部での活用を進めながら、段階的に実績を積み重ねていきたい考えです。将来的には、衛星データやNECの解析技術が、地域の防災情報にも活用される社会を目指しています。

―少しお答えしづらい質問になってしまうかもしれないのですが、NEOSAPのようなサービスをリリースする際に「リスクがあると判定した箇所が外れるよりも、リスクがないと判定した場所で事故が起きること」は最も避けたいケースになるのではないかと考えています。そのような観点で何か工夫されていることはあるのでしょうか?

まさに、お客様からも「見逃しを一番避けたい」と言われており、そのリスクを技術的にどうやってカバーしていくかというところが一番重要だと考えていますし、最も苦労した部分です。そして、それがNEOSAPにおける私たちの技術の肝であり、特許の出願中です。

誤検出をなるべく低くしながら、同時に、再現率をある程度確保しなければなりません。本来はリスクが低いところもリスクが高いと結果を出してしまうのも、確認するべき場所が増えてしまいます。

だからこそ、繰り返しになりますが、徐々に変えていきたいと考えています。

ドラマ『24』のワンシーンから始まったSAR研究

NEOSAPのデモ、非常に興味深いお話をありがとうございました! ここからはNECでNEOSAPが生まれた背景や、こだわりのポイントについてもより深く伺いたいと思います。まず、大野さんはもともとSARの研究をされていたのでしょうか?

大学時代から、SAR画像の解析技術について研究していました。学部は電子工学科、大学院は知能・機械工学系です。合成開口レーダーや信号処理を専門とする研究室に入り、その中でSARを担当していました。

NECには2015年に入社しました。所属する組織は何度か変わりましたが、取り組んでいるテーマは一貫して、SAR画像を解析して社会課題の解決に役立て、その結果をお客様へ届けること。入社以来、ずっとこの仕事を続けています。

―SARに興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

すごく個人的な話なのですが、子どもの頃から映画やドラマが好きだったんです。ドラマ『24 -TWENTY FOUR-』など、諜報機関が衛星から地上を見て犯人を追いかけるシーンがあって、「かっこいいな。衛星からこんなことまで見えるんだ」と思っていました。

大学に進み、ものづくりに関わりたいと考えたとき、映画で見たワンシーンを実現できないかと思って研究室を探しました。そこで初めて、衛星からレーダーを使って地上のさまざまな情報を捉える合成開口レーダー(SAR)を知り、この分野を研究したいと思ったんです。

―ドラマや映画に登場する衛星画像は、光学画像のイメージが強いと思います。その中で、なぜSARを選んだのでしょうか。

正直なところ、最初から光学とSARの違いを意識していたわけではありません。映画に出てきたのも、光学画像か赤外画像、もしかしたらCGだったのかもしれません。

ただ、SARについて知るうちに、光学衛星にはできないことがたくさんあると分かりました。悪天候でも夜間でも観測できると聞いて、これはすごい技術だなと!

太陽光の反射を見る光学の衛星は太陽光がない1日の半分、また、曇っていると地上を見ることができないなか、SARなら昼夜を問わず、地上を見ることができます。

SAR画像は、見た瞬間に何が写っているのか分かりにくい面もありますが、24時間観測できることには、さまざまな可能性があるはずです。技術者として、この難しさに挑戦するのも面白そうだと感じ、研究を始めました。

―NECが衛星開発だけでなく、衛星データの利活用まで手がけることには、どのような意義があると考えていますか。

衛星をつくること自体も、もちろん社会貢献です。ただ、衛星をつくって終わり、画像を提供して終わりにするのではなく、そのデータを私たちの暮らしに結びつけたいという想いがあります。

お客様に近い領域までしっかり取り組むことで、自分たちの技術が社会にどう役立っているのかを実感できます。解析結果を実際の行動につながる形で届けることが、社会課題の解決を考えるうえで重要だと思っています。

―衛星データを通じて、特にどのような社会課題に取り組みたいですか。

大きく二つあります。一つは、インフラの維持管理です。高度経済成長期につくられたインフラの老朽化が進む一方、点検を担う働き手は減っています。お客様からも「本当はすべて点検したいけれど、手が回らない」という声を聞いてきました。

衛星には、広い範囲を一度に見られるという利点があります。優先的に確認すべき場所を衛星から見つけることで、点検箇所を絞り込めるのではないかと考えています。

もう一つは、防災・減災です。地震や豪雨などの災害が相次ぎ、いつどこで被害が起きるか分からない不安があります。自分自身も「私たちの暮らしは大丈夫だろうか」と感じるからこそ、衛星データを使ってこの課題に取り組んでいきたいと思っています。

全国を先に解析し、必要な場所だけを選べる仕組みへ

NEOSAPは、いつごろから構想されていたのでしょうか。

現在のサービスにつながる構想が具体化したのは、4~5年ほど前です。ただ、全国の衛星データをあらかじめ解析し、お客様が必要な場所を選んで利用するというアイデア自体は、8年ほど前からありました。そこから技術的な課題を一つずつ解決し、2025年2月のリリースに至っています。

解析技術が整った後も、クラウドサービスとして提供するための仕組みづくりが必要でした。私たちNECの航空宇宙部門にとっては初めての取り組みが多く、社内のルールを整えるところから始めたため、構想から実現までには時間がかかりました。ただ、一度基盤ができたことで、現在はサービスをより速いサイクルで改善できるようになっています。

―当時、日本全国を解析するのはなぜ難しかったのでしょうか。

最大の課題は、解析処理の重さです。当時は、例えば40キロメートル四方の衛星データを処理しようとすると、コンピューターを1か月動かし続けても結果が出るか分からず、途中でエラーが起きれば、最初からやり直すこともありました。

マシンの性能だけでなく、解析アルゴリズムも現在ほど成熟していなかったんです。そこで、研究所とも連携しながら、計算量を抑えつつ解析精度を高める技術を開発しました。全国規模のデータを半自動で処理し、それぞれの解析結果をつなげられるようになったことで、「これならサービスにできる」と思ったのです。

変位を解析するアルゴリズムは、NEOSAPの強みの一つであり、デモでご紹介したように、現在ではAIを組み合わせ、リスクの評価などにも活用しています。

―あらためて、NEOSAPを利用するのはどのようなお客様を想定されていますか?

大きく二つの利用方法を用意しています。一つは、全国を対象とする標準的な解析です。

定期的な予防保全や、地域全体の防災・インフラ監視が目的であれば、1~2年に1回の更新で十分というお客様もいらっしゃいます。自治体のお客様には、こうした使い方が比較的多いですね。

一方、工事現場や、すでに変位が確認されている重要施設など、特定の場所を高い頻度で見たいお客様には個別解析を提供しています。こちらは、衛星による撮像から2週間~1か月程度で解析結果を提供することを目指しています。工事の進捗に合わせて現場の状況を把握したいお客様や、重点的に監視したい施設を持つお客様などから、こうしたニーズを多くいただいています。

「変位が分かって、何になる?」顧客と磨いたサービス

―2025年2月にNEOSAPをリリースした後、お客様からはどのような反応がありましたか。

正直なところ、リリース直後は思ったほど利用が広がらず、その理由を考える期間がありました。

NEOSAPは、それまで受注生産で提供していた変位解析を、より安く、手軽に使っていただくために立ち上げたサービスです。

ただ、安くて使いやすいだけでは、お客様が求める価値にあと一歩届いていなかったのです。

私たちは、「ミリメートル単位で変位を捉えられます」と技術の精度をアピールしていました。しかし、お客様の中には「そこまで細かい精度は必要ない」という方もいます。

「地面が3ミリ下がったことがわかるだけでは少し足りない」「青く表示された場所は、本当に危ないのか」と聞かれても、変位データだけでは答えられませんでした。

お客様が知りたいのは、変位が起きたかどうかではなく、どこが危険で、次に何をすべきかです。私たちが提供していた情報と、お客様が意思決定に必要としていた情報では、向いている方向が違っていたのだと思います。

―そのギャップを、どのように乗り越えたのでしょうか。

以前であれば、「衛星データだけでは分かりません」と答えて終わっていたかもしれません。ただ、衛星だけでは難しくても、斜面や降雨量などのオープンデータとAIを組み合わせれば、危険度まで示せる可能性があります。そこから生まれたのが、先ほどご紹介した土砂災害リスクマップです。

リスクマップの構想は2024年ごろからあり、NEOSAPの開発と並行して検討を進めていました。ただ、最初から完成形が見えていたわけではありません。お客様自身も「危険な場所を知りたい」という課題は持っていても、どのように示されれば行動に移せるのかまでは明確になっていませんでした。

そこで、まず試作品をつくって実際に触っていただき、フィードバックを受けて修正する。そのサイクルを何度も繰り返しました。開発が進んでいる時期には、2週間から1か月ほどの間隔で試作品を見せることもありました。リスクが高い理由を文章で説明する機能も、こうした対話から生まれたものです。

―リスクマップの開発を通じて、お客様との向き合い方は変わりましたか。

変わりましたね。以前は、衛星で「できること」と「できないこと」を正確に説明しようとする意識が強く、「これは衛星ではできません」と答えて終わることもありました。

今は、衛星だけでできなければ、ほかのデータやAIを組み合わせればよいと考えています。まずお客様の課題をしっかり聞き、使える技術を広く探す。衛星を使うこと自体ではなく、お客様が行動できる情報を届けることが目的だと気づきました。

学生時代や入社直後の私は、衛星の技術を磨くことが、そのまま社会貢献につながると考えていました。今の自分を見たら、「こっちの道にも進んだんだ」と驚くかもしれません(笑)。技術を高めるだけでなく、お客様と会話し、試作品を一緒に磨いていくことが重要だと感じています。

―衛星だけにこだわらなくなった今、あらためて感じる衛星データの強みは何ですか。

一つは、高度約600キロメートルから広い範囲を見渡せることです。「リモートセンシング」と呼ばれるくらいですから。現地調査やドローンと比べても、一度に確認できる範囲が大きく異なります。人が現地へ行かずに遠隔で確認できるため、災害時に調査する人の安全を守れる点も重要です。

もう一つは、過去にさかのぼれることです。現地のセンサーやドローンは、事前に設置したり飛ばしたりしていなければ、災害前のデータが残りません。一方、衛星は広い範囲を継続的に観測しています。有事が起きた後でも過去の画像を解析し、発生前と現在を比較できる。これは衛星ならではの強みです。

―5年後、NEOSAPを通じてどのような社会を実現したいですか。

現在は土砂災害など限られた領域から始めていますが、今後は意思決定を支援できる分野を広げていきたいです。もともとNEOSAPは、衛星データの知識がない方でも使えるサービスを目指してきました。その方向性は変えず、インフラ管理や防災・減災など、暮らしに近い場面へ展開していきます。

5年後には、「衛星データが使われているから、地域のインフラや防災について少し安心できる」と感じてもらえる社会になっていたらうれしいですね。地球観測衛星が特別な技術ではなく、私たちの暮らしを支える身近な存在になることを目指しています。

衛星で何ができるか分からなくても、「こういう課題を解決したい」という思いがあれば、ぜひお話を聞かせてください。私たちだけでは知見が限られますが、お客様の経験と私たちの技術を組み合わせれば、新しい解決策を一緒につくれるかもしれません。

NEOSAPには無料で利用できるフリープランもあります。まずは登録して、どのようなデータを見られるのか、実際に触っていただきたいです。

―大野さん、ありがとうございました!

【ライター井上榛香より】
今回の取材で面白かったのは、「地面が3ミリ沈んでいる」と分かるだけでは、人はなかなか動けないという話でした。数ミリ単位の変位を捉えられると聞くと、それだけですごい技術のように思えます。ただし、実際にその情報を受け取る人からすれば、「で、これは危ないの?」という疑問が残ります。さらに自治体などでは、担当者が納得するだけでも足りません。現地を調査するなら、その理由を上司に説明したり、ときには住民に伝えたりする必要もあるでしょう。

NEOSAPの土砂災害リスクマップには、危険度だけでなく「なぜリスクが高いのか」という説明までついてきます。そこまで見せてもらって、衛星データが社会で使われるためには、観測する技術だけではなく、その意味を人に説明するところまで必要なのだと感じました。衛星データの利用が広がるにつれて、そんな部分の重要性が増していくのかもしれません。技術力だけでなく、顧客との対話を通じたサービス設計こそが鍵になるという事例は、今後衛星データ活用を検討する他業界にとっても参考になるのではないでしょうか。