「みちびき」とは~GPS精度を向上させる準天頂衛星の仕組み~
準天頂衛星「みちびき」計画は、来年2018年からの実利用サービス開始に向けて準備が整おうとしています。その計画について紹介します。
準天頂衛星「みちびき」計画の今
準天頂衛星「みちびき」計画は、来年2018年からの実利用サービス開始に向けて準備が整おうとしている。「みちびき4号機」の打ち上げが2017年10月10日の午前7時頃に予定されているのだ。
さらに今後2023年度をめどに7機体制になる計画だが、なぜ、今、「みちびき」を使ったサービスを整備する必要があるのだろうか。
「みちびき」の仕組みと将来的な期待、そして私達の身近にある「みちびき」の関連サービスを紹介する。
「みちびき」の2つの能力
「みちびき」は、日本の上空に長くとどまる軌道を通る衛星であり、その軌道の名前から準天頂衛星と呼ばれる。「みちびき」にできることは、GPSの”補完”と”補強”の2つ。
「みちびき」の補完:山間部や高層ビル街でも位置情報を届けられる仕組み
そもそもGPSとはGlobal Positioning Systemの略で現在30機以上の衛星がアメリカで運用されており、受信機があれば世界中で位置情報を調べることができる衛星システムである。アメリカのほか、ロシアやヨーロッパ、中国も独自の測位衛星システムを持っている。
今やGPSによる位置情報を使ったサービスは当たり前となり、車には当然のようにカーナビが搭載され、スマホでも経路案内や、位置情報を利用したアプリゲームなどが普及している。
位置情報を調べるには、4機以上のGPSから電波を受信する必要があるのだが、日本は山間部が多く、また、都心部では高い建物で衛星からの電波をさえぎってしまい、必要数の衛星電波を受信できる場所が限られてしまっている。そこで「みちびき」が日本の上空から足りないGPSの”補完”をすることで、GPSサービスを利用できる範囲を広げることができる。
「みちびき」の補強:GPSの精度を上げ、誤差を数cmに補正できる仕組み
もう一つの”補強”とは、GPSでどうしても位置情報の誤差が数m出てしまうのを数㎝まで高めること。「みちびき」は、GPSが宇宙から電波を送信し地上に届くまでに出てしまう数mの誤差を計算するための補正電波を出している。
この電波も受信することができれば、数cmまで誤差を補正し、GPSの精度を“補強“することができるのだ。
「みちびき」やGPSについてより詳しくは内閣府のHPで確認することができる。
GPS・測位衛星関連サービスと「みちびき」の恩恵
カーナビやアプリゲームで、すでに当たり前になっている測位衛星システムではあるが、内閣府によると「みちびき」の今後の実用化による経済効果は2兆円に及ぶと試算しており、様々な分野への利用が期待されている。実用化に向けて大学や企業で研究や実証実験が行われている利用例をいくつか紹介しよう。
車の自動走行
数㎝程度の誤差であれば車を自動走行させることができるようになる。工事現場や農機に利用すれば、建築作業や耕作、除草作業にかける手間を大幅に軽減できる。
【参考】
高精度測位が、安全で確実なナビゲーションを実現
高度な測位が効率的な作業を促進
【参入企業例】
アイサンテクノロジー、デンソー、三菱自動車、トプコン、コア、いすゞ自動車、日野自動車など
防災利用
ドローンなどの無人機を正確に操作することができれば、災害時に人が直接行くことができない場所を捜索したり、物資を届けに行ったりすることが可能になる。
さらに、山や海上に受信機を配置しておくことで、リアルタイムに変化をモニタリングし、火山噴火や津波などの予報に役立てられることが期待されている。
また、災害時に被災情報の発信や安否情報の確認といった通信サービスとしての利用もできる。自動販売機や信号に受信機を設置して、衛星通信により非常時の運用に切り替えることが可能だ。
【参考】
災害・危機管理通報サービス「災危通報」
【参入企業例】
NTTデータ、日立造船、つなぐネットコミュニケーションズなど
AR技術などと連動した観光事業
スマートフォンのアプリなどを利用することで、自分の位置情報に合わせて観光情報を提供するサービスやお祭りの山車の位置を調べるサービスなど観光事業にも測位情報が活用されている。
【参入企業例】
Softbank、エイ・ケイ・システムなど
スポーツ選手の運動量を計測
位置情報をリアルタイムに把握することはスポーツにも利用することができる。選手の走行距離、走行スピードなどのデータを計測することにより、選手のコンディションを管理し、けがのリスクを減らし、計画的な練習プランの立案や戦略分析などの利用が進んでいる。
【参入企業例】
Catapult、アシックスなど
正確な時刻情報を金融取引に提供
金融取引にも測位衛星のデータが利用されている。誤差の少ない測位情報を可能にするのは、実は高精度の時刻情報である。
測位衛星は宇宙空間をとても速いスピードで移動しているので、数百~数千分の1秒の誤差で何十mもの誤差を生んでしまうため、正確な時間を管理できることも測位衛星の能力の一つである。
金融取引やビッグデータのネットワーク管理には正確な時刻情報が必要であり、「みちびき」の提供する正確な時刻情報に期待が寄せられている。
以上は、測位衛星を使った利用事例のほんの一例。その他の活用事例については内閣府の事例紹介ページでも確認できるので是非一度確認してみてほしい。
「みちびき」によるGPS精度向上と今後の展望
このように位置情報により多岐にわたる分野での利用が期待されている。「みちびき」が7機体制になるころにどのようなサービスが実用されているか、ビジネスのアイディア次第で「みちびき」の利用の可能性はさらに広がるだろう。