インドの宇宙開発は何が凄いのか~PSLVロケット、技術、予算、計画~
インドの宇宙開発が盛り上がっています。ロケットから展望まで、その詳細を紹介します。
隠れた宇宙大国、インド
インドの宇宙開発と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
あまり「インド」と「宇宙開発」が結びついていない方も多いかも知れません。
実は、インドは宇宙開発がとてもさかんな国なのです。世界でも数少ないロケットと人工衛星の両方を自国で製造できる国でもあります。
今回の記事では、歴史的な背景からアメリカともロシアとも異なる第三世界的な位置づけで独自の宇宙開発を進めるインドに迫ります。
インドの宇宙開発史~インド宇宙研究機関の誕生、ロケット・衛星開発に着手~
インドの宇宙開発の父は、ヴィクラム・サラバイという人です。1947年にインドがイギリスから独立した後、最初のインド政府は防衛技術と宇宙研究開発が非常に重要だと考えました。また、1962年にはヴィクラム・サラバイを議長とする、インド国家宇宙研究委員会(INDIAN NATIONAL COMMITTEE for SPACE RESEARCH (INCOSPAR) )が組織されました。このINCOSPARが7年後に、今のインド宇宙研究機関ISRO (Indian Space Research Organization)に名前を変えます。
NASAとの初期検討を通して、ISROはインド全土へのテレビ放送のためには、人工衛星が最も経済的な手段であると考えました。衛星は、インドの社会経済発展のために重要な役割を果たし、地上波による放送と比べコストを抑えることができたのです。
ISROは、アメリカのScout Rocketというロケットをベースに、独自のロケット開発を始めます。Satellite Launch Vehicle (SLV) と呼ばれるこのロケットはアメリカのミサイルの設計を元にしたロケットで、その他の技術(飛行制御、材料科学、風洞(*1)技術)などはドイツから導入しました。
*1 風洞:ロケットの打ち上げ環境を再現するために、人工的に風を発生させる装置
主力ロケットPSLVの誕生、低価格の月・火星探査衛星
インド初の衛星はAryabhataというX線天文と太陽物理学の衛星で、1975年にソ連のロケットで打ち上げられました。最初のロケットSLVの打ち上げは1979年で、Rohini-1という衛星を打ち上げました。SLVの成功を受け、ISROはPSLV(Polar Satellite Launch Vehicle)というロケットの開発に着手します。1980年代前半からPSLVの試験に着手しますが、最初に打ち上げに成功したのは1994年のことでした。
ISROがさらに大型のGSLV (Geosynchronous Satellite Launch Vehicle) ロケットの試験飛行を行ったのは、2001年です。その後2007年には独自のエンジンを開発、試験を行いました。現在のGSLV3がインドの最新のロケットで、有人飛行にも用いることができます。
Chandrayan-1はインド初の月探査機です。探査機は、月周回機とMoon Impact Probeというインパクター(月面に衝突して、月の地面を調査する宇宙機)から成ります。2008年にPSLVロケットの改良版で打ち上げ、月の周回軌道への投入に成功しました。
Mangalyaanという愛称で呼ばれる火星探査機は、2014年に火星周回軌道へ投入されました。インド初の火星探査ミッションにかかった費用は74億円でした。アメリカの火星探査ミッションMAVENが671億円、ヨーロッパの火星探査ミッションMARS EXPRESSが386億円、日本の火星探査機のぞみが189億円かかっていることと比較すると、インドの宇宙開発が非常に安価であることが分かります。
また、最近ではインドは2017年2月のPSLVロケットの打ち上げで、104機の衛星の打上げと軌道投入に成功しています。この打ち上げは一度に打ち上げた衛星の数として、世界一の記録となりました。
インド宇宙開発の将来計画は宇宙探査衛星に注力
インドでは、以下4つの探査ミッションが計画されています。
【1】 月探査機”Chandrayaan-2”(2018打ち上げ予定)
2008年に打ち上げられたChandrayan-1の後継機。月面探査車(ローバー)を搭載。
【2】 太陽探査機”Aditya-1”(2019-2020年打ち上げ予定)
インド初の太陽を研究するための探査機。ラグランジュポイントと呼ばれる、物理的に安定な点に探査機を置く計画。成功すればアメリカ、欧州に次ぐ快挙。
【3】 金星探査機”Indian Venusian orbiter mission”(2020年打ち上げ予定)
金星の大気の研究のための探査機
【4】火星探査機”Mangalyaan 2”(2021-2022打ち上げ予定)
Mangalyaan 1の後継機。周回機と、着陸機、探査車(ローバー)から成る予定。
人工衛星の開発は、すでに大半の設計が決まっている衛星でも数年、新たなミッションを行う衛星では10年以上かかることも珍しくありません。国民性もあるかもしれませんが、インドが非常にアグレッシブな宇宙開発計画を立てていることが分かります。2017年のインドの経済成長率は世界4位の7.2%、一方日本は1.2%、インドの伸びしろの大きさがうかがえます。
インドの宇宙開発予算は米国の30分の1、日本の半分
近年のインドの宇宙開発予算は図のようになっています。
・宇宙技術開発:新たな宇宙技術を開発するための予算
・宇宙利用開発:宇宙または航空分野の機器の開発とそのアプリケーション開発
・INSAT 運用:多目的静止衛星INSATの開発と運用
・宇宙科学:天文学、宇宙物理学、惑星および地球科学、大気科学および理論物理の研究
アメリカの宇宙開発予算は4.5兆円規模、日本は約3000億円であり、それと比較するとインドの宇宙開発予算はまだまだ小さいと言えます。しかし、裏を返せば非常に低価格で様々な偉業を達成しているということにもなるのです。
特に、前年度と比較すると、全体として150億円以上の増額、特に宇宙技術開発と宇宙利用開発に大きな増額がされており、インドの宇宙開発がさらに加速していくだろうと考えられます。
まとめ
インド初の衛星は1975年、ロケットSLVの打ち上げは1979年、一方、日本は初めての衛星とロケットを1970年に打ち上げています。さらに、インドの月探査機の打ち上げは2008年、日本の月周回衛星「かぐや」の打ち上げは2007年ですから、インドと日本はほぼ同じスピードで宇宙開発を進めてきたといえます。
日本は1945年に終戦を、インドは1947年に独立を果たしています。第二次世界大戦後、欧米の思惑に影響を受けながら、急速に近代化を推し進めてきた両国が、同様の宇宙開発史を辿るのは必然だったのかもしれません。
インドは時間がかかりながらも、その後の主力ロケットPSLVの開発を成功させ、世界でも有数の低価格のロケットとして、その存在感を高めていきます。
一方で、政府主導で宇宙開発を行ってきた経緯から、民間の宇宙ビジネスは発展しているとは言い難い点は課題として挙げられます。 今後どのように、技術や権利を民間に移譲していくのか、注目です。
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