北海道地震の土砂崩れは広範囲だった? SAR衛星データで調べてみた
北海道地震では、広範囲に土砂崩れが発生しました。そこで今回は、Sentinel1のSARデータをGoogle Earth Engineで解析し土砂崩れの範囲を見てみました。
2018年も残すところあとわずか。一年を振り返って多くの人が思い出すのは、大雨や台風、地震など各地で発生した天災による被害ではないでしょうか。
なかでも9月に北海道で起きた地震は記憶に新しいかと思います。土砂災害や液状化、広範囲に及んだ停電など、被害に遭われました皆様に心よりお見舞い申し上げます。
今回の記事では「災害状況を人工衛星データで見る」という目的のもと、この北海道胆振東部地震を取り上げ、Google earth engineを用いて土砂崩れのあった地点の地表の変化を衛星データで確認してみたいと思います。
なお、国土地理院やJAXAなどの専門家による解析結果を参考にしていますが、以下で紹介する結果については推測であり、正当性と保証するものではありません。実際の解析結果や被害状況の詳細などは(※)の参考情報をご参照いただければと思います。
(1)北海道胆振東部地震での土砂崩れ被害について
2018年9月6日3時7分頃、北海道胆振地方中東部を震源とする北海道胆振東部地震が起きました。地震の規模はマグニチュード6.7、震源の深さは約37 km(※1)。
土砂崩れの被害が多く確認されたこの地震は明治以降の地震災害の中でも崩壊面積が最大だったようです(※2)。
解析の前に、当時の被害状況についてニュースや記事を調べました。こちらは土砂崩れ被害が発生した厚真町付近の写真です。
広範囲にわたり大きく斜面が崩れており、大変危険な状態になっていたことがわかります。上の写真のように、被害の詳細な情報はドローンや航空写真によって数㎞くらいの範囲であれば観測することができます。
しかし、今回の地震のように広範囲で土砂崩れが起きた場合、写真では被害状況の一部しか確認できません。もっと俯瞰的に被害の全体像を把握するのに適しているのが衛星データです。
【参考情報】
※1:「平成30年北海道胆振東部地震に係る被害状況等について」 - 内閣府
※2:「北海道胆振東部地震の崩壊面積と過去の地震災害の比較」 - 国土交通省
(2)SAR衛星データを使う理由
人工衛星で災害時の被災状況を確かめるために光学センサもSARも利用されていますが、
・季節による太陽光の反射の影響を受けなくて済む
・雲の映り込みがない
という2つのメリットから、確実に観測ができるSARの画像が災害の前後の変化を捉えるのに適しています。
なお、人工衛星が衛星ごとの役割によってさまざまなセンサを搭載していることについては、宙畑のバックナンバー「人工衛星を利用した地球の調べ方」、「衛星データのキホン~分かること、種類、頻度、解像度、活用事例~」、「SAR衛星とは?ASNARO-2で広がる宇宙ビジネスの可能性」で掘り下げて紹介していますので併せてご一読ください。
(3)Google earth engineを使ってみよう
人工衛星データをWEB上でダウンロードするシステムはいくつもありますが、Google earth engineは重い画像データをPC端末に保存しなくてもクラウド上で解析したり、データを加工することができます。また、それを簡潔なソースコードの記述という形で行えるところも魅力です。
さっそくGoogle earth engineにアクセスしてみましょう(Googleアカウントでのログインが必要です)。
メニューバーの「PLATFORM」から「CODE EDITOR」を選ぶと、上部にコードエディタ、下部に地図データが表示されます。
上部はプログラミングで通常使用するようなコードエディタとほぼ同じ使い勝手です。左からプロジェクトのディレクトリ(ここではGoogle earth engineにサンプルとして格納されたさまざまな衛星データを表示するソースコードファイル群のこと)、また、自分で作成したコードを保存しておくこともできます。
中央にソースコードを記載し実行するテキストエディタ、右はソースコードを実行した際に主にエラーメッセージや実行した際のログまたは解析結果データを表示することができる場所、下には、解析後の画像データが表示されます。
Google earth engine内のデータは呼び出したりカスタマイズして自分なりのプロジェクトを作ることも可能ですが、今回はすでにサンプルコードが書かれているファイルを使用したいと思います。
Google earth engineではsentinel1のSARデータを使うことができます。左(Scripts)にGoogle earth engineで使用されるさまざまなサンプルファイルがありますので、「Examples」フォルダの配下に置かれているsentinel1のデータの呼び出しがすぐに可能な「Sentinel1 Composite」を選択しましょう。
このようにコードはJavaScript言語で書かれています。
“var”から”=”の間の文字は数学のxやyのような「変数」と呼ばれるものです。最初にこの変数に必要データを格納しておき、後で呼び出して実行するという流れになっています。
画面を開いて最初はアメリカの地図が表示されるので、土砂崩れ被害のあった厚真町まで地図上で移動してピンを付けてみましょう。
ピンを付けた時点で上部中央のエディタに 「var geometry: Point([141……])」と追加されます。[ , ]のなかの数字が経度緯度になりますので、サンプルコードの1行目の変数「geometry」(位置)に格納されている「ee.Geometry.Point([ , ])」の数字の部分をこの数字に書き換えましょう。
画像のように厚幌ダム付近にポイントを付けて、緯度経度を書き換えて「save」で保存しておくと、次にまた読み込みするときに、ポイントした場所が中心に表示されるようになります。
次に読み進めていくと見つかる‶ee.ImageCollection‶などee.から連なる部分は「メソッド」と呼ばれるものです(ee=earth engineの略)。
詳しくは割愛しますが、Google earth engineではすでに衛星データ画像を取り出すための長い手順をこのメソッドにまとめてくれているので、‶メソッド(見たい衛星データ名)‶と記述するだけで内部でよしなにデータを取ってきてくれるという仕組みになっています。
さらに「filter」などのメソッドを用いて、欲しいデータにフィルターをかけて絞り込んでいくコードが続きます。今回は震災前後の数週間のデータをそれぞれ抽出し重ね合わせるよう記述しました。
▶フィルターをかけて抽出し、以下3つの期間の画像を重ね合わせる
1枚目(im1):2018年9月22日~2018年10月5日 (地震後)→赤
2枚目(im2):2018年9月6日 ~2018年9月21日 (地震後)→緑
3枚目(im3):2018年8月25日~2018年9月5日 (地震前)→青
1枚目は赤、2枚目は緑、3枚目は青の色の配分で画像が合成されるようになっています。
複雑な色合いは省略しますが、上記のように配分すると、以下のような色分けで画像ができるはずです。
・白=地震の前後で両方とも、変化はないが、電波の跳ね返りが強い
・黒=地震の前後で両方とも、変化はないが、電波の跳ね返りが弱い
・黄=地震前は電波の跳ね返りが弱く、地震後に電波の跳ね返りが強い
・青=地震前は電波の跳ね返りが強く、地震後に電波の跳ね返りが弱い
赤と緑が地震後の画像のため、地震後に衛星の電波が強く帰ってきた場所は、光の三原色の性質によって、赤+緑=黄となります。
以上の抽出条件を記載し終わったところで「RUN」ボタンを押して実行してみましょう!
こちらが先の条件で抽出した衛星画像です。何やら不思議な色になりました。……ズームして近づいてみましょう。
ピンクのポイントは先に紹介した土砂崩れの航空写真に映っていた厚幌ダムです。湖の部分は黒く映っています。
また、山間部のいたるところに黄色く色づいている部分が広がっています。黄色の部分は地震後に電波の跳ね返りが強くなったという変化が起きたところのはず。
先に紹介した土砂崩れの様子からして、黄色の部分が土砂崩れが起きたところと推測できるかもしれません。
さらにズームしてみましょう。
次に緑のポイントを見ると黄色が特に濃く色づいていることがわかります。黄色が濃いということは、この地点が震災前後で変化の多かった部分なのでしょうか。
実際、この地域では地震後どうなっていたのでしょうか。航空画像でこの地点を確認してみましょう。
SARの画像で黄色が濃く出ていたところ周辺の航空画像です。山肌が周りよりむき出しになっているのがわかります。SARの画像で黄色が濃く出ていたのは、ほかの場所より、山肌がむき出しになっている部分が多かったからかもしれません。
最後に、もう一度、ズームアウトして土砂崩れが起きたエリアがどのくらいだったのか見てみましょう。
厚真町付近の山間部のかなり広範囲にわたって黄色い部分があることがわかります。明治以降の地震災害の中でも崩壊面積が最大だったことも納得できるように思います。
このように、衛星データで色が変わっている地域が、何らかの変化が起きたところ。今回の場合は土砂崩れが起きたところだと推測することができました。
なお、上記すべてを終えたGoogle earth engineの画面は以下よりチェックしてみてください。
(4)おまけ:厚幌ダム付近の高低差がわかるこんなデータも
衛星データを使って被災状況の把握ができることを紹介してきましたが、なぜこの地域で広範囲な土砂崩れが起きたのか、災害後に原因を探るためにもさまざまなデータが必要です。
地理院のサイトでは、災害後も新たな解析結果が更新されており、厚幌ダム付近の地表の高低差を立体地図で見ることができました。
こちらを見ると、ダム付近は山と谷が混在する高低差のある地形であるために急斜面ができやすく、土砂崩れが起きやすいのではないかという仮説も立てることができます。
今後、居住区や森林地帯での災害被害の分布など、ほかのデータを組み合わせるなど多様な角度から解析を試みることによって、新たな災害時の対応策も得られるかもしれません。
(5)まとめ
今回は、北海道で起きた地震の被災状況をGoogle earth engineの衛星データを活用しながら調べてみる方法をご紹介しました。
ドローンや航空機の観測情報は被害状況が一目でわかる一方、情報がどうしても限定的です。それに対して衛星データは、航空機で捉えきれない広範囲にわたる被害状況や震災前後の変化を把握することができます。
衛星データを取得・解析するためには、ちょっとしたツールの使い方や画像を読み解くコツを習得する必要があります。Google earth engineがそうであるように、多くの衛星データは無料で閲覧することが可能ですので、ぜひ皆さんも試してみてください。コツさえ習得できれば、きっといろいろなニュースが衛星データとリンクしてくるでしょう。
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