宙畑 Sorabatake

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スペースデブリ増加、除去技術実証・ルール整備に待ったなし【週刊宇宙ビジネスニュース 1/20〜1/26】

一週間に起きた国内外の宇宙ビジネスニュースを厳選してお届けする連載「週刊宇宙ビジネスニュース」は毎週月曜日更新!

Spaceway-1、電源トラブルでスペースデブリに

ボーイングが打ち上げた北米のための通信衛星Spacewayシリーズの1機で、バッテリーに不具合が起きたようです。今回不具合が起きたのはバックアップの衛星のため、サービス提供には影響がないそうです。想定されていた寿命を超えているため、他の機体で同様のトラブルが起こることは考えにくいとして、ボーイングは本トラブルの原因調査を拒否していますが、寿命経過後の衛星のトラブルによるスペースデブリの増加懸念の声も上がっています。まだ数年は運用を継続する予定であった本衛星は燃料もまだ残しているようで、デブリ化を防ぐべく、軌道を離脱した上で搭載している燃料をなくし、バッテリーを過放電状態とすることで不働態化処理まで進めることを求められています。

地球を周回している衛星の場合はバッテリの充放電変化から健全性の確認を恒常的に行えるのですが、静止軌道の衛星の場合にはバッテリの動作期間が短く健全性確認を行いにくい、というのも課題です。いつまで安全に運用を続けられるのか、把握できることが重要となりそうです。

Spaceway-1 Credit : Boeing

米軍、新たなコンステレーション計画を発表

また今週、米軍はセンシング衛星と通信衛星をミックスさせたデュアルユース衛星によるコンステレーション計画を発表しました。これにより地上・海上でのターゲットの位置特定と極超音速滑空機などの高度ミサイルの追跡が可能になります。

民間企業の通信メガコンステレーション計画でも、便利さの裏でスペースデブリの増加が懸念されてきました。人間が便利を追求すれば、必ずデブリは増加していきます。

 

スペースデブリ増加を食い止めるためのスペースデブリ除去技術(Active Debris Removal:ADR)開発について、今週は2つの嬉しいニュースがありました。

Tethers Unlimited Inc.(TUI)が、軌道上でのテザー実証実験に成功

TUIの導電性テザー実証機 Credit : TUI

スペースデブリ除去で有望な技術であると注目されている導電性テザーは、衛星から電線を垂らして電流を流すことで、地磁気との相互影響によりローレンツ力を発生させ、化学エンジンを使わなくても軌道変更ができる技術です。

この技術を使ってスペースデブリ除去を目指すTUIが、軌道上でのテザー実証実験に成功しました。放っておくよりも24倍以上速く軌道変更できたそうです。通常、使用不能になった衛星は軌道によっては何百年も軌道に放置されたままです。同社のテザーを使用不能になった衛星に取り付けることによって、軌道を迅速に変更することができるようになれば、すでにあるゴミを減らしていくことに貢献することでしょう。同社はミレニアムスペースシステムズ、TriSept、RocketLabと協力してさらなる低軌道での実証を予定しています。

ASTROSCALEが、東京都から450万ドルの助成金を受取

また、スペースデブリ除去技術について2020年内の実証実験、商用化を目指す日本発のベンチャーASTROSCALEは、東京都から450万ドルの助成金を受け取りました。3年以上にわたって資金を使用してデブリ除去サービスを商業化し、衛星オペレーター、国の機関、保険市場とのグローバルな販売チャネルを開発するとのことです。

低軌道デブリ除去商用ミッション衛星 ELSA-d Credit : ASTROSCALE

技術実証進歩著しい中、ルールの整備は課題

ADR(Active Debris Removal)技術については、2009年に中国が行った衛星の爆破実験から注目が増しており、研究開発から段々と民間ベンチャーの挑戦フェーズへと移行してきました。初期には夢物語とも思われた技術でしたが、民間ベンチャーの参入により実証も少しずつスピードアップしてきています。

一方でルールの整備については課題が山積みです。ADRの技術は、目標物を捕獲できる、ということは「他国の衛星を破壊する」ことにも利用できます。やって良いこと・やってはいけないことをどのように整理して、各国に守らせるのでしょうか。

衛星の所有権の問題もあります。今回のボーイングのSpacewayは米国の衛星ですが、これを日本のベンチャーが除去することができるでしょうか。ロシアのデブリを、米国のベンチャーが除去できるでしょうか。その費用は誰が支払うのでしょうか。失敗した場合、その責任はどこの国が、企業が持つのでしょうか。

途上国を含め様々な国が衛星を手軽に打ち上げることができるようになってきて、生活のインフラとしての通信コンステレーションなど、大量の衛星が打ち上げられる昨今、スペースデブリの問題は深刻度を増しています。技術開発と、平和的利用のルール整備が喫緊の課題となっています。

 

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参考記事

Space Development Agency to start building its first constellation of surveillance satellites|SPACENEWS

Boeing says Spaceway-1 battery failure has low risk of repeating on similar satellites|SPACENEWS

Astroscale Takes Next Step Toward Launch of World’s First Commercial Active Debris Removal Mission|ASTROSCALE

アストロスケールは「宇宙のロードサービス」、デブリ除去を2020年に実証へ|マイナビニュース

TETHERS UNLIMITED, INC.

Successful Space Debris Demo Performed On-Orbit by Tethers Unlimited|SMALLSAT NEWS

Tokyo Government Awards Astroscale Grant for Active Debris Removal|Via Satellite