宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

宇宙法とは何か、宇宙ビジネスを起業する上で知っておきたい法律まとめ

「宇宙ビジネスを起業したい!」と思ったときにこれだけは知っておきたいという法律知識を簡単にまとめました。「宇宙法」の概観についても、宇宙ビジネスを取り扱う弁護士がわかりやすく紹介しています。

(1)「宇宙法」と宇宙ビジネス

「宇宙ビジネスを起業するうえで必要なものは何か」と質問されたら何を思い浮かべますか?

宇宙ビジネスといっても、ロケットの製造から衛星データを活用したもの、宇宙旅行や惑星探査などジャンルは様々ですが、どのようなビジネスを始めるにしても、ビジネスを成り立たせるために必要なのは、アイデアと人とお金と僅かな運、そして本記事の主題である法律です。

ビジネスを行うためには、他の会社やお客さんと契約を結ばなければなりません。やろうとしているビジネスが法律上許されているのか、どのようにすれば行うことができるのか確認をしなければなりません。会社を立ち上げる場合には、必要な手続をふみ書類を作成し、その運営をしていかなければなりません。

このように、およそビジネスのあらゆる局面で、法律が不可避的に関係します。本記事では、宇宙ビジネスをはじめようとする方が、あるいは、宇宙ビジネスを行っている方がどのような法律の知識を持っていた方がよいか、ざっくりと概要をご紹介します。

(2)「宇宙法」とは何か

宇宙ビジネスの法律というと、「宇宙法」という言葉を聞いた方もいらっしゃるかもしれませんが、実は「宇宙法」という名称の法律はありません。

法律家や法律問題に直面しているビジネスのプレイヤーが「宇宙法」と呼ぶのは、宇宙の活動に関連して問題となる法律の総体のこと。

宇宙ビジネス法の定番書である『宇宙ビジネスのための宇宙法入門(第2版)』では、「宇宙法」を下記の4つの領域に分けて説明をしています。

⮚国際公法としての「宇宙法」

国際公法とは、国と国との関係を規律するルールです。いわゆる「条約」はこの領域に整理されます。例えば、天体から取得した鉱物について、私人(企業または個人など)に所有権を認めて良いのかといったことが問題となります。

国際公法としての「宇宙法」においては、宇宙条約を初めとする5つの条約(宇宙条約、宇宙救助返還協定、宇宙損害責任条約、宇宙物体登録条約及び月協定)を考える必要があります。

⮚国際私法としての「宇宙法」

国際私法とは、私人と私人の関係について、どの国の「法律」を適用するかを定める領域です。

例えば、宇宙空間でA国の宇宙物体とB国の宇宙物体が衝突して損害が生じてしまった場合に、どの国の法律に基づいて損害賠償を考えるのかといった点がここでの検討対象です。

宙畑メモ
「宇宙物体」は、宇宙損害責任条約と宇宙物体登録条約において、「宇宙物体の構成部分並びに宇宙物体の打上げ機及びその部品を含む」と定義されています。

「国際私法」の領域は国境を越えた取引やトラブルではついてまわる論点ですが、特に宇宙空間は、どの国のものでもない(主権が及ばない)ことから、この問題はより難しいものとなっています。

⮚国内公法としての「宇宙法」

国内公法とは、国と私人の間を規律する領域です。あるビジネスを行う場合に、そのビジネスが許されるのかどうか、あるいは必要な手続や許可は何かといった論点が論じられます。

後述の宇宙活動法や衛星リモセン法などは、この国内公法としての宇宙法に分類されます。サブオービタル機による宇宙旅行はもう実現間近ですが、このサブオービタル機が日本国内の法律との関係で「航空機」なのか「宇宙機」なのかといった点は大きな論点の1つです。

宙畑メモ
※「サブオービタルフライト」とは、弾道飛行のことであり、有人弾道飛行では、Virgin Galactic社などが代表的です。

⮚国内私法としての「宇宙法」

国内私法とは、私人と私人の間を規律する領域です。ビジネスで不可欠な「契約」を規律する法律群です。衛星データの利用に関する契約(第2回で詳述予定)や、打上げサービスに関する契約等、各種の契約で何をどのように定めるかといった点が問題となります。

各領域の法律は、ビジネスを行う上で、どれかひとつを知っておけばよいというものではなくひとつのビジネスを行う上で全て問題になる可能性があります。

例えば、宇宙空間にホテルを作るビジネスをするとしましょう。この場合、人類の共有財産たる宇宙にホテルを作っていいのか、宇宙ゴミ(デブリ)の発生源となってしまうのではないかといった点は、まず国際公法としての宇宙法との関係で検討される点です。

ホテルが別の国の人工衛星と衝突してしまった場合に、どの国の法律で損害賠償を判断するのか、ホテルに宿泊していたお客さんへの損害賠償はどの国の法律で判断するのか、これが国際私法としての宇宙法の検討点です。

ホテルを打上げる場合に、どこにどのような許可を取る必要があるのか、地上における旅館・ホテルの規制は宇宙のホテルにも適用されるのか、このあたりは国内公法としての宇宙法の問題です。

最後に、宿泊客とどのような取りきめ(契約)を結ぶべきか、事故が発生した場合の保険はどうするのかといった点は国内私法としての宇宙法の領域で考えなければなりません。

このように、一口に「宇宙法」といってもそのレイヤーは様々であり、しかも、ひとつの宇宙ビジネスに全ての領域の「宇宙法」が絡んできます。これは、宇宙ビジネスが国境を超えるばかりか、国の主権が及ばない空間で展開されることが多いためです。

では、具体的にどのような法律が宇宙ビジネスを進めるうえで関わってくるのでしょうか。

(3)宇宙ビジネスと法律のかかわり

⮚宇宙ビジネスに関連する法律群

本章では、宇宙ビジネスをはじめようとしている方や、あるいは実際に宇宙ビジネスを行っている事業者が、どのような法律を気にする必要があるのかという点をご紹介します。
※実際には各法律がどのように適用されるのか(あるいはされないのか)を慎重に検討する必要があり、下記は関連する法律群を網羅するものではないことにご留意ください。

◆およそビジネスを行う上で不可避的に関わることとなる法律群

まずは、およそビジネスを行う上で、必ず関わることになる法律群をご紹介します。

例えば、民法は私人間の法律に関する一般法であり、どのような契約であれそれを締結する上で必ず関係する法律です。

法人を設立してビジネスを始めようとする場合、その法人が株式会社であれ、合同会社であれ、会社の組織構成や運営については会社法にしたがうことになります。

ビジネスは中々一人では成り立ちませんから、誰かを雇うことになるでしょう。その場合には、使用者と雇用者の関係については労働法が適用されます。

行うビジネスが、お客さんの個人情報を扱う場合や、従業員の個人情報を扱う場合、個人情報保護法の規律に注意をしなければなりません。

独自の技術で他のプレイヤーと差別化を図る場合には、当該技術が特許法上保護されるか考える必要があります。

ビジネスが成功し、他の会社を買収して規模を拡大しようとする場合や上場を目指す場合には、金融商品取引法の規制にも目を配る必要があります。

これらの法律は、ほんの一例ですがビジネスを行う上では避けて通れない法律群であり、ビジネスを行うプレイヤーであればこれらの法律を考えなければいけないといった点は頭の片隅においておくと有用でしょう。

◆宇宙ビジネスを行う上で関わることになる法律群

ようやく宇宙の話に戻ってきますが、上記の法律群とは別に、宇宙ビジネスを行う上で考えなくてはならない法律群もあります。

これも検討が必要となり得る法律群のあくまでも一例にすぎませんが、いくつかピックアップしてご紹介します。

◆ロケットや人工衛星の製造ビジネス

ロケットや人工衛星の製造の局面では、必要な部品の調達や製造物の輸出につき、関税法外為法及び輸出管理令の問題が検討されなければなりません。

ロケットや人工衛星は、技術自体が兵器にも応用される(あるいは実質的には同一の)技術であることから、必ずしも自由に国境をまたぐやりとりが行えるわけではありません。

加えて、技術力が重要なポイントとなるビジネス領域ですので、当然、当該技術を用いた「発明」が知的財産権(特許権等)として保護されるかも重要な点です。

技術を用いた「発明」は、特許権として登録することで、第三者が勝手に当該発明を使用することを防ぐことができますが、一方で、登録された発明は広く公表されてしまうため、いわゆる「企業秘密」に属するような情報との関係では、当該発明について特許を取得する必要があるかどうか慎重な検討が必要です。

◆ロケットの打ち上げビジネス

ロケットの打上げの場面では、いわゆる「宇宙活動法」が問題となります。宇宙活動法(正式名書は人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律)は、2018年に施行された日本の「宇宙二法」の1つであり、人工衛星の打上げ、管理及び打上げの際に生じた第三者損害の賠償に関するルールを定めています。

日本から人工衛星を打ち上げるためには、必ず検討が必要となる法律です。

また、打上げが失敗した場合の保険については、保険法の領域の問題が検討される必要があります。打上げに関する保険は、自動車等と違って、契約者の母数が多くはない領域ですので、どのような建付の契約を結ぶのかといった点も実務の蓄積と深い検討が必要といえます。

◆衛星データを用いたビジネス

衛星データを用いたビジネスはどうでしょうか。

衛星データを用いたビジネスに関する法律問題については、次回の記事でより詳しい内容をご紹介予定ですが、衛星リモセン法個人情報保護法知的財産法(特許法、著作権法、不正競争防止法など)が問題となります。

たとえば、衛星データを用いたビジネスにおいて、どのような契約を結ぶ必要があるかといった点や、当該衛星データに個人情報が含まれる場合に個人情報保護法制との関係でどのような点を考えなければならないかといった点が検討対象となります。

◆通信衛星を用いたビジネス

通信衛星を用いたビジネスでは、電波法の規制対応が問題となります(もちろん、いわゆる「通信衛星」を用いたビジネスに限らず、衛星は広く通信機能を有しておりますから、衛星ビジネス全般との関係で電波法は問題となります)。

日本国内に人工衛星の無線局を設けて通信を行うためには、電波法に基づき総務大臣から免許を取得する必要がありますが、この免許の取得にあたってはいくつかの要件をクリアしなければならず、衛星事業を行う上での一つのハードルとなります。
※参考:総務省電波利用ホームページ

◆有人の商業宇宙旅行ビジネス

有人の商業宇宙旅行ビジネスについては、そもそも既存の「空港」を使えるのかといった空港法上の問題が生じるほか、お客さんとの契約について消費者契約法の検討や、旅行業法等の業法の規制についても検討をする必要があります。

前述の「宇宙法」の階層との関係では、国内公法(規制法)はそれをクリアしない限りビジネス自体が実施できないことから、どのような契約を結んだり知的財産戦略を立てたりするかといった戦略的な法務よりも、さらにクリティカルな問題といえます。

◆惑星の資源探査ビジネス

惑星の資源探査ビジネスでは、前述のとおりそもそも取得した惑星の資源の所有権を認めても良いのかという点が大きな論点となっています。宇宙条約では、惑星自体は国家(私人も含むと一般に解釈されています)の所有権の対象にはならないことが規定されておりますが、惑星から取得した資源については明らかではないためです。

この問題は、純粋な法律論に先だって、所有権を認めてしまえば早い者勝ちの開発競争を招来してしまう恐れがある一方で、これを認めなければ民間事業者がビジネスに乗り出すインセンティブがそがれてしまうという問題があり、宇宙倫理学の観点からも大きなトピックとなっています。

以下は、こちらもあくまで一例ですが、宙畑の宇宙業界基盤マップに問題となる法的論点を重ねたものです。

(4)ビジネスの立ち上げるために知っておくべき法律群と弁護士の使い方

◆法律のプロである弁護士に依頼するメリット

上述の通り、宇宙ビジネスを行う上では多種多様な法的論点と向き合わなければなりません。

スタートアップ企業において、リーガルにどこまで費用を割くかという点は極めて悩ましいところ。

契約書1本に数万円から数十万円かかることもありますから、少なくとも「安い」金額とは言えないためです。

しかし、スタートアップ企業が法律反することなくビジネスを行うこと、また、事業契約において相手方に有利な条件で、契約の締結をしてしまわないことは当たり前のようで意外と後から欠陥が見つかるもの。
特にビジネス上の先例がない(過去に同じような法的問題に直面したり同種の契約を締結したりした経験がない)初期段階で、法律のプロに依頼し、法的な欠陥がない盤石なビジネスを設計することは、ビジネスの運営の上でももちろん、将来の売却やIPOとの関係でもとても重要な視点です。

◆弁護士への依頼内容

具体的な弁護士への依頼としては、契約書の作成や交渉業務を筆頭に、新たに始めるビジネスに規制がないか等の調査業務、会社を立ち上げた場合には社内規則の整備や会社運営のサポート等が一般的に考えられます。
※これらの業務自体は必ずしも弁護士が行わなければならないものではなく、行政書士や社労士、さらには法的な知識がある社員が行うことも十分に考えられます。

また、一口に弁護士といっても、その専門性や報酬体系は様々。一般論として言えば、何でもオールラウウンドに対応できる弁護士が側にいると心強い一方で、会社の命運をかけた大一番のとき(それが事業契約の交渉なのか、訴訟なのか、M&Aなのかは状況により様々ですが)には当該分野を極めた専門家に依頼することが良い場合もあります。

◆弁護士に支払う報酬体系

報酬についても、案件1件あたりの成功報酬型の場合もあれば、タイムチャージ(かかった時間×単価)の場合もあります。

顧問契約を締結している場合には、毎月低額で一定量の法務を担う場合もあります。依頼の仕方も様々ですので、例えば、社内にリーガルなバックグラウンドを有する人がいるかどうか、発生する法的業務の質と量によって、適切な依頼の仕方があります。報酬体系は事務所のポリシーにもよりますが、多くの場合、予算にあわせて相談することができると思いますので、気軽に話をしてみることが大切です。

(5)まとめとおすすめ書籍紹介!

以上、宇宙ビジネスを行う際に法律がどのように絡むのか、そしてその中で法律家はどのような役割を果たすのかについて俯瞰してご説明しました。
もし本記事にて宇宙ビジネスにかかわる法律に興味を持たれましたら、以下の書籍もぜひご覧ください。

小塚荘一郎・佐藤雅彦編著「宇宙ビジネスのための宇宙法入門(第2版)」(有斐閣)

第一東京弁護士会編「これだけは知っておきたい!弁護士による宇宙ビジネスガイド―New Spaceの潮流と変わりゆく法」(同文舘出版)

また、別記事にて、衛星リモートセンシングデータを用いたビジネスに関して、どのような法的な検討点があるのか、深掘り予定です。

衛星データを活用したビジネスを行いたい!という方はお楽しみに。