データx移動型店舗で見て見ぬふりした日本の未解決課題を解く! 株式会社Mellowインタビュー
フードトラックのプラットフォーム「TLUNCH」を展開する株式会社Mellowにデータ活用について根掘り葉掘り聞いてきました! 最後には衛星データ利用についてのディスカッションも。
ビッグデータというバズワードが飛び交うその裏側で、膨大な量のデータの荒波をどのように乗りこなせばよいのかが分からない……ましてやデータを活かして事業を成功させるとなるとさらにハードルが。よし、ビジネスを推進する上でデータを有効活用している企業に直接聞いてみようじゃないか!
そんな思いを胸に、宙畑編集部が気になる企業を突撃する本連載「データ迷子からの脱却! ビッグデータ時代のデータ活用術を探る」の第1弾です。今回は、フードトラックのプラットフォーム「TLUNCH」を展開する株式会社Mellowを訪れました。
移動型店舗が熱い!? モビリティプラットフォーム構築企業Mellowに突撃!
最近、特定の場所に腰を据えてお店を開くのではなく、様々な場所にお店ごと移動して販売する移動型店舗がブームになりつつあるようです。
たしかに、「シャッター街」という言葉が話題になり始めて久しい現代において、同じ場所で固定費が変わらないのに売上が落ち続けるのであれば、人がいる場所に店舗ごと移動して売上が上がる場所で商品を販売するというのはなるほど納得のトレンド。
今回、宙畑編集部が取材した株式会社Mellowは、フードトラックのスペース数は首都圏・関西エリアを中心に190ヵ所。さらに、2020年2月に5億円の追加資金調達を実施し、移動型店舗市場のさらなる拡大を見据えています。移動型店舗の発展のためのデータ活用について、宙畑編集長・中村が同社共同代表取締役の森口拓也さんに伺いました。
※本記事、取材中の宙畑の下心も合わせて掲載しております
【プロフィール】
森口 拓也
2013年、ALTR THINKを創業。様々な分析手法を駆使して100万人以上が使うコミュニケーションアプリを複数開発。14年に同社をイグニスに売却した後、Mellowに参画。18年より現職。
(1)Mellowの事業と今年の目標を聞いてみる
中村:今日は御社のデータ活用についてお話をお伺いします、よろしくお願いします。まずは御社のフードトラック事業について概要を教えてください!
森口:Mellowが運営するフードトラックプラットフォーム「TLUNCH」では、首都圏を中心に190台のトラックが稼働できるランチスペースを展開中で、提携するフードトラックは約800店舗です。弊社では新規スペースの開拓やフードトラックを出店・開業する事業者のサポートを行っています。
中村:最近は関西にもフードトラックのスペースを展開されていますよね。2020年のスペース数の目標があれば教えてください。
森口:年内には600台可動を目標に、営業の人員を増やしています。
中村:関東・関西以外にもエリア拡大の検討はされていますか?
森口:今、福岡は検討していますね。ただ、東京のスペース開拓はまだまだできると考えていて、上昇幅としては東京を一番多く見込んでいます。
(2)マッサージにホテル!? モビリティプラットフォームの新たな可能性
中村:たしか、ICC福岡のプレゼンではマッサージ店舗の展開など、様々な移動型店舗を構想されていると拝見しました。2020年は、主にはランチでの展開でしょうか?
森口:そうですね、まずはランチから始めたいと考えています。今後、朝や夜のフードの展開も考えていたりはしますね。あとは、モバイルホテルも結構ありなんじゃないかと思っていて。
中村:移動型のホテル……!?
森口:特に福岡ではカプセルホテルをそのまま車に乗っけたみたいなものは結構ありなんじゃないかと。
中村:移動型のホテルにはどのようなメリットがあるのでしょうか?
森口:たとえば、夜、天神や中洲の飲み屋で飲んで、そのまま近くの駐車場に泊ってるカプセルホテルにそのまま入って、朝起きたら、大濠公園で朝起きてコーヒー飲めるとか。もちろん実現するにはいろいろと考えなければいけない点は諸々ありますが……。
中村:うわー、最高ですね……!
森口:福岡のホテル事情は結構特殊で、需要に対し供給のバランスが取れていないので、よりニーズがあるのではないかなと。
中村:なるほど、地域ごとのニーズに合った柔軟な移動型サービス展開ができるのはいいですね。
(3)スペースの新規開拓における重要指標はLTVとCAC
中村:では、データ活用に話を移します。まずは新規スペース開拓においての重要な指標を教えていただけますか?
森口:シンプルに、1スペース当たりの獲得LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)と、それに対してかけられるCAC(Customer Acquisition Cost:顧客獲得単価)の2つです。
基本的に経営レベルでは、その2ポイントに集約し、それに対して様々な実務KPIがきちんと繋がっているという体制をとっています。
Mellowの場合、1スペース契約するのに対して、事業者側の開業支援も行っています。たくさんトラックを置ける場所に対しては、販促物なども相応のコストをかけても半年ぐらいで回収できてOK……といった形です。
中村:実際に、新規開拓スペース候補はどのように見つけているのでしょうか?
(宙畑の下心:「Google Mapで良さげな空きスペースを人力で探してる」とか「公園に近い場所をオープンデータからひとつひとつマッピング」とかだと衛星データも活躍できそう)
森口:まだベテランの勘に頼ってる部分が結構多いですね。フードトラックという業態がテイクアウト専門型、かつ、昼間だけの店舗になるので、重要なのは最低限ビルの就労者人口や、そのビルに入っている会社の特徴(内勤が多い会社なのか、外勤が多い会社なのか、など)です。ただ、これらの情報はオープンになっているものが少ないので、それぞれの指標を定量的に評価して新規開拓スペースを探すことはすごく難しい。
凄くざっくりした話をすると、東京23区の西の方はIT系の会社が多く内勤率が非常に高いので、比較的ビルの就労人数に対して現実的に見積もりが出しやすい、と言ったことはあります。
例えば、目安値として、ビル就労者人数のMAX10%ぐらいが、ポテンシャルマーケットというように提示してますが、内勤率が非常に高ければ10%ではなく、もう少し高めに見積もったり。
該当するビルの就労者人数が1000人いると、普通は100食ぐらいがポテンシャルマーケットとして見込んでいます。1000人の内訳として、例えばIT企業やゲーム会社が多い場合は、もしかしたら200人ぐらいのポテンシャルマーケットと見てもいいかもしれないね、と。
中村:なるほど、会社の事業分野が重要な変数になるのですね。
森口:後は、社食の有無とかですね。このあたりを色々調べた上で、判断するっていう形になります。
中村:基本的には取得できるデータを用いて調査して、それをもって新規開拓スペース候補を絞っていくと。
森口:そのあたりのデータ習得までのリードタイムを短くするかの正規化やオペレーション改善は適宜やっているという感じです。
(4)過去にはVRを使った新規開拓スペース候補検出のチャレンジも……?
中村:今後、新規開拓スペースの検討をする際に使いたいデータやテクノロジーがあれば教えてください。
森口:まず、データについては昼にビルから出てくる人数を知りたい。それが分かると一番楽ですね。ビル就労者人数とか、ビルの延べ床面積などを参考に営業するんですけど、それって結局詰まるところはランチのポテンシャルマーケットがありそうな場所、テイクアウトのポテンシャルマーケットがありそうなエリアをソーシングできるように工夫してやってるレベルの話なので。
一番クリティカルなのって、じゃあお弁当派が何人いて、ビルから具体的に何人出て来てるの?っていうところ。あとはその人達の昼食時間帯における行動範囲が分かると、人流的にハブになる場所にフードトラックを置いておいたら、後はCVR何%なの?みたいなのはお店の販促とか、その辺りで頑張っていくという形になるので。
衛星データであれば、例えば飲食店の行列を見たりとか、まだまだアクセスしたくてできていない情報もわりとあるような状況ではあるので、もしも使えるのであれば利用の余地はあるのですが……。
(宙畑の下心:あるにはあるけれどが…人が見えるほどの衛星データは無料では現時点では難しいことは言いづらい……)
森口:とは言え、取得するデータの精度を上げる事が、ビジネス上どれぐらい利益に繋がるかということを考えるのが重要になってきます。
森口:仮にコンビニの出店を考える場合は、出店コストがものすごく高い上に撤退するのにもコストがかかるので、それなりにデータに投資して場所の価値を精査することに価値があると思っています。
ただ、私たちの場合は、出店コストが安いので、事情が異なります。提携する事業者さんはすでにフードトラックを持っていて、場所を獲得するのにかかるコストは、我々の交渉コストとスケジュール調整コストぐらいです。となると、概算で20~30万円とかそれぐらいのコストをかければ、ひとつの場所に対して出店できます。しかも、撤退も異なる場所に出店すれば良いだけ。この場合、場所に対して見込める売上の精度を高めるよりも、ほどほどの精度で「いかに迅速にその場所における実績をトライアルできるか」ということの方が重要になるのです。
つまり、データをがんがん活用して、出店の精度をいかに高めるか、ということは現状の私たちにとってのビジネステーマではないのです。
中村:データを取得するのにもコストがかかりますものね、データに振り回されずに、達成したい目標を達成するための手段を考えることは重要ですよね。
新しいテクノロジーという観点だといかがですか?
森口:テクノロジーという意味だと、VRでGoogle Earthを使って、駐車できそうな場所探すみたいなことをやったことはあります。
中村:おお、今どきっぽい…!
森口:ただ、まだ車が置けるかどうかとか、電源がビルから取れるか取るかとか、そのレベルはまだGoogle Earthだと判断ができなかったので、検討で終わりましたね。
中村:たしかに、そもそもトラックを置けるのかということも、ビルの容量や会社のデモグラと合わせて重要なポイントですね。
(5)データの使いどころは出店戦略ではなく販促戦略!? Mellowはこんなところでデータ活用
森口:話の腰を折るようで恐縮なのですが、データを出店戦略で使うとすると、結局はオペレーティブにやることとのコスト対効率比較になります。今まで色々試した中だと、ほぼ全てのケースにおいて、オペレーティブにやった方が経営上効率が良いと思っていて、どちらかというと、ダイナミックプライシングの検討といった、販促の方で使う形がデータの使いどころとしてはビジネス上の勘所はいいのかなと思います。
中村:ぜひ、詳しく教えてください!
森口:例えば、平均4万の売上のスペースで、平均単価がXX円ぐらいで、時間推移としてはXXとなっている、という場合、この時間帯に関しては、ちょっとプライシングが動的に変更されるようにしたら、全体売上が上がるよね、とか。
あくまでも、目的変数はその場における販売売上の最大化というビジネステーマに対して、どのような説明変数のチューニングをしていくと最大化されますか?っていう問いのセットに対して、データを活用するのが大事。
中村:当たり前のことすぎて恐縮ですが、データ活用の目的をしっかりと定められていること、とても素晴らしいですね。実際に、データを使った具体的な改善事例みたいなものがあれば教えていただけませんか?
というのも、宙畑で衛星データを使って何かやりましょうっていう話だと、どうしても手段の目的化になってしまっていて、ぜひ目的ありきのデータ活用事例を知りたいなと。
森口:手段の目的化から考えるのも僕は好きですが(笑)、実際の改善事例としては、事業者側に各スペースごとの平均売上データを開示していて、そのデータをもって売上の改善に活かしていただいています。
森口:売上の絶対値だけを見ても場所が悪いから売れないのか、自分の商品に課題があるのか、原因の究明が非常にしづらい。そこで、各スペースにおける平均売上に対しての自分の相対的位置が分かることで、フードトラックの各事業者が、オペレーションの改善や、接客の改善、価格の調整など、色々な経営努力ができるようになるという流れです。
中村:事業者の支援のためのデータ活用ということですね。他にお渡ししているデータはありますか?
森口:現状では、各スペースごとの最低売上、平均売上、最高売上のみ開示しています。もう少しデータが蓄積されたら、ベンチマークデータやリーディングモデルの事業者のデータを参考してお渡しするなど、プラットフォーマーとして事業者のサポートとなるデータを提供できればと考えています。
フードトラックのビジネスではまだまだ同じ轍を踏んで失敗しちゃってたりするので。
中村:フードトラックの失敗、気になります。固定費がかからない上に、売上が良い場所に動けるからこそ、リスクが低いイメージだったのですが、実際にどのような失敗があるのでしょうか?
森口:例えば、開業直後に「作りたいメニューにこだわり過ぎて提供時間が1食5分かかってしまい、売り逃しが多く売上がまったくあがらない」といったケースはよくあります。
こういったオペレーション系以外にも、本来必要な設備をケチって買わず、後でより多くの費用がかかってしまうなど、開業に纏わる標準化可能なノウハウの共有は非常に重要ですね。
中村:こだわり過ぎて提供時間が……というのはものすごく気持ちが分かります(笑)。
森口:そのあたりをきちんと支援していくっていうところを最近頑張りだしているところです。
データ系で言うと、類似する条件の台数とその実際の1台当たりの販売食数の相関だったりとか、そのあたりは実績ベースで社内でBIツールを入れて見れる環境ではあるので、最近社員全員目の色変えて、SQLを勉強していますよ。
中村:社員全員SQLの勉強ですか。
森口:そうですね。現場オペレーションの改善や販促の施策を考えたり、その施策の効果期待値を見積もるための過去データ集計分析だったり、さらにその分析からインサイトを得て、新たな施策の発想を得たり……。
中村:ちなみに、そのようなデータ活用でグイっと伸びた店舗さんはいらっしゃいますか?
森口:その問いは少し難しくて、飲食店だと地味な改善の積み上げで少しずつ伸びていく傾向があります。データからインサイトを得て、クリティカルな何かを改善したらグッと実績伸びるっていうのは、IT企業にいた時はものすごくたくさん喋れたんですが(笑)。
強いて挙げるなら、スケジュールの組み換えによる販売実績のデータを見ていたところ、同じスペースで同じお店がずっと固定で入ったままにしておくと、徐々に売上は落ちていくんです。
お店によりますが、全体の傾向でいくとやはり落ちていくので、その中でより下がり幅が高いとか、下がってない事業者を見極めて、定期的に全体のスケジュールを組み換えることで全体の販売実績傾向は若干は戻るっていうのは事例としてはありますね。
中村:ありがとうございます!
(6)Googleにも、大手リテールにもない独自データ販売の可能性
森口:他にもデータという観点でお話すると、各事業者の方に今日、常連の人の比率ってどのぐらいでしたか?とか、POSレジみたいなものの情報は増やしています。
精度云々については、今の我々のフェーズの場合だと、ないよりもあった方が良いフェーズなので。
先ほど申し上げたリーディングモデルを作るため、常連の比率とか、男女比率何%でしたか?とか、事業者に負担なく情報としてピックアップできるようなデータを取得しているところです。
ただ、有料のデータについては、間接プラットフォームモデルをやっている以上、有料リソースであるデータに対して、投資が非常にしづらい経営状況ではありますね。直販やユニクロみたいな、SPA(specialty store retailer of Private label Apparel:製造小売業)モデルのような形でやってるんだったら、利益率ベースで考えた時に、有料データ購入、解析して、販促施策のクリエイティブに反映させることで投資費用対効果を得られるのですが。
中村:なるほどーーー。これもまた当たり前ではありますが、データを活用するうえでもデータの取得コストと運用コストをきちんと考えてから使いましょうという経営視点での重要な示唆ですね。
森口:そして、この後が言いたかったことなのですが。
中村:あ、はい…! なんでしょう!?
森口:逆にデータを売れるようになるとかだったら結構ありかなって思っていて。
中村:おお、これはまた新しい展開ですね。
森口:フードトラックの事業を通して得られたデータは、自社サービスの向上に活かすだけでなく、第三者に販売し、その収入を事業者とレベニューシェアなどもありかなと思っています。
イメージとしては、大企業のR&D予算をキャッシュポイントとして捉え、新商品開発のマーケティングデータとして、カルチャーコンビニエンスクラブも、大手リテールも、グーグルも持ってないタイプのデータをフードトラックで一定量蓄積できるんだったら、結構あり得るのかなっていうのは思ってるんですけど。どうですかね。
中村:各スペースにいる人の表情をみながら、この会社の従業員は疲れている方が多いですね、とか、そういうことが分かるだけで他のところに売れたりしそうですね。例えば、福利厚生の営業企業候補選定とか。街の人のデータをデモグラ、嗜好に加えて表情や服装という観点含めて分かると様々な活用先が考えられますね。
(7)自然言語処理技術x移動型店舗:モビリティは「見て見ぬ振りをしてきた未解決ニーズ」に答える
中村:今後の展開に話が入り始めたところで、ひとつ伺いたいことがありまして。
森口:良いですよ。
中村:先日の資金調達プレスリリースの中で自然言語処理の機械学習アルゴリズムサービスを提供するPKSHA社の名前があったのですが、自然言語処理系のデータ解析をされる予定があるのですか? もしあれば語れる範囲で教えていただけると嬉しいなと。
どちらかというと、テーブルデータであったり、画像系のデータを使われるようなイメージがあったので。
森口:スマートシティ文脈と言いますか、街単位でデータをとって、街づくりを良くしていこうっていう動きでの利用を考えています。
例えば、位置情報と紐づいたツイートを取得して、その土地の声を集めて感情マップが作れるとします。
その街でイベントを実施したとき、「人が集まって良かったね」という話で良いのかというと、それだけではイベントの成功は測れません。具体的にそのイベントによって、街の経済がどれだけ活性化したかとか、滞留時間がどのぐらいになったとかが重要だと思っています。イベントだけ参加してどこにも寄らずに帰ったら、それってイベント会場として場所を使っただけだから、街としてはイベントを開催して良かったかというとどうなのか、と。
中村:なるほど。
森口:では、これはイベントに限らずですが、街をどのように改善していくと良いのか、という話をしようとすると、具体的なデータを基にして、街がどれぐらい幸福になったか、賑わっていたのか、満足していたのかを計測する動きは加速していると思っています。
その上で僕らのモビリティ事業の中心になる、一番活躍できる部分はどこにあると思いますか?
中村:突然の振り……!!笑 データで見えた隙間に入り込んだビジネス……といったところでしょうか?
森口:まさに。例えば、街は今こんな賑わいのステータスで、満足度としてはこういう人達がこれぐらい満足しています。でも、50代の男性はちょっとイマイチ納得していませんっていうのが分かった時に、それをどのように改善するのか。その時の手段の大きな一つが、モビリティ型の店舗だと思っています。
中村:なるほど…!
森口:例えば、丸の内の街をもっと良くしましょうといったときに、丸の内の新しいビルを立てている、工事の現場のおじさん達が不満で不満でしょうがないと。
昼飯を食いたいけど、丸の内おしゃれなところしかなくて、しかも高いし、もう何か入りにくいし、俺らはお腹がいっぱいになる唐揚げ丼を食べたいんだと。
だけど丸の内の街のコンセプトとしては、それを素直に叶えてあげられないわけですよね。
テナントに唐揚げ丼や大盛りランチを売る店が入れるかというと難しい。でも、彼らがいるからこそ街が成り立ってるし、そういうニーズを流動的に満たしてあげられる存在がなんなのかっていう話、これが分かりやすい話、移動店舗だなと。
このような情報を吸い上げる上で、自然言語処理技術が重要だと考えています。
中村:移動型店舗の可能性とその世界観、とても素敵ですね。
森口:全体最適を目指していくと、絶対に既存のサプライチェーンだとビジネス的に満たせないっていう瞬間が絶対に発生します。これは今まで見えてなかったというか、見えていたけど、どうしようもなかったっていうニーズが、データ活用を通じて、より顕在化していく時代になっていると思っているんですよね。
その時に、あったら助かるけど、なくても大多数は困らない。あったら、もっと全体が幸せになるけど、というところにモビリティの力が大きく活きる瞬間があるはず。
そのように思っているので、街全体としてどうあるべきかっていうところから、モビリティの活躍の場をもっと広げていければなと考えていますね。
中村:自然言語処理とモビリティを組み合わせることで、小さなニーズも拾いながら街全体を幸せにしていく、自然言語処理技術活用の未来がとてもワクワクする形で理解できました。本当にありがとうございます!
(8)衛星データ、何か使えますか? Mellow x 衛星データディスカッション
中村:最後に、取材というよりは一緒にディスカッションさせてください!というお願いなのですが、御社事業における衛星データ活用の可能性についてお話させてください。
勝手にMellowさんの衛星データ活用術として考えていたのが、空き地の発見だったり、ビルの密集地帯の発見だったりかなーと思っていたのですが……どれも出店戦略系ですね(笑)。
森口:そうですね、その使い道ももちろんあると思います。
一方で、僕が考えていたのは、コンセプチュアルな話になっちゃうんですけど、日本という国は、人口が嘘みたいに減りだし、高齢化が異常なペースで進むっていうのがセットで来ている。
この規模の大きさの島国で単一民族で、という時点で特殊だと思うんですけど、超高齢化と少子化という現象がセットで向こう100年で来るっていうのは、歴史全部たどってもない環境なので、相当特殊環境だと思っています。
並行して、人口が都心と地方の二極化しているなかで、向こう10年間ぐらいの事業を考えると、都市部でやっていればある程度の事業は作れるかなって思ってるいるものの、同時に進行していく地方の過疎化だったり、リテールビジネスがどんどんこう過疎化エリアにおいて収束していっていて、行政機能の維持も難しくなっていく。
そのような話を聞くと、一企業として、グローバル展開ももちろん考える一方で、やっぱり地方の過疎エリアにおける幸福度指数のなるべくの維持みたいなのは、ひとつテーマとしては結構考えています。
中村:先ほどの丸の内のお話と同じような話ですね。本当にシャッター街と呼ばれるような風景を見ることが増えたような気がします。
森口:まずはキャッシュポイントをどこに持って行くのかということを考えたときに、それはやっぱり埋蔵資産と言いますか、たくさん預金を持ってるおじいちゃんおばあちゃんのお金をいかにヘルシー、つまりは双方幸せな形で地方都市に還元するモデルを作れるのか、ということを凄い考えるんですよ。
そうなった時にコミュニティスペースみたいな存在は凄く大事なのかなと思っています。
どうしても、固定店舗を維持する、人件費も場所代もずっとかかるビジネスモデルは、一定以下の流量密度だったり人口密度だったりすると難しいと思っています。やはり売り上げるには、来客者、つまりは店舗周辺の居住者数が必要なので、福岡から30分車で行ったらあるような、凄いのどかで畑あるけど、耕作放棄地で、たまに孫帰ってくると喜ぶおじいちゃんおばあちゃんが結構います、みたいな場所だと、固定店舗型でのビジネスは成り立たない。
観光地なら別ですよ。このような話をすると人口密度じゃなくて、インバウンドまで、経済人口だって言う人がいるんですけど、それだと色々切り捨ててしまっていて、純粋に街として持続的に維持できるモデルって何なのっていうテーマで僕は考えています。
いろんな地方に軽井沢みたいな場所を作ればいいんじゃない、とかいろんな方法はあると思うんですけど、このモデルが普遍的にどのような場所でも持続的に維持できるモデルなのかというとそうじゃないと思っています。
そこで、例えば、週1でモビリティの店舗を福岡市から車で30分くらいの場所で、ちょっと先の流行りもの買えるとか、ATMで年金を下せるよとか、郵便局の機能が来るよとか、定期検診ができるよとか。
このような機能の時間的・土地的な圧縮をやって、例えば週に1回やった時にビジネスとして成立するのかどうか、これが成立するんだったら結構救える街はあるなと思っています。
そして、それが該当する街なのかどうか、みたいなのを判定する時に、基本的には行政データ、それも各地方自治体との連携によるデータになってくると思うんですけど、その調査費用とかを、自治体としてどれぐらい払い続けることができるか、というと非常に不明瞭。
そうなったときに衛星データを使えば何かしら調べられそうですよね。例えば空き家率とか。
中村:空き家もそうですね。地方の家の場合は広い庭のある家が多いと思うので、衛星データから推測できるかもしれません。例えば、ある程度広い庭で雑草が何も処理されてないぞみたいなところとか。耕作放棄地とかも、1月から12月まで何も行われてないぞみたいなところとか。
そのコミュニティスペースをどの場所にするかの選定にも使えそうですね。
あとは、夜間光といって、夜の光の分布も分かるので、それを用いてその場所にどの程度人がいいるのかっていうのも推定とかはできると思います。
森口:できそうですね。
中村:あと、私の経験談で恐縮なのですが、地方の地域活性化プロジェクトをやっていた時、高齢化が凄い進んでしまったが故に、自分の車を手放してしまったという高齢者が多い町があって、行政がバスをまわしてあげてスーパー連れて行ってあげたりしないといけないと。
ただ、バスで連れて行ってくれるようになったから良いは良いんだけど、そうすると持って帰るのやっぱりしんどいからそんなにたくさんも買えないしってなっちゃう。そうすると、今度スーパーが配達しないといけないとなる。そうなると、スーパーの負担ができてしまう。
そこで、フードトラックみたいな感じで、八百屋さんをそのまま乗せたトラックが街中をまわるようになったら、随分よくなったっていう話は聞いて、まさしくMellowさんと相性いいんだろなとは感じました。
森口:豊洲の仲卸の会社とジョイントベンチャー作ってるんですけど、まさにそういう事をやってますね。
中村:地方になればなるほど、わざわざその為の営業行くのも大変だと思うので、その時に衛星とかが役に立つといいなって感じました。
森口:この文脈における再現性という言葉を扱うのが正しいかどうかっていうのは分からないのですが、最後は人だと思っています。
その街を本当に何とかしたいと思っている人が個人としているのか、っていう、それでしかないような気がしている。
だけど、その人に対して設定される要件をどれだけ下げられるのかということに価値があり、それが再現性だと思っています。
中村:例えば、衛星データで他にお手伝いできそうなことと言うと、運転しにくい街ってあるじゃないですか。坂道が多くて、道が狭くて、やたら一通があるみたいな。地方いくと案外そういうところが多いとか。
森口:多いですよ。長崎とか本当に道が凄い。
中村:衛星はそのような街を見つけることが得意なので、森口さんの考える構想の一助になるかもしれません。ロジスティクス側での利用ですね。
(9)フードトラックによる被災地支援時にも衛星データ活用の可能性
森口:ロジスティクスでの利用ができるので有れば、災害時はとても助かるかもしれません。
災害時の炊き出しとかで、弊社のフードトラックが支援のために向かったりするのですが、事業者の人達は何とかしたいと思ってもどこにいったらいいのか分からないという。
災害時って行政と民間の連携の情報網ってだいたい麻痺しちゃうので。
例えば、千葉の台風被害が酷かった時は、実際にかなり向かわせて頂いたのですが、たまたま行政関係者と親交があり、そのツテで被災地の受け入れ先とつながり、ここの公民館と、ここで空き地があるんで……という形で何台か向かう事ができたんですけど、本当にそれってたまたまで。
全ての行政とつながりがあるわけではもちろんない。災害が起きた時とかに、実際どこにいけるの?とか、そもそも向かってる途中に道が半壊してて行けないとか、そのようなことが普通にあり得るので、衛星から見てどのルートで行けば実際困ってる人のところにたどり着けるんだろうか、というのは、結構使い道として現実的にあり得るなという気がします。ビジネス的な話ではないんですけど。
中村:こちらもみんなが幸せになるデータ活用ですね。フードトラックと衛星データの強みを掛け合わせたとても素敵な活用法だと思います。ありがとうございます!
(10)まとめ
文字数にして12,000字にもわたる記事となってしまいましたが……データ活用に対する考え方として、目的の設定と自社のポジションを把握した上でのデータの活用、また、データを取得するコストを意識すること、さらには現場でのデータ活用術など、ビジネスにおけるデータ活用について、重要な示唆を経営的視点と現場視点、双方の視点からいただけました。
移動型店舗だけを切り取っても、ブームになる背景には、固定費負担の解消策というだけではなく、ビッグデータ時代と呼ばれて久しい現代だからこそ分かる移動型店舗の可能性という、データ時代の新たな一面を知ることができました。モビリティ×データによって、少子高齢化社会に持続可能に寄り添っていける可能性も、とても面白いものでした。
衛星データ活用についてのディスカッションでも、宙畑編集部では決して生まれない、日々モビリティプラットフォーム事業を考えている森口さんだからこそのアイデアが飛び出しました。
今回伺ったお話は、とても勉強になり、また未来のお話も実現が待ち遠しくてしかたないものばかりでした。森口さん、本当にありがとうございました!