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Rocket Labの打上げ失敗、民間のロケット打上げ不振が加速か【週刊宇宙ビジネスニュース 6/29〜7/5】

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Rocket Labのロケット、打上げ失敗

Rocket LabのElectronロケットは7月4日、第2段燃焼中に問題が発生し、軌道投入失敗となりました。

原因は調査中ですが、第1段分離の直前に撮影された映像では、ロケットから何らかの物質が剥がれ落ちているような現象が確認されていました。

本ミッションは、Electronシリーズのターンアラウンドタイム最速を目指すものでした。ターンアラウンドタイムとは、ロケット打上げが完了してから、次のロケットの打上げを行うまでのリードタイムのことです。同シリーズのターンアラウンドタイムは今まで35日程度だったのに対し、今回は6月13日から約20日で打上げを目指しており、大幅な打上げ効率アップが期待されていました。

Rocket LabのElectronロケット Credit : Rocket Lab Source : https://spacenews.com/rocket-lab-electron-launch-fails/

官需の目立つ打上げ市場、政府に翻弄される

Spacenewsがまとめた統計によると、2020年上半期に行われた軌道上の打上げは45回で、そのうち4回が失敗でした。このままのペースでいくと今年の業界全体の打上げ数は90回となり、2019年の102回の打上げ実績と比較するとやや少ないペースとなっています。

その中でも大口の打上げのほとんどは政府向けです。民間需要に応えるコンセプトの小型ロケット市場でも、Rocket Labの打上げは国家偵察局(NRO)が主な顧客でした。

最も積極的に打上げをしているSpaceXでも、10回のファルコン9の打上げのうち7回は同社のスターリンク衛星のためのものであり、直近のスターリンク・ミッションである6月13日のPlanet社のペイロード3個を打上げたことによるわずかな収益を除いては、打上げによる収益は得られていません。他3つの打上げは、米国政府向けの打上げでした。

一見、安定した官需を得ながら民需を開拓していけばよいと思いがちですがそうでもないようです。米政府は、6月16日に発表した、今後24ヶ月間の政府系顧客のミッションにおける非競争的契約企業を7月1日に覆しています。理由は、企業選定の不透明さに対し広く批判を集めたことです。この契約にはRocket Labを含む小規模打上げ企業6社が選定されており、安定した需要を見越して挑戦できる環境を得たかと思いきや、掌返しです。

期待の民需は減少、底冷え目前

昨年と比較して、確実に減っている民需。

Noosphere Ventures社のレポートでは、2020年上期の小型ロケット打上げが2機と低水準であることや、衛星運用サービスの売上額減少などが報告されています。

小型ロケット打上げ数の推移 Credit : Noosphere Ventures
衛星産業の取り扱い金額 Credit : Noosphere Ventures
軌道投入に成功した打上げ数推移 Credit : Noosphere Ventures

民需の減少には、もちろんコロナウイルスの影響も否定できませんが、少し違う見方もあるようです。

民需の減少の根本的な原因は、かねてより民需を支えてきた通信衛星。コンステレーションや地上通信網の発達により、ここ数年静止軌道の通信衛星の受注が激減しています。これにより、衛星の打上げ需要自体がかなり下がる事態となっています。

低軌道・静止軌道、衛星通信の覇権争いの行方はいかに【週刊宇宙ビジネスニュース 3/18~3/24】

期待されていた民間衛星、市場への影響はいかに

失敗となってしまったElectronロケットのペイロードは、キヤノン電子が製造した67キログラムの地球観測撮像衛星「CE-SAT-1B」、プラネットが開発した5機のSuperDove衛星、英国のベンチャー企業In-Space MissionsのFaraday-1衛星でした。

キヤノン電子が打上げた「CE-SAT-1B」は、2017年に同社が打ち上げたCE-SAT-Iの後継機で、同社の高解像度・広角カメラにより解像度90cmの地球観測画像を撮影できる機体で、超小型衛星の量産化に向けての同社技術実証を目的としたものでした。

キヤノン電子のCE-SAT-IB Credit : Rocket LabのTwitterより

プラネットのSuperDoveは、現在運用中のDoveシリーズのアップグレード版で、建築土木分野などでの利用普及に向けて、観測バンド(周波数帯)を増やした光学系センサを搭載していました。

Faraday-1は、大企業の研究開発部門に低コストで宇宙実証機会を提供するための、ホスト型ペイロードミッションで、すでに4つほどの将来契約を結んでいる中でのデモンストレーション初飛行でした。

 

Rocket LabのElectronロケット Credit : Rocket Lab

本ミッションの挑戦ポイントでもあったターンアラウンドタイム。これを短くすることは、ロケットの打上げ効率化に直結します。ロケットの打上げ数が増えると売上げが上がります。Rocket Labのライバル企業でもあるSpaceXも、24時間を目指して効率化を進めているという話もあるくらいで、これを短くすることはロケット打上げを生業とする企業として順当な戦略と言えます。

しかし、一歩引いて業界全体を見てみると、民需の底冷えが目前に迫ってきています。民間の衛星を大量に搭載した今回のElectronは、民需減退の中での期待の打上げでもありました。この打上げ失敗により、民間の衛星打上げに慎重になる企業が増えてくると、冷え始めた民需が一層硬直してしまう可能性があります。今回のような民需の盛り上がりにとって重大な打上げで、安定した打上げと技術的な挑戦をどのようにバランスしていくべきなのか、ロケット打上げ企業は難しい問いに直面しています。

In-Space Missionsは打上げ失敗後、以下のようにツイートしています。

「昨夜のファラデー1号の壊滅的な損失に続き、我々はファラデー計画の次の段階に照準を合わせています。我々はまた、衛星に搭載されたお客様と協力して、計画されたミッションが一日も早く軌道に到達するように努力していきます。」

キヤノン電子も、次期衛星CE-SAT-IIを同じくRocket Labで打上げ予定です。

今回、映像など中継ができていたということは、故障時のデータも取得できているはずです。原因究明と対策をいかに素早く行い、次のアクションに繋げていくか、今後の舵取りが重要です。

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参考

Rocket Lab Electron launch fails|SPACENEWS

Commercial launch industry off to slow start in 2020|SPACENEWS

Rocket Lab to Demonstrate Fastest Launch Turnaround to Date|Rocket Lab

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