Blue Originのチームが手掛ける有人月着陸船のモックアップがベールを脱ぐ【週刊宇宙ビジネスニュース 8/17〜8/23】
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Blue Originが有人月着陸船のモックアップをNASAに搬入し運用試験を開始
NASAが進める有人月面計画”アルテミス計画”において、月面着陸船を開発する企業としてNASAは3社を採択しています。
(※詳細はこちら)アルテミス計画における着陸船開発を担う3社が発表【週刊宇宙ビジネスニュース 4/27〜5/3】
その3社のうちの1社であり、複数の企業(Lockheed Martin・Northrop Grumman・Draper)とチームを組んで参加しているBlue Originが、エンジニアリングモックアップをNASAのジョンソン宇宙センターに搬入したことを発表しました。
今回のモックアップは、Blue Originが開発した降下機とLockheed Martinが開発した上昇機で構成されており、実物と同じく12mのサイズとなっています。今回のモックアップの動画はこちらから視聴できます。
今回のモックアップには、NASAのエンジニアや宇宙飛行士により運用試験が実施され、機体のレイアウトや機能についてのフィードバックが実施されます。モックアップは2021年初頭までジョンソン宇宙センターに残り、着陸船として様々な改善を図っていく予定です。
Blue Originの開発プログラム担当部長であるBrent Sherwood氏は、以下のコメントを発表しています。
“Testing this engineering mockup for crew interaction is a step toward making this historic mission real. The learning we get from full-scale mockups can’t be done any other way. Benefitting from NASA’s expertise and feedback at this early stage allows us to develop a safe commercial system that meets the agency’s needs.”
(訳:今回のモックアップで、搭乗する宇宙飛行士との相互作用を試験することは、歴史的なミッション実現の第一歩です。実物大のモックアップから得られる知見は、他の方法では代替できません。初期段階でNASAの専門家からフィードバックを受けることで、NASAの基準を満たす安全な着陸船の開発が可能になります。)
Blue Origin率いるナショナルチームの今後の着陸船開発が楽しみです。
ispaceが総額2800万ドルの資金調達と新ビジネスを発表
民間月着陸船を開発するispaceがシリーズBの資金調達を実施し、総額2800万ドルを獲得したことを発表しました。
今回の資金調達ラウンドはIncubate Fundが運営するIF SPV1号投資事業組合が主導し、その他に宇宙フロンティアファンド、高砂熱学工業株式会社(以下高砂熱学工業)、三井住友海上火災保険株式会社(以下三井住友海上)が参加しています。
高砂熱学工業と三井住友海上の2社は、ispaceのHAKUTO-Rプログラムのコーポレートパートナーでもあります。高砂熱学工業は月面での水の電気分解を行う装置の実証実験を、三井住友海上は月面での将来のビジネスリスクをサポートする月面保険の設計を通して、ispaceに協力しています。
今回の資金は、2023年に実施予定の月面探査ミッション(ispaceはMission2と定義)及び2024年以降の商業月面輸送ミッション(ispaceはMission3と定義)で使用する大型の月面着陸船の開発に使われる予定です。
今回の資金調達で、ispaceの調達額は合計約1億2500万ドルとなりました。
また、ispaceは今回の資金調達に合わせて、Blueprint Moonと名付けられた新しい月面データビジネスのコンセプトを発表しました。
これは、月面の気温・地形・土壌(レゴリス等)の堆積密度といった環境データを提供する、いわば月面データプラットフォームです。
これらのデータを政府宇宙機関や民間企業にサービスとして提供し、ミッション計画やリスク評価に役立てることを目指します。同社はすでに、政府宇宙機関の公開データをベースにしたツールの開発に着手しているとのことです。
こういったツールやアプリケーションをispaceが自社開発し顧客に提供していくことで、これから月面開発市場に参入するプレイヤーがより事業開発をしやすくなるでしょう。
プレイヤーが増えて月面探査が活発化することで、今後は月面のデータを使ったアプリケーション開発のニーズも高まってくるかもしれません。
宇宙資源ビジネスは宇宙ビジネスの中でも特に初期投資が大きく、マネタイズが困難な領域です。月面着陸船というハードウェアを開発しながら、データビジネスという新しい領域に飛び込むことで、Blueprint Moonが中長期的にispaceの収益面を支えることが期待されます。
日本の宇宙ベンチャーの一つとして宇宙資源ビジネスに挑むispaceに引き続き注目です。
Rocket Labが2023年に向けた金星探査ミッションの挑戦を発表
小型ロケットベンチャーのRocket LabのCEOのPeter Beck氏が、8/5にYouTubeで配信された動画内で、独自の金星探査ミッションを2023年に計画していることを明かしました。
Beck氏は動画の中で、金星の宇宙生物の可能性について言及しています。金星は、質量や大きさは地球と類似していますが、濃硫酸の雲が金星の全球を覆い、地表面の平均気温は摂氏460度、気圧が90気圧にも達する過酷な環境です。
しかし、古代の金星には川や海があったと言われています。多くの科学者は、金星に水が存在した時代の生物が、金星の大気中に生存圏を移動させた可能性について議論しています。実際、金星の50km上空における気温と圧力は、地球の表面環境と似ているとも言われています。
Rocket Labが小型ロケットのElectronと小型衛星Photonで挑戦する2023年のミッションの目標は、このような金星の大気中環境の調査です。Beck氏はこのように発言しています。
“We’re going to learn a lot on the way there, and we’re going to have a crack at seeing if we can discover what’s in that atmospheric zone. And who knows? You may hit the jackpot.”
(訳:私たちは金星への挑戦の過程で多くのことを学び、金星の大気圏で何かを発見できるか見極めるつもりです。勿論確証はない。だけど大当たりかもしれない。)
また、金星を目指すもう一つの理由についてBeck氏はこのように発言しています。
“Venus is Earth in a climate change disaster. If we keep on a trajectory we’re just going to end up like Venus, so there is a lot to learn about our own planet from Venus.”
(訳:金星は、気候変動の大惨事に見舞われた地球と言えるでしょう。地球の環境につてて対策を打たないままだと、金星のようになってしまうかもしれません。よって我々は金星から学ぶことがたくさんあるのです。)
ロケットベンチャーであるRocket Labが深宇宙探査に参入することは、深宇宙探査ビジネスにおけるゲームチェンジャーになる可能性があります。小型ロケット界のリーディングプレイヤーであり、野心的な歩みを止めないRocket Labからは目が離せません。
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参考記事
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