衛星データが捉えた10の真実、衛星データと振り返る2020年のニュース
2020年に起きた10の出来事をピックアップして衛星データと合わせて振り返りました。
2020年を大きくまとめると、新型コロナウイルスに始まり、新型コロナウイルスが継続したまま終わった……というとても大変な1年でした。
一方で、衛星データという観点で振り返ると、新型コロナウイルスの蔓延により人の移動が制限され、リモートセンシングの需要が増えたこと、また、衛星データそのものの認知や技術の発展、衛星データを扱える人口の増加などによって、様々な報道に衛星データが使われた衛星データジャーナリズム元年とも言えるような年だったように思います。
本記事では2020年に話題になった以下10本のニュースについて、衛星データと合わせて振り返ります。以下のニュースについて、聞いたことあるけれど、実際の規模や影響はよく知らないという方は、一目見れば分かる衛星データと合わせてぜひご覧ください。
①人の移動が制限され、空港の飛行機の稼働が減り、駐車場の車も激減
②人間の活動停止による大気汚染の改善
③ベイルート港爆発事故
④山火事の拡大とそのインパクト
⑤モーリシャス油流出事故
⑥令和2年7月に起きた九州豪雨
⑦道路陥没事故の原因を解析
⑧海洋プラスチックごみの発生源を究明する
⑨日本の漁業を守る~漁場選定と違法漁船の検出~
⑩森林状況の把握~植物が増えている地域の把握と違法伐採の検知~
(1)新型コロナウイルスの蔓延による世界の変化
2020年のニュースについて、まずはなんといっても2020年に全世界を1年中騒がせた新型コロナウイルスでしょう。その影響は人の活動はもちろん、地球環境にも変化を与えたようで、衛星データの解析が様々な観点で行われていました。
①人の移動が制限され、空港の飛行機の稼働が減り、駐車場の車も激減
感染症拡大対策として人の移動が大きく制限されることになった2020年、本来は東京五輪が開催され国内外から多くの観光客が東京を訪れるはずでした。その影響を最も如実に表していたのが新型コロナの蔓延前後の空港の衛星データの比較です。
福岡空港をサンプルとして見てみたいと思います。以下が福岡空港を撮影した衛星データで、茶枠で囲んでいるところが離発着のゲート、青枠で囲んでいるところが空港の駐車場です。
では、実際の衛星データを見てみましょう。
下の画像は福岡空港の前後比較で2020/02/06のデータを緑と青を混ぜた水色, 2020/05/14のデータが赤色になっています。つまり、2020年2月に飛行機や車があったのに2020年5月に消えてしまった場合は水色、その逆は赤色になっています。
画像の真ん中やや左側の茶色枠を見ると水色が増えている(2020年2月にはあったのに2020年5月にはなくなった)ことが分かります。地図を確認するとここは駐車場で、空港まで送り迎えをする人が減っているということなのでしょう。また、茶色枠で囲んだ福岡空港の飛行機が離発着をするゲートも青が多く、赤が少ない(2020年5月に確認できた物体が少ない)ため、航空機の数も減っていると言えるでしょう。
世界の主要な空港の時系列比較は「JAXA for Earth on COVID-19」で確認できますので、気になる方はぜひご覧ください。
②人間の活動停止による大気汚染の改善
人の活動が制限されたことで、大気汚染が改善したということも2020年は話題になりましたね。インド北部からヒマラヤが見えるほどに大気汚染が改善したようだというニュースを見た方も多いのではないでしょうか。
実際に衛星データからも大気汚染の改善は一目瞭然だったようで、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」で観測したCO2濃度増加量(※)の変化の解析結果について、東京のデータは以下の様でした。
※CO2濃度増加量
対流圏下層(0-4km)のCO2濃度データから、対流圏上層(4-12km)の月平均CO2濃度データを取り除いたもの。
上層の都市域月別平均CO2濃度は、都市表層からの影響が少ないその季節のベースラインであり、下層CO2濃度は、都市からの排出影響を受けて上昇すると考えられる。
過去の同月比較を見ると1-2月ではほとんど差が見られないものの、自粛期間中であった3-4月は減少していることが見てとれますね。現在、SDGsの観点から環境リスク分析はニーズが高まっており、各国で衛星データを活用した大気汚染の変化観測が行われているようです。
また、衛星データから人の活動の変化によって大気汚染の改善は実現できると可視化できたことは今後の環境リスク。対策を進めるうえで重要な証拠となりました。
こちらの国立環境研究所サイトからGOSATが取得したCO2濃度の月ごとの平均値のデータを確認できますので、興味のある方はご覧ください。
【参考サイトを見る】
・コロナで大気汚染が急減、科学者も驚く効果
・インド発、衛星データとAIを活用し環境リスク分析を行うブルースカイアナリティクス社にBEENEXTが出資。日本企業との連携を支援
・「いぶき2号」によるCO2濃度増加量の全球分布の変化
(2)ベイルート港爆発や山火事など、災害の被害把握
次に紹介するのが、災害が起きた際にその被害状況を確認するための衛星データ利用です。
レバノンのベイルート爆発事故は世界中が驚いたニュースでしょう。また、カリフォルニアで起きた山火事もかなりの被害が出ているとニュースになりました。日本でも大きな話題になったモーリシャス油流出事故を覚えている方も多いでしょう。本記事ではこの3つの被害状況について話題になった衛星データを紹介します。
③ベイルート港爆発事故
2020年8月4日に発生したレバノンの首都ベイルートの港湾地区での大規模爆発事故。爆発事故直前に現場で煙が出ているところを撮影したら、突然爆発して撮影者が逃げ惑うという衝撃的なSNS投稿もありました。
いったいどれだけ広範囲に被害が及んだのか、衛星画像で比較してみましょう。今回使ったのは、米Maxar Technologies社がオープンデータとして公開している世界最高レベルの解像度の商用衛星データです。
credit:2020 Maxar Technologies
衛星画像で見ると、被害範囲は一目瞭然ですね。あったはずの建物が跡形もなく消え、地面までえぐられてしまっています。
後日談として、その危険性は以前から指摘されていたとのこと。今後、同じような防げた事故が起きないことを願うばかりです。
④山火事の拡大とそのインパクト
次はアメリカ、カリフォルニアで発生した山火事です。日本ではあまり報道されませんが、アメリカでは定期的に山火事が発生し、各地で深刻な被害をもたらしており、衛星データを使った被害状況解析の論文も探してみると複数出てきます。
<論文例>
・光学画像で山火事の被害状況を解析する
・SAR画像で山火事の被害状況を解析する
では、被害状況を見てみましょう。
credit:2020 Maxar Technologies
衛星データを見るとかなりの規模で被害にあったことが分かります。実際の被害規模は2020年10月5日時点で約400万エーカー(16,000平方キロ)との報道があり、日本の都道府県面積ランキング2位である岩手県の15,000平方キロを超える規模となっています。
山火事の場合、範囲が広範囲におよぶため、ドローンなどで全容を把握するのが難しく、航空機だと費用が高額になってしまうなどの観点から衛星データを用いられていることが多いです。
⑤モーリシャス油流出事故
日本でも報道されて記憶に新しいのは日本時間2020年7月26日に座礁し、8月6日に燃料油が流出した貨物船「WAKASHIO」による油流出事故ではないでしょうか。直接的なサンゴ礁への被害は大きくなかったようですが、今後の生育に悪影響を及ぼす可能性があるとのことで、東大発ベンチャーのイノカと商船三井とが連携してサンゴ礁の再生に取り組んでいるようです。
衛星データでも座礁している様子がはっきりわかります。
また、油の流出状況についてもPlanet Labs社がICEYEのデータも組み合わせた被害状況をまとめてブログで公開しており、興味のある方はぜひご覧ください。
⑥令和2年7月に起きた九州豪雨
2020年は日本でも多くの自然災害がありました。7月に起きた九州豪雨もその一つでしょう。7月3日から猛烈な雨が九州を襲い、甚大な被害を及ぼしました。
この豪雨についてJAXAは5つの人工衛星のデータを用いて解析した結果を紹介しています。その中でも2つの事例について、本記事では紹介します。
【元の記事】
令和2年7月豪雨に関連する衛星観測
まずは被害状況把握のための洪水域推定です。Tellusでも搭載されている「だいち2号」PALSAR-2というSARデータを用いた解析結果が以下です。解析結果を見ればどこで洪水が起きているかを把握できるため、地方自治体の支援の優先順位決めや保険金の支払い推定にも利用できるかもしれません。
浸水推定地域に対して、例えば下記のように人口分布の情報を重ねることで、優先的に救助することが望ましい地域の検討にも役立ちます。
もうひとつ紹介したいデータは世界的な日射量データです。こちらは気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)搭載の多波長光学放射計(SGLI)による観測データから日射量を推定しています。
2018年、2019年の2年間における6月16日~7月31日の平均値に対する2020年7月1日~15日の平均値の比率を表しているデータが以下になります。青くなっている部分が例年に比べ日射量が減少していることを表しており、該当時期の日本は世界的に見ても日射量が極端に減少しており、長雨であったことが日射量にも影響を与えていることが分かります。
衛星データから日射量が推定できることは、太陽光発電の施設を設置する場所の選定などにも応用できると考えられます。
(3)問題の原因考察・検知
次のテーマは、大規模事象の原因考察に衛星データが使われる事例です。
人工衛星は地球上空を周回しているため、地球全球で均質なデータを取得し、評価・比較することが可能であり、地球規模の課題解決に役立てることができます。
⑦道路陥没事故の原因を解析
2020年10月16日、東京調布の市道に5mx2.5mx5mの大きな穴が空き、珍しいニュースとして話題になりました。事故当時原因として考えられていたのが、現場の地下深くで行われていた東京外郭環状道路(外環道)のトンネル工事。ただし、すぐに原因と認定することはなく調査が進められていた段階でした。
そのような状況で出てきたのが2020年12月17日に公開された日本経済新聞の有料記事「衛星データで分析 東京・調布の道路陥没事故」です。日本経済新聞社が株式会社スペースシフト社とTREアルタミラ社に独自に衛星データの解析を依頼して、トンネルが通ったときの地盤の隆起と沈下を明らかにしました。
ここで使われている技術は干渉SARといって、隆起・沈下といった地表の変化を衛星データから捉えることができるというもの。宙畑でも干渉SARについてまとめた記事がありますのでぜひご覧ください。
【元の記事を読む】
衛星データで分析 東京・調布の道路陥没事故
⑧海洋プラスチックごみの発生源を究明する
次に興味深い事例は海洋プラスチック問題への衛星データ活用です。今年からコンビニのレジ袋が有料になったことは記憶に新しいでしょう。今、海に漂うプラスチックが、世界的な問題となっており、その量は年間800万トン、合計で1億5,000万トンと推定されています。
そして海洋ゴミは海の生態系に影響を与えています。人間には関係ないと思われるかもしれませんが、詳細はまだ明らかになっていないものの、プラスチックごみがマイクロプラスチックとなって魚が取り込んだものを人間が食べているということはなんらかの悪影響を及ぼす可能性があると考えられます。
このまま同じような環境負荷が続く場合は2050年には「海洋プラスチックごみの量が海にいる魚を上回る」との予測も出ています。だからこそ、海洋プラスチックが世界的な問題になっているのです。
そこで重要になるのが、レジ袋有料化の狙いでもあるプラスチックの生産量を減らすことと、今回衛星データの出番である「そもそもなぜ海にプラスチックが漂っているのか」という原因を突き止めることです。
衛星画像の転載はできなかったため本記事では紹介できませんが、プラスチックが流出する河口を突き止めたと発表されていたのは「All Eyes On Marine Plastic From Orbit」という、衛星データ提供のリードランナーであるPlanet Labs社のBlogでした。同様の研究は日本でも行われています。興味のある方はぜひ調べてみてください。
【元の記事を読む】
All Eyes On Marine Plastic From Orbit
また、無料で定期的にデータを取得しているSentinelのデータを用いて、海洋プラスチックを検出することも試みられています。
下図で黄色にマークされている場所は、海洋プラスチックがあると推測される範囲です。
EO Browserから無料で閲覧できるので、興味のある方はぜひご覧ください。
関心のある方は、参考としている論文やソースコードも公開されているので合わせてご覧ください。
⑨日本の漁業を守る~漁場選定と違法漁船の検出~
サンマが不漁だ、イカが獲れない……というニュースが毎年のように報道されています。例えば、2020年はサンマの上場水揚量が史上最低の着地となり、最低記録を2年連続で更新することとなりました。また、イカの漁獲量についても日本海での違法操業によって不漁が続いていると言われています。
実際に日本の上場水揚量推移だけを見ると以下の通りで、たしかに漁獲量が減り、また、卸売価格が上がっていることも一目瞭然です。
この課題に対して、衛星データに可能性があると2020年もニュースがありました。日本の水産資源の維持のために、衛星データは2つの切り口で活躍が期待できます。
1つ目は、漁場の選定です。衛星データから取得した水温データをもとに漁場の当てをつけることができ、燃料費を削減しながら、漁獲量に寄与できる可能性があります。
2020年は宙畑でも大分の漁師の方と衛星データを活用したサワラ漁チャレンジをしていました。漁場選定x衛星データに取り組む国内企業は複数あり、今後のデータドリブンな漁業の増加に期待が高まります。
【元の記事を読む】
奮闘サンマ漁「上々の結果」 西伊豆・豊幸丸帰港
2つ目は、違法漁船の検出です。衛星データから違法漁船を検出することができます。
2020年7月にグローバル・フィッシング・ウオッチ(GFW)や日本の水産研究・教育機構など8つの研究機関が発表したレポートによるとその被害総額は2年で約470億円にも及ぶとのこと。
また、違法操業をしている漁船の位置が分かることで、違法漁船に近寄らないように漁ができるという観点でも活躍できるようです。
【元の記事を読む】
中国船のスルメイカ違法操業判明 2年で推定470億円分 「違法漁業として最大」
Study Utilizes Satellite Data To Expose Illegal Fishing In North Korean Waters
⑩森林状況の把握~植物が増えている地域の把握と違法伐採の検知~
2019年3月、NASAの衛星データを用いて中国とインドの植林活動により過去20年間と比較して植物の割合が増えていると分かったというレポートが発表されました。
そして、このレポートを要約した記事が2019年、2020年とTwitter上で投稿され、多くのRTを集めていました。
前述した地球の森林は20年前と比較して増えているという事実は多くの方によって意外だったのでしょう。2018年に出版されて話題になった書籍「FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」のように、先入観によって事実と逆のことを思い込んでいるということは多くあります。
繰り返しになりますが、衛星データは宇宙から地球全球の均質なデータを取得することができます。今後より頻度・解像度・種類が増え、分かることが増えるはずです。地球全体を考慮したSDGsの取り組みが世界中に拡がる中で衛星データは活躍の機会が増えることでしょう。
【元の記事を見る】
中国とインドの植樹によって、地球全体の緑地が急増していた。NASAの衛星データから明らかに
また、森林の状況把握ができるということは、違法伐採も検知できるということ。実際にブラジルや東南アジアでは違法伐採の検知システムが作られており、衛星データが活躍しています。
宙畑でも違法伐採の検知についてはJICA様に取材をしています。こちらもぜひご覧ください。
(4)本記事で紹介した衛星データと報道まとめ
以上、2020年に話題になったニュースを衛星データと一緒に振り返ってみました。あらためて本記事で利用した衛星データをまとめているので、気になる記事や衛星データはぜひ覗いてみてください。
①人の移動が制限され、空港の飛行機の稼働が減り、駐車場の車も激減
・JAXA for Earth on COVID-19
②人間の活動停止による大気汚染の改善
・コロナで大気汚染が急減、科学者も驚く効果
・インド発、衛星データとAIを活用し環境リスク分析を行うブルースカイアナリティクス社にBEENEXTが出資。日本企業との連携を支援
・「いぶき2号」によるCO2濃度増加量の全球分布の変化
③ベイルート港爆発事故
・BEIRUT EXPLOSION(MAXAR OPEN DATA PROGRAM)
④山火事の拡大とそのインパクト
・CALIFORNIA AND COLORADO FIRES(MAXAR OPEN DATA PROGRAM)
・California’s Grim Fire Mark: Burn Exceeds Last 3 Years Combined
⑤モーリシャス油流出事故
・MAURITIUS OIL SPILL(MAXAR OPEN DATA PROGRAM)
・Using Space to Help with the Mauritius Oil Spill
⑥令和2年7月に起きた九州豪雨
・令和2年7月豪雨に関連する衛星観測
⑦道路陥没事故の原因を解析
・衛星データで分析 東京・調布の道路陥没事故
⑧海洋プラスチックごみの発生源を究明する
・All Eyes On Marine Plastic From Orbit
⑨日本の漁業を守る~漁場選定と違法漁船の検出~
・奮闘サンマ漁「上々の結果」 西伊豆・豊幸丸帰港
・中国船のスルメイカ違法操業判明 2年で推定470億円分 「違法漁業として最大」
・Study Utilizes Satellite Data To Expose Illegal Fishing In North Korean Waters
⑩森林状況の把握~植物が増えている地域の把握と違法伐採の検知~
・中国とインドの植樹によって、地球全体の緑地が急増していた。NASAの衛星データから明らかに
・アマゾンの違法伐採をぞくぞく発見!77カ国の森林を守るJICAの衛星システムがすごかった
(5)まとめ
衛星データとともに2020年の出来事を振り返りました。
日本経済新聞社が独自に衛星データを解析した結果を報道したこと、MAXAR社、Planet Labs社、ICEYE社のように、自社が運用する衛星から取得したデータをオープンにして各媒体に取り上げられる事例が増えていることで本記事を執筆することができました。
衛星データは今後も報道に利用され、世の中により正確に事実を伝えられる機会が増えることが予想されます。宙畑としてもTellusの公式メディアとして、衛星データを用いた情報発信を2021年も継続していきたいと思います。