インバウンドビジネス成功の鍵は統計“三種の神器”にあり!(前編)
2018年10月31日、都内でインバウンド(訪日外国人観光客)ビジネスをテーマにしたイベント「EoX=インバウンドナイト」が開かれました。
2018年10月31日、都内でインバウンド(訪日外国人観光客)ビジネスをテーマにしたイベント「EoX=インバウンドナイト」が開かれました。司会進行は、宇宙ビジネスコーディネーターとして知られる持田則彦さん、パネリストは株式会社ナイトレイ・セールス&マーケティング部長の大橋正治さん、京都大学大学院情報学研究科特定准教授の佐藤彰洋さんのふたり。
トークセッションでは、3つの統計データを組み合わせた、インバウンドビジネスに向けた独自の分析手法が披露されました。
今回のイベントレポートはボリュームたっぷり。前後編に分けてその詳細をお送りします。前編は以下のとおりです。
(1)年間2600万人の訪日外国人の動きを把握する3つのデータ
持田:いま、年間2600万人を越える外国人のかたが訪日旅行をされており、2020年のオリンピックイヤーには4000万人のかたがいらっしゃると言われております。
単純に割って計算をすると、一つの都道府県に1月の間に7万人の方々をもてなすことになりますが、現実には偏りが生まれます。
インバウンドの来訪数では東京、大阪、北海道、沖縄、京都というのがオールシーズンの宿泊者の多い都市になっております。
こうした旅行客は、まずは国際空港から各大都市に訪れるわけですね。
そこから新幹線や高速バスなどで地方都市に人が分かれ、さらに各市町村にローカル線、レンタカー、バス、タクシーを使って人気観光地にアプローチする流れになるのです。
こうした人の流れに対して、本日は地球観測データと観光、このデータを中心に活用してインバウンド観光が盛んになる地域の特徴をフォーカスしていきたいと思っております。
データの組み合わせにいまいちピンと来ないというかたもえられるかと思いますが、具体的には「地球観測データ」「統計メッシュデータ」「SNSデータ」の3つを使って、お示ししていきたいと思っております。
(2)外国人宿泊者数の急激増加に見られる「インバウンドの法則」とは
持田:一つのトピックとして、「インバウンドの法則」というものを取り上げてみたいと思います。これは、佐藤先生が発見された法則で、年に1000人から1万人の日本人の宿泊施設がある土地というのは、急激にインバウンドの宿泊数が増加するというものです。詳しくは佐藤先生の解説をいただきたいと思います。
インバウンドの法則
佐藤:このデータは1個1個の点が1平方キロメートルの「メッシュ(※)」を表しています。
※地表面を一定のサイズの1辺約1kmの正方形に分割し、地理データの検索や場所の特定、統計情報の算出、図郭の管理などに使用するもの。同じフォーマット・同じ形のデータにすることで、大量のデータを高速で結合し相関性を調べていくことが可能になる。
日本に大体38万個の箱があるんですけれども(日本の面積は38万平方キロメートル)、これはそれぞれ1平方キロメートルあたり何人泊まったかということを表しています。
このデータは国土交通省の「宿泊旅行統計調査」という統計調査から入力したものになっています。
そこから先ほどの法則が導き出せたわけですが、なぜそうなるのかというのをここで解説したいと思います。
この現象をステークホルダーアプローチ的に考えますと、大体日本人が1000人から1万人ぐらい年間泊まってくれる場所というのはお金が1000万円から1億円以上落ちているような場所になります。
こういう場所では、労働がそれなりに安定的に持続できますから、サービスが継続できるコンテンツも365日提供できます。
つまり、そこは観光できるコンテンツもあり、泊まるところから食べるものに関しても十分に日本人を満足させられる場所になります。そういう場所に外国人もやってきているというわけです。
(3)3つのデータを使った分析でできること
持田:今日はこの法則を起点にいろいろな分析をしていきたいと思っております。
まずお二人に質問していきたいと思いますが、「地球観測データ」「統計データ」「SNSデータ」を使った分析でどんなことができるのかということを具体的にお聞きします。
ポイントとしては、日本に来ていただいている旅行者の、言ってみればお客さんの要求にどれくらい応えられるかが一つあるかなと思っています。
聞くところによりますと、異文化交流を求めているかたもいらっしゃるのですが、実は中国、韓国の方を中心に日本文化にあまり興味がないかたもいらっしゃるようです。
それから自撮りによる自己PRというのがインスタグラムにありますけれども、こういったインフルエンサーが爆発的に働いて、台湾のかたが旅行に来るなんていう話も聞いたことがあります。
それからスポーツによる交流もあるのかなと思いまして、日本は山や坂が多いんですけど、標高差があると、自転車、スキーというスポーツが盛んになる可能性がありますので、こういったところで何か使い所がないかなというところをお聞きしたいところです。そのへんの見解はいかがでしょうか。
大橋:SNSデータが重要になってくると思いますが、持田さんがいま仰ったような、何か仮説を検証するという姿勢が非常に大事だと思います。
ビッグデータもそうなんですけど、たくさんのデータがある中でなんとなく面白いデータはないかなと探すよりは、そういう仮説をきちんと決めた上でそれが合っているかどうかを確認しにいくという作業が非常に重要になります。
そういった点では、例えば文化交流において、中国、韓国の人が日本文化に対してはどんな動向があるのかというのをSNSデータで検証してみるとか、インフルエンサーという部分も、きちんとバズっているのかどうかを確認しにいくというところだと思います。
佐藤:一般論から申し上げますと、データというのはストーリーを作るためにあると思っています。
データから定量的にストーリーを作っていく。このストーリーを作れれば、そこからデザイン、設計、計画ができる。
そういうところから考えると、地球観測データ、統計データ、SNSデータというのをインバウンドというところで考えると、これらを使っていかにストーリーを組み立てていくかというのが大事なポイントだというのが私の見解です。
持田:次の質問に移りたいと思います。こうしたデータを用いて、スポーツに関連したリゾート開発、評価ができるのかというのをお聞きしたいところです。
外国人のかたは嗜好がいろいろあると思うんですけども、スポーツ1つにとっても自転車、スキー、ハイキング、テニス、ラグビーなどいろいろ固定ファンがいらっしゃいます。
そこで衛星データを使って、スポーツリゾートとしての開発ができるのかというのをお聞きしたいところです。
大橋:SNSデータを使えばなんとなくターゲットは絞れてくるので、そこがターゲットスポットになっているのかどうか、地球観測データを使ってそこが適地かどうかというのは判断できるというのはありますけど、体温とかヒートマップみたいなデータもピンポイントで取れるのであれば、何かレスポンスを生み出すものがわかればいいなと思っています。
佐藤:可能だと思います。それはなぜかというと、大きなスケールのスポーツって多いと思うんですよ。ゴルフやスキーやハイキングって、人間の尺度よりも遙かに大きな、フィールドを使ったスポーツになります。
そういうのをより楽しくしようと思ったら、人間視点ではない上から見渡せる広い視点のデータが絶対いると思うんですよね。衛星データというのはどんぴしゃじゃないかと思います。
(4)データ分析事例からわかるユーザーの動向
持田:ここからデータ分析の事例と致しまして、お二人に解説をいただきながら話を進めたいと思います。
佐藤:先ほどの分析は全ての国籍を混ぜて分析したんですけど、タイと韓国のかたで分けますと、特にタイのかたは、1平方キロメーターあたり、1000人以下の場所に泊まるかたがいないことがうかがえます。
それぐらいの認知度までいかないと、そもそもとしてタイから来ていただいていないということになりますね。
一方、韓国の方というのは、大体傾向は一緒なんですけれど、タイの方よりも少しチャレンジされるところがあるみたいで、日本人でもそこまで訪れないような観光地でも泊まろうとされるかたが少しいるという傾向が読み取れます。国籍によって傾向があるというのは一つ面白いところだと思います。
持田:標高とのべ宿泊者数との関係というのはいかがでしょうか。
佐藤:この図はASTER GDEM(全球陸域を高分解能でカバーする全球3次元地形データ)由来の3次メッシュ統計と宿泊旅行統計調査から作った3次メッシュ統計をクロスしてカウントしたものになります。
標高が違うというのは、環境が違うということと関係します。これを見ると、だいたい100メートルぐらいの標高のところでは日本人も外国人も一緒にたくさん泊まっているのがわかるんですけれども、1000メートル以上のところになると、外国人が少なくなる傾向があります。
持田:続いて標高データを用いた地域の人種分布について、大橋さん解説いただきたいと思います。
大橋:八王子市の高尾山と、白馬村のスキー場、そして富士山の山梨側の3地点を比較して分析してみました。
結果から言うと、三者三様の結果になって非常に面白いなと感じました。まず八王子市は、一年中安定した外国人が訪れているのですが、特に11月になると伸びています。
何があるのかと調べたら、「いちょう祭り」があるからなんですね。前年のデータも見たところ、これも11月が一番多かった。
どうやら「いちょう祭り」の集客がうまくいっていることがうかがえます。傾向としては昼間の滞在者が多く、夜はほとんどいない。八王子に泊まる人も少ない。日帰りで都心からさくっと来て帰って行く人が多いのかなという印象があります。
これを国籍ごとに並べると、中国、アメリカ、台湾、韓国、タイの順番になりました。一見中国人が多いように見えますが、実は注目すべきなのは、欧米圏でも約30%が訪れている部分ですね。
アメリカが17%、イギリス5%、ドイツ4%、オーストラリアとかフランスとか積み重ねていくと30%ぐらいになりますが、欧米圏の人が気軽に行って楽しんで山登りしているんじゃないかなというふうに感じました。
続いて白馬村を見てみましょう。冬以外はほぼいないことがわかります。スキーリゾートがあるからということなんですが、国籍別に見てみると、オーストラリア、香港、台湾の順になっています。これは北海道のスキーリゾート・ニセコとほぼ変わらない傾向になっています。夜間と昼間の滞在者の対比を見ると、さほど変わりがない。大半の方が宿泊されています。
最後に富士山ですが、7月8月がピークとなっています。この時期に富士山が登れるからですね。ただ富士山の麓で遊ぶのではなくて、登る目的の人もそれなりにいることがわかります。
外国人比率は中国が圧倒的に多いですね。続いてタイ、台湾、韓国となっています。中国が多い一方で、訪日観光客全体で、1位2位を争っている韓国は富士山にあまり興味がない。一方のタイは全体では10位から5位ぐらいの間なんですけど、2番に来ているということは、山好きの傾向があるのかなと思います。
(5)後編では3つのデータを使った具体的な分析と事例を紹介
前編である本記事では「地球観測データ」「統計データ」「SNSデータ」の3つのデータからわかること、そして具体的な事例として八王子市の高尾山、白馬村のスキー場、富士山の山梨側の3地点の分析結果についてご紹介しました。
後編では、この3つのデータを元に考えられる「地域ごとの具体的な施策」について紹介します。インバウンドビジネスに興味のある方、データを利用した新たなビジネス施策を考えている方は、ぜひ後編もご覧ください。