宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

「小型ロケット事業は次の段階へ」ロケットベンチャー最前線、インターステラテクノロジズの現在地

北海道・大樹町は、民間にひらかれた宇宙港「北海道スペースポート」でのロケットを打ち上げる射場のシェアリングサービスを軸に、宇宙産業への本格参入に乗り出しました。 本記事では、プロジェクト成功の命運を握る、小型ロケットベンチャーのインターステラテクノロジズ(以下、インターステラ)代表取締役社長の稲川貴大氏に話を聞きました。

北海道・大樹町は、ロケットを打ち上げる射場のシェアリングサービスを軸に、宇宙産業への本格参入に乗り出しました。

本記事では、そのプロジェクト成功の命運を握る、小型ロケットベンチャーのインターステラテクノロジズ(以下、インターステラ)代表取締役社長の稲川貴大氏に話を聞きます。

自動車産業のエンジニアは宇宙業界で活躍できる?なぜ宇宙産業へ?

稲川氏は、2020年のインターステラの取り組みをこのように振り返ります。

「観測ロケットMOMOの開発から、将来のインターステラの主力事業となる超小型衛星打ち上げロケットZEROの開発を並行してできる体制にシフトチェンジした1年間でした」

これまでに5機の打ち上げ実験を行った観測ロケット「MOMO」の部品点数はバイクと同程度だと言います。一方、2023年の打ち上げを目指して開発が進められている、超小型衛星を打ち上げるロケット「ZERO」の部品点数は自動車と同程度と、より複雑な設計になっており、本格的にZEROの開発が進み始めました。

開発体制のレベルアップを後押しする要因のひとつには、企業・大学・研究機関等に所属するエンジニアを出向という形で受け入れる「助っ人エンジニア制度」があるようです。

制度を通して、インターステラは他業界でのノウハウの獲得を図り、企業はインターステラで、スタートアップでの研究開発経験を積みます Credit : インターステラテクノロジズ

例えば、2020年4月から2年間の期間で、トヨタ自動車の2名のエンジニアがインターステラに出向しています。ZEROと開発規模が近い自動車開発の現場のノウハウを得ることで、インターステラの開発チームのレベルが上がったとのこと。また、JAXA(宇宙航空研究開発機構)からもJAXAのクロスアポイント制度によって1名エンジニアが出向しています。

また、技術力を持った大企業で経験を積んだ後、インターステラに入社してきた社員も増えてきたと言います。

「当社のビジネスに可能性を感じて、応募してくださる方が増えています。他業界からの転職が8割ですね。大企業から新しい技術開発に挑戦するベンチャーやスタートアップ企業に転職する流れが出来てきたのだと思います。宇宙ビジネスの魅力は、市場規模の拡大の勢い。さらに、“常識をひっくり返す”ような開発ができるという、エンジニアとして痺れるポイントもあります」

宙畑メモ:宇宙産業の市場規模
宇宙ビジネスの世界規模での市場規模は、2010年に約27兆円だったのが、2019年には約40兆円まで成長しました。2040年代には約100兆円以上に達するとシンクタンクや調査企業が予測しています。
参考:https://sorabatake.jp/216/

インターステラテクノロジズのロケットのコンセプトは「世界一低価格で、便利なロケット」。コア技術を内製する、設計・製造・試験・打ち上げまでを一気通貫で行う、部品をひとつひとつ見直して時には良質な汎用品も取り入れるなどで低価格化を実現しています。インターステラテクノロジズのMOMOに搭載されているエンジンの製造費は数百万円とロケットエンジンの価格としては破格の低コストで製造。試験設備もコストを抑えて用意しているそうです。

インターステラのエンジン開発は多額の費用がかかるという常識を塗り替えたと言えます。稲川氏は「ロケット開発はしびれっぱなしです」と、魅力を語りました。

しかしながら、他業界から宇宙ビジネスを目指す人はまだまだ多くはありません。稲川氏は、日本の宇宙業界における人材流動性の低さを指摘します。

「日本は今の10倍くらい人材の流動性が必要だと思います」

実際に米国では、大手自動車会社から転職してロケット全体の技術をまとめる業務をこなしたり、大手電機メーカーの開発経験を活かしロケット搭載の電子部品の開発を主導したりするなど、他業界から宇宙業界に転職し、活躍しているケースがあります。

日本においても人材の流動性が上がることで、ベンチャー企業の技術力が格段に伸びていくのではないかと考えられます。ロケットを1から作りあげるベンチャー企業ならではの経験は、新たなビジネスやテクノロジーを生み出すイノベーションにも繋がります。

ロケット開発と資金調達。「あと何回失敗できるか」は考えない

政府主導と民間企業の宇宙開発で大きく異なるのは、資金面です。政府は大枠の予算が決められますが、民間企業はフェーズごとに資金調達を行うのが一般的です。では、ベンチャー企業にとって、「ロケット打ち上げ」はどのような意味を持っているのでしょうか。

「毎回のロケット打ち上げには、『この機会をものにしよう』と取り組んでいます。調達した額から『あと何回失敗できるか』は考えていません。その上で、SpaceXはファルコン9やStarshipの打ち上げを立て続けに行い、派手に失敗しています。」

SpaceXの大型宇宙船「Starship」の2020年12月から行われている飛行試験では、着陸に失敗し、立て続けに爆発が起きていました。これに対して、イーロン・マスク氏はSNSで「必要なデータが得られた」とコメント。2021年5月に実施された5回目の飛行試験では、見事Starshipの着陸を成功させました。

インターステラは、MOMOの打ち上げはこれまでに5回実施しています。そのうち宇宙空間に到達したのは2019年のMOMO3号機のみ。一見、開発がスムーズに進んでいない印象を受ける方もいらっしゃるかもしれませんが、2020年6月に行われたえんとつ町のプペル MOMO5号機の打ち上げ後の会見で堀江貴文氏は「同じ失敗は繰り返していない。チームの打ち上げ実施能力も向上しています」と話していました。同様に、稲川氏も失敗も重要なマイルストーンであると語ります。

「失敗をして初めて身に付くこともあります。大切なのは、ここだけは失敗をしないという“絶対防衛ライン”を引いて、チャレンジすることです。やはり、新しくロケットを開発するとなると、わからないことだらけで。ベストを尽くしながら、打ち上げから学ぶ必要があります。」

資金調達について考えるのに、無視できなくなってきているのがSPAC(特別買収目的会社)を活用した上場です。

宙畑メモ:SPAC
SPAC(特別買収目的会社)とは、その企業自体は特定の事業を持たずに、一定期間内に未公開会社・事業を買収することのみを目的として株式市場に上場する企業のことです。SPACを活用すると、資金調達を行いながら上場が果たせるほか、従来の新規株式公開(IPO)よりも簡素なプロセスで上場を果たせるため、近年この方式の上場を採用するベンチャー企業が増加しています。

米国では、この方法を使った宇宙ベンチャーの上場が相次いでいます。ロケットベンチャーでは、2021年3月にRocket Labが上場し、Astraは2021年中に上場する計画を発表しました。SPACによりロケットベンチャーの開発動向は変化するのでしょうか。稲川氏は、こう語りました。

「米国の場合は、SPACの効果も大きいですよね。加えて、政府主導の宇宙開発からのニーズがあり、収益が見込めるので、投資家が集まりやすい状況になっているのだと思います。政府の支援や国が宇宙産業にどれだけ関わるかが、ロケットベンチャーが成長できるかの肝だと思っています」

2021年現在、Space Xの時価総額は8兆円、Rocket labは4500億円というようにロケットベンチャーには高い時価総額がついていることからも、宇宙産業の勢いを感じます。

ロケットベンチャーの勝負の分かれ目は“付加価値”

数年前までは、商業打ち上げが可能かどうか、1kgあたりの打ち上げ価格はどのくらいかで小型ロケットベンチャーが選別されていました。今後市場はどのように変化していくのでしょうか。稲川氏は

「小型ロケットベンチャーの勝負の最前線は、打ち上げ輸送サービスにどういう付加価値を付けるかに話が及んでいると思います」

と言います。上場を果たしたRocket Labは、従来の小型ロケット「Electron」に加えて、8,000kgのペイロードを搭載できる中型ロケット「Neutron」を開発する計画を明らかにしました。さらに、衛星の部品メーカーを買収し、衛星の製造にも乗り出しました。衛星の受注製造から打ち上げまで、ワンストップサービスの提供が見込まれます。

そこで気になるのが、インターステラがどのような付加価値を作り出そうとしているかです。

「やはり、ZEROが打ち上げられるようになったタイミングで、小型衛星と地球低軌道のビジネスに、どういう形でインパクトがある宇宙利用ができるかが肝です。勝ち筋はいくつかありそうですが、分解能が高い画像を撮影して地球を観測できる超低高度衛星、ビジネスの規模が大きい衛星通信事業への参入などは面白いと思っています。ポストISSを想定した宇宙空間での実験ができる衛星とカプセルのサービスも検討中です」

インターステラは2021年1月に、人工衛星の開発・製造を行う子会社「Our Stars」を設立し、稲川氏は同社の役員に就任しています。

宙畑メモ:Our Starsのビジネス
Our Starsは、ピンポン玉サイズの衛星数百〜数万機を使って宇宙空間に大きなアンテナをつくる通信衛星サービスと超低⾼度を周回して分解能が高い画像を撮影し、地球観測データを提供するサービス、そして宇宙空間での無重力実験ができる衛星を使ったサービスの提供を検討しています。いずれも、ロケットによる打ち上げ技術やコストの削減がサービス実現のポイントになります。

ZEROとOur Starsの衛星の技術やそれによって生み出されるビジネスの組み合わせ、競合他社との差別化を図りたい考えです。

地域課題の先進地から宇宙利用の先進地へ

インターステラの事業拡大を支えるもう一つの武器は、ロケット射場です。

北海道・大樹町では、2021年4月に射場のシェアリングサービス提供を目指す「北海道スペースポートプロジェクト」が立ち上げられました。

同プロジェクトは、すでに滑走路やインターステラの観測ロケットMOMOを打ち上げる射場Launch Complex-0やJAXAの実験設備が稼働しておりますが、2023年までにZEROなどの人工衛星用ロケットの打ち上げのための射場を建設予定であるほか、打ち上げウィンドウの調整を始めとする射場の運用業務全般を担います。稲川氏は、射場を持つメリットについてこのように説明します。

「射場の確保は、ロケットベンチャー各社が苦労しながら進めています。自国に射場を持てないところもあるので、そんな企業は世界中で射場を探しています。大樹町では、北海道スペースポートプロジェクトが始動し、国内に民間が使える射場が整備されるのは大きなアドバンテージです。同射場とインターステラのビジネスがどれだけ深く結合できるかがポイントだと思っています。ロケットと衛星、そして射場が揃えば、大きな差別化になるのではないでしょうか」

北海道スペースポートプロジェクトの構想は、射場の運営を中心に据えて、宇宙関連企業を呼び込むことで、宇宙版シリコンバレーの形成を図るというもの。観光や教育とのシナジー効果、人口の定着を図るなど、産業創出による地域の活性化を促進する狙いがあります。

大樹町は人口の減少やインフラの老朽化など、多くの地域課題を抱える“課題先進地”だからこそ、解決するために宇宙を利用する“宇宙利用先進地”を目指しているというわけです。例えば、畜産農家が処理に費用をかけている家畜の糞尿から、ZEROの燃料となるメタンを生成するといった構想もあるそう。

北海道スペースポートの運用管理を担うSPACE COTAN社のCEO小田切氏は、大樹町が宇宙ビジネスに取り組むうえで、インターステラは旗振り役のような存在だと話します。

「まずはインターステラのZEROを打ち上げる射場Launch Complex-1を10億円かけて整備します。ZEROの打ち上げが行われるようになれば、射場使用料が入るのでスペースポートのビジネスが周り始めます。将来的には、国内外のロケットプレイヤーの皆様向けの射場を増やしていく計画です。」

インターステラテクノロジズ社の稲川さま、SPACE COTAN社の小田切さま、大樹町町長酒森さまのインタビューから、大樹町とインターステラの結束力が窺えました。大樹町が持つ“地の利”とインターステラの“ロケットと衛星ビジネスの可能性”、それぞれのポテンシャルを活かしながら、双方がどのような発展を遂げるのか、引き続き注目していきたいです。

参考

企業・大学・研究機関等からエンジニア出向を受け入れる「助っ人エンジニア制度」を開始

ロケット開発を⾏う宇宙スタートアップ企業 インターステラテクノロジズ、新会社「Our stars株式会社」を設⽴し、⼈⼯衛星事業に参⼊。