映画は文明と共に変化する! 人工衛星が登場する映画15選と、映画における人工衛星の描かれ方
映画において、時に人工衛星は重要な役割を果たします。今回は、映画で人工衛星が活躍する瞬間に注目し、15の映画をピックアップしました。
「宇宙」は映画の人気テーマのひとつですが、映画における宇宙の絡み方は、SF映画に限ったことではありません。
私たちが天気予報を見たり、マップアプリを使うように、映画の中でもごく当たり前に人工衛星が使われ、時に物語の重要な役割をになっています。
そこで今回は、映画に登場する人工衛星とその役割を人工衛星の用途別に紹介しつつ、時代の流れとともに、映画における衛星の描かれ方どのように変化していったのかを考察していきたいと思います。
(1)GPS(測地衛星)が登場する映画
『トータルリコール』(1990)
1966年に出版された小説『追憶売ります』を映画化した本作には、体に埋め込まれたGPSで居場所を特定される描写が登場します。
公開当時はGPSが一般的ではなかったため、「位置発信機」と表現されています。また、この作品に登場する火星のミニチュアは、衛星で撮影した火星の映像を元にデザインされています。
『エネミー・オブ・アメリカ』(1998)
GPSが広く普及する以前の1998年に作成された、「通信の保安とプライバシー法」をテーマとしたサスペンスです。
屋上にいる人物を地球観測衛星で追っているシーンでは、「(ターゲットが)上を向かないから顔を確認できない。」といった衛星の死角に触れるセリフも登場します。
製作当時は、衛星にネガティブなイメージを与えかねないとNASAが協力を渋ったというエピソードも。
今は衛星を問題視するよりも、「911」や「米国愛国者法」、エドワード・スノーデン氏によるNSAの国際的監視網(PRISM)の告発以前に作られたという点で、先見の明があると高く評価されています。
『ミッション・インポッシブル 3』(2006)
トム・クルーズ演じるイーサン・ハントが、土地勘の無い中国で、米国にいるメンバーのナビゲーションを頼りに、恋人が囚われている敵のアジトを発見します。
『ボーン・アルティメイタム』(2007)
マット・デイモン演じるジェイソン・ボーンは、ターゲットに携帯電話を渡し、そのGPS情報を元に居場所を特定します。
『ダーク・ナイト』(2008)
ジョーカーを追うバットマンは、街中の携帯電話をハッキングし、音声とGPSで居場所を突き止めました。
『エネミー・オブ・USA』(2010)
全ての携帯電話が監視されている中、シェーン・ウェスト演じるマックスの元に送られてきたのは、NSAの監視から逃れられるだけでなく、定期的に送られてくるメッセージに従っていればカジノで勝ち続けられる携帯電話でした。
メッセージの送り主を特定するため、音声とGPSのトラッキングが使われています。
『ミッション・インポッシブル ゴーストプロトコル』(2011)
ドバイの砂嵐の中、15cm先も目視することができない状態で、イーサン・ハントはGPSデバイスだけを頼りにターゲットを追いかけます。天候に左右されないGPSの特性がよく描かれたシーンと言えるでしょう。
『ミッション・インポッシブル/フォールアウト』(2019)
イーサン・ハントは、GPSを使ってヘンリー・カヴィル演じるオーガスト・ウォーカーを追跡します。GPSのマップを2Dで見た場合と、3D表示にした場合で追跡ルートが変わることがコミカルに描かれています。
(2)気象衛星が登場する映画
『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)
地球温暖化によって南極の棚氷が溶け始めたことによる災害と異常気象をテーマとしたディザスタームービーの決定版です。
デニス・クエイド演じる主人公ジャック・ホールは、気象学のエキスパートであり、仕事場には気象衛星モニターなどがずらりと並びます。
『アナコンダ2』(2004)
ボルネオ島の奥地に生えるランを求めてボートを進ませるも、雨季のために、天候や川の状態に合わせてルートを変更する必要性が出てきます。そこで、NASAのリアルタイム衛星情報と過去10年間の天候データを重ね合わせ、最適ルートを求めます。
『デイアフター2020 首都大凍結』(2012)
地球温暖化により砂漠化が進むなか、リチャード・ロクスバーグ演じる科学者のトムは、衛星データを元に、北極圏の氷原下にねむる石油掘削作業を行う企業に抗議をします。
『ジオストーム』(2017)
自然災害が多数発生したのちに、国際気象宇宙ステーション(ICSS)と気象をコントロールする人工衛星を開発した近未来が舞台となっています。
『ワイルド・ストーム』(2019)
ハリケーンに乗じて犯罪を企てるクライム映画です。タイトルで登場する、静止気象衛星からの地球の映像が印象的です。
(3)軍事衛星が登場する映画
『ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル』(2011)
テロリストは、ロシアの古い衛星を軍事化し、ミサイルをアメリカに向けて発射する計画を企てます。
(4)地球観測衛星が登場する映画
『カリフォルニア・ダウン』(2015)
地球観測衛星で地震発生の予測を試みるだけでなく、地震の発生場所を線で繋ぎ、プレートの位置を推測します
『ミッドナイト・スカイ』(2020)
ジョージ・クルーニー演じる科学者のオーガスティンは、天変地異の末に放射能に覆われた地球の様子を衛星で観察します。
(5)世の中の流れと映画における衛星
映画はその時の社会を反映します。
例えば、有色人種や女性の描かれ方は、時代の流れとともに、大きく変化しました。アメリカンアフリカンを侮辱するスラングや表現は、歴史的背景や文化的背景を強調したい場合以外ではほぼ使われなくなり、60年代の女性解放運動以降は、意志の強い独立した女性が登場するようになりました。
テクノロジーも同じです。
本記事で取り上げた『エネミー・オブ・アメリカ』は、GPSが軍事運用可能な精度を満たしたとされる完全運用宣言が出た1995年の3年後となる98年に公開されました。
当時は、スマートフォンもなく、PHSと携帯電話利用者が混在していました。GPSで人々の居場所を特定することは一般人にとって馴染みのない考えであり、恐怖すら感じさせました。
しかし、マップアプリが一般に普及した頃から、『トータルリコール』や『エネミー・オブ・アメリカ』のような主役を追い詰めるツールとしてではなく、『ミッション・インポッシブル』シリーズのように、ヒーローが相手を追うためのツールとして描かれる機会が増えました。
追われる側から追う側に視点が変わったのは、GPSが人々のプライバシーを侵害する脅威としてではなく、利便性を高めてくれるポジティブなイメージを持つ技術として認知されたことを意味していると捉えられるでしょう。
(6)今後注目されるであろう人工衛星
90年代半ば頃から、自然災害をテーマとしたディザスタームービーが人気コンテンツのひとつとなりました。
地球温暖化は私たち人間が取り組まなければならない現実的な問題であり、今後も啓蒙活動の一環としてディザスタームービーは製作され続けるでしょう。気象衛星、地球観測衛星はこれまで以上に映画内で活躍しそうです。
また、使われなくなった人工衛星が軌道上に数千機以上あることを考えると、『ゼロ・グラビティ』のように、スペースデブリが登場する機会が増え、スペースデブリ問題を解決する人工衛星の登場も予想されます。
(7)まとめ
今回の記事では、映画に登場する人工衛星を掘り下げました。人工衛星は、用途別に作品の中で特にわかりやすく画面に登場しているものだけをピックアップしています。また、当然ですが人工衛星が出てくる映画を全てを紹介しているのではありません。
初の人工衛星であるスプートニク1号が打ち上げられた1957年から、60年たらずで人工衛星は私たちの生活に欠かせないものとなりました。それに伴い、映画の中でもストーリー展開を担う重要な技術として当然のように登場するようになりました。意識しなければ、人工衛星が使われていることを見落としてしまうほどです。
ただ、そこに至るまでには現実社会で紆余曲折がありました。そういった背景は、映画の中でどう描かれているかによってうかがい知ることができそうです。
【参考】
・6 Films where GPS Tracking Takes the Lead
・X線天文衛星「ひとみ」
・地殻変動の検出で地震発生のメカニズムを明らかに
・Brief History of GPS
・Slate Nothing to Hide
・10 Hidden Details Everyone Missed In Total Recall
・GPS tracking unit
・List of films featuring surveillance