宙畑 Sorabatake

宇宙ビジネス

ispaceとSpire Globalに聞く、宇宙ビジネス拠点としてルクセンブルクが選ばれるワケ

30年以上宇宙ビジネスに投資を続けるルクセンブルクには、海外の様々な宇宙ビジネス企業が集まっています。企業にとってどのような魅力があるのか、月面資源開発のispaceと宇宙データ分析と宇宙サービスのSpire Globalにインタビュー。【PR】提供:ルクセンブルク貿易投資事務所

ルクセンブルクが月面や小惑星にある資源の開発事業に乗り出してから6年。欧州最大規模の宇宙ビジネスカンファレンス「NewSpace Europe」の開催国であるルクセンブルクには、ヨーロッパ拠点を構える宇宙ベンチャー企業が増えてきています。その企業の業種は宇宙資源に関するものに限らず、様々。

「一部の国では、事業者に対して『こういうミッションをやってください』と依頼していると聞きますが、ルクセンブルクは違います。事業者に耳を傾けて、彼らを一番良い形でサポートするために何ができるのかを考えているのです」(リンクさん)

こう話すのは、ルクセンブルク宇宙局 国際担当ディレクター 欧州宇宙資源イノベーションセンター 所長代行のマティアス・リンクさんです。事業者と密接なコミュニケーションを取りながら、経済的な発展ができる支援を提供しているのだといいます。

一体どういうことなのでしょうか。先に紹介したリンクさんと、ルクセンブルクに海外支社を持つ2つの企業、月面での資源採掘を計画する日本発のベンチャー企業ispaceのCOO中村貴裕さんと、2021年にニューヨーク取引証券所への上場を果たしたアメリカ発の超小型衛星事業者Spire Global(以下、Spire)のハドリアン・ショータードさんの3名にお話を訊きながら、ルクセンブルクが宇宙ベンチャーを続々と引き寄せる魅力を探ります。

ルクセンブルク宇宙局 マティアス・リンクさん
ispace 中村貴裕さん
Spire Global ハドリアン・ショータードさん

月面探査ベンチャーispaceはなぜルクセンブルクに?

ispaceは、2017年にルクセンブルク政府と「月の資源開発に関する覚書」を交わし、ヨーロッパの事業開発拠点として、同国にオフィスを構えました。中村 貴裕さんは、その理由のひとつに、宇宙資源事業におけるルクセンブルクのリーダーシップを挙げました。

ルクセンブルクは、2017年に自国の事業者が宇宙で採掘した資源の所有権を認める「宇宙資源法」を制定しました。これまではグレーと考えられていた、宇宙資源採掘を明確に許可するこの法律を制定したのは、アメリカに次いで2カ国目。今では、この分野のルールメイキングにおけるリーダー的な立ち位置に付いています。

「私たちispaceは、2040年に、月面に1000人が住み、年間1万人が旅行で訪れる世界を目指すビジョンを描いています。それを実現させるには、月面の資源……特に水を中心とした資源の利活用が重要です。そこで、宇宙資源分野に積極的に取り組んでいるルクセンブルクをヨーロッパの玄関口となる拠点として選定しました」(ispace 中村さん)

有人月面着陸を目指してNASAが主導するアルテミス計画を念頭に、宇宙探査や利用に関する基本原則について各国の共通認識を示す「アルテミス合意」には、ルクセンブルクに加えて、イギリスとイタリアが署名しています。そういった観点からも、ヨーロッパにおける宇宙資源事業のマーケットは今後広がっていくのではないかと、ispaceは考えているようです。

宇宙資源への投資を決めたルクセンブルクの背景

ここで一度「『小国こそイノベーティブであれ』ルクセンブルク政府が30年以上、宇宙産業に投資を続ける理由」にあった、ルクセンブルクが宇宙資源への投資を決めた背景をおさらいしておきましょう。

主力産業だった鉄鋼業に陰りが見えた1980年代。ルクセンブルクは次世代産業の創出を目指し、宇宙産業に着手しました。最初の衛星を打ち上げる際に、当時の政府予算の5%を保証に引き当てた衛星通信企業SESは、世界を代表する企業へと成長を遂げ、周辺産業の呼び込みにも成功しました。

そして、2010年代。SpaceXを筆頭に宇宙ベンチャー企業がイノベーションを起こすなか、ルクセンブルクが着目したのは宇宙資源でした。経済省は「SpaceResources.lu計画」を打ち出し、関連企業の誘致を開始します。そうして実際にルクセンブルクに支社を設立することを決めた企業の一社がispaceだったというわけです。

ところで、通信衛星や宇宙資源が目立つルクセンブルクに、船舶の位置情報や気象情報といった宇宙から得られた地球情報に基づくサービス(Earth Intelligence)を提供するSpireはなぜルクセンブルクに支社を設立すると決めたのでしょうか。

Spireのショータードさんに聞いてみると、民間企業から見たルクセンブルクの新たな魅力が見えてきました。

宇宙由来データと衛星のSpireはなぜルクセンブルクに?

Spireは、アメリカに3拠点とイギリス、シンガポール、そしてルクセンブルクにオフィスを構えていています。ルクセンブルク支社は、ソフトウェアエンジニアやデータサイエンティストによる衛星データの分析やソリューションの開発、製品管理、マーケティング、営業、総務管理業務などが行われる、Spireのビジネスの中核を担う拠点です。

ルクセンブルクを選んだ決め手となったのは、ルクセンブルク政府のサポートが充実していること。実際に、2017年にクローズしたシリーズCラウンドの資金調達や、政府機関や民間事業者とのパートーナリング、人材の確保などの支援を受けているといいます。そんな手厚い支援のなかでも、事業を大きく推進したのは、人材の雇用でした。

「オフィスを開設してから3年も経たないうちに、ルクセンブルクオフィスの従業員を0人から65人に増やすことができました。その結果、5つの異なるプロダクトラインを立ち上げることに成功しています」(Spire ショータードさん)

『小国こそイノベーティブであれ』ルクセンブルク政府が30年以上、宇宙産業に投資を続ける理由」でもあったように、ルクセンブルク政府は常にイノベーティブな姿勢を続けることで、データを扱える人材、ロボティクス人材といった、今後の成長を担う多様で優秀な人材がルクセンブルクに引き付けられ、集まっています。

宇宙ビジネス事業を推進するうえで、いかに優秀な人材を集めるかというのは至上命題。その点、ルクセンブルクは最適であり、かつ、その他の政府支援の手厚さにも魅力を感じて、海外拠点を決めたということでしょう。

宇宙ビジネスの推進力を強化するルクセンブルク2018年の転機

ispaceとSpireがルクセンブルクに海外拠点を置いたのは2017年のことですが、その1年後、ルクセンブルクは新たな転機を迎えます。

それが、2018年のルクセンブルク宇宙局(LSA)発足です。LSAを設立した背景について、リンクさんは次のように語ります。

「ルクセンブルクは長年、宇宙産業に取り組んできましたが、これまでのような出資が中心の支援だけでは不十分……法的枠組みの整備や海外企業とのパートナリング、研究開発、人材の確保、教育といった多角的な支援を行うべきだと思いました。それを実現させようとすると、専門の機関を立ち上げる必要性が出てきて、設立したのがLSAです」(リンクさん)

実際にSpireが3年も立たないうちに65名もの必要な人材の雇用を満足のいくレベルで実現できたのにもLSAによる支援の強化が寄与していると推察されます。

また、中村さんはLSAの設立について、このように評価しています。

「LSAが設立されたことにより、宇宙開発に対するノウハウや知見、技術がルクセンブルクに集積するようになったと思います。私たちも技術開発をより加速度的に進められるようになったのは、大きなポイントです。」(ispace 中村さん)

そして、LSA設立による宇宙ビジネス推進の加速の実例は、次世代を担う人材を育てる教育にも。LSAの協力により、ルクセンブルク大学は「学際宇宙学修士過程」を2019年に設置しました。これは、宇宙ビジネスに必要な工学とビジネスについて学べるプログラムです。学生には協力企業へのインターンシップの機会も用意されています。

加えて、法整備への対応もルクセンブルク政府の支援の特徴だとショータードさんは説明します。

「ルクセンブルク政府は、宇宙ビジネスの発展には、透明性と事業安全性を提供する法的枠組みが必要であることを理解していて、それに率先して取り組んでいるのだと思います」(Spire ショータードさん)

事業者のビジネスや戦略を深く理解することで、彼らが本当に必要としているものを察知し、先回りして対応した結果が「法制度上のグレーゾーンだからできない」ということを防ぐ柔軟なルールメイキングにつながっているということでしょう。

ルクセンブルク政府の3つの魅力:イノベーティブ・傾聴力・柔軟性

リンクさんはispaceとSpireについて、「両社が持つほかの拠点を上手く補完するかたちで、ルクセンブルク拠点で事業を展開している」と評価しています。

ただ、ここまでの両社の話を鑑みると、ルクセンブルク政府が各社のニーズをまず聞き、必要に応じて技術の提供や人材確保の支援を行うなど、各社の事業計画に沿って、必要な支援を適切に提供できているという点がそのような評価に繋がっていると考えれます。

その一方で、必要な場合は、ルクセンブルク政府が国際的なルールメイキングをリードし、新しい事業に取り組む企業が事業を推進しやすい環境を整える役割も率先して行える柔軟性も持っています。

そして、これらのルクセンブルク政府の魅力の土台となっているのはイノベーティブであり続けるその姿勢です。イノベーティブであり続けられるこそ、優秀な人材が集まり、技術も集積し、ルールメイキングもできるリーダーシップを持つことができます。そうした積み重ねが、各企業の求めるニーズをまずは聞き、柔軟に支援できる環境を整えているのです。

イノベーティブ、傾聴力、柔軟性。この3つのポイントこそ、ルクセンブルク政府の魅力といえるのではないでしょうか。

「政府も一丸となって支援しています。『ルクセンブルクなら大丈夫だ』と、多くの事業者様に来ていただけたいと思っています」(リンクさん)

抽選で5名様に「NewSpace Europe」無料招待枠プレゼント!

本記事の公開にあたって、ルクセンブルク政府より「NewSpace Europe」にオンラインで参加できるスタンダードチケット(200ユーロ)の無料招待枠を5名分いただきました。

応募資格は「宇宙ビジネスの動向やルクセンブルクに関心のある18歳以上の個人」であること。ぜひ参加してみたい!という方は「宙畑を読んで応募しました」というタイトルで、以下の内容を明記の上、11/12(金)17:00までに「tiotokyo@mae.etat.lu」宛にご連絡ください

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応募者には11月16日(火)に抽選結果をお知らせ。当選者には、11月22日(月)に招待コードをお送りします。

提供:ルクセンブルク貿易投資事務所

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